EVENT REPORTSDecember/30/2013

【Event Report】UNCANNY LIVE SHOW 2013 // Teen Daze, tofubeats, Madegg, The Wedding Mistakes, Carpainter

 2013年11月24日、日曜日の夕方からのデイ・イベントとして開催された<UNCANNY LIVE SHOW 2013>。本サイトが主催となり、オンラインであるウェブからオフラインとなるリアルへと場所を移して、サイトでも実際に人気の高かった2013年らしいアーティストたちに出演して頂いた。会場は、恵比寿LIQUIDROOMの2Fにある、KATA + Time Out Café & Dinar。KATAは、ライブやイベントだけではなく、主にギャラリースペースとしても稼働しており、今回のイベント直前までには、AOKI Takamasa×MAAによるデザイン・プロジェクトA.M.のショウを行ったり、12月には、Black Smokerによる<Black Gallery – Black Smoker 8Dayz>を開催するなど、新たな東京のカルチャーの発信源となっている場所でもある。

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 イベントは、青山学院大学の大学公認の部活である音楽藝術研究部の前部長と現部長である現役大学生の2名、Toyo DとFunky Fresh Watanabeによる、B2BのDJからスタートした。Toyo Dは、tofubeatsVampire Weekendなどのインタビュー記事やレビューなど多数の記事を本サイトの編集部員として執筆し、Funky Fresh Watanabeは、TOWA TEIのインタビュー記事を本サイトに寄稿している。実際のプレイでは、The RHA Bandによる1985年のディスコクラシック「Clouds Across The Moon」から幕を開け、Prince「I Wanna Be Your Lover (Dimitri From Paris Re-edit) 」、ド定番のクラシックInner Life「I’m Caught Up(In A One Night Love Affair)」などの旧譜から、Quadron「LFT」、Tiger & Woods「Curb My Heart」、M.I.A.「Bring The Noize」、Sophie「Bipp」など最近〜最新のものまで、ダンスミュージックをキーワードに、わかりやすいものから(一般の視点では)多少マニアックなものまで幅広く珠玉の良曲たちがセンスよく選曲されていった。さすが両者とも伝統ある部活の部長を務めただけあり、ある一部のジャンルや、流行の新譜だけなどに偏らず、DJとしては王道とも言える旧譜の定番を軸に、新旧様々な角度からネタを加えていくといった極めてよく考えられたプレイを披露し、ポップさも忘れずに加味していたところがまた印象的だった。

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 そして、<UNCANNY LIVE SHOW 2013>最初のライブアクトはTaimei Kawaiによるソロ・プロジェクトであるCarpainterだ。彼は2012年にCarpainterとしての活動を開始し、2013年3月には〈Maltine Records〉よりEPのリリースを達成。その他様々なリミックスワークスをこなし、2013年はCarpainterの年と言っては過言ではないほどの活躍を見せた。今回の<UNCANNY LIVE SHOW 2013>は彼の最初のライブアクトとなり、人々の大きな話題を集めた。今回は、彼自身が制作したトラックが中心となるDJスタイルのライブセットで、時々剽軽なサンプルやエフェクト加工を挟みながら、話題沸騰中であるPa’s Lam Systemの最新EP『Virus Window』に提供したリミックス「Bit by Bit (Carpainter Remix)」や、彼のEP『Double Rainbow』に収録された楽曲等がプレイされた。2step、Future Garageをベースとする彼の楽曲に会場は徐々に熱を帯び始める。ライブの終盤には彼自身の口により新EP『Gravity Fails EP』のiTunes配信がアナウンスされ、その新作から一曲「Eureka」をプレイ。ちなみに、そのEPは日本のiTunes Storeのエレクトロニックチャートで2位を獲得するという記録を達成、大きな話題となった。

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 続いて登場したのは、LASTorderとMiiiによる、ポストロック・プロジェクトThe Wedding Mistakesだ。両者とも、それぞれ10代から都内を中心に活動を続けながら、今年に入ってThe Wedding Mistakesを結成。実は、このライブの段階では、4曲のトラックをSoundCloud上で発表しているだけで、まだリリースも未定のバンドであった。しかし、LASTorder、Miii共にソロとして数々のキャリアを積み上げているだけあり、The Wedding Mistakesとしては10月に渋谷WOMBで開催された〈分解系〉主催のイベント<OUT OF DOTS 2013>以来、2回目となるライブにも関わらず、最後まで完成度の高いパフォーマンスを見せた。ライブでは、正にポストロック的とも言える静から動へ展開していく緻密にプログラムされたドラミングの上に、LASTorderは鍵盤を、Miiiはギターをそれぞれ弾き、リアルタイムの音を重ねていった。洗練された都会的なサウンドながらも、そのエモーショナルでドラマチックな展開は、ひとつのストーリーが音像となって会場を包み込むような感覚で、聴衆がふたりの世界に引き込まれていく光景が印象的だった。今月には、新曲「Bluemoon」の音源が公開され、2014年の1月には初となる音源集がリリースされることが、The Wedding Mistakesのツイッターで発表されている。

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 Madeggのライブはけたたましいサウンドテクスチャで幕を開けた。〈分解系〉、〈flau〉、そして〈Day Tripper Records〉からのリリースでは、比較的リスニング向けの、耳馴染みの良いサウンドが空間を支配していたが、それら通過した彼のライブサウンドはより過激に、鋭く進化していた。冒頭で鳴り響いていたフロアを包み込む轟音は、いつの間にか変幻自在なダンスビートに変化し、会場を揺らしている。過去の彼の楽曲において使われた音素材も、全く新しい表情を見せながら鳴り響いていた。一時期はダンスセット等、様々なコンセプトに挑戦した彼のライブセットだが、ここにおいてはその全てを昇華し、一つの達成点を発見した様な印象があった。前衛的でありながら、人を寄せ付けない過激さではなく、言葉を失うような美しさを表現し続ける彼のサウンドは、強いていうなら以前行なったインタビューで発言された「Leftfield(急進的)」という立ち位置が辛うじて近いであろうか。タイトに締めてきた今回のライブだったが、彼の進化し続ける世界観の一端を見せつけるには充分な時間だった。

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 Madeggのライブで会場の空気が心地良い緊張感と高揚感に包まれた後に登場したのはtofubeats。メジャーデビューEP『Don’t Stop The Music』の発売直後ということもあり、会場には彼のライブを見ようと出口付近の階段にまで人が溢れかえっていた。先に書いてしまうと、この日のライブの模様は詳細なセットリストと共に本人がYouTubeにアップしているので、そちらを聴いてもらうのが一番良いのだが、本人も「ひさびさにチルい四つ打ちや、個人的にはざつおんコンピの曲ひっさびさにかけれて満足でした」と呟いていたように、最近では珍しい彼のコアな部分が全面に出た70分だった。ライブはdj newtown名義で発表した「Sweet days, Sweet Memories」からスタートし、前半は彼がBandcampで発表してきた楽曲を中心にチルウェイヴやビートダウン、クラウドラップといったいわゆる「チルい四つ打ち」で会場の空気を徐々に温めていく。『Sweet days, Sweet Memories』は「ダンスな感じをグッと落として郊外についてじっくりと見つめ直した雰囲気」のアルバムであると本人は語っているが、前半はそのような「No.1」でひとつの到達点を迎えるチルいtofubeatsの歴史を総ざらいするかのようなセットで、現在はJ-POPフィールドで活動していながらMadeggやTeen Dazeなどとも共演できる幅広い音楽性を感じることができた。このようなセットは後にも先にもなかなかないと思うし、本人もそれを感じてYouTubeに音源をアップしたはずなので、当日来場できなかった方も、是非見て欲しい。

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 中盤になりBPMが上がっても、「Every little thing(tofubeats remix)」「SKY-HI – 愛ブルーム(tofubeats remix)」「m3nt1on2u feat.Onomatope Daijin」などJersey ClubやTrapを取り入れ、最新のクラブミュージックシーンと共鳴している「攻めた」楽曲が立て続けに披露され、Teen Dazeを見に来た人から『Don’t Stop The Music』でtofubeatsを知ってライブを見に来たような人までを巻き込んで盛り上げていく。また、『Don’t Stop The Music』発売時のインタビューで「ライブっぽいライブしなきゃいけないなと思ってる」と本人は語っていたが、「Les Aventuriers feat.PUNPEE(live mix)」では、パッドを使い即興でマッシュアップを披露していたりと、ライブとしての面白さを感じるパフォーマンスも取り入れられていた。終盤「聞いたことない人が多いと思いますが、昔の曲をやります」と言って披露された「音を合わせて」からの「Don’t Stop The Music」「朝が来るまで終わる事の無いダンスを」まで、とにかく攻めたセットを披露してくれた今回のライブだったが、どれだけ曲に振れ幅があってもtofubeatsなりの解釈が加わることによる説得力は間違いなく観客に届いていたし、国籍や年齢を超えたアーティストが共演してライブ行った<UNCANNY LIVE SHOW 2013>という場において、そのような彼の信念がより一層際立っていた圧巻の70分だった。

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 最後を飾ったのはTeen Daze、カナダのエレクトロニック系プロデューサー、Jamisonのソロ・プロジェクトだ。チルウェイヴの波と共鳴したかのような初期作品から徐々に独自の展開を遂げ、3rdアルバム『Glacier』ではTeen Daze流アンビエントを聴かせたJamison。本作をリリースした直後、しかも初来日という形での今回のライブで演奏された楽曲は主に、1stアルバム『All of Us, Together』と『Glacier』からの曲目となり、Teen Dazeの一筋縄では語れない音楽性、多様なテクスチュアを纏った楽曲の豊かなニュアンスが直にこちらを刺激してくるような演奏だった。

 始まりは「Tretten」、潮の満ち引きのように揺らぐアンビエンス、バックグラウンドと混ざり合うリズムが心地良いトラックだ。波間を漂うかのような穏やかな始まりから徐々に深海の深み、Teen Dazeの最深部へと誘われるかのように、豊饒なアンビエンスが会場を包み込んでいく。やがてミニマリスティックなリズムだけがその場を支配し、BPMが徐々に上がっていき、扇動的ではないが確かな高揚を誘う「For Body and Kenzie」のアッパーなビートへと繋がっていく。それは、アンビエント・ミュージック、ミニマル・テクノ、レイヴなど様々なジャンルがその形跡を残しながら、Teen Dazeの内部でひとつの大きな渦を形成していることを直接体感した瞬間であった。そして、瞬間はまた別の瞬間、ポスト・クラシカル系のピアニスト、Nils Frahmの「You(Teen Daze Rework)」へと繋がっていった。Nils Frahmが、ピアニストの生命線と言える自身の指に大きな怪我を抱えながら、9本の指で奏でた静謐な作品『Screws』収録の「You」に、Teen Dazeが新たなリズムを重ねた楽曲が鳴り響く。その場に満ちていた感情は祈りのように敬虔で、この日一番厳かな空気があの場所には流れていただろう。彼が本サイトで行ったインタビューで語っていたように、エレクトロニック・ミュージックを作りながらも、完全にはクラブに馴染めない彼のスタンスが最も分かりやすく現れていた瞬間だったと言えたかもしれない。そして、Teen Dazeの内に流れるより多彩な音色が鳴り響き、アンビエントとの本質的な親和性を形にした『The Inner Mansions』『Glacier』からの楽曲「Flora」「Divided Loyalties」「Ice on the Windowsill」が続く。風切音のようなドローンから始まる「Flora」、少年性を永遠に封じ込めたようなか細いながらも高音をきれいに響かせるファルセットを聴かせた「Divided Loyalties」、エレクトロニカの系譜と現代的なビートメイクが溶け合い、Teen Dazeの声とアンビエントが共鳴する美しいトラック「Ice on the Windowsill」が示していたものは、その内に流れる音楽的多様性、ジャンルを自明のものとせず可能性を探り続ける姿勢など、本サイトの姿勢とも共鳴する要素であった。イベント全体で通してみれば、The Wedding Mistakesのポストロック以降のビートメイク、Carpainterのベース・ミュージック、Madeggのエクスペリメンタルなアンビエント、tofubeatsのポピュラリティともそれぞれ通底するものを抱えたTeen Dazeの演奏は、本サイト主催の初のイベントとしても実にふさわしいアクトによる幕切れであったと言えよう。

 そうして、スタートからあっという間の6時間が経過し、イベントは無事に終了した。イベントのタイトルに「2013」と銘打った意味は、正に今年を切り取る意味で用いたが、現実に体験した記憶は過去にそのまま存在し、思い出すたびに生き直される。来場者がこの時間の中で感じ取った熱は、これからも生き続ける。そして、2014年もまた、その続きを描きたいと思った。

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Photo by Ching-Yen (prom)
www.tokyoprom.com

文:
豊田諭志
1990年生まれ、大阪出身。UNCANNY編集部員。青山学院大学音楽芸術研究部の前部長。

宮下瑠
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。得意分野は、洋楽・邦楽問わずアンダーグラウンドから最新インディーズまで。青山学院大学総合文化政策学部在籍。

和田瑞生
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行なっている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。

T_L
UNCANNY編集部所属。プルーフリーディング担当。