ARTICLESOctober/12/2013

Featured | Artist File 1:Teen Daze

 ポスト・チルウェイヴ~エレクトロニカ~ハウス~2ステップ/ガラージ~ポストロックに至るまで、様々なジャンルを横断する出演者を迎えて、11月24日(日)に本サイト、UNCANNYが開催する<UNCANNY LIVE SHOW 2013>。正直、出演者の名前を見てもピンとこなかった方も大丈夫。本イベントの開催に備えて、UNCANNYではこれから毎週毎、イベント出演者の特集を配信し、各アーティストを紹介していくこととする。

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 Artist File第1弾は、Teen Daze。カナダのエレクトロニック系プロデューサー、Jamisonによるソロ・プロジェクトだ。

 カナダ南西部、ブリティッシュ・コロンビア州はフレイザーバレー出身のTeen Dazeの音楽は、美しい自然を擁する同地域の景色を心象風景として想起させるかのような、ドリーミーでファンタジックな音色、センチメンタルなメロディが特徴的なものである。先日発表したばかりの3枚目のニューアルバム『Glacier』のテーマは「氷河」だ。故郷もほど近い極寒地域を題材にした本作では、荘厳な自然を想起させるアンビエント・トラックと甘いメロディを紡ぐ彼の歌声も相まって、リスナーは彼の瞑想的な精神世界へと誘われるような体験をするだろう。そしてBrian Eno顔負けのアンビエント・トラックだけでなく、ビートメイカーとしても、Mouse on Mars、Boards of Canada~Tychoに至るエレクトロニカの系譜と、XXYYXX、Giraffage、Slow Magic、Mmothsなどのポスト・ダブステップ、ポスト・チルウェイヴを経過した若き才能たちに垣間見える、透明感ある漂白されたような感覚を融合させた彼のトラックは極めて現代的だ。

 アンビエント~エレクトロニカ~ダブステップ~チルウェイブ~ドリーム・ポップと、様々な領域の境界を曖昧にしながら紡がれたこのアルバムは一体どのような道を辿って生まれたのか? 主にチルウェイヴ/ポスト・チルウェイヴの文脈で扱われることが多い彼の音楽だが、その足跡を辿って聴いてみると実に多彩な面を持ち、シンガー、ソングライターとしても魅力的な才能に溢れていることが分かる。そのひとつひとつを聴く事で彼の音楽に迫ることが出来るかもしれない。

 そこで、彼の歴史を振り返ってみよう。Jamisonが音楽制作に目覚めたのは15,16才の頃、そのキッカケは音楽ゲーム「MTV Music Generator」だった。そこから、ギター、シンセサイザーの演奏なども身に付け、徐々に彼は音楽にのめり込んで行く(巧みな弾き語りはDaytrotterのセッションで聴く事が出来る)
 
 そして、2010年4月頃から自身のTumblrアカウントに楽曲をポストし始め、噂が徐々に広まり、Teen Dazeとしてその名が本格的に知れ渡ったのは、同年7月にUSのカセットレーベル〈Wonder Beard Tapes〉からリリースしたデビューEP『Four More Years』によってだった。時は折しもWashed Out、Toro Y Moiが巷を騒がせていたチルウェイヴ全盛期。エスケイピズムに彩られた彼のアルバムもまた、チルウェイヴ的なニュアンスを多分に含み、Pitchforkをはじめとする各メディアからの評価と共に受け入れられた。エレクトロニカ系チルウェイヴの代表格、Blackbird Blackbirdによるリミックスも存在するチルウェイヴ・クラシック「Shine On, You Crazy White Cap」は代表曲のひとつだ。

 2010年は他にもYeasayer、Local Nativesのリミックスなどを手掛け、セルフリリースの『Beach Dreams』では演奏楽器全てをこなし、爽やかなビーチポップを聴かせる姿が確認できる。

 2011年になると自主レーベル〈Cultus Vibes〉を立ち上げ、親しい身近なアーティストのアルバムなどをリリース。自身もシングル「Together/ Something」の他、〈Anticon〉が誇る奇才ビートメイカー、Bathsのアンビエント・プロジェクトGeoticの作品のリミックス・アルバム『Reinterprets Selections From “Mend” By Geotic』をここからフリーダウンロードでリリース。自身のサイド・プロジェクト、Two Bicyclesでもアンビエント寄りのアプローチが取られており、初期の頃からアンビエントへの関心が窺われる。

 さらに同年、セルフリリースの『My Bedroom Floor』ではDaft Punkからの影響を公言するTeen Dazeらしい煌びやかなエレクトロ、『Tour EP』ではFennesz以降のチルアウトしたアンビエント~フォークトロニカの片鱗を覗かせる曲が聴けるなど、このころから既にチルウェイヴだけに収まらない姿が確認でき、多彩な音楽を自分のものとする才能を覗かせている。

 そして、Teen Dazeの瞑想的世界観は、〈Waaga Records〉よりリリースされたEP『A Silent Planet』以降、決定的に深まっていくこととなる。自身にとっては初めて明確な目的意識のもと、制作出来たという意味でも特別らしい本作は、C.S.ルイスのSF小説『Out Of The Silent Planet』のサウンドトラックであり、リスナーは不思議な世界を彷徨う小説の主人公、Dr.Ransomよろしく、クラウトロックなどの影響も窺われるシンセサイザーが乱反射する幻想世界に誘われることだろう。

 また2011年は、Bathsの北米ツアー帯同も含む度重なるツアー、SXSWへの出演、大きな影響源のひとつであろうTycho、Toro Y Moi、Matt & Kimのリミックスを手掛けるなど活躍の場を広げた年でもあった。

 そうして、2012年は彼にとって飛躍の年となった。待望の1stアルバム『All Of Us, Together』を、Neon Indian、How to Dress Wellなどとレーベルメイトとして〈Lefse Records〉からリリースすることとなったのだ。インターネットの海の底、空想の領域で全員と繋がることが出来るという、現代的な共同幻想を表現したようなアルバム・ジャケット、「Cold Sand」「The New Balearic」「Brooklyn Sunburn」といった曲名は、「The Future」=未来を表すキーワードでもあるのだろう。そしてそれは80sシンセに彩られた、過去から見た懐かしい未来の姿でもある。


 
 続いて、16世紀の宗教書”El Castillo Interior (The Inner Castle or The Mansions)”からインスピレーションを得たと思しき2ndアルバム『The Inner Mansions』では、さらに瞑想的傾向が顕著になっていくこととなった。アンビエントとフォークトロニカによる精神世界の拡張を、音で表現したような楽曲「Garden 1」や、Brian Enoの楽曲「Always Returning」のカバーなどは、今では『Glacier』での全面的なアンビエントの展開への布石として聴く事が出来るだろう。


 
 しかし、その一方で、トラック志向の強かった過去と比べると、最近のTeen Dazeは歌への志向が強まってきているように感じられるのも、また面白い点である。元Vivian Girls、Dum Dum Girlsのメンバーであり、現在ソロとして活躍するFrankie Roseとデュエットした楽曲「Union(featuring Frankie Rose)」は、正にその発露としてのギターポップ・ナンバーなのだろう。Teen Dazeの透明感のある少年のような歌声は、BathsやYouth Lagoonとも共通点を持つ優れた特質を備えている。ライブにおいてもその声は、きっと我々の心を捉えて離さないことだろう。

 一方、リミックス・ワークを覗けば、XXYYXX & Giraffage、Slow Magicなどを手掛けており、2013年2月―3月にはXXYYXXとのツアーも経験するなど、現在の若手が台頭するビート・シーンとの距離も見えてくるはずだ。

 さて、こうして振り返ってきた時、結局、何が分かったのだろうか。それは、Teen Dazeの音楽とは常に揺れ動く存在なのであり、それが彼の音楽の原動力、ひいては目まぐるしく波のように移り変わりゆく、ポスト・チルウェイヴ、ポスト・ダブステップ以降のビート・シーンの面白さ自体を反映しているということではないだろうか。「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」。現在のTeen Dazeを、ぜひ<UNCANNY LIVE SHOW 2013>にてその目で確かめてほしいと思う。

■イベント情報
Title: UNCANNY LIVE SHOW 2013
Date: 2013/11/24(Sun)
Open/Start: 4pm (-10pm)
Place: KATA + Time Out Cafe & Diner[LIQUIDROOM 2F]
Price: 3,000yen(Adv)* | 3,500yen(Door) | 3,000yen(Door/Student discount)**

*LAWSON(Lコード:77852)、イープラス、DISK UNION(SHIBUYA CLUB MUSIC SHOP/SHINJUKU CLUB MUSIC SHOP/SHIMOKITAZAWA CLUB MUSIC SHOP)、JET SET TOKYO、PLANCHA、LIQUIDROOM (一般発売日10/26)

**学生の方は、受付で学生証の提示で特別料金当日券3000円となります。ただし、前売りチケット購入のお客様の入場を優先しますので、会場のキャパシティ上、当日ご入場出来ない場合があります。当日は、事前に公式Twitter等でご確認ください。

Live Act:
Teen Daze
tofubeats
Madegg
The Wedding Mistakes
Carpainter

Opening DJ:
Toyo D(MAC)
Funky Fresh Watanabe(MAC)

Artwork by buna

主催:UNCANNY
企画制作:UNCANNY/LIQUIDROOM
お問い合わせ:UNCANNY, LIQUIDROOM(03-5464-0800)

文:宮下瑠
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。得意分野は、洋楽・邦楽問わずアンダーグラウンドから最新インディーズまで。青山学院大学総合文化政策学部在籍。