EVENT REPORTSSeptember/26/2013

[Event Report] American Apparel presents PROM NITE featuring Kelela & Total Freedom

2012年12月15日Avery AlanとSem Kaiによるレーベル〈PROM〉が、チルウェイブの生み親とも称されるNeon Indianを招聘することで始まったパーティ<PROM NITE>。今年の2月に行われた二回目の<PROM NITE>では米ヒップホップシーンに突如現れそのカリスマ性で話題を呼んでいる新鋭ラッパーLe1fと、米オルタナティブヒップホップシーンを賑わすDas RacistのメインMCとして知られるHeemsを召還し、一夜限りの熱いパーティを実現させた。

期待すべき三回目となる<PROM NITE>が、8月2日に前回と引きつづきAmerican Apparelサポートのもと、代官山UNITで開催された。C.EディレクターのToby Feltwellや日本が誇るDJ/アーティスト1-Drinkなどのベテラン陣と共にフロアを盛り上げたのが今回のメインアクト、LAのダンスミュージックレーベル〈Fate To Mind〉を代表するDJ、Total Freedomと、R&Bシンガー、Kelelaであった。

<PROM NITE>は毎回フレッシュなアーティストを呼んで話題を集めているが、Kelelaはミックステープすらリリースしておらず、音源もインターネット上でアップされているものが1、2曲しかないため、その存在を知らない者がほとんどであっただろう。しかし、Beyonceの妹として有名なSolange Knowlesやinc.と共に全米ツアーを行っている実力者で、そのパフォーマンスはアメリカのメジャー音楽業界ではすでに高い評価を得ているという。今回そんな旬のディーヴァ、Kelelaの歌声を生で堪能できるとあって期待を胸にUNITへ向かった。

Exif_JPEG_PICTURE

会場に到着した頃には既にフロアは賑わっており、観客は真夏の夜が醸し出す独特の雰囲気の中で音楽に酔いしれていたが、メインアクトであるTotal Freedomの登場がその熱をさらにヒートアップさせることとなった。スモークが立ち込める中打ち出されるリバーブのかかったサウンドが会場を包み込み、一際大きな歓声が上がる。R&B、UKグライム、トラップやビルボード系など様々なジャンルを網羅し、プロフィールに「アメリカを代表するカルチャー誌『Interview Magazine』に“現時点でのアメリカ最高のDJ”と言わしめた」と紹介されていた通り、彼のDJスタイルはさすがと感嘆してしまうほど圧巻のステージであった。

Exif_JPEG_PICTURE

続いて登場したのは本日のもうひとりのメインアクトであり個人的にも注目していたKelelaである。前衛的なビートをバックに歌うというKelelaのスタイルはAlunaGeorgeにも通じるものがあるが、純度の高い透明感と力強さを持ち合わせるその歌声と冷酷なほど鋭いサウンドは、ステージでの彼女の存在を一層際立たせていた。Kelelaが歓声と共にステージに現れたとき、その華奢な身体からこんな歌声が飛び出すとは誰もが予想しなかったことだろう。

Exif_JPEG_PICTURE

4曲目に披露された「Enemy」では、Total Freedomがたたき出す無機質で鋭いビートの波に一筋の光を差し込むがごとく放たれた彼女の歌声が力強く観客の心を貫き、会場の空気が一気にピンと張り詰めた。いつのまにか観客は踊ることも忘れ、目の前で繰り出される音の集合体に全神経を注いでいた。曲の合間に「あなたたちは最高よ。アリガトウ」と何度も感謝を述べチャーミングな笑顔を見せたかと思えば、次の瞬間には髪を振り乱し、今にも泣き出しそうな悲しげな歌声や、誰も触れたことのないところを優しくなでるような浮遊感のある歌声で一曲一曲を丁寧に歌い上げた。曲ごとに表情を変え、空間をコントロールし観客を決して退屈させないパフォーマンスは経験を多分に積んだベテラン・シンガーのような貫禄すらあった。

ライブの終盤である7曲目に「インターネットにあがっている唯一の曲」であると紹介した後、KingdomのEP『Vertical XL』のオープニングトラックでヴォーカリストとして参加した楽曲「Bankhead」を披露した。観客からは彼らの音楽を懇請するように手拍子がおこり、Kelelaは身体全体でそれに応えた。次世代の歌姫は浮世離れした歌声とエフォートレスなパフォーマンスで観客に緊張感と心地よさという、相反する感情を混在させ、会場全体に何ともいえない高揚感を生み出したのだ。そのカリスマ性は、Kelelaのことをまったく知らない者にとっても疑いのないものであったと言えよう。

Exif_JPEG_PICTURE

Photos : Ching-yen

Event Curator : PROM

取材・文:阿部容子
UNCANNY編集部員。青山学院大学総合文化政策学部在籍の大学2年生。