EVENT REPORTSMay/23/2013

[Event Report]American Apparel presents PROM NITE featuring Le1f and Heems at Le Baron de Paris

 今年2月にル・バロンで開催されたイベント「PROM NITE」に、Le1f(リーフ)が出演することは、ちょっとした驚きだった。なぜなら、Le1fは、ふたつのミックステープをリリースしているものの、まだ正式なアルバムのリリースを行っておらず、〈Boysnoize Records〉から、Le1f & Boody名義でEP『Liquid』をリリースしているくらいで、一般的には少なくとも日本では無名に近いアーティストだからだ。

 Le1fは、これまで、『Dark York』『Fly Zone』というふたつのミックステープを発表しているニューヨークのラッパーであり、LGBTのラッパーとしても知られている。彼の代表作でもある『Dark York』に収録の「Wut」のPVを観れば一目瞭然だが、それは、映像を含めて極めて衝撃的で、言葉にするのも難しい。しかし、ラップ、トラック、映像とすべての要素がとにかく斬新、つまりここ10年くらいのヒップホップにありがちだった予定調和ではない何か新しいものに挑戦しているような、もっと単純に言えば、明らかにイケてる一曲なのだ。

 Le1fは、ヒップホップ=男性的、という既成概念を見事に破壊する。「お前が何と言おうとオレは、オレ/オレがどれだけゲイなのかを心配するのはやめろ」というような一連の攻撃的なリリックからは、ヒップホップ的なマインドを感じさせ、極端に硬質なビートとたたみかけるような技巧派のラップからは、むしろ重厚で男性的な側面が強くにじみ出ている。そしてこの日、Le1fはその期待以上のパフォーマンスを集まった聴衆に見せてくれた。

 地下へと進むと、会場はすでに多くの観客で賑わっていた。間もなくもうひとりのニューヨークからのゲスト、解散してしまったDas RacistのHeemsが登場した。Le1fは、Das RacistやHeemsの作品にプロデューサーとして参加しており、タイプは異なるが、このふたりの組み合わせは、ごく自然な流れのようであった。

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 オルタナティブ・ヒップホップのMCと称されるHeemsは、現行のメジャーヒップホップの潮流とは違った、90年代のRawkusやATCQの延長線上に位置するようなサンプリング主体の楽曲を披露していく。ラップのスタイルは、丁寧にリリックを積んでいくリリシストらしいものだ。Das Racist時代の曲からは、「Rapping 2 U」を披露。バンドアクトに近いような勢いのあるライブパフォーマンスを見せ、会場の熱度を一気に高める術は見事なものであった。

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 続いて登場したこの日のメインアクトであるLe1fは、花柄のシャツを身に纏い、DJブースの前にセットされたステージに上がると、『Fly Zone』のリードトラックである「Spa Day」「Coins」と一際硬派な楽曲を立て続けに披露した。太く力強いヴォーカルが、硬く冷たい鉄のようなトラックの上で響く。会場のサウンドシステムは決して良いとは言えないものだったが、それを無視するかのように、地鳴りのようなベース音がひたすら鳴り響いていた。前述したLe1fの代表曲「Wut」では、ふたりのダンサーを従え、自身もダンスを披露。手足の長い身体を使ったそのしなやかな動きと、華のあるトラックは、会場を熱狂させるには十分すぎるほどのインパクトを持っていた。

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 クラブパーティーをより印象深いものにしようとすれば、表層的な消費の空気の下に、生産する者、すなわちアーティストの放つ緊張感を必要とする。その日、Le1fとHeemsは、確実に、その時間、場所、雰囲気を決定する軸として存在し、目には見えない、アーティストとしての強烈な緊張感をそこに張り巡らせていた。

 クラブは、一時的に外界と遮断された想像的な空間だ。そこでは確かに交感/共鳴が主役のひとりを務める。だが一方で、創造もまた主役のひとりとなる。自由と創造は、時に矛盾する。なぜなら、創造は努力や勤勉の上に成立しているからだ。しかし、自由だけではなく、創造もまた人に光をあてる。なぜなら創造は、私たちにとって希望でもあるのだ。

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取材・文:T_L