INTERVIEWSMay/21/2013

【Interview】tofubeats – “lost decade”

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 中学1年生の時に友人から聴かせてもらったBUDDHA BRAND「人間発電所」で音楽に目覚め、トラックメイクをはじめて約10年。ついにtofubeatsの1stアルバム『lost decade』がリリースされた。tofubeatsは、これまでインターネットを中心に100曲以上の楽曲を発表する一方、多くのアイドルのリミックスやプロデュースを手掛けており、ジャンル、世代を超えて既に高い評価を受けている。これが初めてのアルバムというのは正直遅すぎるとも言えるが、トラップ、チルウェイヴ、スクリューなど、これまでJ-POPというフィールドではほとんど鳴らされることのなかった音が彼の手によってJ-POPとして鳴っているこのアルバムを聴くと、ソーシャルメディアが普及して誰もが常にオンラインで繋がることができるようになり、国境や文化というコミュニティが取り払われた2013年という時代に出るべくして出たファースト・アルバムであると感じた。

今回のアルバムには、SKY-HI、南波志帆、G.RINA、ERA、PUNPEE、仮谷せいら、オノマトペ大臣といった豪華なゲストが参加。アイドル、ヒップホップ、そしてネットレーベルという3つの要素が過不足なく詰め込まれ、一つのJ-POPのアルバムとして完成された『lost decade』は、一つの作品集という意味合いを超えて、tofubeatsという人間が描くストーリーそのものを追っているかのようだ。彼の住む神戸からJ-POPというフィールドに宛てられた『lost decade』という物語は、間違いなくJ-POPの歴史に刻まれる作品となるだろう。

今回は、そんなアルバムの内容を中心に同世代のアーティストやこれからの展望などについてじっくり語ってもらった。

_アルバム制作が実際に動き始めたのはいつ頃ですか?

8月に実家から引越しをして1人暮らしをはじめて、去年の9月22日に最初のデモが完成して最終納品が3月中旬だったのでタイトなスケジュールでの制作でしたね。

_フィジカルリリースの『lost decade』『university of remix』に加えて既に配信が開始している『college of remix』『lost decade (outtakes)』、今後配信予定のリミックス集を合わせると一気に5作品が世に出ることになりますが、これは意図して一気に発表したのですか?

元々はできた曲をその都度公開したりして、制作過程を全て見せたいという気持ちがあったんですが、色々と大人の事情もあり、アルバムが出た後にすべて公開しようということになりました。

_イントロを挟んで1曲目の「SO WHAT!? feat.仮谷せいら」は「水星」のPVにも登場した仮谷せいらさんをボーカルに迎えた楽曲ですが、1曲目に彼女を起用した理由を教えてください。

実はこの曲は、アルバムが完成していくにつれて、このアルバム暗いな〜と思い始めて最後の1週間くらいで作ったんですよ。僕自身がアルバム制作中に森高千里に激ハマりしていたっていうのもあって明るい曲を作らなければいけないという強迫観念に駆られてました(笑)。結果的に出オチ感みたいなのが出せたし良かったです。

_「Les Aventuriers feat.PUNPEE」は、かなり速い曲でPUNPEEさんのプロデュース曲だったり、ソロ・アルバム『Movie On The Sunday』とは大きくアプローチが違いますよね。

せっかくオファーするなら、守りに入ってはいけないと思ったし、その人にはないものを引き出したいという気持ちがあって。以前、PUNPEEさんが速い曲はやらないって言っているのをインタビューか何かで読んで、「じゃあ速い曲やろう!」という感じで即決めましたね(笑)。

_「Fresh Salad feat.SKY-HI」は逆にSKY-HIさんの挑発的なラップに合うトラックだと感じました。

SKY-HIさんは、とにかくかっこいい人を呼びたくてオファーしました。J-POPフィールド、HIP-HOPフィールドどちらでも活躍しているところは自分の中で目標としている部分でもあるので。彼の大人に歯向かっていくようなライムと、グライム的な音のアプローチを上手く組み合わせることができた曲だと思います。

_「m3nt1on2u feat.オノマトペ大臣」はDJ WILDPARTYのミックスCD『Emotional Joint』(名盤!)にも収録されていますが、もともとは『Emotional Joint』のために制作した曲なんですか?

もともとはアルバム用に制作してたんですが、ミックスCDのオファーが来たので先にDJ WILDPARTYに渡したという感じですね。でも、ミックスCDとアルバムでは色々とアレンジが違う部分があるんですよ。レイヴっぽいトラップを目指して作ったんですが、<Sonar Sound>で披露した時に名物のお客さんが踊ってくれて嬉しかったですね(笑)。あと、アルバムを作る際にアンダーグラウンドなダンスミュージックの音をフィジカルで、なおかつJ-POPとして鳴らしたいという気持ちがあったので「Fresh Salad feat.SKY-HI」「m3nt1on2u feat.オノマトペ大臣」みたいな曲をCDに収録できた意味はとても大きいですね。いままでこういう音をCD落としこんでいるアーティストってほとんどいないので。攻めの姿勢はこれからも出していきたいので、これからはTRF(トーフ・レイブ・ファクトリー)みたいな感じでジャングルとかレイブとかをやってみたいですね(笑)。

_「No.1 feat.G.RINA」はもともとBandcampで配信されていた音源ですよね。Bandcampで配信されているバージョンはご自身で歌っていますが、今作ではボーカルにG.RINAさんを迎えたバージョンが収録されています。

この曲は作った当初から自分の声があまり好きではないというのもあって自分が歌うことに憤りを感じていたんです。デザインやPV制作も自分でやることが多いですが、それはすぐにできて、なおかつ自分のイメージに近いものができやすいって理由で、やっぱり本当はプロに頼むほうがよりよいものができると思います。でも、時間やお金の問題もあってこれまでは難しいこともあったのですが、「No.1」はG.RINAさんに歌ってもらうと良くなるという確信があったのでオファーしました。作った当初からブログにも素敵な大人の女性に歌ってもらいたいと書いていたので願ったり叶ったりでしたね。実際、この曲は凄く評判も良くて自分としても1番よい仕上がりになったと思います。

_「touch A」もBandcampで既に発表されていた楽曲ですね。

この曲は自分がBandcampで発表している曲では1番好きなんですよ。それをどうにか人目につくところに置きたいという気持ちがあったので今回収録しました。「夢の中まで feat.ERA」から落ち着いた曲が多くなってB面感があるなと思っているのですが、僕にとってはこっちが素なんじゃないかと思っていて。

_「水星 feat.オノマトペ大臣」は間違いなく代表曲のひとつだと思うんですが、iTunes1位などを経てこの曲に対する気持ちは変わりましたか?

アルバムが出てからファン層が変わって、DJをしているとクラブミュージックファンじゃない人とかに「朝ダン(朝が来るまで終わる事の無いダンスを)かけて〜!水星かけて〜!」とか言われるようになって、ひとり歩きしたな〜と思いますね。でももう充分ひとり歩きしたと思うんで、「行っておいで〜」という親心的な気持ちが強いです(笑)。

_「水星」の元ネタがKOJI1200の「ブロウ・ヤ・マインド~アメリカ大好き」だということはもう有名になっていますが、カバー曲扱いになったと聞きました。

正式にKOJI200「ブロウ・ヤ・マインド~アメリカ大好き」のカバー曲ということになりました(笑)。そしていつか、番組ゲストとかで呼ばれてみたいです。KOJI1200もテイ・トウワと今田耕司が組んだ企画物のユニットですが、僕は本当に企画物が大好きなんですよ。ビッグポルノ(小籔千豊とレイザーラモンによるユニット)とかGEISHA GIRLS(ダウンタウン)とかもネタとかではなく真剣に好きで。お笑い芸人で言えば、藤井隆が、キリンジの「エイリアンズ」が好きというエピソードはdj newtownをやる上でも参考にしました。新曲のタイトルも「She is my new town」で、newtownの系譜上外すことができない人物ですね。

_「水星」は郊外の音楽としてシティ・ポップと比較されたりすることが多いと感じるんですが、実際に水星はシティ・ポップを意識して作ったんですか?

神戸という街に立脚しているというのは確かですが、僕の場合シティ・ポップが歌った空想の都市とかリゾートでは収まりきらなくて、夢とかについて歌ってるんですよ。見ている所が空想の都市ではなくもはや神殿的な何かというか(笑)。シティ・ポップという言葉の定義自体が曖昧なのでなんとも言えないですが、今振り返るとシティ・ポップと言うより、ヴェイパーウェイヴとかの○○ウェイヴっぽい。それに自分で気づいた時にやっぱり自分とインターネットは切り離せないなと思いました。ポップスのアルバムを作ってインターネットカルチャーの凄さに改めて気付かされました。

_○○ウェイヴなどに顕著ですがインターネットのシーンやダンスミュージックのシーンは毎日ものすごいスピードで更新されていくので、今回のアルバムのようにまとめて曲を作って発売するというやり方はどうしてもブームへの遅れが生じてしまうと思うのですが今後はどのような形で作品を出していこうと思っていますか?

周りの人達が許してくれるのなら何でも即時開放でなおかつストックを残さないということを原則にやっていきたいです。今回『lost decade (outtakes)』を発表したのはそのことの宣言でもあるんです。曲を作りためてまとめて発表するというやり方は、僕にはあまり向いていないと思っていて。最初にアルバム制作がタイトなスケジュールだったと言ったんですが、作り終えた曲が世にでるまで半年かかるのはもどかしかったですね。「m3nt1on2u feat.オノマトペ大臣」とかも作っていたときは最新の音楽であっても今はまた違うブームが生まれていますし。

_「夢について歌っている」と言われていましたがアルバム全体を通して「夢」という言葉が歌詞に多く登場しています。最初に「夢」というコンセプトがあったんですか?

それが偶然出来た曲を並べたらそうなったんですよ! tomadさんのアルバム発売に向けた文章「Lost Decadeをこえて」を読んで、自分がいかに現実じゃなくて夢に生きたいかということが分かりましたね。政治とかの現実的な問題を自分の作品ではあまり表に出したくないという気持ちがあって。それがアルバムの非日常的な世界観に繋がっていると思います。

_そして最後の楽曲でありタイトル曲の「LOST DECADE feat.南波志帆」は同世代でなおかつ女性に歌って貰いたかったということで南波志帆さんにオファーされたと聞いたのですが、周りの同世代についてはどう思いますか?

同世代ということで言えば、最近はthamesbeatがDTMをはじめたりしましたが、大学の周りにはほとんど音楽友達はいなかったですし、<lost decade>のメンバーも全員僕より歳上なので同世代で上がっていってるという感覚はあまりないですね。マルチネとかはマイノリティに人が集まってハイコンテクストな文化になる傾向があるけど、この曲は反対にド直球なJ-POPを作りたいという明確なコンセプトがありました。しっかりとコンセプトを決めて作った曲はアルバムでもこの曲くらいですね。逆にリミックスアルバムはめちゃくちゃハイコンテクストなものにしよう思ってオファーをしたので楽しみにしておいて下さい(笑)。そういったいわゆるハイコンテクストな文化は自分とは切っても切り離せないものだと思うので、この曲はちょっとよそ行きの気分で作りました。

_ハイコンテクスト、ローコンテクスト問題で言うと、アイドルソングのリミックスはその辺りのバランスがとてもデリケートで難しい問題だと思うのですが。

そうですね。僕の場合はリミックスの依頼が来たらブログをチェックしてメンバーの性格を把握したり、原曲の歌詞を手に入れることで原曲に対する必然性を理解しようとしています。それでもやはりリミックスは難しくて、ももいろクローバー「ももいろパンチ(tofubeats Remix)」の2番の盆踊り風パートはダブステップのリズムじゃないほうが良かったなと後から思ったりします(笑)。あと基本的にボーカルは大きくいじらないようにしています。リミックスは原曲が好きな人が聞くものだという気持ちは常にありますね。

_神戸という東京ではない地域で制作を続ける姿は多くのアーティストに希望を与えていると思うのですが、これからも神戸に住み続ける予定ですか?

最近は東京に行く機会がかなり増えたんですが、なんとかやっていけてるのでこのまま住もうと思っています。東京に出てこない理由もないんですが出てくる理由も無いというのが正直なところですね。海外でも『H∆SHTAG$』とかをみるとBondaxが何にもない草原に建っている小屋で曲を作っているシーンがあって、クラブはおろかスーパーも無さそうな土地から世界中に音楽を発信できているのを見ると、もはや住んでいる場所はあまり関係なくなってきていると思いますし。あとは神戸というイメージが付きすぎて、いまさらあっさり東京に普通に引っ越したらつまんないという気持ちもあります。それこそ、ジャングルの曲を出すタイミングでニコファーレを借りで引っ越しの報告をするとか、今の家の壁がバターンと倒れて、「あれ?東京や!」くらいのことをしないと東京には来たくないですね(笑)。

取材・文:
豊田諭志
1990年生まれ、大阪出身。UNCANNY編集部員。青山学院大学音楽芸術研究部の前部長。

和田瑞生
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行なっている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。

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Artist: tofubeats
Title: lost decade
Number: QYTB-00001
Release Date: 2013.4.24
Price: ¥2,100(tax in)

1.intro
2.SO WHAT!? feat.仮谷せいら
3.ALL I WANNA DO
4.Les Aventuriers feat.PUNPEE
5.Fresh Salad feat.SKY-HI
6.m3nt1on2u feat.オノマトペ大臣
7.I don’t care
8.time thieves
9.夢の中まで feat.ERA
10.old boys
11.No.1 feat.G.RINA
12.touch A
13.OMOI-DORI
14.synthesizer
15.水星 feat.オノマトペ大臣
16.LOST DECADE feat.南波志帆
17.SO WHAT!?(EXTENDED FULL POWER DIGITAL MIX!!)