ARTICLESFebruary/25/2015
On Beat! (9) by Chihiro Ito – Penguin Cafe Orchestra “Penguin Cafe Orchestra Best”
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 僕たちは日常生活が物足りないと思った時にどのようなことをするのでしょうか?

 ノイズ・ミュージックを聴いてみる。癖のある喫茶店に行ってコーヒーを飲む。実験映像を見に行く。哲学書をよんでみる。現代美術を見に行く。いろいろな方法があると思います。そこで出会った人や知識の出会いは、自分の知識をより深くしてくれると思います。

 今回はPenguin Cafe Orchestraという変わった名前のグループをとりあげようと思います。グループ名にオーケストラとついていますが、彼らの音楽は様式的なクラッシックや伝統的な音楽とは違います。若いエネルギーの満ちあふれるロックとも違います。また、現代音楽やミニマル・ミュージックとも違います。彼らの音楽はどのジャンルにも属さない気がします。それががゆえに捉えにくく、かといって難解ではない音楽。一言でいうと、僕が出会った宝物の様な音楽。

 僕がこのグループの音楽を初めて聞いたのは、15年ほど前でした。友人に借りた沢山のCDの中の一つにこの何とも形容しがたい音楽が入っていました。しかし、友人の作ったMix CDの内の1曲だったのもあり、グループ名は解らないまま返却してしまいました。

 それから5年後のある日、閉店まじかのカフェでお店で聴かなくなったPenguin Cafe OrchestraのCDをプレゼントされました。その音楽を聴いた時に「あ、5年前のあのときの音楽だ!」と思いました。僕が貰ったのは、『UNION CAFE』というアルバムで彼らの5枚目のアルバムでした。そのCDの表紙にはペンギンのかぶり物をした黄色い肌の人間たちが踊ってたり、黒いペンキでオレンジ色の壁に文字を書いたりしているものでした。しかし、そのアルバムには僕の最初に聞いた曲は入っていませんでした。

 それから5年後のある日、僕はロンドンに滞在していました。何か音楽を見にいこうと思ってインターネットでいろいろ探していました。BBC(英国の公共放送局)が、Penguin Cafeのコンサートを行うとを知りました。そこで、居候させてもらっていた友人と出かける事にしました。ロイヤルアルバートホールというクラッシックのホールで行われていた彼らの演奏を、当日券が約700円でスタンディングで観ることができた事にカルチャーショックを受けました。また、彼らの曲がライブで演奏するにはとても難しそうなだと思っていたのですが、予想に反して、とても魅力的でした。特に印象に残ったのは、普段はバイオリンやピアノやギター、チェロの様なアナログな楽器を使って演奏しているのですが、「Telephone And Rabber Band」という曲を演奏する時になるとiPhoneをサンプラーとして演奏した場面で、枠に収まらない面白い何かを感じました。

 Penguin Cafe Orchestraは1976年に「On Beat!(4)」でも紹介した、ブライアン・イーノが主宰していたオブスキュア・レーベルからアルバム「Music From The Penguin Cafe」でデビューしました。当時のリスナーは彼らをニューウェイヴと言うジャンルとして認識していたそうです。今のそれとは、少し違いますね。名前の由来は1972年にグループのリーダーのサイモン・ジェフスの実体験から来ています。彼は南フランスで傷んだ魚を食べてしまい、体調不良で寝込んでしまいました。ベッドで彼は幾つもの不思議な光景をみたそうです。その後に体調が良くなり、砂浜に座っていると、頭の中に幾つもの詩が浮かんできたそうです。その最初の言葉が、「私はPenguin Cafeのオーナー。思いつくままを語ろう……」だったそうです。それからサイモンは、Penguin Cafeの為の音楽を作る事になったと言っています。

 また、彼らのアルバムの表紙絵は半分ペンギン、半分人間のキャラクターの絵で有名です。しかし、この絵は発表された直後は登場していませんでした。当初、アルバムの表紙はほぼ黒一色(実際は風景写真の上に黒いインクがすられ、下地が薄っすらと見える)のアートワークでした。しかし、別のレコードレーベルから再発売することになり、彼らのトレードマークのペンギン人間の絵に変更になりました。ちなみにこの絵を描いたのはグループのリーダの妻であり、メンバーでもある、エミリー・ヤングです。彼女はロンドンの60年代のサイケデリック・シーンで有名な彫刻家でした。その後、日本でも高い評価を得たバンドでしたが、1997年にリーダーのサイモンの脳腫瘍の死により、実質的な活動を中止しました。

 2009年にサイモンの息子であるアーサー・ジェフスを中心に、メンバーも新しくした「Penguin Cafe」が結成されました。そして現在では彼らの2枚目のアルバムが発売され、来日公演も行なわれました。また、旧Penguin Cafe Orchestraのオリジナルメンバーの一部はThe Anteaters(=アリクイ)を結成し、Penguin Cafe Orchestraの楽曲を中心に活動しているそうです。

 さて、あなたは日常生活が物足りなくなったときに、何をしますか?


文・画:伊藤知宏
1980生まれ。阿佐ヶ谷育ちの新進現代美術家。東京、アメリカ(ヴァーモント・スタジオ・センターのアジアン・アニュアル・フェローシップの1位を受賞)、フランス、ポルトガル
(Guimaranes 2012, 欧州文化首都招待[2012]、O da Casa!招待[2013]、CAAA招待[2014])、セルビア(NPO日本・ユーゴアートプロジェクト招待[2012、2014])、中国を中心に
ギャラリー、美術館、路地やカフェギャラリー、畑などでも作品展を行う。Panphagiaディレクター。3月に阿佐ヶ谷アートストリート2015、6月にスイスで作品展予定。東京在住。”人と犬の目が一つになったときに作品が出来ると思う。”

HP: http://chihiroito.tumblr.com/

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Artist: Penguin Cafe Orchestra
Title: Penguin Cafe Orchestra Best
Release Date: 8 August 2007
Label: Commons