- ARTICLESDecember/20/2014
On Beat! (7) by Chihiro Ito – Sonic Youth “Goo”
僕たちが美術作品を見る時に、何を求めて作品を見るだろうか。
それは、新しい価値観や未来の予言的なもの、作品のエネルギーを感じたり、古典的技法の中に新しさを見つけるような行為であったりするのかもしれないが、人によってそれぞれ違うのかもしれない。
どうせ違うのであれば、今回は僕自身の事を書いてみよう。僕は小学校に入る前から彫刻家の両親の影響で画廊や野外展、美術館・博物館等によく遊びにいっていた。中でも印象深いのは、貸画廊というものであった。これは日本では80-90年代が最も多く、現在でも数は減ったものの多く存在する画廊の形態といわれている。貸すだけではなく、年に数回の企画展(画廊の企画した作品展)なども行う。特に現代美術の貸画廊では、数十万円のお金を出して画廊をかりて、画廊代と同じくらい出資して作品を発表する。大人が本気でやりたい事を行うので、美術館に設置してある作品にはない、すごいエネルギーが表出されることもしばしばある。
神田に60年代半ばから90年代後半頃まで、ときわ画廊という画廊があった。そこで作品を発表する彫刻家は特に美術業界内でも異端な人が多かったと、見聞きしている。その場所で物心つく前に僕が感じていた感情は一言では言い表せないものであった。画廊空間にある作品は、全く想像しえなかったものが多く、時には作品からとてつもなく抽象的な恐怖を感じ、時には粗雑な優しさを感じ、なんじゃこりゃという作品もあった。それは、僕の子供の生活環境の中ではない、特殊なものだった。
話を音楽に移そう。今月はインディー・ノイズバンドの雄と言われている、Sonic Youthについて書こうと思う。
彼らは1982年の最初のシングル”Sonic Youth”を発表してから、サイドプロジェクトも含めて様々な活動を行ってきた。2011年のサーストン・ムーア(ヴォーカル、ギター)とキム・ゴードン(ヴォーカル、ベース)の私生活の破局により今は活動休止状態になっている。彼らのアルバムの表紙の多くは何故か現代美術のアーティストの作品を多用している(*簡単に文章の最後にファーストアルバムからのアートワークを手がけたアーティストをまとめてみたので、是非ご覧下さい)。殆どがアメリカのアーティストで15枚中、11枚がアーティストによる作品。それ以外の4枚は自分たちによる制作だ。何故、この様な事をしたのだろうか?
Sonic Youthの『Goo』というアルバムは彼らの通算6枚目にして、初のメジャーレコード会社から発売されたアルバムだ。内容はというと、”Tunic(Song for Karen)”の様な神経性無食欲症により若くして亡くなった、カーペンターズのカレン・カーペンターへ捧げた曲も在れば、”Kool Thing”のようにラッパーのチャックDが参加したユニークな曲もある。全体としては、前作の名盤と名高い『Daydream Nation』よりも、若干全体の音が洗練されているような気がするけれど、ギターの音はいい意味で粗く、ドライブ中に聞くにはとても良いのではないかと思った。
ドライブといえば、このアルバムの表紙は車に乗っている2人の男女の絵が描かれている。この絵にはストーリーがある。イギリスの子供達、5人を殺害した犯人2人の内の1人の妹とその夫の新聞に掲載された写真を元に描かれたものだ。この少しややこしい話の元は新聞に載っていた写真らしい。描いたのはRaymond Pettibonというペインターだ。
僕は日本では十年程前に現代美術館で彼の個展を見た。その時彼は、数十メートルの波とサーフィンをしている小さな男を描いていたのが印象にのこっている。また、Raymondはアメリカの西海岸の伝説的なバンド、Black Flagのロゴマークや、様々なハードコア・バンドのジャケットやフライヤーなども制作している。そして、Black Flagのギタリストの実の弟でもある。近年は古いアメリカの雑誌・アニメのキャラクター等をモチーフにしている力強い筆跡で真っ直ぐに絵で勝負している稀有な画家である。最近ではOFF!というバンドのイラストや、Red Hot Chili Peppersの”Monarchy Of Roses”という曲のミュージック・クリップにアニメーションを制作したことも話題になった。そしてサーストン・ムーアは大学の卒業論文でBlack Flagについて書いたことのあるくらい、このバンドの事が好きなのだそうだ。メジャーレコード会社で最初に発表したレコードの絵を描いてもらったのも、納得できる。
それはそうとなぜ彼らは何度もこれらの現代美術家やカルト的な人気のある映像作家・小説家・音楽家のグラフィックイメージを自分たちのアルバムの表紙にしようとしたのだろうか? ただ、彼らがファンであるということだけではないような気がしてならない。
僕はこう思った。Sonic Youthはアンダーグラウンドの世界にいつつ、勇気を持って自分達の現代美術に対する知識や興味や憧れを取り入れた。その結果、彼らはロックの世界では芸術に対してインテリジェンス性の高いグループとして存在している。
そして、それは上手くいっており、彼らのオリジナリティのひとつとしてアートとロックが共存している様な気がする。
資料:
1. Confusion Is Sex (1983) – キム・ゴードンが描いたサーストン・ムーアの顔の絵。
2. Bad Moon Rising (1985) – James Welling (USA/1951- )のカカシの写真をそのままジャケットに使用している。
3. EVOL (1986) – カルト的な人気の写真家・映画監督のRichard Kern (USA/1954- )の短編映画のスチール写真の上にペイントしている。
この映像も入ったのHardcoreという2本組みの短編映画集はおすすめです!
4. Sister (1987) – オリジナルのジャケットには、写真家のRichard Avedon (USA/1923-2004)の作品がコラージュの左上の部分に使われていたが、著作権の問題があったのか、現在はそこの部分のみ黒く塗りつぶされている。
5. Daydream Nation (1988) – ロウソクの絵は、有名な現代美術の平面作家、Gerhard Richter (Germany/1932- )の描いた「Kerze」を使用している。
6. Goo (1990) – 上記でも少し触れました、Raymond Pettibon(USA/1957- )の作品を使用している。Gooはねばっこいなどの意味だが、ここでは女性のあだ名として使われている。
7. Dirty (1992) – Mike Kelley (USA/1954-2012)の作品が表紙になっている。彼はDestroy All Monstersというバンドのメンバーでもある。
8. Experimental Jet Set,Trash and No Star (1994) – Sonic Youthの海賊盤(非公式なライブ音源などのレコード)で使われたメンバーの写真を自身で選び、コラージュに仕上げたジャケット。Talking Headsのリメイン・イン・ライトのジャケットのオマージュと言われている。
9. Washing Machine (1995) – 1995年にマサチューセッツ州で行われたソニック・ユースのライブ後に、会場で売っていたTシャツを着たファンをキム・ゴードンが撮った写真を使用している。レイアウト等のデザインは、ビースティ・ボーイズとの仕事やX-Large、X-Girlへのデザイン提供をしているマイク・ミルズの仕事だ。
10. A Thousand Leaves (1998) – 女性アーティスト、Marnie Weber (USA/1959- )のコラージュ作品。ミュージシャンとしても活躍する彼女は、アルバムをサーストン・ムーアのレーベルより、発表している。
11. NYC Ghosts & Flowers (2000) – 裸のランチなどで知られる、ビート・ジェネレーションを代表する作家のひとり、William S Burroughs (USA/1914-1997)の平面作品。
12. Murray Street (2002) – キム・ゴードンとサーストン・ムーアの実娘ココ・ヘイリーちゃんとその友人が写った写真が表紙になっている。苺狩りをしている様子だそうです。網のカーブが美しいジャケット。
13. Sonic Nurse (2004) – Richard Prince (USA/1949- )によるジャケット。彼の代表作の「ナース」シリーズを使用している。
14. Rather Ripped (2006) – アメリカのアーティスト、Christopher Wool (USA/1955- )によるジャケット。
15. The Eternal (2009) – 異端のフォーク・ミュージシャン、John Fahey(USA/1939-2001)が描いた絵、「Sea Monster」を使用している。最近のサーストン・ムーアのソロアルバムには彼の音楽的影響がみられる。
ざっとですがこんな感じです。興味のある方は是非、ソニックユースのアートワークの掲載されているホームページや各アーティストを検索してみてくださいね。
Artist: Sonic Youth
Title: Goo
Release Date: 26 June 1990
Label: Geffen Records
1980生まれ。阿佐ヶ谷育ちの新進現代美術家。東京、アメリカ(ヴァーモント・スタジオ・センターのアジアン・アニュアル・フェローシップの1位を受賞)、フランス、ポルトガル(Guimaranes 2012, 欧州文化首都招待[2012]、O da Casa!招待[2013]、CAAA招待[2014])、セルビア(NPO日本・ユーゴアートプロジェクト招待[2012、2014])、中国を中心にギャラリー、美術館、路地やカフェギャラリーなどでも作品展を行う。12月6日にPanphagia 2014にディレクター、出品作家として参加。来年1月に山梨県のi Gallery DCで個展予定。東京在住。”人と犬の目が一つになったときに作品が出来ると思う。”
HP: http://chihiroito.tumblr.com