ARTICLESJanuary/24/2015

On Beat! (8) by Chihiro Ito – Siouxsie and Banshees “The Best Of Siouxsie & The Banshees”

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 とっつきにくい人は何処にでもいるものです。ぱっと見、とっつきにくそうだなと思っても、話をしたり、一緒にいるうちに、いつの間にか、その人にハマってしまったことは沢山あります。今回取り上げた、Siouxsie and Bansheesはまさにそんなバンドです。

 僕がアーティストとして本格的に活動を始めたばかりのころ、良い意味でとっつきにくい西瓜糖という現代美術のギャラリー・カフェに入り浸っていました。ある日、店主と音楽の話をしていた時に、「このバンド知ってる?」と言われ、このバンドのカセットテープを貸りました。当時(2006年頃)はすでにデジタルが主流の時代でした。しかし、そこにきて、カセットテープ?! その夜、家のコンポの殆ど使っていないカセットテープのデッキを使い曲をかけてみました。

 使いふるされたテープの”サー”という独特のノイズの中に聴こえてきたのはゆっくりとしたリズムと重いバンドの演奏と女性ボーカルの抜けの良い声でした。カセットテープをさらっと聞いた感じ、音楽も重いしポップスの様にあんまり解りやすくない気がしました。よくわからないので、もう一度再生して聞いた後、お店にテープを返してしまいました。

 数ヶ月後、まだこのバンドのことが気になっていたのもあって、CDを近所の中古レコード店で買って聞いてみたり、ネットで動画を見たりしていました。そこで、気づいたのが、ヴォーカルのSiouxsie Sioux(この文字でスージー・スーと言います)はどのミュージック・クリップでも、目に黒い象徴的なメイクをしていることです。このメイクはバンドの中半期から、彼らのトレードマークとなってきていました。

 そして、ある時彼らの”Happy House”という曲のビデオをみた時です。ピンクと黒の菱形模様のピエロの衣装を着てトレードマークのような目のメイクをしたSiouxsieとバンドがピンクやエメラルドグリーンや白のポップな家の中で踊ったり、歌っていました。

 その歌の歌詞は、「ここは幸せの家。幸せはここにある。ここは幸せの家。楽し。楽し。楽し。私たちは幸せの家で遊ぶことが出来ます。そして、一日を無駄にし、雨期はありません」とあり、中盤では「ここは幸せの家。幸せはここにある。ここは幸せの家。ここはもしあなたが”はい”というなら部屋を得る事が出来ます」と続き、「しかし、”ノー”とはいう事ができない。さもなければ、ここからでて行かなければならない」とあります。

 歌詞だけを聴いて、意味がはっきり解るようには出来ていないような気がしました。しかし、歌詞の内容と楽曲の暗さが、表面的な人間関係(組織)を批判している歌の様に感じました。この社会の表層的なものへの批判的な眼差しをもつ彼らのスタイル、そして、Siouxsieの目のメイクは彼女がSex Pistolsの親衛隊だった事実からも頷ける気がしました。

 また、バンド名のBansheesの由来は、色々な説が在るそうですが、アイルランドおよびスコットランド地方で家人の死を予告すると言われる女の妖精バンシーに由来することや、ホラー映画『バンシーの叫び』に由来するという説もあるそうです。また、Siouxsie Siouxの名前は、彼女の本名のスーザンの愛称のスージー及びスーを、インディアンのスー族(Sioux)の綴りにしたものでないかと言われています。

 それにしても、”Happy House”を歌う姿は言葉では表せないですが、魅力的で癖になりこのバンドのファンになってしまいました。興味を持った方はぜひYouTubeなどで見てみてください。こちらが、曲だけ聞いてとっつきにくそうと犬猿していてはわからなかった事です。不思議な事です。

※お知らせ
ちなみに今回、取り上げた西瓜糖のNew Waveのコレクションは初代店主や、音楽関係者、お客さんなどの集めたものが殆どで、1980年代を反映していました。その話はまた別の機会にお話しするとして、今月末はそんな西瓜糖をつくった初代店主の今行っている山梨のギャラリー、i Gallery DCで作品展のお誘いを受けまして、1月25日から2月22日まで、作品展を行います。石和温泉の近くに寄る機会がありましたら、是非どうぞ。

文・画:伊藤知宏
1980生まれ。阿佐ヶ谷育ちの新進現代美術家。東京、アメリカ(ヴァーモント・スタジオ・センターのアジアン・アニュアル・フェローシップの1位を受賞)、フランス、ポルトガル(Guimaranes 2012, 欧州文化首都招待[2012]、O da Casa!招待[2013]、CAAA招待[2014])、セルビア(NPO日本・ユーゴアートプロジェクト招待[2012、2014])、中国を中心にギャラリー、美術館、路地やカフェギャラリー、畑などでも作品展を行う。Panphagiaディレクター。1月25-2月22日まで、山梨県のi Gallery DCで個展。3月に阿佐ヶ谷アートストリート2015、6月にスイスで作品展予定。東京在住。”人と犬の目が一つになったときに作品が出来ると思う。”

HP: http://chihiroito.tumblr.com/

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Artist: Siouxsie & the Banshees
Title: The Best Of Siouxsie & The Banshees
Release Date: 12 November 2002
Label: Polydor Records