ARTICLESNovember/14/2014

On Beat! (6)by Chihiro Ito – New Order “Substance 1987”

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 初めから期待されないということはどんな気持ちだろうか?

 彼らの存在は有名でありながら、New Waveのスーパースター、イアン・カーティス亡き後、余り期待されていなかったのではないだろうか? 残りのメンバーの試行錯誤や不安定さを感じたのは、バンド名にNew Order(=新秩序)という名前をわざわざ付けた事や、ファーストアルバムの『Movement』の楽曲がなぜかとても暗く、声質の似ているギタリストとベーシストが入れ変わりながらヴォーカルを行っている事などからだ。それらはセカンドアルバム以降は徐々に薄れてくるものではあったが……。

 僕が初めてNew Orderを知ったのは、14才の頃でした。当時中学生だった僕は邦楽よりも洋楽ばかり聞いていました。曲の中にある世界観や海の向こうの情景に、退屈な学生生活からの逃避をしていました。これは良くも悪くも特別な思い出でした。

 ある日、深夜の音楽番組で、ロンドンのヒットチャートを放送していました。その中にNew Orderの「True Faith」のビデオが流れていました。なんとも言いようのない、そのビデオには、”音楽に合わせてほほを叩き合う2人”、”片足の赤い人”、”手話をするうごけない黒塗りの人”、そして、”3人の時間軸を自由に行き来する色違いのピエロ”が登場します。余りにその当時のバンドたち(Beastie BoysやThe Stone Roses、Oasisなど)のビデオと違っていたので、何かとても強く印象に残っています。その後、近所の図書館で借りたのが、今回取り上げた『Substance』というアルバムです。このCDは2枚組でNew Orderの1987年までにリリースされたFactory Records時代のシングルのA面曲をDISC1に、B面曲をDISC2に収録するといった変わったコンセプトのベスト盤です。

 このアルバムの全曲を聞いた後、「言いたいことはよくわからないが、イメージはよく伝わる」と感じました。最近、彼らの曲の歌詞を数曲訳してみましたが、はっきりと意味の伝わる言葉にはなっていない気がしました。しかし音楽にはどこかリアリティが存在しています。

 彼らの最も有名な曲に「Blue Monday」という曲があります。これは彼らの最大のヒットシングルでJoy Divisionのヴォーカリスト、イアン・カーティスが自殺した日曜日の翌日の心境を歌っているそうです。冒頭の「君が僕にしたような仕打ちをするのはどんな気分だい?」から始まる歌詞は初めて聞くと、ラブソングのようにも聞こえます。しかし、中盤ころから「もし僕が君の不幸がなければ、今日は僕にとって、とても幸福な日だった。そして、僕は自分がわからないと思った。そして、僕はあなたの声を聞いたと思った。僕がどんな気分か教えてくれないか、僕がどう感じなければならないか、今教えてくれないか」と続きます。イアンが自殺した翌日は、バンドメンバーでアメリカツアーに行く予定でした。その時の複雑な心境がここに表れているような気がします。

 また、このCDシングルのデザインは、Joy Divisionの全アルバムに引き続きピーター・サヴィルというデザイナーが行っています。彼はフロッピーディスクをイメージしたこのシングルのデザインを、黒い部分を4色の混合インクで印刷し、パッケージに切り抜きの加工を施しました。そんなデザイン性を重視しすぎた、トニー・ウィルソン(Factory Recordsのオーナー)の決断によって、一枚売れるごとに赤字が増えてゆくというこの作品は、イギリスのダンスミュージックで最も重要なシングルになる事になります。

 そして、アメリカでは何故か、クインシー・ジョーンズ(マイケル・ジャクソンらのプロデューサー)のレコード会社、Qwest Recordsから発売されています。ちなみに「Blue Monday 1988」という、クインシー・ジョーンズによるミックスも存在します。また、初期のNew Orderの収入の殆どは、本人たちの懐にあまり入らずに、Factory Recordsが所有していたハシエンダ(1982-1997)というクラブの運営に使用されていたという逸話もあります。

 このバンドを聞いている時に持つイメージは、死が起点にあるセンスです。死を思う事で、生を実感する事は芸術のもつ意味のひとつでもあります。僕にとって大切な人の死として、祖父母や担任の美術の先生の死を経験しましたが、普段から毎日会っている人を亡くす気持ちはまだよくわかりません。

 僕は、死を思うとき、ある時、年配の現代美術の画家に言われた言葉を思いだします。

 「生きていて、起こる全てのできごとが僕のモチベーションになっているのだ」。

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Artist: New Order
Title: Substance 1987
Release Date: 31 August 1987
Label: Factory Records

文・画:伊藤知宏
1980生まれ。阿佐ヶ谷育ちの新進現代美術家。東京、アメリカ(ヴァーモント・スタジオ・センターのアジアン・アニュアル・フェローシップの1位を受賞)、フランス、ポルトガル(Guimaranes 2012, 欧州文化首都招待[2012]、O da Casa!招待[2013]、CAAA招待[2014])、セルビア(NPO日本・ユーゴアートプロジェクト招待[2012、2014])、中国を中心にギャラリー、美術館、路地やカフェギャラリーなどでも作品展を行う。12月6日にPanphagia 2014にディレクター、出品作家として参加。来年1月に山梨県のi Gallery DCで個展予定。東京在住。”人と犬の目が一つになったときに作品が出来ると思う。”

HP: http://chihiroito.tumblr.com