ARTICLESMay/23/2015

On Beat! (12) by Chihiro Ito – The Specials “The Specials”

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 ”無骨”なバンド。今回取り上げたThe Specialsのファーストアルバムの第一印象はこう感じました。

 僕が初めてこのバンドの音源を聴いたのは中学生の頃でした。友人の家にあったCDを「このバンド、重要らしいよ」と言われ、借りたのが、今回紹介しているアルバムでした。当時、僕は美術館やライブハウスによく足を運んでいました。ライブハウスで演奏するミュージシャンの中には、パンクやスカ(SKA)とハードコアを混ぜた様な音楽のバンドが多くありました。中にはThe Specialsのカヴァーをしていたバンドもいくつかありました。

 1970年代の終わり頃、イギリスは、すでにその繁栄の時を過ぎて、1976年には失業者は300万人を突破します。1977年には政府のインフレ抑制のため、労働者のほとんどの生活水準は実質マイナスとなったのでした。このような事態が悪化するにつれて、一部の人々は海外から移住してきた有色人種の国外退去を求めるといった差別的な世相を招いてしまいます。それは、まるでドイツがファシズムへと移行していったかつての状況と似ていたそうです。

 国内にこうした閉塞感が漂う中、1975年頃、Sex Pistolsの登場により、パンクの一大ブームが訪れ、一部の若者達は、溜まった世相の苛立ちを代弁するかのようなパンクと言う音楽に熱狂します。しかし、この時23歳だったリーダーのJerryはすでにパンクの中心となっていた世代よりも上の世代になってしまっていました。

 The SpecialsのリーダーはキーボードのJerry Dammers。印象的なヴォーカルはTerry Hallです。彼らの音楽は、1960年代末にイギリスでも人気のあったジャマイカのスカにパンクをミックスしたサウンドで、2 Tone Skaの草分け的な存在でもありました。ちなみに2 ToneとはJerryの考えた造語で意味は、白と黒の2色を表しています。10代前半から音楽活動を始めていたJerryは、パンクとスカを融合させたバンドをしようと考え、模索します。そして彼は、音楽以外にも彼らのバンドのイメージにとって、重要なものをいくつか産み出しました。一つは、後に彼らが設立するロンドン・スカの代名詞、2 Tone Recordsというレコード会社です。また、ウォルト・ジャバスコという若者の白黒のイメージ・キャラクターもその一つです。ジャマイカ出身のルード・ボーイとロンドンのスキンヘッズを融合させたキャラクターで、レゲエミュージシャンのPeter Toshをモデルにしたそうです。そして、ツートーン・ファッションをも生み出しました。

 The Specialは、それに伴う前身バンドも含め、1977-1982年、1994-1999年と2008年から現在までの間、メンバーを変化させながら活動を行っています。彼らはイギリスのほぼ真ん中にあるコヴェントリー出身の白人と黒人の混成したバンドです。前身はThe Coventry Automaticsというバンドでした。その後、The Special AKA、The Specialsと名前を変えながら活動します。The Specialsが始まったのは1978年にあった初期のRAR(Rock Against Racist=ロックミュージックは差別主義者と闘う)と言う運動が始まるのとほぼ同じ時期でした。The Specialsの黒人と白人の混合しているバンド形態や彼らの造ったレコード会社の名前は、差別主義者への批判が込められているそうです。Sex Pistols解散後、パンクに代わる新しい音楽、スカはパンクと同じ様にムーブメントとなり、The Specialsは人気絶頂を迎えます。

 彼らはデビューシングル「Gangster」(1979)でデビューします。その後、数枚のシングルを出した後、Elvis Costelloとバンド自身のプロデュースのファーストアルバム、『The Specials』(1979)を完成させます。Dandy Livingstoneのカヴァー曲、”A Massage to you Rudy”から始まるこアルバムは最もThe Specialsを象徴していると言われています。1980年になると彼らはアメリカツアーに行きます。徐々に人気を獲得していった彼らですが、長いツアーの疲れから、バンド内で衝突するようになってしまいます。また、彼らはとあるパーティーで、彼らのレコードを販売していた会社の重役と喧嘩をしてしまいました。その後、彼らのレコードをレコード会社はプッシュしなくなりました。そして、彼らは彼ら自身でレコード会社を運営していたため、常に金銭的に裕福になる事はできず、貧乏な状態が続きました。

 少しまた少しと、バンドが傾き始めていました。さらには、彼らのライブでは、一部の若いお客さんによる乱闘騒ぎが続きました。それがもとで、ある地域では、ライブやイベントに参加するのを拒否されたりするようになります。また、当時日本で行ったライブでもマネージャーがトラブルにより逮捕されたそうです。そんな中、彼らはセカンドアルバムの「More Specials」(1980)を発表します。この頃にはバンドの不仲が悪化し、2 Tone Recordsの責任者でもあったJerryは活動出来なくなってしまいます。翌年に予定されていたツアーもキャンセル。彼らはほぼ解散に近い状態に陥ってしまいます。

 1981年春、ブリクストンで黒人青年がからんだ刺傷事件が起き、その後にケガをしたその青年を放置したままにした警察に対して抗議する群衆と警官隊数百人が衝突。パトカーが60台近く破壊される大暴動に発展します。そして、7月にサウスオールやリヴァプールで起きた事件が素でイギリス中に拡大する大きな暴動へと発展して行きます。それは、やり場のない心を抱えた若者たちや、人種差別によって怒りをためこんだ移民達とが自分たちを見捨てた当時のサッチャー政権に対して「僕たちは政府を認めない!」という意志を表す闘いでもありました。

 そんな暴動の最中、バンド最後のシングルとなる、”Ghost Town”が3週間、全英No. 1になります。6月に発売されたこの曲はまるで翌月の暴動を予言してる様でした。”この町はゴーストタウンの様になってゆく”。だいたい同じ歌詞の繰り返しですが、日本語にしてみると、現代の僕たちにも思い当たるところのある歌詞です。

 この曲の発表を最後に、バンドは解散。その後はヴォーカルのTerryを中心とするFun Boy Threeと、リーダーのJerryが率いるThe Special AKAに別れました。1990年、Specials AKAは同じレコード会社のThe Beatと合体し、Special Beatとして活動。そして1993年、The Specialsはオリジナルメンバーで再結成し、ツアーを行います。その後、JerryとTerry以外の数名のオリジナルメンバーで『Today’s Special』、『Skinhead Girl』といったカヴァーアルバムや、『Guilty ‘til Proved Innocent!』というアルバム、数枚のライブアルバムやベストアルバムを発表しましたがその後、解散。2008年、Terryがバンドに参加し、再度再結成し、現在も活動中です。リーダーのJerryは現在では自身のバンド、Spatial AKA Orchestraで活動中です。また、これまでに彼らの曲は、そうそうたるミュージシャン達(今は亡きAmy WinehuoseやProdigy、Tricky、Baby Shamblesなど)がカヴァーしているところからも唯一無二の存在感じる事ができます。

 僕が約20年前にこのバンドを初めて聞いた時には、音楽のみ聞いていました。今回のような海外の政治的な時代背景など、今回文章と絵をかくにあたって調べて初めて解ったことも多々ありました。調べると、このバンドの社会的なメッセージがより強く浮き立ってきました。

 画家も音楽家のような、攻撃的で即興的で、暴力的なことも表現したくなる時もある−−そう思っていただきまして、今、僕たちの住んでいる世界が、ゴーストタウンの様にならないと良いなと思い、この文章で12回続きました”On Beat!”を終わります。

追伸:UNCANNYで連載させていただきました、”On Beat!”ですが、今回で一周年。突然ですが、今回で一旦お休みします。一年の間、読んでいただいた方々、UNCANNYさん、関わった方々、ありがとうございました。またお目にかかる日まで! また、7/227/23-8/3まで”On Beat!(4)”でも少しふれました、東北沢の老舗のギャラリーカフェ、現代Heights Gallery DENで”On Beat!”にちなんだ個展を開催予定です。これを記念して”On Beat!”のZINEの発売を予定しています。皆様、是非ご来場お待ちしています!

文・画:伊藤知宏
1980生まれ。阿佐ヶ谷育ちの新進現代美術家。東京、アメリカ(ヴァーモント・スタジオ・センターのアジアン・アニュアル・フェローシップの1位を受賞)、フランス、ポルトガル(Guimaranes 2012, 欧州文化首都招待[2012]、O da Casa!招待[2013]、CAAA招待[2014])、セルビア(NPO日本・ユーゴアートプロジェクト招待[2012、2014])、中国を中心にギャラリー、美術館、路地やカフェギャラリー、畑などでも作品展を行う。Panphagiaディレクター。6-8月まで、スイスのRED ZONE GALLERYで作品展予定。また、7/22-8/3まで東北沢の現代Heights Gallery DENで”On Beat!”にちなんだ個展を開催予定。東京在住。”人と犬の目が一つになったときに作品が出来ると思う。”
HP: http://chihiroito.tumblr.com/

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Artist: The Specials
Title: The Specials
Release Date: 19 October 1979
Label: 2 Tone Records