ARTICLESSeptember/17/2014

On Beat! (4)by Chihiro Ito – Brian Eno “Before and After Science”

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 今回はノン・ミュージシャンと自分自身で言っているミュージシャンについて書こうと思います。

 ある夜、僕は現代ハイツ(東北沢の行きつけのギャラリー・カフェ)でコーヒーを飲んでいました。ビートの強い曲で70’sのニューウェーブの様だけど、少し違う曲が店内に掛かり始めました。何て曲だろうと思ってお店の人に聞きました。するとお店の人は黙って、棚の上の置かれたレコードジャケットを指差しました。モノクロのレコードのジャケットをよく見ると、”Brian Eno – Before and After Science”と書かれていました(ちなみにその時に掛かっていた曲はシングルにもなった”King’s Lead Hat”という曲でした)。

「ブライアン・イーノ、こんな音だったっけ?」

僕は自分の記憶とかなり違う彼の音楽に驚きながら聞き入ってしまいました。それらは全ての曲が耳慣れない異色な音作りで、一つのアルバムと思えない程バラエティーに富んでいました。

 なぜ、僕がその時ブライアン・イーノを聞いてビックリしてしまったかというと、僕が彼の音楽を初めて聞いた美大生の頃にさかのぼります。

ある日、美大に通い始めた僕は友人のアパートに遊びに行きました。友人のコレクションはヴェルヴェット・アンダーグラウンドや、チック・コリアなどの当時の僕があまり聞いた事の無いような洒落た盤が多く、好きなCDを貸してあげると言われ、地図を拡大した様な絵柄のCDを数枚見つけました。

それはブライアン・イーノの『Ambient 1:Music for Airports』というCDでシンセサイザーや人の声等で造られた一風変わった音楽でした。当時聞いたときは、なんだかよくわからない音だなと思いました。

 僕はさらに数ヶ月後、お茶ノ水のJanisというレンタル・レコード屋さんで4作品出ているAmbientシリーズのCDを全て視聴してみました。

これらの作品群はイメージとしての音ではないだろうか? それも、僕の知らない何か特殊な流れの延長として造られたのではないか? 表紙の地図は地図のイメージとして必要であるけれど、場所の特定としては無意味ではないだろうか? それよりも地図のグラフィック的な面白さをビジュアルイメージとして取り込みたかったのではないだろうか? などと思ったのでした。

 後に調べて解ったのですが、それはアンビエント・ミュージック(環境音楽)と言われるものの一種でした。

フランスの作曲家、エリック・サティ(1866-1925)の”家具の音楽”(意識的に聴かれることのない音楽)という実験のコンセプトから影響を受け、イーノは、聞くこともできるし、おそらく無視することもできるような、「まるで夕食時のナイフやフォークの音と混じる事のできる音楽」の制作に入ったのが『Descreet Music』(’75)というアルバムからだそうです。また、『Ambient 1:Music for Airports』(’78)は実際にニューヨークのラガーディア空港で使用された音楽であるそうです。

 そんなこともあり、現代ハイツで聞いたレコードはより衝撃的に感じました。また、年上の友人にそのことを話してみたところ、ロキシー・ミュージックというバンドがあり、彼はそこに在籍していたので、はじめはグラムロックのバンドマン(シンセサイザー奏者)であったこと。トーキングヘッズの3枚のアルバムのプロデュースを行ったことなども聞き、さらに驚きました。最近では、アンダーワールドのヴォーカリスト、カール・ハイドとコラボレーションアルバムを出していたのは知っていたのですが、かなりの幅広さにつかみずらいがとても自由な印象を受けました。

 また、彼はObscure(=曖昧な) Recordsという名前のレーベルを1975-78年まで行っていました。その最初の曲は、かのタイタニック号が沈没している最中に、楽隊が演奏し続けたという報道からインスピレーションを得た楽曲から始まります。

彼の音楽の歴史はとても解りにくいので、知りたいときは順を追って聞いてゆく事を強く薦めたいです。

 現実は人に説明できる程、解りやすい事ばかりではない。ただ、それが実際に音楽という仕事に反映した人がブライアン・イーノではないでしょうか。自分自身に当てはめてみると素直になれずに、自分で勝手に不自由にしてしまっている事が時々あるなと反省しています。

そこで、先日とある場所で会った人生の先輩から言われた言葉を思い出しました。

「人は年を取るごとに偉くなったりして、イメージがつきまとってしまう。そのイメージに従って動いてしまうと、自分自身でこけるので気をつけてください」

 曖昧に年を取る事は重要だと思いました。


文・画:伊藤知宏
1980生まれ。阿佐ヶ谷育ちの新進現代美術家。東京、アメリカ(ヴァーモント・スタジオ・センターのアジアン・アニュアル・フェローシップの1位を受賞)、フランス、ポルトガル(Guimaranes 2012, 欧州文化首都招待[2012]、O da Casa!招待[2013])、セルビア(NPO日本・ユーゴアートプロジェクト招待)、中国を中心にギャラリー、美術館、路地やカフェギャラリーなどでも作品展を行う。9月20日〜10月13日までZUSHI ART SITE 2014に招待され出品。10月5日にギマランイス(ポルトガル)のNoc Noc 4で招待され作品展。10月10日からセルビア/ベオグラードのO3one GalleryでNPO日本・ユーゴアートプロジェクトの招待で作品展に参加予定。東京在住。”人と犬の目が一つになったときに作品が出来ると思う。”

HP: http://chihiroito.tumblr.com/

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Artist: Brian Eno
Title: Before and After Science
Release Date: December 1977
Label: Polydor Records