ARTICLESDecember/31/2024

The Best Albums of 2024

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Astrid Sonne『Great Doubt』

『Great Doubt』は、ロンドンを拠点とするデンマーク出身の音楽家、Astrid Sonneの3作目のアルバム。アルバムのサウンドスケープは、彼女の奏でるヴィオラを中心に構築されており、その音楽的なアイデンティティが色濃く表れている。『Great Doubt』は、そのタイトル通り、音楽的、感情的な「問い」を探求している。本作で描かれる音楽はその曖昧さと非明確さの中で存在し、リスナーに自己の感情や思考を映し出す鏡のような役割を果たす。アルバム全体に漂う疑念と探求の姿勢は、単なる音楽的表現に留まらず、聴く者に深い内省を促す力を持っている。Astrid Sonneは、音楽を通して「問い」を抱え、解答を求めるという営みを、現代的かつ普遍的な形で提示しているのである。

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aus『Fluctor』[Interview]

2023年、Seb Wildbloodの〈All My Thoughts〉からシングル「Until Then」や、15年ぶりとなるアルバム『Everis』を発表し、活動を再開させたaus。『Fluctor』は、映像作品のために作成されていたデモをもとに、aus自身のピアノと高原久実によるヴァイオリンを中心とした室内楽へと再構築された作品だ。ポスト・クラシカルの精緻な美しさとエレクトロニクスの微細なテクスチャーが融合したサウンドは、まるで一枚の絵画のように、音で描かれた風景や感情の移ろいを感じさせ、聴く者の内面に静謐で深い感覚を残す。本作には、ゲストアーティストとしてEspersのメンバーであるMeg Bairdや、親交の深いJulianna Barwickがボーカルとして参加し、アルバムに繊細な歌声を加えている。また、Henning Schmiedt、Danny Norbury、Glim、横手ありさ、元CicadaのEunice Chungといったアーティストが参加し、作品の広がりをさらに深めている。それぞれの音が織りなす諧調は、ポスト・クラシカルのジャンルにとどまらず、エレクトロニクスの洗練されたテクスチャーとも相まって、全体として一つの壮大でありながらも親密な音響空間を作り上げている。

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Charli XCX『BRAT』

Charli XCXは、常にポップの枠を越えた実験的なアプローチを取ることで知られ、そのスタイルは本作でも色濃く表れている。エレクトロポップやインダストリアル、さらにはハードコアなビートが交錯する中で、彼女は「BRAT」というタイトルに込めた通り、自己主張と反抗的な精神を全面に押し出している。本作において特徴的なのは、その不安定さだ。Charli XCXはポップスターとしての地位を確立したにもかかわらず、依然として自己不安や葛藤を抱え、それを歌詞として具現化している。『BRAT』は、彼女の音楽における「人間らしさ」を強調した作品でもあり、自己疑念とそれを乗り越える力強いアンセムが交錯することで、リスナーにとっては一層の共感を呼び起こす。彼女の音楽には、しばしば他のアーティストとのコラボレーションが見られ、それがまた新たな音の可能性を広げている。だが、Charli XCXの魅力はその多くの共演者との調和の中でも、常に自己の音楽的アイデンティティを強く保っている点にある。音楽的実験と感情の起伏が交錯する中で、彼女はポップというジャンルを、さらに自由で人間的なものへと進化させている。

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Charlotte Day Wilson『Cyan Blue』

カナダ出身のシンガーソングライター、Charlotte Day Wilsonのアルバム『Cyan Blue』は、彼女の音楽に新たな深みと自由をもたらした作品である。本作の魅力は、何よりもその感情の豊かさと、Charlotte Day Wilsonの声が持つ独特の表現力にある。彼女の歌声は、しばしば淡々としたトーンでありながらも、細部にわたって豊かなニュアンスを帯びており、その抑制的な表現が、歌詞の内面的な葛藤や複雑な感情を一層引き立てる。『Cyan Blue』は、Charlotte Day Wilsonがその音楽的表現を一歩進め、より自由で多層的なアーティストへと成長した証である。彼女の独特な歌声と感性は、今作においても聴き手に深く響き、その音楽は時間と空間を超えて心に残り続ける。

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Clairo『Charm』

2019年のデビューアルバム『Immunity』から約5年を経て登場した本作は、Clairoのアイデンティティとサウンドの深化を感じさせ、同時に彼女が音楽的な境界を押し広げる過程を映し出している。『Charm』では、Clairoが感じてきた不安や自己の葛藤が、音楽の中で自然に表現されている。特に、彼女が抱える感情的な距離感や、対人関係における微妙なズレといったテーマが歌詞に色濃く反映されており、それが彼女の音楽に新たな深みを加えている。アルバムの中で扱われるテーマは非常にパーソナルでありながらも、普遍的なものであり、多くのリスナーが自分自身の体験に重ね合わせて共感を覚えることだろう。彼女の音楽は、単なる流行にとどまらず、個人的な葛藤や喜び、愛を深く掘り下げることで、聴く者に強い感情的なインパクトを与える。ポップミュージックの枠を超えて、Clairoは自らの音楽的可能性を広げ、その魅力をさらに深化させている。

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Erika de Casier『Still』

2019年のデビューアルバム『Essentials』でカルト的な支持を集め、2021年に〈4AD〉からリリースされた『Sensational』でその名を世界に広めたErika de Casieは、この新作でも一貫して彼女らしいエレクトロニックとR&Bの洗練された融合を追求している。本作におけるErika de Casieの音楽的進化は、彼女が他のアーティストへの楽曲提供やプロデュースにも積極的に関わっている点にも表れている。特に、韓国のグループNewJeansへの楽曲提供は、その才能が国際的に広がっていることを示しており、彼女の音楽が国境を越えて愛されている証でもある。彼女が取り組んできた仕事、特にBlood OrangeやMura Masa、Shygirlとのコラボレーションなど、多くの著名なアーティストたちとの共演が『Still』に新たな風を吹き込んでいるのは事実だが、このアルバムにおいて彼女が最も伝えたかったことは、彼女自身の音楽的な核に忠実であるということだ。『Still』は、音楽と共に成長し続けるアーティストとしての彼女の力強いメッセージであり、同時にその魅力を再確認させてくれる作品である。

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長谷川白紙『魔法学校』

アルバムのタイトルである「魔法学校」は、文字通り魔法のように現実の枠を超える音楽的実験の場として、このアルバムを位置づけている。『魔法学校』は、ポップと混沌が見事に融合した作品であり、ジャングルやブレイクコアといった既存のスタイルを超えて、タンザニアの音楽、シンゲリからインスパイアされたという圧倒的な音の嵐が、アルバム全体に新たなテクスチャーを加えている。〈Brainfeeder〉からリリースされた本作は、長谷川白紙が日本の音楽シーンにとどまらず、世界の音楽文化に新しい地平を開こうとしていることを示す重要な作品である。従来の枠組みにとらわれることなく、自らの音楽を極限まで広げていくその姿勢は、聴く者に深い印象を与え、長谷川白紙がアーティストとしてさらに注目を集める存在になることを予感させる。

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Kali Malone『All Life Long』

『All Life Long』は、Kali Maloneがこれまでに築き上げてきた独特の音楽性をさらに深めるものであり、彼女の作曲技法における「時間」の重要性が際立つ作品である。2020年から2023年にかけて作曲された本作は、パイプオルガン、合唱団、金管五重奏を中心に構成され、それぞれの演奏は、オランダ、スウェーデンなどの歴史的なオルガンが設置された場所で行われており、演奏自体が音楽の根源的な力を象徴している。長時間の反復と変奏が織り交ぜられた音の構築は、聴覚の深層に働きかけ、心の中で新たな響きを生み出す。Kali Maloneは、音楽的な時間の使い方において、一般的な期待を超えた深さと幅を持ち、聴き手に自己反省や瞑想の空間を提供する。アルバムの冒頭に位置する「Passage Through The Spheres」は、ジョルジョ・アガンベンの『In Praise of Profanation』から引用されたイタリア語の歌詞が特徴的だ。この楽曲では、「神聖なるものから世俗へ」といったテーマが表現されており、Malone自身が教会のオルガンを演奏することを通じて、聖なる空間と世俗的な空間の境界を越え、音楽の力でその「神聖なるもの」を現代の文脈で再生させる試みが行われている。『All Life Long』は、音楽的に極めて深い意義を持つ作品であり、Kali Maloneが持つ特異な音楽観が如実に反映されたアルバムである。物理的な音の構造を越えて、彼女の音楽は精神的、哲学的な領域にまで踏み込んでおり、聴き手に自らの存在を問い直すような瞬間を提供している。

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Kelly Moran『Moves in the Field』

ニューヨークを拠点に活動する作曲家・ピアニスト、Kelly Moranの『Moves in the Field』は、彼女の作品の中でも特に内省的で、聴き手を感情の奥深くへと誘うアルバムである。本作では、ヤマハの自動演奏ピアノ「ディスクラビア」が実験的に使用されているが、これにより人間と機械の境界線を曖昧にする多層的な楽曲が生み出され、繊細な音のタペストリーを織りなす一方で、その背後に潜む力強い感情の波動を感じさせる。前作『Ultraviolet』で見せた実験的なアプローチをさらに発展させ、音の素材や構造を深く掘り下げることで、Moranは本作で一歩進んだ表現の境地に到達した。アルバムを通して、彼女はピアノのコードとメロディーを、まるで呼吸をするかのように息づかせる。その浮遊感は、音楽が時間の流れを捉えきれないほど自由であることを象徴しており、リスナーを一瞬一瞬の美しさへと導く。『Moves in the Field』は、彼女の音楽的な深層に迫る作品であり、現代音楽の新たな可能性を切り拓くアルバムだ。彼女の音楽は、実験的でありながらもリスナーに寄り添い、その静かな振動が心に深く残り続ける。

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Kiko Hayashi『lost』

Kiko Hayashiのデビューアルバム『lost』は、まるで非現実的な夢の世界に迷い込んだかのような感覚を与える作品だ。彼女の音楽は、インディーロックやドリームポップ、シューゲイザーといったジャンルを巧みに交差させ、聴く者を独特の音の宇宙へと誘う。このアルバムが持つ一番の魅力は、その“正体不明”な部分にあるのかもしれない。Kiko Hayashiはその素性が謎に包まれた存在であり、彼女の音楽がどこから来て、どこへ向かうのかははっきりしない。しかし、その正体不明さこそが『lost』の魅力を高めており、リスナーに対して、ただの音楽以上の深い探求心を掻き立てる。特に、AIによる生成音楽の可能性を感じさせる不思議な感触が、この作品に不確定な魅力を与えている。人間らしい感情と、どこか人工的な夢想が入り混じり、その両者が調和しながら音楽を作り出しているようにも思える。『lost』は、聴き手の心の中に静かながらも強い余韻を残しながら、その非現実的な音の世界は、まさに音楽という手段を通じて、自分自身の「失われた」部分を見つけ出すような感覚を呼び起こす。このアルバムの本質は、ただの音楽的な表現にとどまらず、夢と現実を行き来するような音楽的な儚さと、自己探求の過程そのものが作品に浸透しているところにあるのではないだろうか。

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Li Yilei『NONAGE』

『NONAGE』は、ロンドンを拠点に活動する中国出身のサウンドアーティスト/作曲家、Li Yileiによる、2021年の『OF』に続くアルバム。本作は、幼少期を回顧する内省的な作品であり、「垂髫(すいちょう)」という中国語のタイトルが示す通り、子供時代の自由で無垢な世界をテーマにしている。『NONAGE』は、彼女が自身の成長の過程において経験した不安、未熟な潜在能力、そして希望と閉塞感を音楽で表現しようとする試みだ。アルバムの制作にあたりLiが使用した、おもちゃのピアノや手回しオルゴール、鳥の笛、壊れたアコーディオンなど、こうした楽器が醸し出す不安定な音が、この作品に特有の懐かしさと切なさを与えている。またこれらは、Liが幼少期に触れた記憶や感覚を呼び起こし、その断片が音の世界で再構築されている。『NONAGE』は、単なる音楽アルバムを超えて、聴く者にとって一つの心の旅のような存在だ。成長というテーマを掘り下げ、過去の記憶と向き合わせながら、それが現在の自分にどのように影響しているのかを探る。Li Yileiは、音楽を通して、あらゆる未熟な部分を抱えた「非成熟」の美しさを表現し、聴く者にその感情を深く体験させる。

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Loidis『One Day』

Huerco S.名義のリリースで広く知られるBrian Leedsが、このLoidis名義で発表した『One Day』は、しばしば現実と非現実の境界を曖昧にし、静謐でありながらも不安定な浮遊感を生み出している。『One Day』の音楽は、どこか夢の中で漂っているような感覚を呼び起こす。何も急かされることなく、時間の流れが緩やかに、そして不規則に交差する。トラックの一つ一つが、微細な音の層を重ねることで浮かび上がり、そこに存在するのは、どこかよそよそしいが、それでいて一瞬の深い感動を呼び覚ますような感覚である。音はどこかしら不完全でありながら、完璧に整合していくような力を持っている。Loidisのサウンドには、テクノや電子音楽の要素を取り入れつつも、ダンスフロアに向けた力強さや、アンビエントとしての内省的な質感が同居している。これによって、アルバムはリスナーに自由に浮遊させる空間を提供し、またその過程でさまざまな情感を喚起させる。『One Day』は、音楽的に深く掘り下げ、音の密度と空間的な広がりを探求する作品だと言える。Loidisの音楽が持つ時間感覚のゆるやかさ、そしてその中で交錯するさまざまな音の層を楽しむことで、聴く者は日常から離れ、音の流れに身を任せることができるのだ。

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LLLL『Dissonance』[Interview]

東京を拠点とする音楽家、Kazuto Okawaによるソロプロジェクト、LLLL:フォーエルが新たに放つ『Dissonance』は、彼自身の音楽に対する哲学的なアプローチが反映され、自己実現と音楽の関係における矛盾や葛藤をテーマにした作品だ。「Dissonance(不協和音)」は、Okawaが音楽を通じて探求し続けてきた自己の再構築と成長の過程そのものであり、音楽と技術の融合によって生まれた新しい形の表現を提示している。そこでは、音楽とテクノロジーを駆使して、自己を発見し、解放する過程が音に込められている。その音楽的手法は、音楽の枠を超え、自己の身体性、性別、さらにはアイデンティティを問い直すものだ。彼が表現する音の不協和音は、決して耳障りなものではなく、逆にそれを超えた調和を生み出す新たな可能性を感じさせる。Okawaにとって、このアルバムは音楽の枠を越えて、自己の探求と解放を音楽という手段で達成するための重要なステップであり、その自由な表現は、リスナーにとっても新しい自己発見の旅路を示唆するものだ。『Dissonance』は、音楽と技術、そして人間の深層に触れる作品として、聴く者に自己と向き合わせ、無限の可能性を感じさせるアルバムである。

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Magdalena Bay『Imaginal Disk』

LAを拠点とするMica TenenbaumとMatthew Lewinによるデュオ、Magdalena Bayの『Imaginal Disk』は、エレクトロニック・ポップの枠を超え、聴き手に深い印象を残す作品だ。彼らの音楽は、ポップと実験音楽の境界線を絶妙に跨ぎ、親しみやすさと知的な刺激を両立させている。『Imaginal Disk』では、アルバム全体にわたり、エモーショナルで抽象的なテーマが表現されている。タイトルが示す通り、この作品は「想像的なディスク」として、聴く者を仮想的で夢幻的な空間に誘う。歌詞はしばしば抽象的で、ストレートな物語を描くのではなく、感覚的に心に響くイメージを喚起する。Magdalena Bayが本作で試みたのは、リスナーに対して「聴く」という行為を超えた体験を提供することだ。音楽はただのエンターテイメントではなく、感覚的な思索へと導く手段となる。『Imaginal Disk』は、サウンドの実験性と感情の深さを併せ持つ作品であり、その結果として、音楽が持つ本来の力を再確認させてくれるアルバムとなっている。

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marucoporoporo『Conceive the Sea』[Interview]

marucoporoporoのファーストアルバム『Conceive the Sea』は、2018年のデビューEP『In her dream』以来、数年にわたる沈黙を経て遂に完成した作品である。作詞作曲から録音、ミキシングに至るまですべてを自身で手掛けるmarucoporoporoは、2022年に画家・映像作家タキナオの展示に合わせて音楽を制作したことが、本作の創作に繋がったという。『Conceive the Sea』は、生命の循環と時間の流れをテーマにした内省的なオデッセイであり、海水や羊水といった、生命の源とされる存在との深い関連を描いている。このアルバムでは、自然界の生命のサイクルとそれに結びつく成長の概念が音楽に反映されており、marucoporoporoは自らの存在を問い直しながらその答えを音の中に求める。紡ぎ出されるサウンドは、やわらかく、ほの暗いアンビエントな装飾が施された音像を特徴としており、まるで水面の揺らぎのように繊細で流れるような印象を与える。自己の感情や心の中の海のように広がる思索が描き出された本作は、音楽と感覚が溶け合い、聴く者を深い静寂と瞑想の空間へと誘う、まるで遠い夢の中で浮遊するようなアルバムである。

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Mk.gee『Two Star & The Dream Police』

『Two Star & The Dream Police』は、Michael Gordonによるソロプロジェクト、Mk.geeによる初のフルアルバムであり、音楽における革命的な試みが色濃く表れた作品である。アルバムを通じて、Gordonは常に従来の枠組みから逸脱し、音楽の解放を追求している。例えば、「Are You Looking Up?」では、通常ならヒットソングとなり得るシンプルでキャッチーなメロディーが、ギターの不協和音の中に押し込まれ、ドラムは薄っぺらく、ベースは切り刻まれるように鳴り響く。これらの音響の歪みや不安定さは、Gordonの歌声とともに、既存のポップソングが持つ「聴きやすさ」を挑戦的に再定義している。しかし、これらの実験的な音作りにもかかわらず、Gordonはメロディーの達人であり、荒削りで混沌とした楽曲の中から美しいポップソングを彫り上げる。本作では、曲ごとの曲線的な情熱や緊張感が一貫して漂っており、Gordonの音楽的冒険心と自己表現への強い欲求が結実している。

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Nala Sinephro『Endlessness』

Nala Sinephroの『Endlessness』は、前作『Space 1.8』から3年ぶりに登場した、彼女の音楽的な深みと進化を如実に示すアルバムである。カリブ系ベルギー人の作曲家であり、ミュージシャンとして卓越した才覚を放つNala Sinephroは、今回のアルバムで「輪廻」、すなわち生命のサイクルと再生というテーマを探求し、その探求を音楽的な「祝祭」として昇華させた。本作は、ジャズ、オーケストラ、エレクトロニック・ミュージックといった異なるジャンルを超越的に融合させた作品であり、シンセサイザーのアルペジオが繰り返し響くことで、全編を通じて瞑想的かつ儀式的な雰囲気を作り出している。アルバムの構造は、45分にわたる精緻に編まれた10曲から成り立ち、その全体を通して深遠な音楽的体験が展開されている。

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tofubeats『NOBODY』

tofubeatsの『NOBODY』は、彼がこれまでのキャリアを通して培ってきたポップミュージックやクラブミュージックの感性を、さらなる深化と広がりを持って昇華させた作品だ。特に注目すべきは、Synthesizer Vという歌声合成ソフトの導入だろう。インタビューによれば、tofubeatsはそのフラットなボーカルが、熱く感情的な歌詞と見事に調和することに気づき、Synthesizer Vの使用を決めたという。この選択は、従来のポップミュージックの枠にとどまらない、感情豊かな楽曲を生み出す結果となった。『NOBODY』は、ダンスミュージック、ハウスミュージックとしての要素を前面に押し出しながらも、tofubeatsならではのメロディアスで繊細なアレンジが光る作品だ。特に「I CAN FEEL IT」や「NOBODY」、「EVERYONE CAN BE A DJ」といった楽曲では、ビートとシンセサイザーのグルーヴが絶妙に絡み合い、シンプルでありながら不思議と心に残る歌詞がリズムに溶け込む。これらの楽曲は、ダンスフロアで体感するカタルシスのように、聴く者の心に深く響きわたり、tofubeatsの音楽が持つ独自のエモーションを見事に表現している。

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Tristan Arp『a pool, a portal』[Interview]

Tristan Arpの『a pool, a portal』は、自然界とデジタルの世界の境界を曖昧にし、音楽を通じて新しい存在のあり方を模索する試みを描いた作品だ。本作は、前作『Sculpturegardening』から続くコンセプトを引き継ぎ、複数の次元が交錯する広大で抽象的な音楽空間を構築している。その結果、デジタルとアナログの融合によって、まるで夢の中を漂うような体験が生まれている。アルバムのアートワークには、中国・南京を拠点に活動する写真家、Zhang Anの作品が使用されており、その視覚的イメージは自然と人工の境界をさらに曖昧にする。氷の結晶を捉えた写真は、見た目とは裏腹に加工されていない現実世界のものだ。『a pool, a portal』は、環境や存在の本質を問い直す作品であり、単なる音楽の枠を超えて、聴く者に新たな思考の扉を開かせてくれる。

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Vegyn『The Road To Hell Is Paved With Good Intentions』

本作のタイトル「The Road To Hell Is Paved With Good Intentions」は、Vegyn自身の思考の中で抱いた「正しいことをすることで、かえって問題を増やしてしまう」といった矛盾に満ちたアイデアを表現したものだという。Vegynは、この言葉が示す意図と行動の間にある分裂をテーマに深い洞察をアルバムに込めている。このテーマは、アルバム全体に漂うユーモアやノスタルジーと相まって、彼らしいメランコリーと多幸感を生み出している。また、『The Road To Hell Is Paved With Good Intentions』は、これまでの作品とは一線を画す、自由奔放で不完全さを許容する音作りが特徴となっている。洗練されたサウンドや広大なアイデアに頼ることなく、Vegynはあえて不完全さに身を任せ、その結果として生み出されたものは、高揚感と不気味なメランコリアの間を漂う、精緻で緻密に構築された音楽である。過度な洗練を避け、作品にこもった生々しさが、聴き手に深い印象を与えている。

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by UNCANNY
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