- INTERVIEWSDecember/09/2024
[Interview] LLLL - “Dissonance”
2014年、〈ZOOM LENS〉からファーストアルバム『Paradice』をリリースして10年。今夏、同じく〈ZOOM LENS〉より、LLLL:フォーエルは4作目のオリジナルアルバム『Dissonance』を発表した。東京を拠点に活動する電子音楽家、LLLL:フォーエルは、これまでyeuleとの共演曲「Memories」(2017)や、Ryan Hemsworthのレーベル〈Secret Songs〉からリリースされた「Sincerely Yours」(2016)、そして〈Maltine Records〉からのEP『Cruel』(2015)など、国内外のさまざまなレーベルから多彩な作品を発表してきた。アルバムだけにとどまらず、近年は映像作品への音源提供をはじめとするクライアントワークにも注力し、その活動の幅を広げている。
新作『Dissonance』はその名の通り、自身に内在していた “不協和音”を紡ぎ出すアルバムであり、従来のスタイルを踏襲しつつも、より一層洗練された緊張感のあるサウンドが展開されている。今回はそのアルバムを軸に、東京・新宿のLLLL:フォーエル氏所有のスタジオにてインタビューを行った。
__今回のアルバムのタイトルである“Dissonance”は不協和音という意味ですが、なぜこの言葉をタイトルにしたのでしょうか? また、Xでは「ここ数年の悲哀の聴覚的表現」と投稿されていましたが、その悲哀を感じる体験とはどのようなことを意味しているのでしょうか?
僕は悲哀という表現に関しては不協和音というものが、「自分が思っている自分」と「自分という人間そのもの」の誤差みたいなものだと思うんです。自分はこういう人間であると思うっていうことと、自分はそうじゃないっていう、自己願望と自己実現みたいなことなんですが、ここ数年それが自分の中で大きく支配していました。自分のアイデンティティみたいなものに関して思うことが多くて、そうしたことを表現している曲になったし、実際レコーディングの中でもそれが出ているので、このタイトルをつけました。
__アルバム通して聴くと、テンポが速い打ち込みの音に、わりとゆったりした音も混在しているといった、二つの温度差みたいなものを感じましたが、何か意図的なことはあるのでしょうか?
正直テンポ感はあんまり意識していませんでしたね。自分の音楽がダンスミュージックだとは思っていないんです。自分の音楽はDJで使うものでも、クラブで流すものだとも思っていなくて、あくまでもポップミュージックだと思って作っているんですよね。結構そのテンポ感、例えばBPMって、5とか10とか違うだけでも全然別ジャンルになってしまうぐらい大切なものだと思うんですけど、僕は根本的に自分の音楽をダンスミュージックとして捉えてないので、正直なところあまりテンポは関係ありません。
ただそれぞれのBPMが1違うだけでも本当に全然違う世界になるんですよね。そうした意味で、テンポに関しては特有の感情を表現したいときに一番適していると思ったものを使っています。例えば、ハウスのアーティストとか、ヒップホップのアーティストみたいにジャンルが限定されている場合に比べて、結構自由に好き勝手にいつも変えていると思います。
__これまでの作品と今回の作品で、転換というか、何か少し雰囲気が変わっているような気がしました。それは今ご自身が話されたことが影響されているのでしょうか?
そうですね。あともう一つ今回の作品で一番大きいのは、自分の中で結構自分の思う“Dissonance”、つまり不協和音だな、と昔から思っていたところが自分のジェンダー的な立ち位置なんです。僕にとってすごく違和感としてあって、もし自分が今の若い世代だったら確実にXジェンダーと自認していたと思うんですね。自分の男らしい見た目とかからもそういうような願望をすごく初期に諦めているっていうか、自分に似合う服を着ようと意識して男性の姿形をして生きているんですけど。ただそれに関してすごい違和感があるので、僕はポップスを作っているときも自分の曲を作っているときも、ほとんど女性の歌しか作らないんですよ。
3枚目の『Impure』を作ったときに初めて自分でちょっと歌ってみて、それはそれで気に入っているんですけど、やっぱりすごい違和感がありました。今回の作品はその違和感と、何か違和感に対する不協和音と自分の解決法の一つになっているんです。というのも、今回アルバムに収録された歌は、僕が歌っているんですよね。新しいマニピュレーションの方法で、自分で歌って別の方の歌声を使えるっていう技術があるんです。そのテクノロジーの名称の明言は避けたいんですけど、ただそのテクノロジーを使っているので、自分の声をある種トランスセンデンスすることができたんです。トランスジェンダーだとは思ってないですけど、アーティスティックな意味では、SOPHIEやArcaとかにすごく何か近いものを感じているんですよね。そうした意味の表現になっているというのはあると思います。
__今回のアルバムの曲名が、他の作品と比べたときにいわゆる言葉遊び的なものが感じられたのですが、何か意図はあったのでしょうか?
自分で音楽を作っているときって、言語とかそういうのを消失した世界に結構いることがあって、僕は言葉尻を合わせるとか、それもなんか直感みたいな感じで作っているんですけど、正直、あまり何も考えたくないってところがあるんですよね。言語っていうものに落とし込める表現にしたくなかったんです。だけど声はやっぱりすごく必要な要素だったので曲の構成に入っていますが、ジェンダーといったことに関しては言葉でメッセージを伝えるということはあまり考えていませんでしたね。
__5曲目(「Everything Works Out in the end」)だけタイトルが文章になっていますが何か理由はありますか?
“Everything Works Out in the end” っていうサンプルを見つけてきて、とてもいいメッセージだなって思ったんです。“Everything Works Out”っていうのは「すべてうまくいく」ってことですよね。“In the end”ってのは「最後」。つまり、最後にはきっとうまくいく、すべてうまくいく、みたいな意味なんです。それが自分の中である種こういうテクノロジーを手にしてアーティストとしての自己実現がより可能になった時代だ、と思うこととか、音を聴いてもわかりますが、別にそんなにポジティブな曲でもないんですけど、ただこういう決して100%ではない現実かもしれないけど、最後には良くなる、というすごくポジティブなメッセージが、僕の中では大きく感じられたという感情と共感できることがあったので、それを曲名にしました。それと、サンプルの中でも大切な言葉だったのでちゃんと聴こえるように作りたかったっていうのはありますね。
__「See U」や最新シングルの「you’re scared of me」は、Emma Aibaraさんと制作されていましたが、一緒に制作する相手はどのように決めていますか?
これまでは、正直自分の音楽にフィーチャリングできるボーカリストを探しているっていう形だったんですね。ただ今は自分の声で表現したいっていうことがすごく明確に出てきているので、コラボレーションするボーカリストは正直探していないんです。 Emmaさんの場合は単純に、トラックメーカーとしてすごく尊敬していたんです。ブレイクを大切にしたいなと思っていて、彼女は素晴らしいブレイクを使うアーティストで、かつ感性がすごく今っぽい。荒々しさとかも含めて、プロダクションとかも凄く好きなんですよね。彼女の荒削りな感じと圧倒的なボーカリストとしての素質、そのどちらとも自分の中で一緒に表現するのに素晴らしい人だなと思ってコラボレーションしました。
今はすごく人間としてもアーティストとしても、作曲家としても幸せな時期で、それはテクノロジーの影響があって。テクノロジーが僕の人生を自由にしてくれたんです。だから僕はテクノロジーに対して信仰があるんですよね。
__抽象詩画家としての活動が音楽活動に影響している部分はありますか?
もうXやInstagramとかのプロフィールで『抽象詩画家』って書いているのを消さなきゃいけないなと思っているのですが、テクノロジーを使って大量に画像を作成した時期があって、抽象詩画家はそのときのプロントのことを指しているんです。僕が絵を描いているわけではなくて、大量のプロンプトを入れることによって絵を描けるじゃないですか。今回のアルバムのアートも全部そうなんですよ。僕の抽象的な詩から作っていて。
だから、抽象詩画家としての活動が音楽活動に影響しているいというよりは、むしろ逆ですね。今まで音は明確にこういうものにしたいっていう世界観があって、音楽家としてスキルがあれば大体その音が出せるんです。でも視覚的な世界観のイメージがあっても、そういう技術を持っていないのでできなかった。だけど抽象的に文字を入力することによって画像が作れるって驚くほど自分の脳内にあるものが出せるんだということに気がついたんです。
このアルバムは結構テクノロジーの影響が大きいんですよね。だから“Dissonance”というタイトルは、もしかしたら“Dissonance”から抜けたっていうことかもしれない。今はすごく人間としてもアーティストとしても、作曲家としても幸せな時期で、それはテクノロジーの影響があって。テクノロジーが僕の人生を自由にしてくれたんです。だから僕はテクノロジーに対して信仰があるんですよね。
__1曲目「Ku」のビジュアルライザーも同じ作り方でしょうか?
あの曲は僕が歌っていて、ビジュアライズに関しては、いわゆる古典的な方法で、自分の友人が自分のリクエストで作ってくれました。僕は特定の宗教に属してなければ、特定の信仰もないんですけど、その“Ku”は、般若心経のことを指しているんです。それがあの歌詞と、あの曲を作ったときに、全体的に考えたいたことで。人類もすごい転換期に入ってきていると思っていて、アイデンティティというものが自分で作れる時代になってきていると思うんですね。
だから改めて人は“Ku(空)”であるっていう、仏教の言葉で「諸法無我」って言葉があるんですけど、つまり自分という存在は、周りのすべての外部的な関係性において成り立ってくるような、ある種の幻想である、というような考え方なんですけど、それが今、テクノロジーを介して、戻ってきていると思うんですよ。今はその過渡期なんですけど、10年もしたら、僕自身もアーティストとしてアバター化していくと思うし、自分の肉体みたいなものは関係なくなると思うんですよね。それは声も、諸法無我というか、自分というものがその時代とともに、常に新しいものとして生まれる。その本格的な可能性を感じたのがここ数年なんですよね。
だから悲哀を表現したということではなく、悲哀を解決する表現を手にしたってことなのかもしれない。作っていて悲しいのではなくて、悲しいと思っていたことが音として、具体的に解決の方法として封入されてきているような、何か新しいステージにいるなって思っています。
__自分のアルバムを作るときと共同で楽曲を作るときの違いはありますか?
明確に違いがあると思っています。要は誰がディレクションしているかの違いでしかないんです。僕は作曲をする際に、自分の自我を一切入れないから、作曲家として正直、非常に優れた人材だと思うんですよ。つまり、僕は器であって、その中をどうしたいかはディレクターやプロデューサー、クライアントにお任せしているっていう状態で自我は一切ない。実際すごく楽しいし、ロボットみたいな感覚ですごく早く動けるし、ディレクションと戦ったりもしない。自分の作品に関しても、そのディレクターが自分だっていうだけで、そのオンオフが完璧にできるんですよね。変な自我を入れないときは入れない、入れるときはそれしか入れないみたいな。100か0でいきたいんですよね。だからある種なんか僕が何か変な人気を経て、J-Popアーティストにならなかったことは良かったことかなと思います。
僕はその自分が音楽家であるっていうことに対して強い使命感を感じているんですよね。宿命感みたいな。
__またXで「音楽作りが楽しくて、お金とか、聞いてくれる人がいなくても関係なくこの先も作っていっていく自信がある」という投稿をされていましたが、音楽作りの何か源泉になる要素のようなものはあるのでしょうか?
何かぼんやりとした、ある一種の何か霊性というか、そのスピリチュアリティかもしれないんですけど、僕はその自分が音楽家であるっていうことに対して強い使命感を感じているんですよね。宿命感みたいな。ギリシャ神話の悲劇の有名なもので「オイディプス」っていう物語があって、簡単に言うと、どれだけ自分の運命から逃げようとしても逃げられない青年の姿の話なんですけどね。結局、何を言っているかっていうと、運命からは逃げられないってことです。
僕は、音楽を作ることが自分の運命だと思っていて。だからそれは楽しいですよね。それで何か作曲家としてもアーティストとしても、よく脳内に出てくるビジョンとしては、海みたいな感じだと思っていて。例えば、音楽の海の中で、ビートルズとかバッハみたいにすごく大きな波を作る音楽家もいますが、本当に水滴一滴かもしれない音楽家もたくさんいると思います。どんなものでもいいんですけど、どちらにせよ本当に大きな海の中の水滴みたいなものだと思うんですよ。僕は音楽家として生まれてきた、音楽を作るのが自分の使命だと思ってやっている者として何か海みたいな音楽の歴史が、自分がその一部になっていることにすごい喜びを感じるんです。だからいつもそういう視点で作っています。少しでも音楽の歴史が素晴らしい方向にいけばいいな、と。その一部に自分がいることにすごく喜びを感じています。
__これから先に作っていきたい音楽や、挑戦してみたいこと、あるいはこの先の何か展望のようなものはありますか?
さっきの話と近いんですけど、昔だとウェンディ・カルロス(Wendy Carlos)の『スイッチト・オン・バッハ(Switched-On Bach)』っていうアルバムがあって、ウェンディ・カルロスは『時計じかけのオレンジ』のサントラを手がけたことでも有名なんですけど、ウェンディ・カルロスも元々男性でトランスして女性になるんですね。そして、ArcaがいてSOPHIEがいる。僕は、電子音楽家とトランセンデンスすることの共通性をよく考えているんですが、そもそもシンセサイザーって合成するって意味なんですね。何かを自らの手で合成していって、未来的なものを作っていくっていうところに僕はすごい希望を抱いているんです。
別にジェンダーじゃなくても何でもいいんです。何かその電子音楽を作るっていうことによって、自らのペルソナっていうか、魂の形を作ることができる。それがテクノロジーを介して、より可能になっている。ジェンダーのことだけじゃなくて、ドラムを叩けない人でも、素晴らしいドラム音源を作るテクノロジーもあります。だから誰しもがイマジネーションを使って、どんな人間にもなれるっていうことにはすごい希望を感じているんですよね。だから自分も、自分のことを特段こうだと定義せずに、自分が思う自由な形を、ある意味トランスしながら、意識を変化させながら作っていきたいなってすごく思っています。
(2024/12/2収録)
Dissonance
1. Ku
2. See U (ft. Emma Aibara)
3. Dunno What It Is
4. HD
5. Everything Works Out in the End
6. Five AM
7. Can’t Explain
8. Not So
質問作成・文:稲葉釈阿、坂下初音、山中望夕、平田澪(UNCANNY, 青山学院大学総合文化政策学部)
編集:東海林修(UNCANNY)