INTERVIEWSMay/15/2024

[Interview]marucoporoporo - “Conceive the Sea”

 2024年5月15日に、ファーストアルバム『Conceive the Sea』をリリースした、愛知県在住の音楽家marucoporoporo。作詞作曲、録音、ミキシングを自身で手掛けるという彼女は、2018年にデビュー作となるEP『In her dream』を発表し、大きな注目を集める。今年3月には、命の循環をテーマにしたというアルバムからのファーストシングル「Cycle of Love」を発表。そして、今回発表されたアルバムには、全編に渡り、極めて奥深く、重厚なアンビエント・フォークがさまざまな表情を見せながら、ひとつの物語を描くように収録されている。今回のインタビューでは、音楽制作を始めた経緯や、今作が生まれた背景、テーマなどについて詳しく語ってもらった。

__〈FLAU〉のプレスリリースには、「アコースティック・ギターを兄から譲り受けたことをきっかけに作曲を始め~」とありますが、音楽制作を本格的に始めたきっかけや経緯について、詳しく教えてください。

幼少期からピアノを習っていたので、音楽は身近な存在でした。私が中学生の頃に兄がアコースティックギターを購入し、私にもギターの弾き方を教えてくれるようになりました。好きなバンドの楽曲を弾けるようになる事はとても嬉しかったですし、兄から教えてもらったさまざまな音楽が当時の私にとってはとても新鮮で、音楽を演奏すること、聴くことはそこから好きになりました。

その後学校へ行けなくなってしまった時期もあり、徐々に音楽が私にとってとても特別で大切なものになっていったように思います。好きなアーティストに影響を受けながら見よう見まねで詩を書いて、その詩にギターで曲をつけるようになりました。小学生の頃は自作の漫画をずっと描いていたので、自己表現の向かう先が変わったくらいの感覚で制作していたように思います。

高校ではバンド活動に明け暮れて、月に何本かライブをこなしつつ楽曲制作に励んでいました。高校3年生の頃に出場した音楽の大会で、marucoporoporoとして初めて弾き語りで演奏をし、そこからソロでの活動が中心となっていきました。 大学でDTMに触れるようになってから、より本格的に音楽制作に取り組むようになっていきました。

__同じく「当時流行していたベッドルーム・ミュージックやノイズ、南米音楽などに影響を受けて~」と紹介されていますが、このようなジャンルの音楽の、どのようなところに興味を惹かれたのでしょうか。

高校時代はニコ動で作業用BGMという、今でいうプレイリスト的な動画でさまざまなジャンルの音楽を聴くことが好きでした。 その中でもエレクトロニカの作業用BGMがすごく好きで、『夏の夜に聴きたいエレクトロニカ』など、シチュエーションに合わせて作成された動画を状況に合わせて聴いていました。 普段の何気ない風景に彩りを与えてくれるというか、音楽の中でしか出会うことの出来ない情景やその中で湧き起こる感情に浸ることがとても好きでした。 あとシガー・ロスやフロレンシア・ルイス、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズの歌に出会ったときは衝撃で、心の奥深くにするりと入り込んで言葉では表現出来ない、理解してもらう術のない感情にそっと寄り添ってくれるような、不思議な安心感に包まれる音楽体験も、今の私の音楽に大きな影響を与えてくれているように思えます。

__ausのリミックスアルバム『Revise』にもリミキサーとして参加していますが、〈FLAU〉からリリースすることになった経緯について教えてください。

むかしから〈FLAU〉レーベルのアーティストさんが好きでチェックしていたのですが、私のデビュー前の企画にCuusheさんをお誘いさせていただいた経緯もあり、そこから〈FLAU〉のイベントにお誘いただいたり、関わりを持たせていただくようになりました。 2022年にHeidiとの共作をリリースした際、HKCRという香港のネットラジオで流れるMIXのお誘いをいただき、その際のメールでアルバムを制作しているという事をお話ししたのですが、その時点では特に進展はなく。 その一年後リミックスのご依頼をいただいた時期が、ちょうどアルバムがある程度完成した時期でもありましたので、思い切ってリリースのご相談をさせていただきました。 迎え入れてもらえてとても嬉しかったです。

__2022年に、画家/映像作家タキナオの展示のために音楽を制作したことが、今作 『Conceive the Sea』を制作するきっかけになっているとのことですが、アルバム全体としては、どのような意味や背景があるのでしょうか。

タキナオさんの展示音楽を制作したことが、今作の制作のきっかけとなったのですが、その展示が終わった数か月後に、展示のテーマを深掘りしてダンスと音楽と映像で1時間のパフォーマンス公演を企画したんです。 そこで1時間の音楽のアプローチを含めた公演内容の構想を考えました。 その構想が、今作のアルバムの流れの大きな軸となっています。

太古の海から、誕生したばかりの生命の息吹が聴こえてくるような、命の始まりを予感させる「Conceive the Sea」から始まり、繰り返される生命活動のサイクルの中で、今ここに自分が存在してる事を見つめた「Cycle of Love」へと続いて、徐々に体の内側に視点がフォーカスされていくような、「Double Helix」や「Core」は何かを産み出すエネルギーそのものを表現していて、それは出産なのかもしれないし、物作りなのかもしれない、自分という存在をその物や人に託すような、グッと意識を集中していくような感覚を表現しました。

そして終盤はその意識の解放というか、自分自身との対峙、まさに「As I Am」はありのままの自分を受け入れたいという事を歌っています。 そして「Reminiscence」では長い歴史の中で生物が生と死を繰り返して命を繋いできてくれたように私もその一員としていずれ死を迎えるということと共に、走馬灯のイメージも込めて名づけました。

過去からの命の継承、周りの人の支えによって自分がここに存在しているということ、生まれて死にゆくサイクルの中で新たな種が繁栄し生き延びてきた生命活動の一員なんだということを考えながら曲を書きました。

__ファーストシングルの「Cycle of Love」はどのように生まれたのか、詳しく教えてください。

むかし、草取りをしていた際に、枯れ草が微生物によって分解されて土の養分となり、新たな芽を誕生させる糧となる事を教えていただいたことがあって、自分のことに置き換えて考えてみても過去からの命の継承、周りの人の支えによって自分がここに存在しているということ、生まれて死にゆくサイクルの中で新たな種が繁栄し生き延びてきた生命活動の一員なんだということを考えながら曲を書きました。

__アルバムタイトルにもなっている「Conceive the Sea」についても、もう少し詳しく教えてください。

タキナオさんから、「妊娠中やけに喉が渇いて、水を飲んでも乾きが収まらず、塩水を飲んだら喉の乾きが治った。羊水は塩水でできてるから」というお話をお伺いし、それがすごく印象に残っていて。自分の意識とかけ離れた体の声を聞き取る事の難しさを実感したと言いますか。 その後テーマへの理解を深めていくうちに、羊水は海の中で脊椎動物が生まれたときの塩分濃度と同じという記事を見つけて、タキナオさんの言葉を思い出しました。その後三木成夫の本で『海をはらむ族』という言葉と出会い、海と羊水の関係性を一文で表した言葉から影響を受けて「Conceive the Sea」という楽曲が生まれました。

__クレジットでは、Cover object productionにタキナオとあり、アルバムのアートワーク、 また「Cycle of Love」の映像を映像作家の橋本麦が手掛けていますが、完成までのプロセスがどのようなものだったか教えてください。

アートワークに関しては、レーベルと相談しながら進めていきました。 〈FLAU〉からリリースされている、FEMさんの和硝子をモチーフとして制作されたアートワークがとても美しくて。 タキナオさんの許可を得て展示のために制作した『光の種子』というオブジェの写真をお渡しして、そちらをモチーフとして取り入れていただきつつ、アートワークを制作していただけないかを橋本さんにご相談させていただきました。 橋本さんには今作のテーマもお伝えさせていただいたのですが、私やタキナオさんのアーティスト活動の背景もご考慮いただきながら、本当にさまざまな観点からアートワークを制作してくださいました。

__5月25日に名古屋のTeTeで開催されるリリースライプがアナウンスされていますが、どのようなライブを行う予定でしょうか。

5月25日の名古屋TeTeでのリリースライブでは、タキナオさんのライトドローの空間演出と共に、ライブ用にアレンジした楽曲に声やシンセ、ギターを重ねて、ライブならではの 『Conceive the Sea』の世界観を表現できたらと考えています。

__今後の活動予定について教えてください。例えば、名古屋以外での公演の予定などはありますか。

ピアニストのWataru SatoさんとエンジニアのTakaaki Katsuyamaさんの共同企画Shimmerにお誘いいただき、Wataru Satoさんと共に6月22日は神戸のSpace eauuu、6月23日は名古屋のCasablanca、8月18日には東京のHalf Moon Hallで演奏をさせていたきます。 ゲストミュージシャンとしてHaruhisa Tanakaさん、Sleeplandさん、Musika-ntさんをお招きしご一緒させていただきます。

Conceive the Sea
1. Conceive the Sea
2. Cycle of Love       
3. From a Distance
4. Double Helix
5. Core
6. Tubulin
7. As I Am
8. Reminiscence

Photo by Tomoya Miura 

インタビュー・文:東海林修(UNCANNY)