INTERVIEWSNovember/28/2024

[Interview]aus - “Fluctor”

15年ぶりのアルバム『Everis』からおよそ1年半、今月、ausの最新作『Fluctor』がリリースされた。今作には、〈FLAU〉からも作品を発表しているKumi Takaharaをはじめ、Julianna Barwickや、Espersのメンバーとしても知られるMeg Bairdなど、多彩なゲストが参加している。

昨年の『Everis』リリース時のインタビューでは、「自分の好きなもの、信じているもの、価値観に対して正直にやっているので、それが一つの実態、オルタナティブなものとして存在し続けることにやりがいを感じています。その必要性を証明しているようなものですね」と語っていたが、本作『Fluctor』においても、その変わらない信念が色濃く反映され、彼独自の世界観が再び織りなされている。全12曲には、過去作に通底する静謐な美しさと、さらに深化した音楽的探求が感じられる。

ausが描き出す音楽の風景に、どのような未来が見えるのか。アルバム『Fluctor』の制作にまつわる思索を、本人の言葉で紐解いていく。


__“Fluctor”というアルバムタイトルには、どのような意味が込められているのでしょうか? その響きや概念は、どのようにアルバム全体のテーマや音楽に反映されていますか?

もともとこのアルバムは様々な映像のために作っていたデモを再構築した作品で、制作当初は仮のタイトルとして“Image Album”とつけていたんです。イメージアルバムといえば、80年代から日本の映画やアニメにおいて作られていたものだそうですが、サウンドトラックと異なり、具体的なストーリーやビジュアルを音楽で描き出すという特殊な形態を面白く感じたんです。映像の中では感情や風景が常に動いていますし、そういった変化を方向付けたり、流れを導くような存在を意味する言葉を考えてみました。

前作までと違うのは、始めから構想があった、というところ。これまでは完成後や作っている途中にアルバムの全体が見えてきていたのですが、始めからコンセプトが決まっていると、とても作りやすい、ということが当然のことですが今回分かりました。

何も劇的に変わらない、ただ続いていく時間の中で静かに積み重なるものを表現したかったんです。

__〈FLAU〉の公式ウェブサイトには「前作『Everis』にあったフィールドレコーディングによるサウンドコラージュから、より明確なコンポジションへと変化した」との解説があります。本作には、ストリングスやピアノ、ボーカルなどがフィーチャーされており、アルバムを通じてより感情に訴える壮大な音像が描かれているように感じます。今回の制作過程で最も重要視した部分や、特にこだわり抜いた点について聞かせてください。

前作に引き続いてメロディーが中心にあるのは変わりません、基本的に『Everis』と地続きの作品といえます。その際のインタビューでも触れたのですが、何が記憶に残るのか考えたとき、自分にとってはメロディーなんですね。表出のしやすさ、思い出しやすさという意味での強さ、というか。そしてそれを生かすようなコンポジションが『Everis』のときよりも、明確に見えるよう意識しました。一つ一つの楽器が奏でる音には厚みを持たせていますが、室内楽的な外形を保つようにして、シンプルさと深みのある音像を目指しました。

最も意識したのはダイナミックな展開を排除すること。展開の起伏や派手な切り替えを抑え、淡々となだらかな流れを追求しました。何も劇的に変わらない、ただ続いていく時間の中で静かに積み重なるものを表現したかったんです。



__〈Dead Oceans〉や〈Ninja Tune〉から作品をリリースしているJulianna Barwickが、収録曲「Circles」に参加しています。コラボレーションの舞台裏について、またどのようなテーマやプロセスで楽曲を作り上げていったのか、詳細を教えていただけますか?

この曲は学生の頃からある曲で、ライブも時々やっていたのですが、発表するならこのアルバムの中でしかないだろう、と考えていました。でもボーカルを誰に頼むかをずっと悩んでいて、歌詞をそこに乗せたくなかったんです。何か強すぎると思って。

ジュリアナ(Julianna Barwick)とは初来日を自分がオーガナイズしたのをきっかけに個人的な交流があるんですが、ちょうどこの曲を作っている時に彼女と会う機会があって、ボーカルをお願いすることを思いついたんです。彼女から届いたコーラスをガジェット・サンプラーに取り込んで、リサンプリングしたりエフェクトをかけたりして、それに合わせて中盤までの構成も変えたりして完成に至りました。アルバムの最後にできた曲ですね。

一生つきまとうような喪失や憂鬱を淡々と歌うようなものが好きなんですね。何度歌ってもコードがまた元に戻ってくる感じが、否応なく人生が続いていくように思えるというか。

__フィラデルフィアを拠点とするバンド、EspersのボーカルであるMeg Bairdが収録曲「Dear Companion」に参加しています。この楽曲のテーマや制作背景について、詳しく教えてください。

この曲はアメリカの伝承歌の一つで、ドリー・パートン、リンダ・ロシュタットや様々なアーティストによる録音があるのですが、Meg Bairdの同名タイトルのアルバムが大好きで、学生の頃からよく聴いていました。こういったフォーク・ソングは自分のルーツの一つで。「Blues Run the Games」やこの「Dear Companion」のように、一生つきまとうような喪失や憂鬱を淡々と歌うようなものが好きなんですね。何度歌ってもコードがまた元に戻ってくる感じが、否応なく人生が続いていくように思えるというか。

フォークソングも昔は自由に歌詞を付け替えていた、というのを知って、伴奏を自由につけてみたら面白いかも、と彼女のアカペラに伴奏をつけて本人に聴かせたんです。そうしたら気に入ってくれて、アルバムにフィーチャーできることになりました。とても幸運でした。

__アルバムには、ほかにも〈FLAU〉からアルバムをリリースしているKumi Takahara(高原久実)が参加していますが、Kumi Takaharaはあなたから見て、どのような音楽家でしょうか? また、彼女の参加が本作にどのような影響を与えたのでしょうか?

彼女がいなければ、そもそもストリングスを主体とした作品を作るアイデアもなかっただろうし、『Everis』も『Fluctor』も存在していないですね。今年はライブでも度々ご一緒していて、即興のセンスの良さ、マルチプレイヤーぶりに助けられています。休符をちゃんと作れる方というか、堂々と弾かない、音で埋めようとしないかっこよさがあります。自分は動じてばかりなんですけど(笑)。本当はストリングスのアレンジもしてもらいたいですし、何よりご自身の新しい作品を待ち望んでいます。

__さらに、Henning Schmiedt、Danny Norbury、Glim、横手ありさ、元CicadaのEunice Chungが参加しています。それぞれのアーティストとの共演において、どのような音楽的対話が生まれたのでしょうか? 特に印象的だった共演のエピソードがあれば教えてください。

アルバムの最初と最後の曲でフィーチャーしているEuniceは、Cicadaで来日していたときにMCを担当していたんですが、当時自分が作っていた「Ancestor」の冒頭にポエトリー・リーディングを入れることになって、そのときのMCを思い出してお願いしました。でも全然時間がなくて、録音する機材も彼女の手元にないから、台湾と電話でつないでその場で電話の声を録音して使ったんです。その後にEuniceはグループも脱退して音楽活動もやめてしまったんですが、今回アルバムを作るにあたって、アルバムの最初も彼女の声で始まりたかったので、またお願いしたんです。

Danny Norburyの録音のときも時間がなくて、建設中の彼の自宅で録音してもらって、送られてきたレコーディングの写真を見たら工事現場みたいに何もない作りかけの家で。音楽的対話というより、いつも時間に追われて、それにゲストのみなさんを巻き込んでいる気がします(笑)。



__東京国立博物館の庭園内の4つの茶室「春草廬・転合庵・六窓庵・九条館」にて、12月7日から開催される「Ceremony」など、サウンドアートやインスタレーション作品においても積極的に取り組んでいられますが、ausとしての音楽と、それらのメディアでの表現の違い、または共通点についてどのように捉えていますか?

ライブハウスやクラブなどで音楽を聴く特別な時間はめちゃくちゃ楽しくて、気持ちも盛り上がるのですが、そうした音楽を中心とした場所にいるときに、静寂への緊張や長時間のスタンディング、踊ることなど様々な心理的、体力的な問題を感じるときもあって、レーベルでは長年普段音楽を聴くための場所ではない場所、教会やお寺、ギャラリー、茶室などでイベントを積極的に開催してきました。そういった場所での音楽聴取についての関心が改めて高まってきて、ausの活動にもフィードバックされてきたんです。

インスタレーションとかサウンドアート、というよりは音楽をどこでどう聴くか、それは良い音響だとか音量だとかそういうのももちろん大事なのですが、自分にとってはどのように出会うか、人が聴くものをどう選択しているかにすごく興味があるんです。聴取ということばが適切かわからないのですが、聴くことにとっての「まなざし」みたいなものへの探求といえるかもしれません。「Ceremony」もその延長で、今、UllaとHinako Omoriさんと作品を作っていて佳境なのですが、とてもユニークな内容になっていると思います。

__音楽を作り続ける中で、アーティストとしての個人的な成長や変化について感じるところがあれば教えてください。『Fluctor』はその成長の一部として、どのような位置づけにありますか?

音楽を始めたときに、ピアノやストリングス中心のアルバムを作っているとは夢にも思わなかったですね。ピアノを満足に弾けるわけでもなく、バイオリンなんて触ったことさえない。元々第三者からの依頼があっての映像のデモですし、ゲストあっての声やストリングスで。そう考えると本当に他者との繋がり、様々な出会いの中で成長させてもらっていますし、『Fluctor』はそれが最も見えやすい形で完成できたものです。余計なこだわりや周囲のトレンドへの意識も薄れてきて、年齢を重ねて時間の制約を意識する中で、制作への思いがますます強くなっています。

__2020年代も来年で2025年と中盤を迎えますが、今後の音楽制作についてのビジョンや、挑戦してみたい新しいアプローチがあれば教えてください。

すでに録音の終わった伝統楽器を使ったものがあって、それが次のリリースになりそうです。自分にとってはかなりチャレンジングな面白い内容になってると思います。あとは本来『Everis』のあとに作る予定だったビートの入った作品、進行中のコラボレーションがいくつかあります。まだリリースできていない曲がたくさんあるので、消えないうちに早くまとめていきたいですね。

Fluctor
1. Another
2. Dear Companion ft. Meg Baird
3. Stipple Realm
4. Silm
5. Aida
6. Circles ft. Julianna Barwick
7. Celestial 
8. Yousou
9. Fading
10. Lutt
11. Nocturnal
12. Ancestor

インタビュー・文:倉方菜瑛、田辺洸成、大谷奈央、伊藤悠(UNCANNY, 青山学院大学総合文化政策学部)
編集:東海林修(UNCANNY)