INTERVIEWSSeptember/14/2013

【Interview】Hercelot(ハースロット)- “Wakeup Fakepop”

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 先日、Hercelotによる4年越しのニュー・アルバム『Wakeup Fakepop』が遂にリリースされた。Luke Vibert、Joseph Nothingに多大な影響を受けた彼のサウンドには、今失われかけていたチャイルディッシュでコミカルな暴力性と、音楽に対する原初的な感動が眠っている。過去には東京女子流、Idiot Pop等のリミックスも手がけた彼だが、このアルバムには、それらとはまた違ったオーラがある。今回、幾重にも束ねられたサンプリングの応酬と、それらの複雑な展開に秘められた彼のサウンドのルーツを紐解くべく、インタビューを行なった。『Wakeup Fakepop』という特徴的なタイトルの裏に眠る、Hercelotのアーティストの精神、そしてFakepopという言葉が表すものは一体何であるのだろうか。

__今回〈Maltine Records〉よりリリースされたアルバム『Wakeup Fakepop』ですが、どのようなコンセプトで作られたものですか?

Hercelot: このアルバムを作るとき、最初にイメージしたのが「遊園地」で。遊園地の遊具を見ると一つ一つに関連は薄いけれど、全体として見れば「ディズニーだね」みたいな雰囲気になるのが凄くいいなと思って、バリエーション豊かなものを詰め込もうというつもりではあったんだけど。アルバムの曲順も、「どういう順番で聴けばいいかわからない人用にとりあえず示してあるもの」であって、基本的にはどういう順番でもいいし、聞かない曲があってもいい。インターネットで曲を買えるようになって、1曲1曲(の試聴)にかける時間は凄く減っていて。

例えばBandcampとかから(新譜情報の)メールが来るわけだけど、一個のアルバムにつき最初の3曲だけ、しかもそれぞれ10秒ずつしか聞かないで判断する、みたいな聞き方になってるから、パッケージのイメージは保たないといけないけれど、それを具体的にどう消費するかってなった時、あえて視聴者にどうこう言うことは無くしたいし、能動的にサクサク聞けるようにしたほうがいいかな、という気持ちでコンパイルしたところもあります。

もう一つは、僕は日本語ラップのアルバムをよく聞いていたんだけど、Kick The Can KrewやRIP SLIMEみたいな、全体のイメージより個々のコンテンツを重視するようなイメージの人たちの作品は、凄くアルバムのバリエティが富んでいて。Rhymesterの『ウワサの真相』というアルバムは、凄くシリアスな曲もあれば、おちゃらけたパーティー感ある曲も全部一枚に組み込んでいて、最後にはオチみたいな曲があったりとか。全体で見ると統一感は全くないんだけど、一枚のバリエティとしては面白い、みたいなアルバムになるように作った節はあります。

__『Wakeup Fakepop』に見られる、サンプリングを多用して曲を創りあげるスタイルは今にしては珍しいアプローチだと思いました。

Hercelot: それに関しては考えることがあって。この前飛鳥山公園に行ってきたんだけど、そこには使われなくなった機関車が子どもたちが触れるように置いてあるんだけど、運転席を見てみると、ここにボタンがあって、レバーがあって…それに囲まれてるみたいな、いわゆる「少年の好きな感じ」が僕も大好きで。なんで好きかって言うと、一個一個のパーツに意味があるからで、例えばメーターは何かを示しているものであって、そこを見ることで情報を得られる。そういった情報が詰まっているものが一面にバーっとあって、どこを注目しても面白いし、全体で見てもインパクトがあって、絵になっている。

その感じは「サンプリングを多用する」感覚にも近くて、つまり個性のある一個一個のパーツが、多少不格好でも組み合わさって出来ていく感じ。高校の時にLEGOをやっていたんだけど、サイズは小さくても一つ一つの細かいパーツを効果的に見せている人型ロボットみたいな作品が大好きで。そういう趣味・嗜好は一貫していますね。

__Hercelotさんの今回のアルバムは、それぞれのパーツがただ相互作用しているだけではなく、更にそこからはみ出ている部分も多く感じられました。

Hercelot: (音のパーツが)整っていることでパワーが生まれることもあるけれど、整っていないと単純に面白かったりするんですよね。あと、アルバムに関してもう一つデカい影響があって、Plus-Tech Squeeze Boxっていうユニットがいて、その2ndアルバム『Cartooom!』というのがあるんですけど。すごいよ…アレは(笑)。だから『Cartooom!』を目指してこのアルバムを作ったところもあったけど、別の方向も模索しつつで。『Cartooom!』の何が凄いかっていうと、これは「架空のサウンド・トラック」って位置づけで作られていて、全13曲で30分くらいで、そんな短くギッシリした中に4,500個のサンプリングソースが使われてるっていう。その中にはヒップホップ調のもあったり、完全にブレイクしてるポップがあったり。かと思いきや凄い早いカントリー・ミュージックとか、オシャレなバラードみたいなのもあって、あっという間に13曲聞き終わるっていうアルバムで。

要するに、「枠組みの中で色々なバリエティを出して詰め込む」という作品としては見本にしています。あと「音色は明るいけど構成は全然ポピュラーじゃない」という作品としても見本にしていた。そのアルバム(『Cartooom!』)が『Wakeup Fakepop』の上位互換なんじゃないかっていうくらい……(笑)。こういう感じで、自分の曲を聞いてもらうのは嬉しいんだけど、むしろ、曲を作るために(参考にした)僕の好きなものを広めたい。「俺の好きなものをみんなも聞いてくれよ!」ってただそれだけの話なんだけど。

__それで〈Maltine Records〉から作品をリリースするということに至ったのでしょうか。

Hercelot: 単純に人の目に触れるし、インターネットが好きで、音楽も好きで……という自分にそっくりな人に聞かれやすい場だと思うから。

__自分の好きなモノを、自分自身を通して表現するということですよね。

Hercelot: そういう意味では、一つの消費活動とも言えますね。創作活動も大事だけど、僕は自分の好きな音楽をみんなと聞いてワイワイしたい。「このアルバムはコアな人にしか受け入れられないんじゃないか」っていう自覚もあるけど、別に好きな人だけが反応すればいいんじゃない、っていう。

__だけどHercelotさんは、他作品では王道なポップスのアレンジをすることもありますよね。

Hercelot: 王道も大好きだし、自分の好きな音楽は自分で音を出したいし(笑)。マニアックなものと王道なものが両方好きな人と、基本的には王道だけが好きな人、あと極小数的にマニアックなものだけが好きな人がいて、作曲家は基本的に両方好きな人が多いと思うんだけど。両方好きなら、可能な限りマニアックな方をとってほしいって思いはあるんだよね。王道を作ることはすごい素晴らしいことなんだけど、マニアックも好きな人がマニアックなものを作らなかったら、結局世に数が増えないわけで。良さを知ってる以上は、みんなが出来る限りマニアックなものを作ったほうが色々広がるのにな、とは思う。

マニアックなものを好きでいることは孤独なことだから、それが嫌でみんなマニアックなものから離れていっちゃうのなら、それは悲しいことだな、という感じ。『Wakeup Fakepop』は、作品もフリーだし、出すことによるデメリットやリスクが全くない状況だったから、そういう状況であればマニアックな方向に行ったほうがいいんだろうな。そういう意味でも〈Maltine Records〉から出せて良かった、と思います。

__そういう「リリースによる後腐れがない感じ」がネットレーベルから出すことへの意義に繋がっている感じがしますね。

Hercelot: もしお金とってたら収録曲が半分になっちゃう(笑)。

取材・文:和田瑞生

1992年生まれ。UNCANNY編集部員。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行なっている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。