- INTERVIEWSApril/01/2015
[Interview]tofubeats – “STAKEHOLDER”
2015年4月1日、tofubeatsのEP『STAKEHOLDER』がリリースされた。筆者には、『First Album』というひとつの大きな地点を経て、tofubeatsは再び自らが求めるダンスミュージックの舞台と、彼自身と、そして彼の仲間の意識を強くフィードバックしたDIY精神溢れる作品へと舞い戻ってきた、と言う感覚がある。Dancinthruthenightsとしてもともに活動するokadadaとの共作、杉山峻輔らが監督に携わった「STAKEHOLDER」のMV等、tofubeatsとその流れの中で成長してきた様々な人々がこのEPに携わり、作品の完成度だけでなく、感覚そのものを独特のものへと高めている。その作品の良い意味の「身内っぽさ」も手伝ったのか、今回のインタビューは、今まで以上に和やかな空気の中行うことができた。是非とも『STAKEHOLDER』を聞きながら、このインタビューを通じてtofubeatsの現在の感覚をより深く味わってほしい。
__4月1日、『STAKEHOLDER』リリースという事で、おめでとうございます。メジャー1stアルバム『First Album』を昨年の10月にリリースされましたが、あの時は、様々なゲストボーカルを招致して制作するという形でしたが、今回、参加ゲストはokadadaさん1人という事で、少し路線を変えたような印象がありました。
『First Album』を出して、じゃあ次は何をやるかとなった時に、自分の好きな様にやってみても良いんじゃないか、と会社側が言って下さったので、じゃあやってみよう、と。あとは、インディーズの時とは違う今の状態でそういう事をやったらどういう反応が返ってくるのかに興味がありました。だから森高千里さんや藤井隆さんと一緒にやったことでリスナーが増えたのはあると思うんですけど、ここにきてSMAPさんとの仕事もいただいたのもあって、今の自分のそういったメインの仕事を外してみたら周りからどう受け止められるんだろうか、と興味があって。ただEPでやっている事自体はこれまでずっとやってきた事なので、その中で今まで自分だけでやっていた事だけにフォーカスを当ててやるとどうなるのかな、というのはありました。
__今回のEPは、今まで頑張って作ってきたものより自由な、ご褒美的なポジションだったんでしょうか。
そう、歌とか絶対全部に入っていなくても良いよ、みたいな(笑)。
__実際に音源も聴かせていただいて、のびのびとやっている感じがすごくしました。今回はカットアップとかも入っていたりだとか、何度も聴かないと分からない程に音が詰め込まれていたりして、聴いていてとても楽しかったです。あとは、意外と歌詞が全体的に切ないというか、ますます内向的になってきた気がして、聴いていてとても良かったです。
それ(歌詞)は全部そうなんですけどね。全体的に明るい歌詞が無いっていう。
__それから、最近SoundCloudで公開された「DRUM MACHINE」、あれもすごく良かったんですけど、あれはどういう感じで作ったんですか?
いや、あれは半分ギャグなんですけど(笑)。ああいうラップってたまにやりたくなるんですよ。でも僕は普段は楽曲制作しかしていないからラップする事が無いんですよね、だから僕はラッパーじゃないっていつも言っているんですけど。ただ、たまに趣味でやっているくらいで。で、こないだokadadaさんとコラボして「T.D.M. feat.okadada」を作っているときに、okadadaさんが家でよくDanny Brownの物真似をやるっていう話になって。あの、なんかよくラップで言う「サーッ!」ってあるじゃないですか。あれをokadadaさんが家で一人でものすごい本気でやるっていう(笑)。あれをほんまに俺の家でやられた時は、「ちょっとやめてください!」ってなるくらいでかい声でそういう物真似をやっているって言われて。でも確かに、今は昔と違って家に防音室もあるし、声でっかくしてやれば出来るんちゃうかな、と思って。ちょっとやってみようかなと。なんていうか、スチャダラパーさんみたいな事って今でもスチャダラパーさんみたいじゃないですか。ラップの本流はどんどん新しくなっているのに、サブカルっぽいラップってずっとスチャダラパーさんみたいでしょ。それ、良くないなと思って。「ハードオフ」とかをああいう感じで言ってみたいっていうものなので、一応フリーで出しているんですけど。後は『BLACK FILE』に出たっていうものあって、なんかヒップホップやらなきゃ!ってなって(笑)。そういうのでサクッと作ってみました。
__あれは実際に全部ドラムマシーンで作ったんですか?
うです、全部Tempestで。ピアノの音以外は全てTempestで作ってます。しかも手打ちでループさせて、っていう感じです。Tempestはとにかく出音がすごく良くて。宇多田ヒカルさんのカバーを作る為に買ったのであの曲で結構使ってます。アナログシンセとデジタルシンセが2OSCずつ付いている4OSCのドラムマシーンなんですけど。やっぱりね、良いですよ。デジタル過ぎず、ハード過ぎない独特な出音がするというか。
__「DRUM MACHINE」の歌詞、ラップにも今回の歌詞と通じる部分があるというか、外に出ない感じがすごく出ていますよね。
今回、アルバム制作中に1本も出演がなかったのが、大学1年生から数えても本当に初めてだったんです。イベントが2ヶ月空く事なんて今まで無かったですね。
__それはEP制作に入るから?
そうですね、だから今回断っていたんです、出演を抑えてもらっていたというか。去年がバーッとやり過ぎたっていうのもあったんですけど。だから家でじっくり作業が出来たので、そういう意味で自分的にはすごく満足してますね。
__じゃあ、アルバムを出してツアーをやって一息ついたところで、自分を見つめ直す機会になったんですね。
そうですね。だからアルバム制作中にイベントの仕込みをする必要も一切無かったし、作業をしてから,『探偵!ナイトスクープ』を見て、見終わったらまた作業に戻る事も出来たので(笑)、すごく健康的でした。
__それで音数も増えたのですか?
あまりクラブを意識していないからなんですよね。真っ直ぐドンドン、というよりは、別に踊れなくても良いや、みたいな。外用でもクラブ用でもなく、部屋用なんです。部屋で踊る用くらいにチューンナップされた感じはありますね。「dance to the beat to the」とかはSoundCloudのバージョンの方が余程踊れるんですけど、あえてこうなった、みたいなのはあります。
__展開が覚えられないくらい盛り沢山ですよね。
なんかもう、やらせたくない、みたいなのがあるのかもしれない(笑)。「STAKEHOLDER」とかも、盛り上がるのにいきなりスッと抜けちゃうじゃないですか。自分がクラブに対する愛憎が入り交じったようなものがそのまま出ているのかもしれないですね。
__でも今、少し抜いて、真っ直ぐ踊らせない、みたいな曲が流行っているじゃないですか。ああいう間の抜けた感じを最近の曲全体的に感じるというか。Future Bassのような音楽も、どういう打ち方で格好良く且つ意外性を出せるかというところにも注目があると感じています。
Future Bassっぽいけど、なんか違う。そういうものにしたかったっていうのはありますね。そういう流れは汲みつつも、踊らせない、っていう。普通に神戸で生きていたらクラブミュージックも必要ないし。だからそういう風になったのかなっていうのはありますね。クラブでの稼働が減るとそういう風になるというか。だから逆に言えば、これまで出したEPの中で一番よく聴いてます。
__「dance to the beat to the」と「STAKEHOLDER-for DJ-」を聞いて思ったんですが、音数が増えた事もそうなんですけど、メジャーになってからサンプリングがかなり厳しくなって、自分の声や自分で録った音をサンプリングして切り貼りするようになりましたよね。その部分が、今までのEditを抜けて新境地的になってきていると感じました。
「STAKEHOLDER-for DJ-」は、レイブピアノっぽい要素を足した以外は全部「STAKEHOLDER」のパラデータだけで作っているんです。サンプリングは出来ないけど、自分らしさや持ち味を考えたときに、dj newtownの時の自分の良さには抗えへん、と思って。「2005」とか何度聴いてもよく出来てるなと思うんですよ。ある元の音源をチョップしてるだけなんですけど。今回、『STAKEHOLDER』というタイトルも『lost decade』の頃の気分に戻りたいから経済用語にしたんです。Stakeholderという言葉が特に好きだったので。だから、実は今回は珍しく、曲名が先だったんです。
あと、砂原良徳さんと対談した時に言われた「この人は切り貼りで飯食ってるんだな」っていう言葉が印象的でしたね。初対面で、「(tofubeatsを)最初に聴いたときにまりんはどう思ったの?」という質問に対しての返答だったんです。薄々俺もそうだなと思っていたんですけど、やっぱりそうか、と。そういった自分の強みをメジャーでも生かす為に、どうにかタイトル曲を頑張って作って、あとはそれをバンバン使うっていうっていうやり方を今回は実践しました。だから「STAKEHOLDER-for DJ-」なんかはノートパソコンだけで作っています。切り貼りしか出来ない状況に自らを持っていって作る、みたいな。「ディスコの神様 feat,藤井隆(tofubeats Remix)」とかも、切り貼りしか出来ないようにノートパソコンにパラだけ入れて持っていくとかをやっていて。これまで実践していた事をより本気でやってみたっていう感じですね。
__『STAKEHOLDER』は、曲の名前やジャケット、新しいイメージ画像からは今作の音の想像がつかなくて。そういった意味では出る前からこの作品は一体何なんだろう?という感じがしていました。
基本的にはこういうふざけた事がやりたいんです。ただ、これまではお客様に対して誠実でないといけないっていう気持ちがあって。でも、今回はそうじゃない、ジョークみたいな感覚を売りにしても良いよという事だったので、思いっきりやりました。
__このイメージ、僕すごく好きなんですけど、このアイデアは元からあったのですか?
いや、これはスタッフ皆で考えましたね。Stakeholderの意味である「利害関係者」から出てくるアイデアを出そうという事になって、まず家族が出て。あと就活のIR情報とかによくある、企業、消費者、株主の図も利害関係だなと思って。CDの盤面が実はその図になっているんです。そうやって色々Stakeholderのアイデアを出していく中で、最終的にやっぱり家族ってなんか良いなと思って。あと、本当に家族なのか分からない感じというか。「これフルハウスじゃない?」みたいな。でも結局人数的には愉快なシーバー家なんです。「intro」の最後のメロディーは愉快なシーバー家と一緒なので是非そこも注目してもらいたいですね。
__ジャケットもtofubeatsさんは見切れていますよね。
そうですね。でも僕初めてジャケットに顔が写ってるんですよ。今まではイラストだったし、全部僕の絵ではないので、見切れてはいるけど実はすごい事なんです。
__okadadaさんの写真も凄いですよね。自撮りという……(笑)。
そう、okadadaさんだけスチールじゃないんです。しかもこれ、外貼りステッカーにもなるので、okadadaさんの写真もジャケットに小さく載るっていう。「髪も切りました」ってね、いらねえよ、誰が知ってるんだっていう(笑)。
__この写真はスケブリさんの選定ですか?
そうなんです、他の写真含めて一番良い写真を選んでました。本当のアー写も一応あったんですよ、こう、手を広げている写真も。でも「あれはちゃんとしてるから駄目だ、トーフみたいに面白くないと」って言ってましたね。
__3曲目の「window」は、以前から発表されていた音源から歌詞が少しだけ変わりましたよね。
そうですね、2番が一単語だけ変わりました。それをきっかけにボーカルもコーラスも全部録り直して。これに関しては元の曲が好きなので、派手に変わらないように気をつけて録り直しました。ミックスダウンとかで細かい所は直しているんですけど、じっくりアップデートしたようなイメージですね。J-POPをやってみて学んだものが結構フィードバックされているアルバムじゃないかなと思います。コーラスも実は倍になっているけど、聴いていても分からないくらいというか。でも何か違うな、の何かを出す為にやってみたっていうのはあります。
__歌詞を改めて見ると、この歌詞だけあからさまに対話的だなと思いました。これはどういうシチュエーションなんですか?
何なんでしょう、自分でも思うんですよね。どうしてこんな事を書いていたんだろうって。この曲は、『lost decade』を作っているときに急に出来た曲なんです。そこから適当に放置していて、やっと今回仕上げる事が出来ました。でもやっぱりパソコンがモチーフなんですよね。昔自分がWindowsを使っていた時の気持ちを書いた曲ですね。
__「She Talks At Night」も、直球のポップスと見せかけて低音がぐっと入ってくる。
マスタリングエンジニア泣かせの曲ですね。でもあの「ブーンッ、トコトコ」がやりたかったので、歌は振りでしかないんですよね。あそこは本当にベースだけが鳴っている状態で、キックとかは入っていないんです。だから、自分のSMAPさんへのリミックスを聴いてからこれを聴いた人達がどう思うのかっていうのに興味があって、全体を通してそういう事がやりたかったっていうのはあります。最近は大きな仕事をいただける事が多かったので、そういうものからのフィードバックをこう落とし込みたかったっていう。で、誰かがこっちの音楽に、「なんだこれ?」みたいな感じで興味を持ってくれたら良いなと思って、そういう要素を沢山入れました。あとこれ、パソコンで聴くと何も聞こえないんです。終わった後、「ポコポコポコ」って聞こえるだけ。でもそれもそれで、「なんだこれ、何も無いぞ?」ってなる感じも良いかなと思って。
__その感じ、今まで平凡な環境で聴いていたものを初めてヘッドフォンから聴いたときに、こんな音入ってたんだ、ってなる感覚に近いですよね。
宇多田ヒカルさんのカヴァーはそんな感じなんです。実家で両親がスピーカーで聴いていて、「なんだこの地味なアレンジは、こんなのではアカン」と電話がかかってきまして(笑)。いやちょっと待って、Boseのヘッドフォンをプレゼントしたやん、それでもう1度聴いてくれ、って言ったら、親父が「悪かった」と。そういうやり取りがあったんですけど。そういうのが面白いなと思って、意識的にやってみようって事になりました。だから逆にヘッドフォンで聴くと壊れるかなってくらいベースが出てるんですよね。トラックダウンの段階ではもっと低音が出ていて、エンジニアの方にさすがにこれは、って言われてちょっとだけ削られてしまったんです。しかもこの曲をやってしまったせいで、エンジニアの方がこの後の曲のマスタリングに戻れなくなっちゃったんですよね。マスタリングでローが出過ぎていたせいでバランスが分からなくなったって言って、一度リファレンスに戻って、そこから一時間後位にまた作業するっていうくらい大変だったんですよね。
__難産だったんですね (笑)。以前は低音で割と苦しんでいた印象があったのですが。
そうですね。あと前のアルバムは意識して切っちゃってたところもあります。指示書とかにも、80(Hz以下)から切ってもらって構わないとは書いていたので。でも今回は全残しでお願いしたので、本当に30HzくらいからしかLowCutは入れてませんね。しっかり鳴らしました。これまでの中でも今回のマスタリングは気に入っていて。大阪のYoriさんっていう、『MP3 Killed The CD Star?』のマスタリングをお願いした方に久し振りにお願いしていまして。だから今回は全部関西完結なんですよ。レコーディングは全部僕の自宅で録っていて、マスタリングも大阪でやっているので。初の関西完結盤となっていまして、そういう意味でも結構思い入れが強いですね。今まではマスタリングとかを東京の人にお願いしたりする事で、J-POP感が出ていたんですよね。自分から距離のある人にお願いすると、その作品からも自分との距離が出てくるから、それが逆に色んな人に届くっていうイメージがあるんです。でも今回は家も出ず、okadadaさんを家に呼び、「DRUM MACHINE」も作りながら楽しくやって、みたいな感じでした。でも、メジャーになってからそういう小さな枠でやる事がなかっただけで、元々どちらも持っているものなので、こっちも勿論大事なんです。
__じゃあ、全体を身近な方で仕上げていった感じでしょうか。
まあ、身近な方って言ってもokadadaさんとYoriさんだけですけどね。内容に関していえば本当に。
__okadadaさんとフィーチャリングした「T.D.M. feat.okadada」も聴かせていただきました。これもとても良い曲です。これはビートをokadadaさんが作られたという感じですか?
そうですね、基本的に一緒に曲を書くと言っても結局僕がコードとメロを書くんですよね。でもメロが出来たら歌詞は2人で考えます。使いたい言葉を2人で出していきながら。これはコンセプト出しから1日で全部やっていきました。あの、KISSっていうロックバンドの、「Beth」というすごく良いバラードがあるんですけど。音合わせしているから家に帰れないんだ、ベスごめんね、っていう曲で。KISSなのにめっちゃ良いバラードなんです。でもその後に、”地獄の〜”みたいな曲で、炎がバーッってなるような映像をokadadaさんに見せてもらったんですね。すげえな、KISS、と(笑)。これすごく良いねってなって。それをディスコでやろうって言って、Mayer Hawthorneを聴きながら「Beth」をやったらどうなるかって言って作ったのがこの曲です。これはDisco Manufacturerっていう意味で、ディスコを作っているから帰れなくてごめんねっていう曲なんです。キメラというか、Tuxedo新譜発売前のテンションと、KISSの「Beth」で出来た曲ですね。
__曲作ってるだけの曲、という感じはします。切羽詰まっているではないけれど、何も無いところでそこを逆にネタにしているというか。
「DRUM MACHINE」とかもそうなんですけど、それ以外にいう事が僕ってあまり無いんですよね。僕、悪い事とかしないし、やってる事と言えばマジでハードオフに行くくらいなんですよね(笑)。カーシェアリングの曲とか書いてもしょうがないし(笑)。あとね、高級ジンジャーエールが美味い、とか、硬水の方が美味い、とか言うラップなんてあまり意味無いじゃないですか。本当に音楽くらいしか趣味が無いんですよね。あとはパーティに行ったりとか。だからstillichimiyaとかもそういう感じがするから好きだったりするのかなと思いますね。田舎度はまたちょっと違いますけど、そういうところだけは少し共感出来るというか。より田舎ですよね。田舎もいき切ると撮影とかもやりやすいんですけど、神戸はまだ人の目を気にするくらいの町ではあるので、塩梅が難しいんですよね。
__なるほど。これ、”T.D.M.”はDTMともかけてるんですか?
いや、これは単純に、本当は「The Disco Manufacturer」にしたかったんですけど、皆意味分かってくれないだろうなと思って。だったらもう略語にしちゃえ、と思って”T.D.M.”になりました。
__この副題は実際には載るんですか?
ブックレットには載っています。良い歌詞とはなんだっていう話をした時に、洋題と邦題が同時に存在しているタイトルって良いなって話になって。坂本慎太郎さんがすごいって話をokadadaさんやSugar’s CampaignのAvec Avecさんはしていたらしいんですけど。例えば「君はそう決めた」が「You just decided」になるのがすごく綺麗だなと思ったんです。あとは「ナマで踊ろう」は「Let’s Dance Raw」と訳していて。そういうのがある曲が良いなと思ったんです。だからそういう風に意識をして最近は曲やタイトルを作るようにしてます。渋谷系の時というよりかはもう少し違うというか。最近英語と日本語の問題というのをすごく意識していて。Tuxedoを聴いているとこういう曲が作りたいってすごく思うんですけど、音までは作れても「Do it」だけのサビが作れないんですよね。英語なら二音節だけでもサビになるんです。でも日本語で二音節の言葉を言ってもサビにはならないんですよね、「うみ」とか歌ってもサビにならないわけですよ。まあなるかもしれないけど難しいですよね、それにはまた発明が必要で。だから宇多田ヒカルさんとかってそういう発明をした一人なんですよね。あとはPSGとかもそうですよね。そういうことを発明していかないといけないなっていうのはあって、それを意識したからこそ副題とかも遊びで入っていたりするんです。これから意識していこう、みたいなことですね。
__次の「(I WANNA)HOLD」とかも邦題ありきのようなところがあるじゃないですか。この洋題に邦題が入る事で、少し、あれ?となるというか。「抱きしめ(たい)」か、ってなりますね。
それは利害関係者っていう言葉の違和感というか、これを僕らは「IKEA英語」って呼んでいるんですけど。あの家具屋のIKEA。ああいう外資系企業の、違和感のある変な日本語があるじゃないですか。ゴシック体しかないんだろうな、みたいな(笑)。ああいうのがすごく好きで、そういうものかもしれないです。
__あと前に、海外では日本語のカタカナが格好良いという事になっているという話を聞きました。例えば海外のジャケットにカタカナが書いてあったり。
そうそう、そういう違和感。それを逆に日本でやるっていう。
__確かにそういうのはありますね。あと「(I WANNA)HOLD」はアシッドを聴かせたい感じが伝わりました。
そうですね、TB-3一台でノンストップ録りでやりました。
__かなりひねってますよね。
Seihoみたいに実機でやりたいんですけど、中々そうもいかず。でもアシッドハウスをやっていますよっていうポーズとしてもやっておきたかったんですよね、今でもこういうのもやっている事を忘れられがちなので。この曲は、MASSIVEというシンセサイザーとTempestとTB-3で作ったんです。だから、ガシャガシャな音にしてあるTempestと、高音質で音が入れられるインターフェースが付いているTB-3とMASSIVEとで、全然違う要素が合わさってアシッドハウスになっているんです。昔と違う作り方でやってみたっていう。だから音像がちょっと不思議な形になっているんです。で、ピアノはIvoryなんですよ。宇多田ヒカルさんの曲で使われていたと聞いて。そういう違和感を楽しみたいなっていうのはありました。
__更に言えば、TB-3自体もイミテーションというか、デジタル臭さもあるというか、微妙なところですよね。
言ってしまえば、アナログ回路ではあるけれどデジタルシンセみたいなものですから。
__その辺りもちぐはぐな感じというか、更にはスタッターとかも突然一瞬かけてるじゃないですか。そういうのもあって、一筋縄ではないなという感じがしました。
あとは今しか出来ない感じというか。5年後にこれやる人もいないだろうし、そういうものにしたいとは毎回思ってます。聴いたときに、少なくとも昔のものではないな、と分かるような。
__EP最後の曲「衛星都市」なんですけど、この歌詞はそれこそ現代っぽいというか、地元ニュータウンをテーマに作られたという事なんですけど。
今風に言うと「終わり無き日常」ってやつですよ(笑)。
__なんだろう、諦念感や厭世観もあるけれど、やっぱり諦め切れない感じとか、綺麗に整然としているイメージとかが想像出来て、すごく良い曲と歌詞だなと思いました。
この曲と歌詞、本当自分でもよく出来たなと思ったんです。あとはさっき言った洋題と邦題が綺麗に収まるという意味でも良かったですね。でも、「すりぬけていく」の前に「磨り硝子」という歌詞が入っていて、すり磨りで被ってて、あちゃーって今思ってます(笑)。韻的に惜しいな、なんで同じ言葉使っちゃったんだろう、って。最近ずっと毎日思いながら聴いてますね。多分次に出す時には変わっていると思います。
でもやっぱりニュータウンの曲って自分が育った場所の話なので、定期的には出したいなとは思ってます。メジャーに入ってから、やるの忘れてたな、と思って。確かに「衣替え feat,BONNIE PINK」とかでそれっぽい事はやったけど。あと今回は『lost decade』の頃のような気分で作るのがテーマだったので、そういうのがやりたくて。ただニュータウンっぽいタームがちょっと消費されだしたというのがありましたね。dj newtownという早過ぎるコンセプトを掲げて活動して、誰にも気付かれないまま解散した後にFOLKSが『NEWTOWN』っていうEP出してデビューしたりだとか、そういうニュータウン的なカルチャーというか、ネオ漂白民の戦後とか、そういうのが後から出てきて。やりたかったんですけど、ここに来てニュータウンを指す適切な言葉が見つからなくなってしまって。そうしてやっている時に、レッチワースとかかな、昔のニュータウンの文献を読んでいる時に衛星都市の話が出てきて。で、まあ衛星都市は別にニュータウンの事ではないんですけど。工場とか周りに都市があってもそれは衛星都市だし。それを見てて、そういえば衛星都市っていう言い方があったなと思って。衛星都市っていう曲がないかも調べて。それで無かったから、じゃあやろう、と。あとはこういう極端なバランスでポップスをやれるのも今回だけかなと思いました。ベースはでかいし、ターンテーブルのヒスノイズも割とでかく入ってるし。
__音は若干汚しにかかっているっていうのはありますよね。
汚しにかかっているというか、このドラム本当は打ち込みなんですよ。打ち込みのドラムの音とタンテの音をハードのコンプレッサーに一度入れて、曲5分とドラムを先に作ってしまって、その上にアレンジを乗せていったっていう感じですね。だから最初から汚してしまって、もう後戻り出来ない状態から始めたんです。そういう極端な音像とかも今回しか出来ないなと思ったので。ベースが超でかいじゃないですか。でもそういうのも、逆に何でボーカルが前に出てないといけないんだ、みたいなずっと思っている事をやったという感じですね。それこそ今後タイアップとか取りにいきましょうとなった時に、ベースが超でかかったら駄目じゃないですか。そういう時は実際に歌を大きくするべきなんですよ。でも今回はそういうのがないからベースを大きくしても良い、と。だったらベースを大きくした方が得だなと思って。あと、今やっておかないと今後これをやるチャンスは無いのかなと思ったんですね。勿論どっちも好きだけど、こっちの好きをやるチャンスは多分今だけだから今やっておこう、みたいなのはありました。これは全部に言える事なんですけど。
__今までよりも音像もすごく変わったなという印象もありましたし、ポップスと見ても全然一筋縄じゃいかないというか。
シンプルな曲なんですけどね。だからこそ音像だけで惑わせているというか。
__最後もかなり繰り返しますよね。
そうですね、「繰り返しの〜」って言ってるのにね(笑)。違うじゃん!って言ってほしいっていうのはあります。すげえ繰り返してるじゃん!って(笑)。で、アウトロのコーラスは実はokadadaさんなんです。そういう家内工業的な部分はかなり強めてるっていうのはあって。
__この曲は本当にしっくり来ました。なんというか、「衣替え」とかも大好きだったんですけど、あれは家の中の曲で、外の光景はあんまり歌っていないという印象があって。でもこの曲は都市の事を歌っているというか。町というよりはやっぱり都市なんですよね。渋谷辺りだとちょっと過激過ぎるんですけど、東京でも西東京の多摩辺りのイメージというか、その感じがすごく好きなんです。
そうですね、日本のどこにでもある地方都市というか。やっぱり今も神戸に住んでいるし、その地元神戸が持つベッドタウンのようなところなので。そういうものは大事にしていきたいし、そこにしか自分の出自が無いから曲にしていくしかないんですよね。嘘はつきたくないし。
__じゃあ逆に、そこまで深いメッセージ性のようなものは今までも強く抱えたことはなかったのですか?
そうですね、この時にこう思ってたっていうのは勿論あるんですけど。逆に言うと僕の出身は変わらないじゃないですか。でもメジャーに行って肩書きがかわったりだとか、髭が伸びて剃ったりだとかするわけですよ。その時々によって見た目も変わっていくわけで。元は一緒だけど、それがどうやって出てくるかは時期によって違うというか。それをその時々で記録しておけば、後で並べた時に違うものが出来上がっているから、その時に思った風にすれば良いと思うんですよね。逆にそうしておかないと後から見てもつまらないというか。だからいつも思っている通りに僕はやっている感じがするというか、ちゃんと思った通りにやろうと思ってます。そうすると後から見た時に自分でも面白いなと思うので。こう思っていたのか、っていう。
__じゃあ、身近な事をその時その時で語った方が良いと思ったっていう事ですよね。
同じ事でも今言うのと来年言うのでも全然違うと思うから。それを逆に楽しくやりたいなっていうのはありますね。
__以前の『First Album』のインタビューの時に、元気でポップな曲は少し作りにくいということを話していたと思うんですけど。
そうですね。まあ、めっちゃポジティブな日というのもあるかもしれないけど、今はそうじゃないしっていう。あと今回は肩の力を抜いて良いよとも言われていたのでこういうテンションになったのかな、っていう。でもそれはやっぱり性格だなと思います。音が多いのに全然派手じゃないでしょ。派手になりたいとも思ってないし、派手にしようと思って音数を増やしているわけではないから。そういうのもありますね。
__最初にブックレットに目を通した時に、実は一番気になったのは「She Talks At Night」の最後の「何かあったことにしとかない?」という一節だったんです。この一節が全てを言っていると思ったんですよね。
EP出したことにしとかない?っつって(笑)。
__そうそう(笑)。ちょっとこれやったことにしとかない?、いつも通りだけど、みたいな。勿論作品としては素晴らしいんですけど、なんだろう、出来ちゃったからこうしとくか、みたいな。
後乗せサクサクじゃないけど。作ってる時は、そのとき思った通りにやれば良いけど、出来上がった後になって、そのとき自分が何を考えてたかをこうして話さないとその時自分が何考えてたのかがわからないんだよね。そこまでを一連の流れとしてやりたいから作っているというのもあるから。だから人と話さないと自分が何を考えているのか分からないのと同じような感じで、曲作ったり歌詞書かないと自分が何考えてるのか分からないんですよね。そうして自分の事が分かりたいからやってるっていうのが一番かも知れないですね。アーティストっぽいな、今の (笑)。
__自分との対話っていう感じがすごくしました。
で、それを通じて人に褒めてもらえたらなおラッキー、みたいな感じです。
__今回EPを出して、じゃあ次は逆に、何かをテーマにしてコンセプトアルバムみたいなものを作りたいなと思っていたりはしますか?
ずっと昔から何個かやりたいなと思っているやつはあるんです。次のアルバムでは絶対にこれをやりたいんですって言っている事は一つだけあって。まだそれは言えないんですけど。あと普通に、もしBandcampとかで出来るのであれば、全部女性の名前のアルバムを作りたいって昔から思ってますね。しかも『ガチ恋ファンタジークラブ』みたいな、全部本当の女優の名前で作るアルバム。もう『ガチ恋』の連載は終わってしまったので違法行為にあたってしまうのですが(笑)。あとはなんか、Stakeholderとかもそうなんですけど、使いたい単語リストみたいなものがあるんですよ。Evernoteに貯めてて。例えばなんか、ミネラルウォーター、とかね。単語が書いてあって。
__それを一気に消化したい、みたいな感じですか?
いや、今も徐々に消化してはいるんです、実際今もそうですし。
__今後も楽しみにしてます。ありがとうございました。
(2015年3月10日、ワーナーミュージック・ジャパンにて)
インタビュー・文:和田瑞生
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行っている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。
構成・アシスタント:成瀬光
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。青山学院大学総合文化政策学部在籍、音楽藝術研究部に所属。
■リリース情報
Artist:tofubeats
Title:STAKEHOLDER
Release date:4 月1 日(水)
Number:WPCL-12073
Price:税込:¥1,620 ( 税抜:¥1,500)
1.SITCOM(intro)
2.STAKEHOLDER
3.window
4.dance to the beat to the
5.STAKEHOLDER -for DJ-
6.She Talks At Night
7.T.D.M. feat.okadada
8.(I WANNA)HOLD
9.衛星都市