- INTERVIEWSOctober/07/2014
【Interview】tofubeats – “First Album”
『First Album』がリリースされ早1週間。オリコンデイリーチャートではアルバムが5位にランクイン、タワーレコードのチャートではアルバム1位を獲得するなど、tofubeatsの躍進はすでに無視することが出来ないものになっている。新たな世代の動きが顕著になっているのは、CDショップや、デジタルストアだけではない。アルバムに先駆けた『First Album』のフルストリーミング音源をSoundCloudにアップする等、tofubeatsが今まで続けてきた挑戦は、メジャーに迎えられても尚、むしろ歓迎される形で続けられている。
メジャーに迎え入れられた『First Album』の客演の豪華さはもはや語られ尽くされている。森高千里、藤井隆、の子 (神聖かまってちゃん) 、BONNIE PINK、PES(RIP SLYME)、新井ひとみ (東京女子流)……。それらの対比で、tofubeatsの盟友とも、愛する先輩とも言うべきokadada、そしてPVには杉山峻輔 (スケブリ)、CDのデザインにはGraphersRock、memoなどといった顔なじみのメンバーもアルバムに多大に貢献している。このアルバムのリリースと成功が、tofubeatsというこれまでにない異例を生み出したという結果だけではなく、間違いなく、新しい世代の胎動がそこには感じられるのだということを忘れてはいけない。時代が少しずつでも動き始めている感覚が筆者にはある。
『First Album』は、これからも色々な人に語られ、聞かれ続けるだろうと同時に、これは一つの通過点であることを忘れてはならない。能弁を尽くすだけの時代の傍観者ではなく、当事者として彼を追いかけ続けてきた本サイトとして、もはや恒例とも言えるtofubeatsのインタビュー。今回も、変わらない彼の強かな思いが感じられ、アルバムにかけた苦悩やメジャーでの挑戦、境遇の変化についても深く語ってくれた。
_遂にメジャーからアルバムの『First Album』をリリースされたということで、おめでとうございます。メジャーデビューから1年半ほどになりますが、前作『lost decade』を出した時と、今回の『First Album』で何か変化した部分はありますか?
『lost decade』ができた時は次のアルバムの構想とかが全く無い状態で、単純にメジャーとしてちゃんとしたものを作らなくちゃいけないっていうのがありました。(2つのEP)『Don’t Stop The Music』、『ディスコの神様』を出して、ある日突然10月にアルバムを出すっていうのが決まっちゃって。締切りも厳しい中知恵を絞った結果がこの『First Album』です。だから逆に、本当にピュアにというか、前回アルバムでやった「自分なくし」の作業を今回はやってない分、出るとこ出てるアルバムになってるかなと。あとは『Don’t Stop The Music』、『ディスコの神様』みたいなポップなものを作るのにものすごいカロリーが必要なんです。だからそういう曲とバランスを取るためにインスト曲の具合が前作より良くなってる。やりたいことは基本的に前作と変わっていないんだけど、天秤に載せる重りの量が両方とも前回より増えてて、今回は片方(ポップス側)にガシャーン!みたいのから始まってるんでそうじゃないのいっぱい録らないと、みたいな。
_今までのポップス路線に対応する、もう一方の尖った部分を出すことに苦労をかけたのですね。
尖ったっていうか、また別の方向の自分の好きなものですね、もちろんポップスも好きだから作っているわけで。でもその別の好きなものが今作に全然入ってないじゃん!ってことで急いで作った感じです。
_それをギリギリの納期の中で進めていったと。
そうですね、締切りは正直言ってめちゃくちゃタイトでした。だけど「poolside feat. PES(RIP SLYME)」の再録なんかは本当にいい感じに作用したと思っています。(「Come On Honey!」と別の)もう一個のシングルをどうするかって話の時に、晩夏の曲にしたいってなって、ワーナーのスタッフさんが(サンプリングの)クリアランスをとってくれて実現しました。あの曲自体は2012年とかの曲なんですよ。そういうことが出来たのは良かったなって思います。
_リリース前には〈Mad Decent〉のメンバーが来日し、日本で開催されたパーティーに緊急出演したり、Diploの持つラジオ番組『Diplo & Friends』にtofubeatsさんがDJMIXを提供した事もあり、海外のクラブミュージックシーンでもtofubeatsさん、並びにそのカルチャーが注目されました。日本のポップスシーンと海外のクラブミュージックシーンの最前線に同時に立つアーティストというのはあまりいないと思うのですが、その二つを渡り歩いてきた中で文化の違いなどは感じますか?
自分は日本のクラブミュージックシーンの真ん中より少し離れたところにいると思っていて、そのままメジャーからリリースしてて、J-POPもちょっとできるみたいな感じ。だから居場所は一つで、『Diplo & Friends』では普段日本でやってることをやったらウケて出演することになったという事で、自分としては普段通りのことをしていました。J-POPが持ってる良さを海外に説明する必要がちょっとなくなったっていうのが『Diplo & Friends』に出演できた理由だと思うんですよね。MEISHI SMILEとかもそうだけど、J-POPが持ってるコンテクストとか、コード進行とか母音が多いとかそういう音楽ジャンルとしてのJ-POPの説明があんまり要らなくなってきた。そういうところからの『Diplo & Friends』だと思うんですよね。他のアーティストを見てても僕らとかけてる曲あんま変わってないし、見てる方もあんま変わってないし。海外に合わせて音楽をやらなくていいんだっていう自信につながったというか、両方聴いた上で自分の好きなことやっていいんだって思ったし、『Diplo & Friends』の出演はそれを後押ししてくれた。
_日本的なものが海外で注目を浴びるようになって、その中の感じで出演できたという感じなんですね。
Seihoさんがアメリカツアーをして凄く盛り上がったって伺ったんですが、そういうのは、元々海外に居る人達にとって普通にカッコいい域に達してるからだと思うんですが、そういう〈Day Tripper Records〉に対して、僕らはどっちかっていうとエキゾチズムというか「オイ、日本人がクラブミュージックやってんぞ」みたいな面白さもあると思うんですけど。でも、そこに配合されてるJ-POPらしさっていうのは海外の人々が絶対に持ってないもの。アルバムでもやりたいことっていうのは特にそれで、(海外ウケとかは)あんまり深く考えないようにやろうって思ってました。よく言うんですけど、僕が森高千里さんを良いって思う尊い気持ちは外人に踏みにじられるものではないと思うんですよ。それを良いって思う人は海外でも絶対数いて、ずっとそれを説明する機会に恵まれてなかったと思ってて、前作からそれをやろうとしてるっていうのはありますね。例えば、アメリカ人になんと言われようと、日本のアイドルとかいいもんはいいし好きなもんは好きだから、それを人に伝える努力はしてみようという。okadadaさんとかがよく言うけど、DJって一体何するものなんだっていうと、周りの空気に合わせたいからやってるんじゃなくて、自分の好きな曲を相手も好きだと錯覚させたいからやってるし、それがDJの面白いところだっていう話があって、僕の場合はDTMでそれをやろうとしてるんです。自分の好きな曲を人にも好きだと錯覚してもらうという。だから今回のアルバムに色んな曲が入ってるのもそういう理由だし、パラパラ(「CAND¥¥¥LAND feat. LIZ」)が好きな人が聴いて「あれ、ディスコの神様って曲いいじゃん」って思ってくれたらいいし、アルバムの流れで聴くときに、それぞれの曲の良さに気づくきっかけになっていけばいいなと。
_自分の音楽を表現していく中で、やっぱりメジャーに舞台が移ってからSoundCloudに自由に音源があげられない等、色々な問題を吐露していたと思うのですが、今回は、リリース直前にアルバムのフルストリーミングをSoundCloudに公開されていました。そこに、日本の今の音楽業界の路線に対して一種の対抗のあらわれていると感じました。
いや、これに関しては結構(レーベルの)みんなは協力的でした。メジャーレーベルが(tofubeatsに)興味があるからこそ僕とやってくれているわけで。前作の『Lost Decade』のフル視聴と同じように、今回iTunesでやろうとしたら、システムの都合上フルストリーミングができないということになって、SoundCloudにアップすることになった。僕としてはやれて良かったなと思うし、単純に会社の皆様に感謝しています。そういった事が試せるんだったら試せばいいと思ってるし、レーベルもレーベルで(tofubeatsで)実験をしてる部分はあると思います。
_「CAND\\\LAND feat.LIZ」ですが、単刀直入に、なぜパラパラを作ろうと思ったんですか?
Tomadとかにも話してたんですけど、2年前くらいからパラパラをやりたいって言ってたんですよ。本当にこれは長年の夢だった。出演イベントで、パラパラからトラップにつながるっていうのを発見して、「ああ、そうか160BPMか、いけるな」と思ったし、もともとスーパーユーロビートは聴いてたので。ただ、今までパラパラを作る技術は持ち合わせていなかったし、そういうシンセも持ってなかったんですけど、去年DJやついいちろうさんと一緒にやった時に「EDMにしてくれ」っていうオファーがあって、その時にNative InstrumentsのMassive等のシンセを新しく買ったんですよ。それを頑張っていじったら結構すぐ出来たんです。「あ、これパラパラできんじゃん」と思って出来たのがアレです。
_インスト曲もそうですけど、カットアップが過剰ですね。
まあ今回のアルバムはエディットをいろいろやっていて、テープエディットっぽい演出もしたかったんですけど、そう作ってもカッコよくなりそうな曲がなかった。その分インストで、「Populuxe」なんかは波形の切り貼りで作ったりしました。
_インスト楽曲の部分を聴いて、「(メジャーなのに)ここまでやっていいのか」という新しい可能性を感じました。
逆にポップスやってないとできないです(笑)。だから、それもバランスですよね。攻めたインスト曲ばっかりのアルバムは、例えば10年くらいメジャーでやって実績がないと出せないと思うし。あと、納期の問題もあったんで、どさくさにまぎれて入れられたっていうのもあった。「締切りも厳しいし、ちゃんと好きにやらしてくれよ!」と怒りました(笑)。「Content ID」とかまさにそんな感じ。(「Content ID」の)音ネタは、制作期間中に大量に買い込んだレッドブルの缶をシャカシャカって振ったりプシュッと栓を抜いたりするのを録音してます。
_その他の曲でも、サンプリングの制約がある中で工夫した部分はありますか?
ディスコの神様とかはサンプリングが出来なくてしんどい部分もありましたけど、「Come On Honey!」とかはギターをKASHIFさんとかにお願いできたし、メジャーになってそういうことができるようになったので良かったです。最後の「20140803」は自分でギターを弾きました。一小節だけ弾いて、それをループして。
_今回はメジャーアルバムということで、ゲスト陣がかなり豪華ですね。僕は「衣替え」がすごく好きなんですけれど、そのゲストボーカルをBONNIE PINKさんが担当されてて。
僕もいい曲ができたと思っています。本当にBONNIE PINKさんの曲みたいですよね。すごい慣れてはるというか、1年ぶりのレコーディングとは思えない。
_それに、あまり表には出ない部分かもしれませんが、僕はtofubeatsさんの切ない歌詞がすごく好きなんです。「way to yamate」の内省っぷりもすごくて、ここまで書けるのかと思いました。
僕的にも、このアルバムは15曲目からしか聴かないっていうのがあるかもしれない……。「way to yamate」は元々歌をのせるつもりはなかったんですけど、マネージャーが「これ歌入れた方がいいよ」って言ってくれて、(デモの歌詞を)そのまま入れた感じです。〈Business Casual〉を聴きながら坂を上がってくと無性に悲しくなってきて、さらにBlood OrangeのPVを見てたら、こういう曲を作りたいと思うようになりました。本当に素で作ったらこういう曲ばっかりになるし、「ディスコの神様」とか作るときにはみんなが思ってるよりも、そういうのはポジティブさを全て使い切らなきゃいけないくらい大変。「音楽サイコー!」って言うのはキツイっていう。
_tofubeatsさんは、今回制作された「poolside」のPVでも感じたのですが、曲とPVの総合イメージを大事にしてるように思えます。
でも、「poolside」の脚本書いたのは僕じゃないっていうのは言っておきたい。ただ、みんなが思ってる僕の妄想と遠くないっていう(笑)。でも(PV等の制作は)いつも知り合いにしかお願いしないようにはしてる。そうすると、自然にそうなるというか。自分のものはやっぱり残るから大事にしたいですし。今回もデザインにせよなんにせよ、丸投げする部分は信頼してる人にしか投げてないし、いままで一緒にやってきた人と一緒に大きくなっていくのが理想なんですよね。スケブリさんとかにももっと大きいステージでやってもらいたい。世の中で流行ってるものやって褒められたいタイプではないから、自分たちが面白いと思うものをみんなにも面白いと思ってもらいたい。
_tofubeatsさんには、周りのカルチャーを盛り上げる姿勢を感じます。
今の音楽についてとやかく言うつもりはないですけど、何にも寄りかかってない、自立した音楽が日本にはあまりない気がします。後から渋谷系とかで括られるのはありますけど、あれはそれぞれのアーティスト個人として自立していると思うし、世界観がある。そういう音楽がバンドではあるのかもしれないけど打ち込みの人だとあまりいない。きゃりーぱみゅぱみゅさんとか、原宿とかKawaiiとか、色々寄りかかってるものはあるかもしれないけど、それを抜きにしたって僕は「にんじゃりばんばん」はいい曲だと思うし、そういう状態で常にやれるといいな、みたいな。曲からスケブリさんのビデオを切り離してもいいし、ビデオが合わさると尚いいみたいなところをみんなで目指していけたらいいと思うんですけどね。
_メジャーになってから、「COUNTDOWN JAPAN」など大きい現場も増えてきたと思いますが、tofubeatsさんのことを知らない人の前でやるにあたって感じたことはありますか?
「ROCK IN JAPAN」の時の映像を見たときに思ったのは、僕がここぞ!と思ったときにお客さんがキョトンとしてることがあったということですかね。「ロックフェスってこういうことか~」みたいな学びはありましたね。あとはこっちが動きを指示してあげる必要がある。勝手に動いてくれるということがない。でもこれを勝手に楽しんでくれる人達にしていこうみたいなのはありますけどね。ロックフェスじゃないフェスが日本にあんまり無いのもありますけど。でもサマソニとかは結構クラブっぽい感触があったので、できないことはないというかどう見せていくのか次第というか。電気グルーヴのお客さんとかは「WIRE」とかにも来てる人多いので、そのへんからもっと広げて行きたいですね。「水星」を合唱してくれるのも嬉しいですけど、何にもしないでただ踊りやすいキックとベースが流れてるときに体が揺れててくれてたらもっと嬉しいです。
_tofubeatsさんはインターネット発カルチャーの代表のような立ち位置にいると思います。また、これからtofubeatsさんに影響を受けた次の世代も出てくると思うのですが。そんなtofubeatsチルドレン達にエールをお願いします。
まず、代表ではないです(笑)。インターネットは電車と同じで、新幹線が出来たから東京行けるようになりましたっていうのと似てて、たまたまこの電車に一番最初に乗ったのが自分だったというだけです。自分はいつ降りるのか分からないけど、次に出てくる子達はもう自分たちのインターネットの世界の子達ではない。自分らが新幹線世代なら次の子はリニア世代だから、エールもなにも違ったものになると思う。違うなりに尊敬してくれるかもしれないけど。彼らは彼らなりに自分が正しいと思うことをやったほうがいいと思うし、その上で参考になりそうなことはしてあげたいし、「参考にならへん、邪魔や」って言われたらどくし。優しい目線を持っていたいです。前にThe Otogibanashi’sのVaVaくんがメールの画面を見せてきて、それが僕からのメールだったんですよ。全然覚えてないんですけど(笑)、VaVaくんが僕にトラックメイクのやり方とか機材についてメールで聞いたことがあるらしいんですよ。僕は多分老婆心で「これを使ってるよー」なんて送ってたんですけど。それでその日、VaVaくんが今日初めて一緒に出演出来たんです、って言ってメール画面を見せてくれて。で、僕、実は昔DE DE MOUSEさんに全く同じことをやってもらったことがあるんです。送ったデモにめっちゃ長い感想をくれて。今もデデさんにはお世話になってるし、きっとそういうことなんだろうなって思うから、エールとかじゃないけど、「頑張ってたらいいことあるで」って言いたい。
(2014年9月29日、ワーナーミュージック・ジャパンにて)
インタビュー・文:和田瑞生
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行っている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。
■リリース情報
アーティスト:tofubeats
タイトル:First Album
発売日:2014年10月2日(木)
【収録曲】
Disc1
M1 20140809 with lyrical school
M2 #eyezonu
M3 poolside feat. PES(RIP SLYME)
M4 Come On Honey! feat. 新井ひとみ(東京女子流) & okadada
M5 ディスコの神様 feat. 藤井隆
M6 おしえて検索 feat. の子(神聖かまってちゃん)
M7 CAND¥¥¥LAND feat. LIZ
M8 朝が来るまで終わる事の無いダンスを(Album version)
M9 Populuxe
M10 zero to eight
M11 framed moments
M12 content ID
M13 Her Favorite feat. okadada
M14 Don’t Stop The Music feat. 森高千里(Album Version)
M15 way to yamate
M16 衣替え feat. BONNIE PINK
M17 ひとり
M18 20140803
disc2(Instrumental disc)
M1 #eyezonu (Instrumental)
M2 poolside feat. PES(RIP SLYME) (Instrumental)
M3 Come On Honey! Feat. 新井ひとみ(東京女子流) & okadada (Instrumental)
M4 ディスコの神様 feat. 藤井隆 (Instrumental)
M5 おしえて検索 feat. の子(神聖かまってちゃん) (Instrumental)
M6 CAND¥¥¥LAND feat. LIZ (Instrumental)
M7 朝が来るまで終わる事の無いダンスを(Album version) (Instrumental)
M8 Her Favorite feat. okadada (Instrumental)
M9 Don’t Stop The Music feat. 森高千里(Album Version) (Instrumental)
M10 way to yamate (Instrumental)
M11 衣替え feat. BONNIE PINK (Instrumental)
M12 ひとり (Instrumental)
M13 20140803 (Instrumental)
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※disc2にはdisc1のインストトラック収録
○通常盤
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