INTERVIEWSAugust/19/2024

[Interview]Lusine - “Long Light”

 テキサス出身のプロデューサー、Jeff McIlwainによるソロ・プロジェクト、Lusine。昨年9月に〈Ghostly International〉より最新アルバムとなる『Long Light』をリリースしており、同レーベルからは、2003年にEP『Push』、2004年にアルバム『Serial Hodgepodge』をはじめ、2013年には『The Waiting Room』、2017年には、大きな注目を集めた「Just a Cloud」が収録された『Sensorimotor』を発表するなど、長年に渡り、音楽家/プロデューサーとして、トップレベルでの活動を続けている。

 Lusineは、2024年8月30日のCIRCUS Tokyoでの東京公演を皮切りに、31日にSoup、9月1日にCIRCUS Osakaで大阪公演を実施するジャパン・ツアーの開催が発表されている。およそ11年ぶりとなる今回の来日公演を控える彼に、インタビューを行った。

__カリフォルニアの大学でサウンドデザインを学んだとのことですが、音楽制作を始めたきっかけについて教えてください。

私はカリフォルニア芸術大学(California Institute of the Arts)で、「ニューメディア・コンポジション」というプログラムを学びました。このプログラムには、現代音楽や実験的なコンピュータ・プログラミングとともに、サウンドデザインが組み込まれていたんです。大学の映画学科でも多くの時間を過ごしましたね。私は若いころから音楽に夢中でした。でも、90年代初頭にエレクトロニック・ミュージック・シーンが本当に大きくなったとき、こうしたサウンドがどのように作られているのかを理解したくなり、その世界に飛び込んだんです。

__先ほどの質問と重なる部分があるかもしれませんが、改めてLusineというアーティスト名で活動を始めた理由や、その名前に込めた意味について教えてください。

単純に面白い言葉を探していたんです。するとフランス語の「l’Usine」という単語が、その意味となる「The Factory(工場)」とはだいぶ違う響きを持つという点で、本当に面白いと感じました。そういった美的な対比が気に入ったので、そのまま使うことに決めました。当時の私の音楽的アプローチとなんとなく合致しているような気がしたんです。

__〈Hymen Records〉から2002年にリリースされた『Iron City』や、〈Ghostly International〉から2004年にリリースされた『Serial Hodgepodge』など、IDMの要素が強い楽曲が多く見られます。これらの楽曲には、現在に通じる電子音楽としてのダンスミュージックのスタイルが確立されています。当時、どのような意識で音楽制作を行っていたのでしょうか。

そうしたシーンの一部にあった、いくつかのサウンドには興味があったと思います。でも、正直なところ、自分は“IDM”ムーブメントの外側にいるような気がしていました。私は “感動させる”ために作られた音楽には興味がなかったんです。したがって、私が目指していたのは、そういったタイプのサウンドを使いながらも、もう少し催眠的というか、瞑想的というか、過度にプログラムされていないものだったと思います。『Iron City』から『Serial Hodgepodge』への移行は、よりアンビエントなアプローチから、いくつかのジャンルの要素を一度に取り入れたアルバムへの移行だったように思います。もちろん、当時は何人かのアーティストから影響も受けていました。

__YouTubeで再生数が120万を超える「Tow Dots」をはじめ、2003年の「Push」、2005年の「These Things」など、2000年代に多くのクラブ・クラシックをリリースしていますが、当時の作品の独創性について、制作者としてのあなたの考えを聞かせてください。

これらは当時、やってみたいと思っていたスタイルでした。「Two Dots」は、ある意味、嬉しい偶然でしたね。Viljaのヴォーカル・レコーディングをハードディスクに数年間保存していたんです。「Push」に関しては、当時の心境を思い出すのは少し難しいですね。ダークでアトモスフェリックなエレクトロに興味があったんだと思います。でも、当時聴いていたたくさんのエレクトロよりも、もう少しソウルフルなものに興味があったかもしれませんね。2000年代前半は、ジャジーでアトモスフェリックな短くて鋭い音のトラックが多くて、こうしたサウンドが作り出すムードがとても好きでした。だから、これをどうにかしてエレクトロのトラックに取り入れたかったんです。「These Things」には、Akufenが数年前に完成させたカットアップ・ハウスのような雰囲気があるんですが、この頃、そういうプログラミングを少しやっていたんです。

__今年5月にジャパンツアーを行ったLoraine Jamesは、あなたやTelefon Tel Avivの存在が自身の音楽性を形成するきっかけになったとインタビューで述べています。あなたの音楽が後に続くアーティストたちに影響を与えていることについて、どのように感じていますか。

とても嬉しいですね。そう言ってもらえるのが本当に嬉しいです。というのも、私たちの音楽も同じように、以前の音楽からの影響を受けているからです。彼女の音楽は、私の音楽とは全然違いますよね。それでも、彼女が自分のスタイルに影響を見出してくれているのは嬉しいことです。

自分の声を見つけるために、どんな創作活動でも戦い続けなければならないという考えがあり、その過程はかなり混乱することもありますが、忍耐強くあれば道は開けます。

__昨年、最新アルバム『Long Light』をリリースしましたが、制作過程で特に意識したテーマやコンセプトはありますか。

そうですね。このアルバムは、忍耐について、そして音楽的に自分が歩んできた道を思い出すことについてたくさんのことが語られています。Tom(Benoît Pioulard)の「再び秋の訪れを告げる長い光」という歌詞は、この曲を制作しているときの私の気分にぴったりだと感じました。秋は大好きな季節で、私にとって最もクリエイティブな時期のひとつなんです。そして、自分の声を見つけるために、どんな創作活動でも戦い続けなければならないという考えがあり、その過程はかなり混乱することもありますが、忍耐強くあれば道は開けます。もちろん、この考えはパンデミックの時期の生活とも関連しています。

__リードシングル「Zero to Sixty」はミュージックビデオも公開されていますが、この楽曲について詳しく教えてください。

私が行ういつものヴォーカル・コラボレーションと同じように、私はただ大まかなアイデアを思いついて、Sarah Jaffeに送りました。彼女はSNSの投稿で私について言及してくれていて、私は彼女のヴォーカルと作曲のスタイルが本当に好きだったので、一緒にいい楽曲が作れると思ったんです。彼女の曲は人間関係や、地に足をつけて生きることへの葛藤について歌っていますが、彼女はその意味について少しだけもっとよく理解しているのではないかと思います。私はただ、彼女の奥深いヴォーカル・スタイルにマッチするような、一定のキャッチーなベース・グルーヴを持った曲を作りたかっただけなんです。

__今回の公演では、サポート・ドラマーとしてTrent Moormanが参加するライブセットも発表されていますが、ツアー中のパフォーマンスに向けて、どのようにセットリストを考えていますか。

私たちは遠く離れた距離で仕事をしています。彼は、私のレコーディングを内面化して、音楽に加える方法を考えるのがとてもうまいんです。彼は私が演奏してきた曲の多くを知っていて、それを私がアップデートしていくだけなんです。それと彼は、より実験的なノイズを奏でる楽器もたくさん持っています。

良いか悪いかは別として、私はあまりツアーをしないんです。なので、スタジオで多くの時間を過ごしています。普段から、私は音楽を作ることを決して止めないんです。

__2010年代に入っても、2013年の『The Waiting Room』や、「Just a Cloud」が収録された2017年の『Sensorimotor』など、常に印象深く独創的な作品をリリースし続けています。20年以上のキャリアの中で、自身の音楽性や芸術性を高いレベルに維持するために、どのような点を心がけてきたのでしょうか。

ありがとうございます。そうですね、良いか悪いかは別として、私はあまりツアーをしないんです。なので、スタジオで多くの時間を過ごしています。普段から、私は音楽を作ることを決して止めないんです。ひとつ助けになっていると思うことは、リリースを特定のスタイルに当てはめようとしないことですね。そのときにしっくりくる曲を書くだけなんです。それと、とてもこだわりが強いので、1曲を仕上げるのに2か月かかることもあります。というのも、気に入るまで何度も変え続けるからです。心から気に入らない曲をリリースすることはできないんです。

__今後のプロジェクトや自身の音楽の未来についてのビジョンを教えてください。

最近はアンビエント・ミュージックを作曲しています。目標は、アンビエント・アルバムを1枚書いて世に出すことです。でも、“普通の”アンビエント・アルバムにはならないと思います。どうなるかわかりませんが、以前リリースした『Language Barrier』の続編のようなものにしたいと思っています。それ以外では、「Just a Cloud」「Not Alone」「Zero to Sixty」の映像の監督を担当してくれた、友人のMichael Reisingerのために、映画音楽を作るのを楽しみにしているところです。

LUSINE JAPAN TOUR 2024

LUSINE 東京公演①

feat. live drumming
日程:8/30(金)
会場:CIRCUS Tokyo
時間:OPEN 19:00 / START 20:00

料金:ADV ¥4,800 / DOOR ¥5,300 *別途1ドリンク代金700円必要
出演:

LUSINE (feat. live drumming)

Eli Walks

前売りチケットのご購入はこちらから:
https://www.artuniongroup.co.jp/plancha/shop/?p=3165

LUSINE 東京公演②
solo set
日程:8/31(土)
会場:Ochiai Soup
時間:OPEN 18:30 START 19:00
料金:ADV ¥4,500 / DOOR ¥5,000

出演:
LUSINE (solo set)
Inner Science

前売りチケットのご購入はこちらから:
https://www.artuniongroup.co.jp/plancha/shop/?p=3165

LUSINE 大阪公演
feat. live drumming
日程:9/1(日)
会場:CIRCUS Osaka
時間:OPEN 18:00 / START 19:00
料金:ADV ¥4,500 / DOOR ¥5,000 *別途1ドリンク代金700円必要

出演:
LUSINE (feat. live drumming)
Kafuka

前売りチケットのご購入はこちらから:
https://www.artuniongroup.co.jp/plancha/shop/?p=3165

We heard that you studied sound design at the University of California. Could you tell us what inspired you to start music production?

I studied in a program called “new media composition” at California Institute of the Arts. It incorporated sound design with modern music and some experimental computer programming. I also spent a lot of my time in the film department at Calarts. I think I was always very into music from a young age. But, when the electronic music scene got really big in the early nineties, I just dove deep into it trying to figure out how these sounds were being made.

There might be some overlap with the previous question, but could you explain why you chose to start performing under the artist name Lusine and the meaning behind that name?

I was just kind of searching for interesting words, and I found that the French word l’Usine was really interesting in that sounded much different from it’s definition: The Factory. I kind of liked that aesthetic counterpoint, so I went with it. I felt like it somewhat matched my musical approach at the time.

Many of your tracks, such as ‘Iron City,’ released in 2002 on Hymen Records, and ‘Serial Hodgepodge,’ released in 2004 on Ghostly International, have strong IDM elements. These tracks established a style of dance music that continues to influence electronic music today. What was your approach to music production at that time?

I think I was interested in some of the sounds that were part of that scene. But, I always felt a little on the outside of the “idm” movement to be honest. I was never into music that was made to “impress.” So, I think what I was going for was something that used some of those types of sounds, but was going for something a little more hypnotizing or meditative, less overly programmed. I think my transition from Iron City to Serial Hodgepodge was to go from a more ambient approach to an album that incorporated elements from a few genres all at once. Of course I was also being influenced by a few different artists at the time as well.

From ‘Tow Dots,’ which has over 1.2 million views on YouTube, to ‘Push’ from 2003 and ‘These Things’ from 2005, you released many club classics in the 2000s. What are your thoughts on the originality of your work from that period as a creator?

These were just styles that I was interested in diving into at the time. Two Dots was kind of a happy accident. I had the vocal recording sitting on my hard drive from Vilja for a couple years before I re-visited it. For Push, it’s a bit hard to remember my mindset at the time. I think I was just interested in sort of dark, atmospheric electro. But, something maybe a little more soulful than what I was hearing from a lot of electro at the time. During the early 2000’s a lot of tracks had these sort of jazzy atmospheric stabs and I really liked the mood that this sound put you in. So, I wanted to somehow incorporate this into an electro track. “These things” had that sort of cut-up house vibe that Akufen had perfected a few years before, so I was doing a little of that sort of programming around this time.

In our interview, Loraine James, who toured Japan this past May, mentioned that your work and Telefon Tel Aviv were pivotal in shaping her own musical style. How do you feel about your music influencing artists who come after you?

I love it. I love hearing that. Because all of our music is coming from certain influences before. And her music is so different from mine! But, I’m glad she finds something in it that has influenced her style.

Last year, you released your latest album, Long Light. Were there any particular themes or concepts that you focused on during the production process?

Yes. I think this album is a lot about patience, and kind of remembering that path you’re on, musically. Tom’s lyric “long light signalling the fall again” felt right for the mood I was in while producing this track. Fall is my favorite season, and it’s one of the most creative times for me. And there’s just this idea that you have to keep fighting through the struggle of finding your voice in any particular creative endeavor, and the process gets quite confusinbg, but there is a pathway if you can be patient. And of course, this kind of related to life during that pandemic time as well.

The lead single ‘Zero to Sixty’ also has a music video released. Could you tell us more about this track?

As with all of my vocal collaborations, I just sort of came up with a rough idea and sent it to Sarah Jaffe. She had mentioned me in a social media post, and I just really loved her vocal and writing style, so I thought we could make a good track together. I believe her song is about relationships and struggling to stay grounded, but I think she knows the meaning behind that a little bit more. I just wanted something that had kind of a constant, and catchy bass groove that could match her deep vocal style.

For this performance, it has been announced that Trent Moorman will be joining as the supporting drummer. How are you approaching the creation of the setlist for the tour?

We work long distance. He’s really good at kind of internalizing my recordings and then figuring a way to add to the music. He knows a lot of the tracks I’ve been playing and then I just update him as I go along. He’s got a lot of more experimental noise making instruments that he takes with him as well.

Even into the 2010s, you continued to release consistently impactful and original work, such as The Waiting Room in 2013 and Sensorimotor in 2017, which includes ‘Just a Cloud.’ Over your 20-year career, what have you focused on to maintain a high level of musicality and artistry?

Thank you. Well, I don’t tour very much for better or worse. So, I’m spending a lot of time in the studio. And in general, I just never really stop making music. One thing that helps is that I don’t try to fit a release into a very specific style. I just write the tracks that feel right at the time. I also am just very picky. It might take 2 months to finish a track, because I’m constantly changing it until I really like it. I can’t release a track that I am only half-hearted about.

Could you share your vision for future projects and the future of your music?

I’ve been writing some ambient music lately. The goal is to write one ambient album and get it out there. But, I don’t think it’s going to be a “standard” ambient album. I don’t know how it will turn out, but I want it to be some sort of a sequel to the last one I wrote, “Language Barrier.” Outside of that, I’m looking forward to working on a film score for my friend Michael Reisinger’s film, “Giant Void.” He was the director behind the “Just a Cloud,” “Not Alone,” and “Zero to Sixty” videos.

Photo credit Alley Rutzel

インタビュー・翻訳・文:東海林修(UNCANNY)