INTERVIEWSNovember/24/2016

[Interview]yahyel – “FLESH AND BLOOD”(Part.1)

__今作『FLESH AND BLOOD』では、「ディストピア性を押し出している」として、そのインスピレーション元としてサイバーパンクの作品をいくつか挙げています。現代の音楽シーンでは、所謂ユートピアの世界観を歌うアーティストが多い中、今皆さんがディストピア性を表現する目的はなんですか?

池貝:そこの対比があるからディストピア性を表現しているわけではないです。今ユートピアが歌われるものがメインストリームだからっていう構図ではないんですけど、単純に捉え方として、僕らはちゃんとそっち側を表現しないとリアリティがないというか。僕たちがやっていることに対して自分でリアリティを感じられないんですよね。

杉本:僕らは単純にユートピアに対して疑問を感じているから、こういう考え方もあるんだよって提示しているというか。

池貝:多分さっき言っていたことにも繋がると思うんですけど、洋楽邦楽の区切り方とか、日本っていう国のイメージに付帯しているものとかって多分僕らの感覚からすごくかけ離れていて。今ここで具体的にこういうことっていうのを挙げるのもナンセンスなので言わないですけど、自分たちがこうするべきだって言われていること自体に違和感みたいなものを感じていて。

多分それって日常を生きていれば僕は感じることだと思うんですよ。それは僕たちがバンドを始める前から普通に生きてきた中でもそういうことってあって。何となく、そういう人達が集まって出来たバンドだっていうのもありますし。生き辛さみたいなものって絶対に僕らの世代にはあるんじゃないかなって。そっちの方がリアリティがある。

篠田:ユートピアとディストピアって一見対極なものに見えて、実は紙一重なものだと思っていて。例えばオルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』(1932)っていうSF小説があるんですけど、一応ディストピア小説って言われてるんです。でもその中の世界ってめちゃくちゃユートピアなんですよね。皆生まれつきやるべきことを与えられていて、辛いことがあってもソーマっていう麻薬が与えられて皆ハッピーになれる世界。それってすごくハッピーじゃないですか。皆それを疑わないように出来ていて、疑わないからこそそのユートピアが成り立っているんですけど、それって僕らのような疑ってしまう人間にとってはものすごくディストピアというか。生き辛いんですよね。

『すばらしい新世界』の主人公達もそのユートピアの中で生きているんだけど、その世界のことを疑い始めて、結果的に辛い運命に遭うんです。僕らが描きたいのってそういうディストピアなのかなって。ユートピアなんですけど、その中にいる、疑ってしまう人達の辛さというか。

池貝:ひっくり返せたら最高ですけどね、そういう感覚を。要するにそこの部分で何が辛いかって、具体的に言うと多分最初から決まっていること。僕らが生まれてから既に当たり前になってしまっていることとか。本の世界では一時代を切り取っていて、その時の時代はこうっていう話をしているので特に違和感なく世界が成り立っていると思うんです。けど僕らが生きてる現実世界ってそれぞれの世代の中で全然違う価値観があって、環境もすごく変わってきている。

多感な時期じゃないですけど、自分たちが若いうちに経験していることも全然違う状況の中で、価値観って変わっていくべきだと思っているけど、それが中々変わらないことにフラストレーションを感じている人って絶対にいると思うんです。特にこの国では。自分達が生きている環境の中で当たり前になってしまっていることを疑う世代の旗を振りたい。疑って良いんじゃないかっていうことを肯定する表現があって良いと思うし、それこそ本の世界でもそうですけど、疑う人間がいないと波が起きない。このまま日本人としてのコンプレックスを持ったまま日本という国全体がすごくドメスティックな環境の中で同じ幸せを享受する世界になってしまうのは、単純に悲しいじゃないですか。

__ディストピア作品で描かれる世界は、すでに私たちの身近なものになっているようにも感じます。今このタイミングでその世界観を歌うのは、それに警鐘を鳴らす、というような意図でしょうか?

池貝:正直僕達は世界を変えたいとか問題提起をしたいとかではないんですよ。幸せな人は幸せで、それでいいじゃないですか。ただ一度疑問や違和感を持ってしまったら無視出来ない部分って結構あると思うんです。そこを揺り動かしたい。

そこによって変わっていくものって、多分彼らが自分たちで気付いて変わっていくことだと思うんです。それで段々そういう人口が増えていくものだと僕は思っているので。その先にそういう人が増えていくと、自分たちで定義していくしかないような新しい環境になる筈だと思うんですよ。今までそこまで到達出来ると思ってなかったようなことがその疑問の先に起きてくると思います。

そういう感覚は確かに僕にもあるんですけど、今生きている世界ではそれがすごく少ないというか、刺激がすごく少ない部分はありますし、そこに対する怒りっていうのは間違いなくあります。でも別に表現ですから、全ての表現が何かを変えないといけないわけではないし、それを表現すること自体に意味があると僕は特に思いますね。

篠田:そうだね、変える為に大声で叫びたいとかそういうことではなくて。それこそ『マトリックス』のモーフィアスが赤のカプセルと青のカプセルを差し出して「どちらを飲むの?」ってこっそり言っているくらいの感じだと思って頂けたら。

杉本:好きだからやってるっていう方が強いです。

池貝:簡単に言えばその世界が好き。皆が覚醒した世界の方が楽しいと僕らは思うし、それを選び取ったが故の怒りというか、自分達が持った感情を落とし込みたいって考えてますね。

Part.2)に続く

yahyel_fleshandblood

FLESH AND BLOOD:
1. Kill Me
2. Once
3. Age
4. Joseph (album ver.)
5. Midnight Run (album ver.)
6. The Flare
7. Black Satin
8. Fool (album ver.)
9. Alone
10. Why

UPDATE: 公開当時、タイトル表記に誤りがありました。訂正してお詫び申し上げます。

取材・文: 成瀬光
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。青山学院大学総合文化政策学部在籍、音楽藝術研究部に所属。