ARTICLESAugust/22/2014

On Beat! (3)by Chihiro Ito – Ramones “Ramones “

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 ギターのダウンストロークと筆のダウンストロークは似ている気がします。

 10年前、23才だった僕は8月に阿佐ヶ谷の西瓜糖(すいかとう)という現代美術の作品を展示する喫茶店で初めての個展を行いました。その喫茶店はガラス張りで外から丸見えでした。店内はグレーと黒が基調で俗に言う、入るのに勇気のいる喫茶店でした。僕は1ヶ月にわたり、2回の全く違う作品で個展をおこないました(その時は、たしかホフク前進する銃を持ったネイティブ・アメリカンのおもちゃを描いた作品と、ペンキの缶や道に咲いていたハイビスカスなどの身の廻りのものをモチーフに描いた作品を展示しました)。

 ちょうどその頃、僕は絵を描くためのトレーニングとして作品を描き始める前に100本ちかくの線を引いてから作品を描いていました。その時、アトリエにギターをおいていて、筆を持って絵を描いたり、ギターで曲を弾いたり、かわるがわる行っていました。その時に良く弾いていた曲の一つに、今回取り上げたラモーンズのファースト・アルバムの一曲目の「Blitzkrieg Bop」があります。

 ラモーンズは1974年にニューヨークで結成された4人組のバンドです。全てのメンバーの姓にラモーンがつきます。ファースト・アルバムの『Ramones』が発売されたのは1976年でした。殆どの曲がエイト・ビート。3〜4つのコードしか使っていない2分程のシンプルな曲はまるでバンドが、「細かい事なんか、気にするなよ」と言っている様です。そして、ライブではベーシストが大抵、曲の頭に「1, 2, 3, 4!」と叫びます。

 この様な音楽スタイルは今で言われているパンクロックのスタイルそのものです。余り技術が無くても演奏できるこのスタイルは、ラモーンズが先駆けでした。そして、バンドが活動した期間の20年間の中で発表した14枚のオリジナルアルバムは始終、そのスタイルが貫き通されていることにも驚きました。

 取りたての野菜をかじると頭がしゃっきりとした気分になります。また、絵画や音楽にもそのような鮮度が存在すると思います。僕はこのラモーンズのファースト・アルバム(当時、レコーディングの予算が6,400ドルしか無かったので録音のチャンネルが4つしかありません。これらはヘッドホンなどで聞くと良くわかります。特に、ステレオの左のベースの音と右のリードギターの音がはっきり別れて鳴っています)を最初に聞いた時に、音の鮮度のようなものを感じました。

 ちなみに、一曲目の「Blitzkrieg Bop」の”Blitzkrieg”とはドイツ語で「電撃作戦」や「大それた計画」のことだそうです。「Bop」は様々な意味があるのですが、歌詞の内容から考えると「進む」です。そして、このバンドのマネージャーは前回紹介した、MC 5のプロデューサーでもあるダニエル・フィールズ(MC 5のレコードジャケットにフォー・ワードを印刷し、レコード会社を解雇されたという凄い経歴の持ち主)というのも納得しました。

 ラモーンズのギタリスト、ジョニー・ラモーンはギターを弾く時にほぼ全ての曲をダウンストロークで演奏します。そのように演奏すると、ギターの音がエッジの効いたものになります。

 筆で線を描くときは、大抵ダウンストロークで描きます。そうすると、線の描きはじめから描き終わりまでをコントロールしやすくなります。それは、まるでジョニー・ラモーンがダウンストロークのみでギターを弾く様に!


*先月、亡くなったラモーンズの初代ドラマー、トミー・ラモーン(「Blitzkrieg Bop」の作曲者)にこの絵を捧げます。


文・画:伊藤知宏
1980生まれ。阿佐ヶ谷育ちの新進現代美術家。東京、アメリカ(ヴァーモント・スタジオ・センターのアジアン・アニュアル・フェローシップの1位を受賞)、フランス、ポルトガル(Guimaranes 2012, 欧州文化首都招待[2012]、O da Casa!招待[2013])、セルビア(NPO日本・ユーゴアートプロジェクト招待)、中国を中心にギャラリー、美術館、路地やカフェギャラリーなどでも作品展を行う。9月20日〜10月13日までZUSHI ART SITE 2014に招待され出品予定。東京在住。”人と犬の目が一つになったときに作品が出来ると思う。”

HP: http://chihiroito.tumblr.com/

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Artist: Ramones
Title: Ramones
Release Date: 1976/4/23
Label: Sire Records