ARTICLESOctober/27/2017

[21]On Beat! by Chihiro Ito – The Misfits “Static Age”

怖いけど、みたい。
みたいけど、やっぱり怖い。

10月のある日、僕はアメリカの東海岸に滞在していました。

成り行きから、参加する事になったニューヨークの6番街のハロウィン・パレードでは、仮装が必須条件でした。

当時、居候させてもらっていた家の家主は、同じ世代のアーティストでした。彼らは、お金も材料も時間もない僕に、「アーティストなんだから自分でなんとかしなさい」と言ったのでした。結果的に、外に落ちていた段ボールとマジックでなんとか仮装し、ハロウィン・パレードに参加しました。

今回は、そんなDIY(Do It Yourself!=自分自身でやれ!の略)精神あふれるちょっと怖いバンドを取り上げようと思います。

The Misfitsはパンクムーブメントも去り始めた1977年4月にアメリカのニューヨーク州の隣のニュージャージー州でGlenn Danzig(ヴォーカル)、Jerry Only(ベース)、Manny Martínez(ドラム)によって結成されました。彼らはホラー要素の強いパンクバンドで、バンド名はマリリン・モンローの遺作になった映画、『The Misfits (邦題:荒馬と女)』(61年・アメリカ)から取ったそうです。結成当初は作曲のDanzingが歌とキーボードを演奏していました。しばらくして、Jerryの弟のDoyle Wolfgang von Frankensteinがギターリストとして加入し、4人編成になります。

ロック界でもっとも有名なドクロの絵のひとつに、公式に彼らのビジュアル・イメージになっている、”Fiend skull”(悪魔の様なドクロ)があります。このキャラクターはもともと、映画『The Crimson Ghost』(46年・アメリカ)のキャラクターを引用したもので、強烈なインパクトを持っています。他にも、ステージ上でのドクロの化粧をしたり、長い髪の毛をひとつに束ねて前に垂らす”devilock”という髪型を提言。また、Fiend Clubというファンクラブを立ち上げ、当初はDanzig本人によるDIYファッションやシルクスクリーンですられたTシャツ。音楽、バンドのグッズの作成。ファンメールに自身で答えるなど、内容はかなり充実した物になっていたそうです。

また、結成当初の彼らの音源は、シンプルな曲構成に、砂糖を沢山まぶした様な甘いメロディー、艶のあるヴォーカル、それらを実直に演奏する事で、成り立っています。それはまるで、50年代のロックン・ロールを70年代の音楽とをハイブリッドさせた様な音楽です。

それと、怪物の視点を通して語られる、エグイまでに暴力的な歌詞とが合わさって、それらは彼らの持つ、幻想的なイメージを造り出しています。

今回取り上げた、この『Static Age』(静的時代)というアルバムは、96年に棺桶型の4枚組のCD-Boxの1枚として発表された作品です。その後は97年にアルバム単体としても発表されました。

音質もあまり良いとは言えないこのアルバムですが、実は知る人ぞ知るアルバムで、78年に録音された、彼らの実質1枚目のアルバムになるはずのものでした。しかし、録音を終えたものの、低予算の為、重ね録りなし。その後はレコード会社が見つからない。その間にバンドのイメージが徐々に固まる事により、当初のイメージから少しずつずれてしまい、発表が棚上げ状態になったそうです(The Misfitsホームページ内のオフィシャル・ディスコグラフィーによれば)。

The Misfitsはその後、2枚のアルバムを発表。83年に解散し、各自はそれぞれの活動を行うようになります。Danzigは、自身のバンドの他にも、『Static Age』の音源に新たにギターやベースを録音した、『Legacy of Brutality』(85)という編集版も発表したりもしました。

それだけ、『Static Age』にはバンドの代表曲が沢山入っています。”Last Caress”(最後の抱擁)、”Hybrid Moment”(混ぜ合わさった瞬間)、”Attitude”(姿勢)などがそうです。

この時代の曲はMetallicaやGuns N’ Roses、Green Day、Blink-182をはじめとした、沢山の後続のバンドにも何度もカヴァーされています。小さなライブハウスで演奏していた、初期の彼らの楽曲を、スタジアムで大規模なライブをするようなバンドが演奏すると、いい意味で、キッチュな違和感があり、不思議な空気につつまれます。

それらの後続バンドへの後押しが発端となってか、97年にはDanzig不在で、新メンバーにより、再結成され、新曲のみのオリジナルアルバム『American Psycho』を発表。次のアルバム、『Famous Monster』(99年)というアルバムの楽曲、”Scream!”のミュージック・クリップは遂に、『Night of the Living Dead』(68年・アメリカ)の監督、George A. Romeroが制作。その後は、メンバーを少しづつ変えながら、2017年現在はDanzigも参加したオリジナルメンバーで、ツアーを行い精力的に活動を続けています。

このバンドは、現代美術のアーティストでいうと、カラ・ウォーカー(1969-/アメリカ)を思い出します。彼女の作品には、黒いシルエットのみを描く、ちょっと怖い、ストーリー性のある壁画作品が有名です。

その、制作者側の攻撃性や、ブラックジョークが、存在できる空間自体が、多様な価値観を肯定している様に思えてなぜか自由な空間に感じてくるという所が似ていると思ったのが、その理由です。

このアルバムも、97年のハロウィンに日の目をみてから、今年で20年経ちます。

僕がこの時期にいつも思い出すのは、アメリカにいた頃に、ビザを延長するためにスポーツカーで親友とアメリカから国境を越えて、カナダに行く途中に見た、永遠と続く広大な畑。そこに、まるでアクセントの様に点在していた、オレンジ色の巨大なかぼちゃ群と乾燥した空気です。それらを今も忘れられません。

こんな所にも、ハロウィンやロックの原風景がある様な気がしてならない。

Artist: The Misfits
Title: Static Age
Release date: 14/July/1997
Label: Caroline Records

HP: http://chihiroito.tumblr.com

文・画:伊藤知宏
1980生まれ。阿佐ヶ谷育ちの新進現代美術家。東京、アメリカ(ヴァーモント・スタジオ・センターのアジアン・アニュアル・フェローシップの1位を受賞)、フランス、ポルトガル(欧州文化首都招待[2012]、O da Casa!招待[2013])、セルビア(NPO日本・ユーゴアートプロジェクト招待)、中国を中心にギャラリー、美術館、路地などでも作品展を行う。谷川俊太郎・賢作氏らともコラボレーションも行う。11月にギマランイス歴史地区(ポルトガル)のCAAAで作品展。11月にキプロス共和国のBuffer Fringe Festivalに日本人の画家としてはただ1人召集され、国境が分断された首都のニコシアで作品を発表予定。東京在住。”人と犬の目が一つになったときに作品が出来ると思う。”