ARTIST:

tofubeats

TITLE:
ディスコの神様
RELEASE DATE:
2014/4/30
LABEL:
Warner Music Japan
FIND IT AT:
Amazon,
REVIEWSJune/04/2014

[Review]tofubeats | ディスコの神様

 今年4月、大阪のクラブ「NOON」の風営法違反をめぐる裁判において無罪判決が下った。そして最近、風営法において「ダンス」を対象外とする動きが出てきている。この一連の事件はすでに散々語られた出来事にも感じられるが、体制に対するダンスという人間的本能の勝利だとか、「風営法」という悪しき法が見直される時が来たとか、ともかく、クラブというシステムにおいて一つ象徴的な出来事であることには変わりない。

 さて、人々が勝ち取ろうとしたダンスとは、踊りそのものというよりも、クラブという閉ざされた空間で生きるための「権利」であるとも言える。お酒を飲み、大音量で流される音楽に合わせて身体を揺らし、人々とのコミュニケーションを図る行為とは、舞踊としてのダンスというより、言うなれば生命のダンスである。いささかロマンチックにも聞こえる響きだが、閉ざされた非日常的な空間で展開される人間性というのは、むしろもっと本能的なものである。少なくとも、ダンスを楽しむための健全な空間としてクラブを定義するよりも、音楽と身体を通じた人間関係、もしくは音楽と自己との根源的な対話を楽しむ空間として説明した方がより正しいような気がする。そしてそんな話は「ライブハウス」にも言えることだし、音楽を別の要素に入れ替えればそんな空間は数多く存在する(映画館も劇場も、居酒屋だってそうだろう)。

 とにかく、クラブは非日常的な交流空間として機能している。しかし、その空間の主役として大声を張り上げ続けている音楽は、人と人をつなげるツールであると同時に、人々の会話を物理的な音量で妨げるわがままな喋り手であるかもしれない。踊り疲れた僕たちは、閉ざされた空間を抜けだして始発まで時間を潰すか、その中で体の休まる空間を探して彷徨う他ないのである。午前4時、バーカウンターで最後の一杯を注文し、疲れた身体を誤魔化しながらそれを飲み天井を仰げば、そこには煌々とフロアを照らすミラーボール。そしてその下で騒ぎ続ける人々。さっきまでなんとなく見とれていた可愛いあの子は見当たらない。きっと一緒に来たらしい男と一緒に消えてしまったのだろう。それでもフロアを照らし続けるミラーボールは、残った人々を逃さぬように回り続けている……そんな経験があったりはしないだろうか。

 神戸からインターネットカルチャー、そして音楽業界を驚かせ続けるtofubeatsがリリースしたメジャーセカンドEP『ディスコの神様』とは、そんな僕たちの音楽である。デスクから動けず、夜の向こう側の非日常を夢見る僕や、一夜限りの異常な恋を繰り広げる僕、そして、そうやって過ぎていった恋や幻に思いを馳せる僕……アッパーなチューンやごきげんなディスコナンバーに彩られるのは、非日常と日常を彷徨う僕たちである。クラブで「生命のダンス」を繰り広げる人々、夜通し音楽に身を委ね続ける人、そして、そこでも主役になれない僕らの真上で、「ディスコの神様」であるミラーボールは煌々と輝き、回り続けている。そしてそれは、「ディスコの神様」のミュージックビデオにもわかりやすく表れている。ビデオの大部分に登場しているのは寝室とカフェ、そしてトイレの3シーンのみであり、藤井隆とtofubeatsが登場するシーンですら、舞台はディスコではなく、卓上サイズのミラーボールが置かれた一部屋である。日常的な空間から退場する女性たちと、日常的な空間での「ダンス」を繰り広げる藤井隆らの対比は、そのテンションとは裏腹に哀愁すら感じさせられる。

 『ディスコの神様』は若い面子をゲストに招き制作されているのも特徴である。M1「ディスコの神様」でコーラスを担当しているラブリーサマーちゃんとShiggy Jr.のいけだともこ、M2「Her Favorite」ではtofubeatsとのユニットDancinthruthenightsでも活躍しているOkadada、そしてリミックスを担当したCarpainterは、音楽シーンの次世代を担うであろうアーティスト達であると同時に、ラブリーサマーちゃんとCarpainterに至っては未成年(2014年5月現在)であることも驚きだ。特にCarpainterによるレトロフューチャー感溢れるリミックスは安定感すらある出来であり、彼が「24時の向こう側」へ思い通りに行けない年齢であることすら忘れてしまう。

 思えば、先日、5月5日のデイタイムに恵比寿LIQUIDROOMの全フロアを使って開催された〈Maltine Records〉主催のイベント「東京」も非常に若い人たちで溢れていた。そこでもちろんtofubeatsはライブを繰り広げていたし、リミキサーのCarpainter、ラブリーサマーちゃん、「Her Favorite」を共同で制作したOkadadaに加え、「マルチネ」から登場した数々のアーティストやDJも揃ってフロアを沸かせていた。クラブの常連や演者の友達、普段クラブへ遊びに行けない未成年、そしてインターネットを経由して音楽を愛してきた主役になれない僕たちがごちゃまぜになって、ネットレーベルをきっかけに始まった次世代の音楽を享受した。そんな「東京」で繰り広げられていたのは、間違いなくクラブの非日常そのもの(と同時に、インターネットの日常の一部)であったし、そのメインフロアの頭上でも、「ディスコの神様」は煌々と輝き続けていた。しかし、渋家の制作班を中心に制作された「お立ち台」の輝き、VJと照明のライト、そして何よりも1,000人もの熱狂により、その存在に気付く人は少なかったのだが。

文・和田瑞生


1992年生まれ。UNCANNY編集部員。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行なっている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。