
- INTERVIEWSAugust/04/2017
[Interview]Pa's Lam System – “Whatever”

2012年に『Space Calamari』をリリースして以降、日本の音楽シーンの若き先駆者として、指標となり続けた覆面3人組ユニットPa’s Lam System。そんな彼らが、遂にキャリア初のフル・アルバム『Whatever』をリリースした。シンガーソングライターの向井太一や、〈Maltine Records〉の盟友でもあるトラックメイカーPARKGOLFがアルバムに参加、そしてMasayoshi Iimori、HyperJuiceの2組がリミックスを提供する、まさしく「何でも」詰めこんだアルバムとなっている。
今までも様々なヒットチューンを連発し、日本を代表する知る人ぞ知るアーティストとなったことは明らかであるが、そのキャッチーさ故か、彼らの音楽に対する意識、どのようにしてこの音楽が生まれてくるのかについては知らないことも多いのではないだろうか。今回は、そんな彼らと、〈Maltine Records〉の主宰として様々なリリースを手がけ、今作『Whatever』等でも作品のディレクションに関わったtomad氏に話を伺った。
__前回のEP『TWISTSTEP』をリリースしたのが1年前の2016年7月ですが、その時点でアルバムを制作することは決定していたのですか?
ゆんぼ: うん。
じゅうでん: 本当は、(アルバムを)去年中に出そうという感じで制作してて。
tomad: 『TWISTSTEP』がシングルカット的な感じで、(アルバムの)先行で出てる、っていうイメージだったのが、結構時間かかったっていう(笑)。
__当初のリリース予定よりも遅れてしまった理由などはありますか?
じゅうでん: 厳しいですね(笑)。なんだろう、ちょっと色々やってみようとしたところはあって。
ゆんぼ: アルバムは、いつもの僕らの感じでもやりつつ、新しい方向とか自分たちのできることを結構模索した作品になったかな。「どういうことができるのか」とトライ・アンド・エラーで繰り返しながら作って。
tomad: 曲数も、元々もう少し多くしようと考えていたんですけど、結構ペースが遅れて。歌モノも初めてだったから、模索したりして。本当は「I’m coming」以外にも過去作のリメイクを入れようって話だったんですけど、それもなかなか時間がなく。ただ僕としては、前作から1年経つ前には出したいという気持ちがあって。現状のトレンドとかも見てると、あんまりアッパーじゃなくなってきているから、結構早めに出した方がいいのかなとも思いました。でも向井さんとの曲(「Don’t Give Up My Love」)とかは、今出して良い感じになったので良かったです。
__Pa’s Lam Systemとしては、音の幅的に色々なことに挑戦してきたイメージがありますが、今回のアルバムで、特に試行錯誤した楽曲はありますか。
ゆんぼ: 「Don’t Give Up On My Love」、あと「3D Rex」とかも。
じゅうでん: 四つ打ちを今までちゃんと作ったことがほぼ無かった。あと今回どっちかっていうともうちょいDJユースに作ったかな。今というかこの近辺の流行りとか、ちょっと前くらいの流行りって結構一見さんお断り感のある、曲の展開を覚えてクラブで踊ろうみたいな感じのものが多くて。でもそれって、初めて聴いた人でも乗れるかって言ったら微妙なところがあったんですよ。そこで、今回はなるべく初めて聴いた人でもわかりやすいというか、踊りやすいみたいなのは意識して作ったりしました。
__そういう方向転換があったんですね。
じゅうでん: やっぱ海外とかでやったりして、全然知らない人とかに自分達のオリジナル楽曲をやっても、踊りづらいとこあるなって。
ゆんぼ: でも一番大事にしたのは、聴いて自分達の曲ってわかるオリジナリティ。自分達も何がオリジナリティかっていうのはあんまりよくわかってない部分もあるから、その中で「こういう感じが自分達なんだな」っていうのを探しつつ作るみたいな、自問自答みたいな時間が長くて。それが良いか悪いかは別として、その一つのアンサーが今回の作品になっているかも。
__そうだったんですね。
ゆんぼ: そんなにアルバムを作るっていう意識ではなかった気がする。
__というと、コンセプチュアルというよりは、出来たものをまとめた、という性質のほうが近いですか。
ゆんぼ: とりあえず最初の、大きいテーマでいうと「遊園地感」というか、一つの場所に例えばメリーゴーランドがあればジェットコースターもあって、お化け屋敷もある、みたいなテーマかなというのは最初に話してた。
じゅうでん: まあ、アルバムのタイトル通りかな(笑)。
__今回のアルバムアートワークはGraphersRock担当ですが、そもそもロゴもGraphersRockさんが制作したものですよね。
tomad: (パズラムは)GrapherRockさんのデザインと多分相性がいいっていうのがあって。
ゆんぼ: タミオ(GraphersRock)さんとのミーティングは、材料を用意していくんじゃなくてテーマを用意して、ディスカッションというか、ブレストしながら会話からアイデアを出すっていうパターンが多くて。「これやばいですよね」っていう話から膨らませていくみたいな。で、最近のタミオさんのお菓子コレクションとか、事務所にいっぱい置いてあるお菓子とかから話が膨らんで、今回のジャケットに。
__それでお菓子なんですね。
ゆんぼ: それがパズラムらしいのかなと勝手に思って。そこらへんのスナック菓子みたいな感じで、こう、バリバリ食べてちょっと元気出たな、くらいでいいと思うんで。
__確かに、アメリカのお菓子みたいな雰囲気がしますよね。
tomad: あんまりそれを打ち出している日本のアーティストっていないから。
ゆんぼ: 繊細だったり孤独っぽいイメージを打ち出す人も多かったりするんですよね。
__メッセージ性とかをやっぱり考えちゃいますからね。
ゆんぼ: (メッセージ性は)一切ないですね(笑)。「カロリーが高いものは美味いだろう」って思って食う、みたいな。
__向井太一さんをフィーチャリングした「Don’t Give Up On My Love」が最初に公開されましたが、あの楽曲も、普段よりも王道感というか、複雑すぎない作り方をしているという印象がありました。
ゆんぼ: この曲は特にシンプルに作ろう、と。
tomad: (この曲は)英語楽曲でやろうみたいなのがまずあって。ただ海外のアーティストとやるのもある意味ちょっとリスキーだったので、僕が向井さんの楽曲を聴いて、英語詞もいい感じに歌えてるし、現行のダンスミュージックのノリとの相性もよさそうだったので、これだったら結構やりやすいんじゃないか、というのもあってお願いしました。
__パズラム的に感触はどうでしたか。
じゅうでん: 僕たちの曲って、メロディー先行で作っていく形のものが多かったから難しかったですね。今回は、先にトラックを作ってメロディーを乗せて、っていう感じで。自分たちが主導してボーカルを入れて作ったっていうのは初めてだったので(大変だった)。
__また、アルバムではPARKGOLFさんとの合作「Fireworks」が収録されていますが、過去に一度、RebBullStudioでの企画で合作されていました。今回はどんな分担で制作されたのですか。
じゅうでん: 最初にPARKGOLFに楽曲のイメージをもらって、その後に声ネタとかをこっちが仕込んで。それをPARKGOLFに加工してもらったものを、またパズラムで結構アレンジして。ドラムとかはほぼパズラム(の制作)で。
__なるほど。アルバムには「I’m Coming」のニューバージョンも収録されていますが、雰囲気がちょっと変わりましたね。
じゅうでん: ミックスとか構成自体はほぼ変わってないけど、ドラムとかシンセの音は結構変えてるかな。
tomad: 前のバージョンは初期衝動感があって、それはそれで良かったけども。
__原曲は、荒削りな音が凄いパワフルでしたが、ニューバージョンでも勢いが衰えずに、よりさっぱりとして帰ってきた感じがしますね。
ゆんぼ: Avec Avecさんのリミックスの影響も少なからず受けてますね(笑)。
__(「I’m Coming (Avec Avec Remix)」からの)逆輸入的な(笑)。
ゆんぼ: リミックスを聴いた時に、完全に原曲を超えてきたなって(笑)。
tomad: でもこのニューバージョンも、2017年中には出さないとな、と思ってて。この夏を過ぎると、結構トレンドも変わってくると思うし。
__やはりトレンドの問題はつきまといますね。そういう意味では、「3D Rex」のようなEDM系の楽曲は特に難しかったと思いますが。
ゆんぼ: これもチャレンジ系(の曲)で。
じゅうでん: この曲のリードの音作るのにどれだけかかったかわかんない(笑)。
ゆんぼ: ソフトシンセの音鳴らして、それをオーディオに書き出して、加工して……の作業を何回も繰り返して。
__難産だったんですね。逆に、勢いで作れた楽曲などはありますか。
じゅうでん: この中だと、「Space Coaster」か、PARKGOLFと一緒にやった「Fireworks」。「Fireworks」は一番パズラムぽい感じで作れたかな。共作だけど(笑)。逆に、共作だからこそパズラムっぽさ出さないとな、って感じだった。パーゴルにはバースの部分をほぼ任せていて。ビートの取り方とか細かい部分もパーゴルのニュアンスが含まれてて、ドロップはパズラムっぽさを押し出した感じになりましたね。
__やはりそこは独特の癖がありますよね。パズラムに関しても、「Space Coaster」の複雑なビートの組み方はやはり癖が出ているというか。
じゅうでん: 「Space Coaster」のハーフの速さで四つ打ち、みたいなビートが最近好きで。
__パズラムがああいう変則的なことをやってくれて嬉しいです(笑)。今作には、Masayoshi IimoriとHyperJuice両者によるリミックスも収録されています。
tomad: ぶっちゃけて言うと、アルバムにするには曲足りないってなって。HyperJuiceは『TWISTSTEP』をリミックスしてくれたのが良かったのでお願いして。Iimoriくんのやつは、僕が前からエクスクルーシブで貰ってたのを、「よかったので、この機会だからお願いだからいれさせてくれない?」って頼んで。このリミックスをきっかけに周辺のアーティストを聴いてもらえて、トラックメーカーシーンとかが盛り上がってくれれば、っていうのがあるんで。
__パズラムをずっと見てきたtomadさん的には、どういったところにこのアルバムを届けたいと思っていますか。
tomad: 初めてダンスミュージックを聴くような、あと、EDMとか聴いてたけど、それじゃ物足りないみたいな人……。今の時代、EDMを聴いてても、Dubstepとか他の周辺のサブジャンルまで掘って聴いてる人って多くないと思うんですよ。このアルバム聴いたら他にも、ちょっと面白いBass Musicがあるんだよ、っていうのがわかると思うんです。向井さんとの楽曲を偶然に聴いて、「このトラックメイカーは他に何やってるんだろう?」みたいな。そういう感じで若者に聴いてほしいっていうのはありますね。
__パズラムとしては、シンプルに楽曲を作っていくことと、試行錯誤して複雑なものを作っていくこと、どっちを目指していきたいですか。
じゅうでん: できればスッと作って出したいです(笑)。
ゆんぼ: でも、今回作ってみて、もうちょっと自分たちの色を出してもいいんじゃないかなって。色々やった感があるので。
じゅうでん: 色々なチャレンジをした結果、自分たちが次どこに進むかっていう道標にはなったかな、っていう気はします。
ゆんぼ: 今までは自分たちっぽさというか、最先端のものを取り入れて作ってきたっていうところがあったけど、今回の制作を通して、オリジナリティがどこにあるのかが少し見えてきたから、それをもっと詰めていきたいなって。
じゅうでん: そろそろ地に足が付いてきた頃かなっていう。もちろん新しいものは常に取り入れるだろうけど、芯となる部分がやっと出来始めたかな。それをどんどん伸ばしていきたいです。
ゆんぼ: それと、今までは、前作った曲と同じようなものは作らないようにしようっていう意識があって。でも、自分たちのベースがわかってきたから、そういう風にビルドしていっても、結果はそういう風にはならないなっていうのが見えてきた。
じゅうでん: パーゴルとの共作やってそういうところも見えてきたのかも。
ゆんぼ: 共作も面白いよね。
__今後のリリース予定などはありますか。
tomad: とりあえず最近は(制作から)解放してあげたいってまず思うんで。半年くらいは何も言わないようにしようかな(笑)。でも、前も1年くらい何も作ってなくて。「さすがに作った方がいいよ」って(言った)。
ゆんぼ: 締め切りを与えられてケツを叩かれてやっと作り始める(笑)。
__これからの「パズラムらしさ」が見たいので、個人的にはケツを叩かれてほしいですが(笑)。最後にパズラムから、アルバムをどういう人に聴いてほしい、などありますか。
ゆんぼ: まずはみんなに聴いてほしいですね(笑)。
しゅんいち: でも、ヤンキーが車で「TWISTSTEP」ガンガン鳴らしてたら上がるよね(笑)。地元のヤンキーが、「丸の内サディスティック」ガンガンかけててめっちゃ上がったから、「TWISTSTEP」もかけて欲しい。
ゆんぼ: 俺、家の前で爆音でtofubeats流してる車に出会ったことあるよ。
しゅんいち: マジで!?……やっぱやばいね、ヤンキーはやばい。
tomad:(パズラムには)そういう空気感も入ってるよね(笑)。

Whatever:
1. Space Coaster
2. Don’t Give Up On My Love feat. 向井太一
3. 3D Rex
4. Fireworks(× PARKGOLF)
5. TWISTSTEP (Album Version)
6. I’m Coming (2017 Version)
7. TWISTSTEP (Masayoshi Iimori Remix)
8. Don’t Give Up On My Love feat. 向井太一 (HyperJuice Remix)
1992年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部卒。UNCANNY編集部所属(非常勤)。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行なっている。SWITCH特別編集号『Maltine Book』(2015)共同編集、「ポコラヂ」PA/エンジニアリングなど。
アシスタント: 黒澤佳奈
1997年生まれ、埼玉県出身。青山学院大学総合文化政策学部在籍。