- INTERVIEWSSeptember/24/2016
[Interview]fu_mou – “with open”
インターネットには2つの顔がある。普段、僕たちが何気なく利用している、インフラとしてのインターネット。そして、今ある世界とは全く違う世界を展開する、「空間」としてのインターネット。かつて、戦国時代と言っても差し支えがないほどに興隆があったネットレーベルという世界も、かつては現実とはリンクしない、一部の物好きが没入するような「ムーブメント」の一つだった。しかし、時代は変わり、その「空間」で磨かれた様々な才能が、そしてそういった「ムーブメント」そのものが、ヴァーチャル空間から現実に徐々に場を移しつつある。
初のアルバム『with open』をリリースしたばかりのfu_mouもまた、ネットレーベルを中心とする、インターネットのムーブメントに惹かれた人物の1人だ。アルバムは、ハイクオリティなダンス・ミュージックと、エモーショナルなポップ・ミュージックが見事に融合し、多彩な音楽性もまたその中に窺えるような作品となっている。現在は音楽家として様々な作品に楽曲を提供し、また自らもアーティストとして楽曲制作・ライブ活動を行う彼だが、その出世作「Green Night Parade」は、今もフリーで入手することが出来る。でもそのリリース形態は、今のSpotify、Apple Musicに代表されるような「サブスプリクション型配信」のアイデアの原型ではなく、それがネットレーベルという文化の形だったからそうなった、ということに過ぎない。そして、彼だけではなく、いまや様々なアーティストが「ネットレーベル出身」というタグに関係なく、様々な領域で活躍を続けている。
今回は、全国リリースツアーを控えるfu_mouにインタビューを行い、活動のルーツや、アルバムに関する想い、音楽家としてのあり方等について話を伺った。fu_mouというアーティストの持つ考えが、リスナーだけではなく、クリエイターがこれから活動していくためのヒントになれば幸いである。
__fu_mouさんは、「Green Night Parade」(〈ALTEMA Records〉よりリリース)以来、国内でのインターネットシーンの顔として活躍してきました。そのリリースがあった2011年前後はどういった活動をされていたのですか。
それまでは普通にブートリミックスとかをSoundCloudに音楽を載せることくらいしかしていなくて。それを聴いて初めてクラブイベントのオファーをくれたのが実は4skでした。当時、宇都宮に惑星っていうクラブがあったんですけど、仙台から来た方が運営しているというのもあって東北のDJがよく来る場所だったんです。その中にネットで交流のあった4skも入っていて、その繋がりで惑星のイベントに呼んでくれて、何回か参加させてもらいました。
__ネットレーベルでのリリースのきっかけは何だったのですか?
SoundCloudに載せていた曲を〈ALTEMA Records〉の人が聴いてくれて。それからTwitterで何度かやり取りがあって、最終的に出しましょう、ということになったんです。
__それ以前からオリジナル曲を作っていましたか?
4年間音楽大学に通っていて、在学中にDTM環境を整えて曲を作る様になりました。卒業してすぐ今とは別の作家事務所に入ったんだけど、まだ大したスキルもなくて仕事ももらえない状態でした。しかも契約が専属作家契約で事務所関係以外では自分の曲を表に出すことができなかったので、それはちょっとキツいと感じてたし、やっぱりネットレーベルが面白いなと思ってて。2007、8年くらいの時に、「MP7」(〈Maltine Records〉初期の音楽イベント)とかも行ったりしていていたんですよね。
__その頃からネットレーベルなどの新しい流れみたいなものをご存知だったんですね。
その頃ってネットレーベル以前にニコニコ動画とか初音ミクが黎明期だった時代だから、身近にいたlivetune(kz)の影響もあって、ネットがすごく面白かった時代だったと思っているんです。すごくいろんなクリエィティブなことがネットの中で始まっていく時代だったと思います。そういうことに対する憧れから、自分もネットレーベルで出してみようと思って、最初に出したのが「Green Night Parade」だったんです。
__その後は、『MOGRA MIX』(2012)での楽曲提供などでそういった世界と接点を持ち続けていますが、そもそも秋葉原MOGRAとの出会うきっかけは何だったんですか?
最初に行ったきっかけは完全にkzでしたね。友達がよく出てるというのと、(秋葉原が)割と地元ということもあってよく遊びに行くようになりました。あの頃はちょうどMOGRAの盛り上がりとネットレーベルの盛り上がりが足並み揃えて一緒だったというのがあって、MOGRAに遊びに行くのが楽しくてしょうがないという感じでした。
__kzさんとは学生時代からの旧友だということなのですが、どういった関係なのですか?
確か大学の学部の新歓の時に仲良くなったんですよね。学内・外のイベントで出演出来る枠がある時は大体いつも一緒になんかやってました。在学中にkzと3つバンド掛け持ちしてて、そのうちメインでラウドロック的なバンドをやっていました。自分がギターでkzがドラムで。あとジャズのカヴァーバンドと、エレクトロユニットみたいなのを、自分を含めた2人のギターボーカルとkzがDJ担当でやっていました。その後、kzと2人になって、ennui luvって名前でふざけたエレクトロユニットを遊び半分でやっていました。elemog(秋葉原MOGRAのクラブイベント)でライブとかでもやりましたし、持ち曲も一応あります。
__今回のアルバム制作はいつ頃から考えていたんですか?
fu_mouとしての曲は少しずつ作りためていて。2012年位に一度だけレーベルにプレゼンしたりしていたんですが、(レーベル側は)あんまりピンとこなかったみたいで、その後は楽曲の提供ばかりしていました。でも「Green Night Parade」以降 ライブは結構していて、人前で曲を披露する場がライブしかなかったので、その度に曲を作っていました。今回のアルバムはその集大成的な作品でもあります。
__今回収録したオリジナル曲は「Green Night Parade」の発表直後から作り始めていたんですね。
結果的にはそうですね。ただどの曲も今回のアルバムのために作った曲ではなくて、今まで作った曲を並べたら奇跡的に綺麗な流れになったという感じです。なんとなく、「Shout」、「You Know You Lied」、「Abyssal Drop」は一緒に出したいなっていうのはあったんですけど、その後の「East Tokyo」とかをどう一緒にパッケージしようかと悩みもあって。でも並べてみたらすごく良い感じになったんですよ。
__様々な作風の楽曲が収録されていて、fu_mouさんの作風の広さとバックグラウンドが窺える作品になっていると感じました。「Shout」は、EDM以降のダンス・ミュージックの解釈なのに、曲名通りのシャウトが入っていて、とても激情的です。
「Shout」とか「You Know You Lied」は完全にラウドロックが根底にあります。エレクトロ以降のいかついクラブミュージックってあるじゃないですか。あれとラウドなギターのクロスオーバーって結構 世に出てきたと思うんですけど、こんなにがっつり歌うものではなかったんじゃないですかね。今まで「Green Night Parade」のイメージが強くて、自分がラウドロックを聴いててバンドでギターヴォーカルで叫んでる過去を知らない人たちから、「GNP」みたいなサウンドが欲しいと依頼される仕事が多かったんです。ポップな曲を作るのも好きなんですけど、いつかこういう曲も出したいと思っていたので「アルバムを出すなら絶対入れよう」って。
__自作楽曲において、ヴォーカルを自ら手掛けるということに何かこだわりはありますか?
こだわりというか、たしかにDJとかトラックメーカーとか、ネット出身の人で歌う人ってあまりいないんですよね。そういう、あんまり前に出てくる感じではない人たちの中にいるから「何で歌うの?」っていうことになると思うんですけど、僕からすれば逆に「何で自分で作ったのに歌わないの?」っていう感覚が昔からあるんです。僕は自分で曲を作った時にそれが歌モノだったら自分で歌いたいと思うのは当然の事だと思っているので、逆に「みんなは歌いたくならないのかな?」くらいの感じです。
__そういった形式で活動を行う中で、影響を受けたアーティストなどは居ますか?
参考にしているというか、元々自分で歌いたいというのがあって、その上で作家仕事をずっとしていたので、提供したアーティストのライブに呼んでいただいたりした時に、「あぁ、歌っていいな」って思ったりするのも一つの影響かなと思います。特にこれっていうのはないんですけど、スタジアムとかでのロックバンドとかのライブ映像を見るのが好きなので、そこからの影響はあると思います。
__アイドルグループであるアップアップガールズ(仮)に提供した楽曲のセルフカバー(「このメロディを君と」)も収録されています。fu_mouさんとも付き合いが長いグループだと思うのですが、彼女らと活動し始めたのはいつ頃ですか?
2012年の春頃くらいから曲を提供しています。それこそ「Green Night Parade」を聴いてくださって、話が来たんです。作家仕事をしてる中ではかなり曲数も書いているし、アイドルとしては一番付き合いが長いかもしれないです。
__この曲を収録したのは何故ですか?
曲の雰囲気は(アルバムに)一番近いだろうなというのがありました。(アイドル楽曲は)歌詞で一人称が完全に女の子になっていたりもするんですけど、自分の詩の場合、普段は一人称を「僕」にする事が多いので自分で歌ってもそんなに違和感のあるものは少ないんです。とはいえアイドルだから、さすがに自分が歌ったら変だよなっていう歌詞感のある歌を省いて、なおかつサウンド的に一番気に入っている曲だから、ということでこれにしました。
__アルバムのジャケットにもアップアップガールズ(仮)から佐保明梨さんが起用されています。アートワークの人選はどのようにして決まったんですか?
今回のアルバムの発起人でもあるアプガのマネージャーの山田さん達と打ち合わせをした時に、「何をテーマにしよう?」ってなって、アプガのメンバーをそのまま出すとただアプガの人が出てるだけになっちゃうから、アイドルとしてではなく、一人の女の子として自然体で撮った時にシュッとしてていいなっていう雰囲気が出る人って誰だろう、という事で話し合って佐保さんにしました。MVの監督にも、写真と口頭でコンセプトを説明して「儚い感じで映像を撮ってほしい」とお願いしたんです。でも普段は全然そういう感じの子じゃないので、完成後に自分で「ちょっと怖い」って言ってましたね(笑)。
__自分のアルバムに収録する楽曲と提供曲では、それぞれを制作する上で、意識している違いや共通点はありますか?
提供の時はそのアーティストがアイドルだったらキャラクター性があるし、その時々のテーマがある、アニメに提供するときにはその作品の世界観がある。だからある程度はそれに沿って書かないと、という風に考えています。共通点としては、聴いている人がこうしたら喜ぶだろうという視点ですね。特にライブを想定していることが多くて、提供仕事でやるときは「(メロディを)こうしたら歌いやすいよな」とか、「気持ちいいよな」ということを意識しています。やっぱり自分の作った曲をライブとかで歌ってもらってるのを見ると、いいなと思うし、自分だけではこんなに盛り上がらないだろうなという規模の人が楽しんでいるから、感動しますね。
__インターネットから始まり、アイドルやアニメなど様々な層にリーチするようになって、fu_mouさん自身のライブの客層もどんどん増え続けていると感じるのですが、そういったところで驚きやギャップなどはありますか。
確かにライブに足を運んでくれた人の中に、「Green Night Parade」以後の楽曲提供で知ってくださった人が増えてきたというのは間違いないですね。でも、そういう意味で言うと、支えてくれているリスナー層は自分の考えとあまりギャップはなかったです。ライブに来てくれる方は、アルバムを出したら喜んで買ってくれる方でもあって、そういう人たちに支えられていたんだなと実感しています。
__今回のアルバムは、どういった層に聴いてもらいたいですか?
今まで聴いてくれていて、アルバムを待っていてくれた人たちに聴いてもらえたらもちろん嬉しいし、「Shout」とか「You Know You Lied」とかは、今まであまり出してこなかった自分の一面でもあるので、その背景にあるロックが好きな人とか、曲を提供しているアーティストのファンの方々にも聴いてもらいたいなと思います。
__今回のリリースに合わせたツアーを行う予定はありますか?
やります!! キックオフはMOGRAの7周年アニバーサリー(8月26~28日に開催)からということを考えています。全国を回って、そしてファイナルもも秋葉原 MOGRAでやる形です。
__国内ネットレーベルや、秋葉原MOGRAなどで起きていたインターネットのムーブメントが、ここ最近になって変化しつつあるように感じています。黎明期から活動されていたfu_mouさんにとって、現状はどういう風に感じていますか?
今までもネットレーベルのアーティストを集めたイベントって結構あったと思うんですけど、最近ではそこに特別感がなくなって、(「ネットレーベル」という)タグが外れた様に感じています。その中で存在感を発揮している人たちは、自分が理想的な活動を続けていくためにどうしたらいいのかを考えている人たちだと思いますね。例えばそれを海外に出ていく事に定めて活動している人もいるし、そういう人たちは目標が明確だから、よく分かります。
__そういった流れの中で、興味のあるアーティストやムーブメントはありますか?
割と出尽くしてしまっている感はあるけど、アーティストだとYunomiさんとかNor、Aire、Aiobahnたち韓国勢ですかね。あと、若い世代はFuture Bassとかの影響が強いのかなって思います。あの辺は一つの面白い流れでもあるかなと思うけどみんな取り上げているし特にピックアップすることでもないのかもしれない。特に日本の若い世代だとyuigotさんはその辺の流れだと思うけど、いいなと思います。
__今回のリリースを経て、今後はどういう風に活動していきたいと考えていますか?
基本的にはそんなに変わらないというか、作家仕事もやるし、自分の曲も作っていくという感じです。ただやはりアルバムを出したことによって、「アーティストの”fu_mou”」としての枠が作れたと思います。今までふわっとしていた部分が、今回ちゃんといろんな人と関わってアルバムを出したことで、作家だけじゃないんだと認知されることも増えると思うので、今後の活動もやりやすくなると思うし、もっとやりたいという気持ちも強くなっています。アルバムを出す前から、いろんな人とコラボやりたいよね、という話もちらほらしていて、共作も出したいなっていうのもありますね。
(2016.8、東京・青山にて)
インタビュー・文: 和田瑞生
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行なっている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。
アシスタント:矢口夏帆
1995年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍。主に海外の幅広いジャンルの映画と音楽を楽しむ。
with open:
1. Abyssal Drop
2. with open arms, open eyes
3. You Know You Lied
4. Shout
5. I wanna see
6. Walk Around
7. East Tokyo
8. このメロディを君と
9. Scene the Scene