ARTICLESOctober/22/2016
On Beat! (15) by Chihiro Ito – The Smiths “The Smiths”
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……と音と歌詞と。

小学生の頃、洋楽を聴き出した私は歌詞もわからず、英語をただの音として聴いていました。

中学生になって、英語の授業が始まりました。期待していましたが、途中から余りのリアリティの無さに、意味がわからなくなってしまい、挫折しました。

すこし時間が経って、26歳の時、アメリカの施設で数ヶ月間、美術の滞在制作を行いました。世界中から来たアーティストと共同生活をしたのですが、日本語は通じないので、身ぶり手ぶりと、少しづつ英語を話し始め、コミュニケーションが出来るようになってきました。

それから10年。英語も続けていると、大分自然に読めるようになります。こんな連載をしていると、昔から聴いていた曲の歌詞を改めて知る事があります。歌詞がわかるとその曲のメッセージも、より伝わりやすくなります。

今回は、The Smiths(ザ・スミス)の話です。私はこのバンドをゆっくり時間をかけて知ってゆき、好きになりました。

私が初めてこのバンドを知ったのは、中学生の頃に見た、友人の音楽雑誌で、彼らのアルバム『Queen is Dead』のアートワークを見た時でした。当時聴いていた、イギリスやアメリカのバンドのそれと並べると、じっとりとした異様な雰囲気をもち、違和感がありました。

音楽を聴いてみましたが、私はすでに、このバンドよりも早く、The Smithsのヴォーカリスト、Morrisseyのソロアルバムを聴いて知っていました。どちらも、憂鬱で美しいメロディのロックミュージックであること、詩的な音楽であることに変わりありませんでした。当時、私は歌の歌詞をわからないまま聴いていたのもあり、歌手が同じ人間なので、違いがよくわかりませんでした。また、当時よく聴いていた90年代の音楽や70年代のパンク等と比べると、やや大人っぽい音楽だなぁと思ったのも事実です。

高校生の時に、転校生にThe Smithsが好きな女の子がいました。彼女は彼らのステージでのパフォーマンスを”タコ踊り”と言っていました。気になったので、当時、私もよく行っていた西新宿のブートレグのライブビデオ屋さんでその映像を見てみました。ライブビデオの1曲目、”Still Ill”でMorrisseyは、腰や手をゆらゆら振りながら、花を身体に身に付けて、くねくね踊りながら歌っていました。一生懸命踊るそれは、まさにタコ踊りでした。ショックを受けましたが、このバンドを好きになりました。

そして、そこで私は初めて、彼らは歌詞が重要なバンドだなと思い始めました。

私は昔から、CDについている和訳を読みます。最近は英詞と、和訳を比べます。すると、和訳の方は、まれに大人の事情か、翻訳間違いか、政治的なメッセージや汚い言葉などを、かなりオブラートに包んだ表現で書いていて、曲の持つメッセージが伝わりにくいことがよくあります。

そんな、いくら自分で調べても、まだそのバンドのことがよくわからない時は、そのバンドを好きな友人や、その世代の人にも聞いてみたりします。

音楽を聴いた時に、含みや無言、言葉の裏に現れる、隠しようのない表現。それらは時に、歌詞以上にものを言います。それは曲が発表された当時の大小関わらず起きた事件なども関わっています。

その表現と、歌詞がわかれば、当時のアーティストの状況や、時代背景などに、知らなくとも、曲のメッセージが伝わって来ることもあります。

話をバンドにもどします。

The Smithsはイギリス北部の都市、マンチェスターでヴォーカルのスティーヴン・パトリック・モリッシー(以下、Morrissey)とギターのジョニー・マー(Johnny Marr)により1982年により結成されました。結成前から文学青年だったMorisseyは、New York Dollsというアメリカのバンドの大ファンでした。彼はこのバンドのイギリスのファンクラブの支部長も行っていました。彼らはその会報誌を通じて知り合ったようです。

バンド名のThe Smithsは”スミス一家”の意味で、スミスは、イギリスの一般的な名前だそうです。そこには、”今の時代は世界中の一般的な人々が顔を出す時代だ"というメッセージがあるそうです。ですから、彼らのライブでの服装はMorrisseyの胸の大きく開けたワイシャツやリーゼント以外は特に珍しいものではありませんでした。

彼らのオリジナルアルバムやシングルは主に、Rough Trade Recordsという、78年に ジェフ・トラヴィス(Geoff Travis)によって設立された、後にBelle and SebastianやThe Strokesなども在籍する事になる、イギリスのインディペンデント・レーベルから発売されていました。

彼らは、オリジナルアルバムを4枚、ライブ盤を1枚、アルバム未収緑の音源でできた編集盤を3枚リリースし、その後、大手レコード会社から、曲が少しだけ違う数種類のベストアルバムを発表しています。

彼らの活動期間は、5年程と短く、10年間続いたイギリスで初めての女性の首相、マーガレット・サッチャーの在任時期中でした。彼女のあだ名は”鉄の女”。彼女の政策は、結果的に富裕層と、貧困層の差を極端に広げ、仕事が無い若者が巷に溢れていたそうです。

イギリスのパンクロックのムーブメントの全盛期は終わり、やはり音楽で世の中を変えるのは難しいという絶望感の中から産まれたのが、この少し情けないくらいの若者像を歌ったThe Smithsでした。

数枚のシングルを発売した後に1枚目のアルバム『The Smiths』を1982年に発表します。This Charming man”(この魅惑的な男)や”Still Ill”(いまだに病んでいる)などの彼らの代表曲がたくさん入っているアルバムです。”Still Ill”では若者の苦悩を歌っています。

そして、85年には2枚目のアルバム『Meat Is Marder』(食肉は殺人)を発表。邦題はなぜか『肉食うな!』でした。この邦題は81年の日本のパンクバンド、INUの『メシ喰うな!』をもじったものだと思いました。”How soon is now?(どれくらいすぐってことなの?)や”That joke isn’t not funny anymore”(あの冗談は、もはや面白くない)などの入ったこのアルバムは、彼らのオリジナルアルバムで、唯一イギリスで1位になったアルバムです。

そして、86年に3枚目のアルバムを発表します。深緑色の人が寝ていて、”Queen Is Dead”(女王は死んだ)と過激なタイトル文字がピンク色で印刷された表紙でした。写真の人が男か女か、死んでいるのか生きているのかわかりません。多忙を極め、ツアーの合間にレコーディングされたこのアルバムは、レコード会社の都合で発表が完成から翌年になってしまったそうです。

余談ですが、数年前に私がポルトガルに行った時に、同世代の運営する複合文化施設の1周年記念イベントで、ライブペイントを行いました。その後、地元のDJが路上でかけた曲の中に、このアルバムの”There is a light that never goes out”(ライトが灯っている、それは消えない)がありました。曲に合わせて、みんなが手を叩きながら歌っていた事をはっきり覚えています。日本では見たことがないこの現象を見て、ここでもこのバンドは歌詞が重要なのだなと思いました。

一枚目は若者の気持ちを歌った曲の多かったThe Smithsでしたが、2枚目以降、徐々に情けないながらも、政治に対する反発の曲が多くなってきています。この歌詞の変化のコントラストが、The Smithsらしさかも知れません。

バンドは87年発表の4枚目のアルバム『Strangeways, Here We Come』の発表後、解散してしまいます。その後、再結成はされていません。

また、彼らのアルバムのジャケットには特徴があります。古い映画のスチールカットを使用するというのが、ほぼ一貫されています。

1. “The Smiths”の表紙はアンディ・ウォーホルの映画、『Flesh』(68年・アメリカ)の中のカルトスター、Joe Dallesandroのワンシーン。

2. “Meat Is Murder”はEmile de Antonio監督のベトナム戦争を描いた映画、『In the Year of the Pig』(68年・アメリカ)のメインイメージをアレンジしたもの。

3. “Queen Is Dead”の表紙はアラン・カヴァリエ監督の『L’Insoumis』(64年・フランス、イタリア)内のフランスの俳優、アラン・ドロンのカット。

4. “Strangeways, Here We Come”では、Morrisseyのスター、ジェームス・ディーン主演、エレン・カザン監督の映画、『エデンの東』(55年・アメリカ)に出演している、リチャード・ダヴァロスの写真。

Morrisseyは、60年代の映画が好きだったようで、彼の好みは、アートワークにも出ていたようです。また、彼はベジタリアンで飛行機嫌いという少し変わった性格です。

数週間前に日本でも4年ぶりにソロ公演を行いました。私は4年前にライブを観に行ったのですが、ほぼ直立不動のパフォーマンスに変わっており、The Smithsの頃の動きはほとんどありませんでした。Morrisseyについては、また別の機会に改めて書ければと思います。

今回、文章を書くにあたって、The Smithsがどんなバンドか、いまいちピンと来ずにいました。ロンドン在住の友人たちに「The Smithsってどんなバンド?」と聞いてみました。「彼らを日本のバンドに例えるのは難しい」との答えが多かったです。

しかし、ある友人は、「彼らは若者の不安を歌っているバンドだ」と言っていました。

そうかな……と思って、The Smithsのアルバムを全曲聴いてみました。そして、好きな曲の歌詞を数曲、再度、照らし合わせたら、全てが繋がって、彼らの音楽をさらに好きになりました。

文・画:伊藤知宏
1980生まれ。阿佐ヶ谷育ちの新進現代美術家。東京、アメリカ(ヴァーモント・スタジオ・センターのアジアン・アニュアル・フェローシップの1位を受賞)、フランス、ポルトガル(欧州文化首都招待[2012]、O da Casa!招待[2013])、セルビア(NPO日本・ユーゴアートプロジェクト招待)、中国を中心にギャラリー、美術館、路地などでも作品展を行う。谷川俊太郎・賢作氏らともコラボレーションも行う。鎌倉駅前の民泊、タローズハウスで香月真大(建築士)と萩原亮大(華道家)とコラボレーション。現在、スウェーデンのEdsviken Konsthall(ストックホルム)とギマランイス歴史地区のCAAAで展示中。東京在住。”人と犬の目が一つになったときに作品が出来ると思う。”

HP: http://chihiroito.tumblr.com

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Artist: The Smiths
Title: The Smiths
Release Date: 20 February 1984
Label: Rough Trade Records / Sire