INTERVIEWSJune/20/2013

【Interview】inc.(インク)- “No World”

13062006

 2010年に活動を開始したAndrew AgedとDaniel Agedの兄弟プロジェクトinc.は2011年にEP『5Days』をリリースし、今年、デビュー・アルバム『No World』をリリースした。多くのメディアで指摘されるように、そのアルバムは80年代R&Bやソウル、エレクトロの影響を受けたサウンドが特徴である。しかし、彼らの音楽を前にしてそういったジャンル云々はあまり重要ではない。彼らの音楽の一番の特徴は、聴く者の精神に問いかける音楽だという点である。

 音楽には当然役割がある。それは、例えば、ハイにさせ、サイケデリックな経験をさせる役割、人を癒す役割、人を強くさせる役割など様々だ。しかし、技術が発達した現在、音楽は容易に作られるようになり、音楽はある意味作業的に作ることも可能になった。あくまで筆者の主観だが、過去の音源に比べて、聴く者の精神にまで深く届く音楽は減ってきているように感じる。もちろん技術的にすばらしい楽曲や新たなアプローチを取り入れたことで評価できる楽曲もたくさんあるし、それはそれで興味深いものではある。

 しかし、こういった動きの中で、inc.の音楽は技術に頼ったり、機械に頼ったりしていない音楽を作っている。彼らの楽曲は、ギター、ベース、シンセサイザーなどのすべての音が澄んでいて、心にすっと浸透してくる。また、歌声も無駄に加工されておらず、生の声のもつ熱を聴く者の心に電線させる。さらに今回のインタビューで明らかになったことであるが、彼らは外の世界を遮断し、彼ら自身の内面、精神に従って曲を作っている。そのようにして作られた彼らの音はテクノロジー至上主義とも言える現代社会や、SNSを筆頭に目紛しく情報が飛び交う街の喧噪を遮断するかのようである。そのような中、inc.の音楽を聴くと、物質の世界を超えて作られた音だけが、聴く者の精神の扉を開く音楽となり得るのではないかと改めて感じるのだ。

 さて、今回、<Hostess Club Weekender>にて来日していたinc.の兄弟に、これまでの音楽活動、そして彼らにとっての音楽の在り方などを語ってもらった。

inc.
Andrew Aged
Daniel Aged

_あなたたちは大学でジャズを学び、セッションミュージシャンとして活動をした後にインクのプロジェクトを開始したと聞いています。その間音楽に対しての意識の変化はありましたか。

Andrew(以下A): ジャズをやっていたときは、周りの人が毎日7時間とか練習をしていて、そんなに音楽に時間をかけることができるのだということを初めて認識したよ。当時は目標も何も決めずに結構自由気ままに実験的な音楽を作っていたんだ。でも、セッションミュージシャンとして活動していたときは真逆で、決められた目標の中で、それをいかに効率的に正確に達成していくかということを意識して行っていたよ。そして今は、その両方を組み合わせて音楽を作っているんだ。

Daniel(以下D): 例えるなら、家を建てる感じかな。今までのことは、今やっていることの材料集めだったんだ。その中で取捨選択を行い、それを集めて、僕らは今家を建てているんだ。

_なるほど。それではインクは計画的に結成したのですか?

A:うーん、どうやって表現したら良いかわからないけれど、一種の革命がおこったような、一種の生命の目覚めのような、自然の力に引き起こされるような、そんな地球上のものを超えたスピリチュアルな感覚があって、インクを始めたんだ。うまく説明ができないのだけれど…。

_音楽からもスピリチュアルなものを感じます。

A: もちろん、それを目指しているよ。音楽を作る時は、常に、幽体離脱するような感覚になる瞬間、鳥肌がたつような瞬間を音楽にするようにしている。ジャズの勉強やセッションプレイヤーとしての経験、サイケデリックな体験やゴスペルの経験、たくさんの経験のそれぞれが僕たちの音楽を作っているんだ。

D: ファンにも、音楽を聴いて何か解らないけど何かを感じると言われるのはそのためなんじゃないかな。

_なるほど。それでは、他者、例えば、周りからの言葉やメディアからの批評はどのように受け取るようにしていますか。

A: 僕たちの内面的な部分が現実世界につながっているとは限らない。今の文化や現在の技術と、自分たちが考えていることは必ずしもリンクしていないんだ。だから、メディアや批評家の言うことと、自分たちの音楽とは全くの別物だと考えているよ。僕たちの音楽が目標としているのは、人々に音楽から何かを感じてもらうということなんだ。だから批評家が言うことは全く関係ないし、ファンにもレビューはできるだけみてほしくないな。音楽のみから何かを感じ取ってほしいと思っているよ。音楽から感じ取った感想を言ってくれるファンの言葉には本当に癒されるんだ。

_確かにあなたたちの音楽は、今の時代の技術主義や現実からは遠いものの様に感じます。それでは、もともと音楽とはどうあるべきだと思いますか?

A: クール! 音楽は、常に自分を解放してくれる力があるべきものだし、自由であるべきものだよ。精神が体からでてきて浮遊する感覚を感じさせてくれる力を持っていると信じている。

_なるほど。そのため音楽づくりにおいても内面やスピリチュアルなものを重視しているのですね。

A: その通りだね。僕らにとって音楽とは、自分たちの内面を表現するものなんだ。

D: (日本語で)はい(笑)。

取材:永田夏帆
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。趣味はベースと90年代アメリカのポップカルチャー。青山学院大学在籍の現役大学生。

Autosave-File vom d-lab2/3 der AgfaPhoto GmbH

Artist: inc.
Title: No World
Label: 4AD / Hostess
Price: 2,310yen(tax in)
*日本盤はライナーノーツ、歌詞対訳、ダウンロード・ボーナストラック・ステッカー付

1. The Place
2. Black Wings
3. Lifetime
4. 5 Days
5. Trust (Hell Below)
6. Your Tears
7. Angel
8. Seventeen
9. Desert Rose (War Prayer)
10. Careful
11. Nariah’s Song

+日本盤はダウンロード・ボーナス2曲
1. Voices
2. The Place (Daniel’s TX Sky Remix)