- EVENT REPORTSJune/13/2013
【Live Report】SonarSound Tokyo 2013 Day1 at ageHa | Studio Coast – 4月6日(土)
2013年4月6日と7日の両日、<SonarSound Tokyo 2013>がageHa/Studio Coastにて開催された。Sonarとは、1994年よりバルセロナで開催されているフェスティバルだ(今年のバルセロナでのSonarは、6月13日から16日に開催)。現在では、サンパウロ、ケープタウン、ロンドン、フランクフルト、ソウル、ブエノスアイレスなど、世界各国でSonarは開催され、東京では2011年度より開催されている。そして、過去にはSquarepusherやClarkといった世界的カリスマアーティストの他、Dorian Concept、Mount Kimbieなど実力派の若手アーティストたちが来日を果たしているなど、Sonarは、日本でも屈指の電子音楽の祭典として知られている。
初日である4月6日、東京に爆弾低気圧が襲い、暴風や豪雨に見舞われた新木場であったが、当日には多くのSonarファンが来場した。初日は21時開場5時終演、総計25組ものアーティスト/DJが合計4つのステージにそれぞれ出演した。今回のSonarSoundTokyoには、LFO、Karl Hyde(from Underworld)、Alec Empireといった電子音楽における世界的権威を持つアーティストの出演はもちろんのこと、MadeggやSubmerseといった最新のビートミュージックを代表するアーティストの出演や、関西のインディペンデント・レーベル<Day Tripper Records>のライブショーケースの登場など、とかくインターネットへのアプローチが強化された2日間であり(例えば、Day2にはtofubeatsが出演している)、エレクトロミュージックが新時代へと歩みを進めた事を示したラインナップだった。それでは、<SonarSound Tokyo 2013>の1日目、筆者が観た7組のライブをレポートする。
メインステージSonarClubの初手を務めたのはスペインを拠点とするJohn Talabotだ。John Talabotは、2012年に<Permanent Vacation>よりリリースしたデビュー・アルバム『fIN』が様々なメディアで絶賛され、また、<Young Turks>ではレーベルメイトであるThe xxの北米ツアーに同行するなど、現在注目を集めているアーティストだ。特にThe xxとは、ファースト・アルバム収録の「Shelter」をリミックスするなど関係性が深く、続くセカンド・アルバム収録の「Chained」のリミックスも手掛けている。John Talabotのサウンドは、ニュー・ディスコを基調としながらも、エレクトロニックな要素をトラックに十分に織り交ぜ、さらにその鍵となるメロディを克く聴かせる楽曲に仕上げているのが特徴だ。
会場では、John Talabotが、特徴的な低速の4つ打ちビートを静かに鳴らしていた。会場へ向かう途中、雨に打たれ、両足が濡れている観客がほとんどであったが、John Talabotの少し物憂げなビートは、そのような会場の静寂した雰囲気に絶妙にハマっていた。そしてそのニュー・ディスコ風の穏やかなサウンドは徐々に会場を暖めていき、John Talabotのアンセムのひとつである「When The Past Was Present」がプレイされると、集まり出した観客は、見えない渦のような熱気を帯びていった。そして、しばらくすると今度は、BPMがぐっと下がっていき、いつの間にかヒップホップ調のミニマルなビートへと変化し、観る者をさらに惹きつけていった。
John Talabotに続いて登場したのは、UKのアーティスト、Actressだ。ロンドンを拠点とするレーベル<Werk Discs>のオーナーであり、今年始めには、新作EP『Silver Cloud』を<Ninja Tune>よりリリースし、さらに、ロンドンのテート・モダンで開催された草間彌生展でのActressのライブ映像が来日直前の3月末にPitchfork.tvで公開され、話題となっていた。
Actressは、シンプルなビートと攻撃的なノイズサウンドで一転して冷徹な空間を形成した。そのサウンドは、John Talabotから引き継がれたようなミニマルな展開の流れであったが、どこか叙情的であったJohn Talabotとは異なり、徹底してクールな存在感を見せつける。Actressのフィジカルかつ世界屈指の硬派なエレクトリック・サウンドを浴びるように受けた会場は、完全に電子音楽の祭りと化しており、Actressのブースはまるで呪術師の祭壇のような凄みをみせていた。
続いて、日付が変わる直前、メインステージであるSonarClubには、本日のメインラインナップの一人であるAlec Empireが登場した。伝説的なデジタルハードコアバンドAtari Teenage Riotのフロントマンである彼だが、今回は単独でのDJ Setでの出演。最新のエレクトロサウンドやEDMを繋ぎ、マイクを片手にフロアを煽るAlec Empireは、世界に誇るハードコアバンドのフロントマンとしての威厳を見せつけた。
最も驚かされたのは、そのハードコアなイメージとは裏腹な多彩な選曲だ。90分間のセットの中、フロアの空気を読むかのように曲調を変えてゆき、空間をコントロールする。そしてクライマックスには徐々にテンポが上昇してゆき、ラストにAtari Teenage Riotの名曲「Revolution Action」をプレイ。フロアのボルテージは最高潮に達した。
続いて、ageHaのWaterフロアのSonarLabへと移動。午前1時15分、メインステージのSonarClubでLFOがプレイをする裏の時間、天候のおぼつかないプールサイドの横のブースに、Madeggはひっそり現れた。Madeggは、京都在住の若手アーティストだ。自身のBandcampや、ネットレーベルである<分解系レコーズ>、<Vol.4 Records>からEPをリリースした後、唯一無二のその才能が認められ、cokiyu等が所属する東京のレーベル<flau>よりデビュー・アルバム『Tempera』をリリースし、アルバムのダウンロードコードが書かれたTシャツのリリースという独特な販売形態も話題を呼んだ。そして、4月27日、先述の<Day Tripper Records>より待望の2ndアルバム『Kiko』がリリースされている。
Madeggは白いパーカーのフードを被り、淡々と75分間のサウンドスケープを描き続けた。抽象的でありながらゆるやかに刻まれていくビート、メランコリックなメロディが混ざり合っていくそのサウンドには、もはや新人であることを感じさせないほどの貫禄と説得力があった。ダンス・ミュージックとリスニングミュージックの中間にある、心地良い揺れのあるサウンドを聴いていると、いつの間にか、大振りだった雨は小雨になっていた。屋根の下で静かに音を聞いていた人々は、徐々にプールサイドに歩みを進め、ポツポツと降る雨の心地よさと、Madeggの織りなす自然的なサウンドに酔いしれていた。
続けてWaterフロアでライブをするのは、イギリス出身で、現在は日本で活動するアーティストSubmerse。<SonarSound Tokyo Day1>のSonarLab最後のアクトである。Submerseは今年3月に<Project Mooncircle>より最新EP『Algorithms and Ghosts』をリリースしたばかり。今まで、<Maltine Records>、<Off Me Nut>、<Mutant Bass Records>などといったレーベルよりUK Garabe、Bassline House等様々なジャンルのリリースを行なってきたが、最近ではビートミュージックに傾倒し、2012年5月には、<R&S Records>傘下のレーベル、<Apollo>より、繊細な感性を露わにしたEP『They Always Come Back』をリリースするなど、引き続き多才ぶりを遺憾なく発揮している。
今回のアクトは、『They Always Come Back』『Algorithms and Ghosts』の流れを汲んだビート系のサウンドをメインに据えたライブセットであった。サンプラー一台で、ヘッドホンモニターすらなくライブを構築していく姿は、幼さが微かに残るその顔立ちとは裏腹の流石の貫禄である。パーティーも既に佳境を迎え、すっかり雨の上がったプールサイドには疲れを癒している人々が多く見られた。ラストには、アンコールの歓声を貰ったSubmerseが「Singin’ in the Rain」を流し、それに合わせブースからビニール傘を広げるというお茶目なパフォーマンスをし、Waterブースは穏やかな雰囲気に包まれた。
Submerseのライブ直前に、SonarComplexブースでは<Day Tripper Records Showcase>のトリを務めるSeihoのライブがスタートした。Seihoは、<Day Tripper Records>の主宰でありながら、自らもビートメイカーとして活動し、2012年初頭には<Day Tripper Records>よりアルバム『Mercury』をリリースしている。その他、Avec AvecとのポップユニットSugar’s Campaignを結成し、tofubeatsとokadadaのユニットDancinthruthenightsとのスプリットシングル『ダブルトラブル ~4人は仲良し~』をフリーでリリースし話題になる等、現在関西で最も注目されるアーティストのひとりである。
Seihoは硬派な雰囲気であった今までのShowcaseの面々とは打って変わって、TrapやGhetto Techといったファンキーなサウンドにキーボードでのメロディを合わせる躍動的なライブを披露した。Seihoは音楽の喜びを全身で表現するかのようにフロアを煽り、観客もそれに全力で応え、ブースとフロアは一体となり熱狂していた。ラストにはかの☆Taku Takahashiにも絶賛された名曲「I Feel Rave」をプレイ。フロアからは一際大きな歓声が上がった。彼と観客たちの30分間の熱狂はあっという間に終了し、まさにSonarComplex1日目のラストアクトにふさわしい名ライブであったと言えよう。
日本人のミニマル・テクノアーティストAkiko KiyamaはSonarDomeステージのラストに登場。彼女はベルリンと東京の2都市を中心に活躍し、その実力で世界各国のレーベルから作品をリリースしており、最近では、ロシアのレーベル<Nervmusic>からサード・アルバム『Deviation』をリリースしている。
イベント終盤の午前4時、Akiko Kiyamaのライブは静かにスタートした。反復するビート、それに相反するように主張する音の粒。硬派でありながら、どこか親しみのあるサウンドがフロアの人間を引き止め、パーティーに心地良い疲労感を覚えた人々の熱を徐々にクールダウンしていった。9時間にも及ぶ長丁場を越え、最後までフロアに居た人々はリラックスしながらその音を浴びていた。外を見れば、新木場の空は白みはじめ、嵐はとうに止んでいた。
取材・文:和田瑞生
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行なっている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。