- INTERVIEWSJuly/11/2025
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[Interview] Satomimagae - “Taba”

Satomimagaeの最新アルバム『Taba』は、境界の感覚に対する繊細な探究である。集団と個人、記憶と日常、その間にある曖昧な揺らぎを、フィールド録音、デジタル処理、クラリネットの旋律といった多層的な音響が静かに浮かび上がらせる。短編集のように配置された各楽曲は、記憶の断片や情景の残像を宿しつつ、聴く者の感覚を深く揺さぶる。インタビューでは、アルバムのタイトルの由来から、各曲の背景、さらにはライブにおける再構築の視点に至るまで、言葉が慎重に紡がれている。
__今回のアルバムタイトル『Taba』について聞かせてください。〈RVNG Intl.〉のプレスリリースには、“Taba”について、“a bunch, bundle or grouping together of different things(束、束ねたもの、異なるものの集まり)”という説明があり、“I was thinking about how we see people as a group and individuals within a group(集団としての人間、そして集団の中の個人をどう見るかについて考えていました)”ということが語られています。この点について、どのような意味なのか、改めて詳しく教えてください。
2021年にRVNG x Adult Swim のコンピレーションに参加する機会があり、「Dots」という曲を書きました。そのコンピレーションのコンセプトは集団やコミュニティについて考えさせられるもので、個人的には普段ほとんど気にしないトピックですが、パンデミック等による生活の変化によって意識せざるを得なくなって来たことでもあると感じました。個人が集団の中ではただのドットに過ぎなくて、ほとんどの人が互いに見えていないという視点が良くも悪くもこのアルバムに影響を与えました。
グループはどうやって繋がったのか、どこに境界線があるのか。私達は集まりの中にいる小さな一粒に過ぎないという事実を改めて認識する中で、それでもその中で生きる人たちの記憶や意思もどこかで残っていて私たちに、あるいは社会に知らず知らずのうち影響を与えているというイメージ、蓄積された、ほとんどの人から見れば存在しないに等しい生活、記憶、体験などが歌詞を書く際に頭に浮かんできました。
タイトルそのものについては、人あるいは物がどこか一箇所に集まっている様子を想像して「Taba」とつけました。最初は「たまり」にしようとしましたが、醤油を連想してしまうとの意見をもらい却下しました。
人が人を判断するのに個人を気にかけずにある括りで捉えるという習性が面白いと思いました。そしてこのアルバムは一つの物語を作り上げていく作品というよりは短編の寄せ集め(束)でもあります。
自分には経験したことの無いこと、これからも経験できないであろうこと、不可能なことがたくさんあって、でもそれらを違う視点から見ると…と歌詞を書いていきました。音楽としては心細さと無数に繋がっていく回路のようなものの広がりの両方を表現できるものにしたかったです。
__リード・シングル「Many」について聞かせてください。プレスリリースには「疎外された時代のフォーク・ミュージック」という記載がありますが、この曲について詳しく教えてください。例えば、“疎外された時代”とはどのような意味なのでしょうか?
「疎外された時代のフォーク・ミュージック」というのは、私が曲の説明として伝えたコメント「人の中で繋がっていく回路、ほとんどは人には見えない、でも私たちの周りにたくさん存在している」をもとにRVNGがそのように解釈してくれたのだと思います。
曲とメロディができた時に「Many Many …」と繰り返す歌詞が浮かんできて、何がたくさんあるんだろうと考えてみました。自分には経験したことの無いこと、これからも経験できないであろうこと、不可能なことがたくさんあって、でもそれらを違う視点から見ると…と歌詞を書いていきました。音楽としては心細さと無数に繋がっていく回路のようなものの広がりの両方を表現できるものにしたかったです。
__セカンド・シングルの「Omajinai」について、プレスリリースではこの曲について、「最も儚い瞬間にさえ含まれる漠然とした謎と無限の詩について考察している」との解説がありますが、どのような意味を持つ曲なのか、詳しく教えてください。
このアルバムでは一瞬自分の中に湧き出た短いイメージを捉えて記録し、それにメロディをつけたような曲を短編集のように集めてみようと考えていました。曲ができたときに、夕暮れの駅前にある広場のような場所でぶつぶつ独り言を言っている男性が頭に浮かびました。解決できないことや後悔していることがあって、変えられないその事実について言い訳のようなものをずっと繰り返しているという様子です。ただその光景をこの音楽と一緒に封じ込めたいと思いました。
__最後の先行シングルとしてリリースされた「Tonbo」について、プレスリリースには、「夕暮れの道を飛ぶトンボ。家々の明かり。緊張感。何かが起こりそう。誰もがそれぞれの人生を歩み続ける。全く異なるように見えて、隣り合わせに存在する、目に見えない世界同士の境界線」といったキーワードが記されています。この詩情豊かなイメージは、聴く者にどのような「境界」などの感覚を呼び起こすことを意図しているのでしょうか?
違和感とそう感じないものの境、緊急事態と日常から変わらない部分の対比、すぐそばにあったけど気付かなかった未知の世界や存在について考えていました。普段意識にのぼらなくてもあるきっかけでふと浮かび上がってくる感覚です。
__「Spells」では、ミックスも担当しているYuya Shitoがクラリネットで参加していますが、クラリネットの音がもたらす質感は、この楽曲にどのような役割を果たしていると考えられていますか? また、このコラボレーションは、制作の中でどのように実現していったのでしょうか?
紫藤さんはここ数年いくつかのリリースでミックスやマスタリング、ビデオをお願いしてきた方で、ある時にクラリネットを演奏できると教えてくれました。それでいつかクラリネットの音が必要になった時にはお願いしたいと思っていました。「Spells」はアルバムの中では少しのんびりした曲調で長めの間奏があるのですが、そこに他の曲とは違うクリアな、デジタルではない楽器のソロを入れたいと思い、ぴったりだと思ってお願いしました。演奏そのものはもちろんですが、録音された音色がそれだけで素晴らしく、曲を一気に成長させ大人っぽくしてくれたと思います。
__プレスリリースに「iPhoneに録音していた素材の奥」という記述があるように、今作では自宅スタジオの外で録音したものを素材として重ね合わせ、制作が行われたと思います。そうした音そのものや環境の気配を作品に反映させるとき、どのようなことを考えていますか?
ある程度欲しい質感の目処をつけた後はあえてあまり細かい意図を先に考えすぎないようにして、偶発する良い重なりを待つようにしています。何が起こるか観察しているような感じです。
__『Taba』のリリースを祝うワンマン・ライブ「漠日 BAKUJITSU」が開催されました。ライブという場では、アルバムの世界をどのように再構築し、表現しようと考えていますか?
アルバムの録音をそのまま再現することはできないので、どうやって意味のある「引き算」ができるか考えます。例えば録音時には埋もれてしまった大事な要素に気づいてもらえるようにする目的でその要素以外を削ぎ落とす、など。
__ライブでは即興的な要素や音の揺らぎがあると思いますが、そうしたライブ特有の空気感は制作段階から意識することはありますか? また、そうしたライブ特有の即興的な要素や音の揺らぎについて、どのように捉えていますか?
特に今回のアルバムに関してはライブで演奏する際のことはあえて意識せず自由に制作しました。即興的な要素や揺らぎを含め、予想できないことが多く起こるのでそれを踏まえて少し隙間を作っておくように構成することを意識しています。
__今後、音楽や表現を通じてどのような場所へ向かっていきたいと感じていますか?『Taba』の先にある風景がもし見えていたら、教えてください。
新しい体験やきっかけができるといいなと思います。それが次の作品への刺激にもなると思います。
Taba
01. Ishi
02. Many
03. Tonbo
04. Horo Horo
05. Mushi Dance
06. Spells
07. Nami
08. Wakaranai
09. Dottsu
10. Kodama
11. Tent
12. Metallic Gold
13. Omajinai
14. Ghost
15. Kabi (Bonus Track)
※日本独自CD化
※歌詞・対訳付き
※CDボーナス・トラック1曲収録
Photo credit: Norio
futahira
日程:2025年7月12日(土)
時間:OPEN 17:00 / START 18:00
会場:カレーと民藝と酒 TeTe(名古屋市千種区高見1丁目8-5 ケンインターナショナルビル3F)
出演:Satomimagae、marucoporoporo
DJ:mio
料金:3,000円 + 2オーダー
チケット予約フォーム:https://t.co/6OiLbhGSwd
編集:東海林修(UNCANNY)