INTERVIEWSJune/23/2022

[Interview]tofubeats - “REFLECTION”

 前作EP『TBEP』から2年、フルアルバムとしては『RUN』以来3年半ぶりとなる作品『REFLECTION』。中村佳穂やKotetsu Shoichiroなど、さまざまな出自とエネルギーを持ったアーティストを多数フィーチャーした今作は、一方で複雑なビートサウンドや内省的な歌詞などを通じて、tofubeats自身が自己を改めて捉えようとしたアルバムでもある。

そして、アルバムと同時に発売された自身初の書籍『トーフビーツの難聴日記』には、新型コロナウイルスの流行の最中にあった日常の出来事や事件、そして制作に関する記録が事細かに記されている。イベントのために宿泊したホテルで左耳の聞こえづらさを自覚する冒頭から、この本が完成する直前の様子までを、自身の感情を交えながらも静謐に、淡々と記した文体からは、誠実に目の前の仕事や出来事に向き合い続けるtofubeatsという人物像が浮き上がってくるようにも思える。

アルバム『REFLECTON』と著書『トーフビーツの難聴日記』という背中合わせの2作品は、まさしくtofubeatsのこの数年間の軌跡であり、自己探求の末の成果でもある。これらの作品について、改めて彼自身の言葉を通じて掘り下げ、作品の中に窺えるその姿を再発見したい。

__5月26日にYouTubeにて「tofubeats “REFLECTION” online release party」を開催しましたが、いかがでしたか。

コラボしたアーティストの方々のパフォーマンスを映像に残せたことが嬉しかったです。ネットになかなか映像が残っていないアーティストもいたので、貴重な機会でした。データとしてあるものを公開しないのはもったいないと思うので、隠しておかずになるべく公開しておきたいと思います。

__オンラインのリリースパーティー、そして無料の公開とした理由はありますか。

社会情勢を考慮しオンラインで開催しました。元から「できるなら無料でやりたい」と思っていたところ、無料で公開できるお話を頂けたので良かったです。オンラインということで、せっかくネットの開かれた場所に載せるのであれば、自分を好きでいてくださる方だけでなく、自分をよく知らない方にも是非見てほしいと思いました。自分を知っているけどライブは見たことがないという方にとっても、リリースパーティーが興味を持ってくださるきっかけになれば嬉しいです。

__アルバム『REFLECTION』のリリースから少し期間が経ちましたが、アルバムへの反響などを通じて、制作時と現在で作品に対する印象に変化はありましたか。

今回はあまりないですね。人から評価される機会は年々減っている気がします。レビューが本に掲載されることもなく、今回はツアーも開催していないので。自分の思っていることとまったく異なるような感想を受け取ることがあまりありません。そういったズレを楽しむ機会がないのもコロナ禍ならではなのかな。あるいは、そういうズレが元々ないアルバムになっているのかもしれません。

__アルバムのテーマが今まで以上にみんなで共有できるものになっている感じがしました。

テーマもこれまでで1番ベタですしね。「鏡」という。

今までも理想と現実のズレはずっと軸にあるけれど、今回はそのきっかけが「鏡」だったという感じです。

__本などでも述べられていたと思うのですが、自分が自分で持っているイメージと、実像が異なることについて、恐怖を感じていますか。それとも、それは違和感のような感覚の方が近いのでしょうか。

どちらもあるし、(イメージと実像に差異があることは)良くないなと感じます。活動を長く続けていると、世間のイメージと自分のズレが大きい状況は問題があると以前から思っていました。日記を出したのもそうで、変に神格化されるのも良くないし、かといって自分に似ている人がどこにでもいるわけでもない。いいズレは利用して、悪いズレは修正する感じですね。ズレていることが面白いときもあるので、いい落差を利用していきたいですね。今までも理想と現実のズレはずっと軸にあるけれど、今回はそのきっかけが「鏡」だったという感じです。

__以前からtofubeatsさんが音楽を作る上で「音楽を作ることで自分自身がわかる」と語られていますが、それは自分の見えない部分を理解できるといった感覚ですか。それとも聞き手に自分を表現できているという感覚ですか。

人に自分が「こういう人間です」と伝えたいというよりは、自分自身で「こういう人間なんだ」というのをわかりたい、という感じです。そのことが作ることのモチベーションにもなっています。他の人の楽曲を聴いていても、そういう面が見えた瞬間を良いなと思うことが多いです。作品を通すことで、作った人の輪郭が見えてくる感じが面白いですね。

__以前の『TBEP』や、『RUN』では、クラブミュージック的な要素が中核にありながら、ポップス的な内容や、ボーカル曲が印象的でした。今回は収録曲も多く、ただのクラブミュージックではない内省的な楽曲が多く、フィーチャリング楽曲も多数収録されているため、前作よりパターンが広がったように感じました。サウンドを作る中で、今までと変わった点はありますか。

コロナ禍で、サウンドプロダクションにさける時間が増えたことや、30代に突入したこともあって、改めて自分のプロダクションのやり方をゼロから見つめ直そうという期間でした。ミックスダウンに対する考え方を根本から変えた部分もあります。これまで惰性でやっていた部分を一度見直して、「本当にこの処理でよかったのか」と見直す時期に入って、サウンドデザインへの考えが変化しました。

もう一つは、今回のアルバムを制作するにあたって、「アルバム発売の頃はまだコロナ禍を脱してないだろう。ライブもまだやってないだろう」という気持ちで完成させようと1年くらい前から決めていたんです。日記にも書いているけれど、このアルバムが出るときにコロナ禍を脱しているのか、いないのかという二択にずっと駆られていました。でもどこかで割り切って進めないといけないと思い、「まだ脱していない」にベットして進めました。ライブとかでやることを考えないで作ってみようみたいな。ドラムンベースなど、自分のDJセットにはあまり使わないBPM帯の楽曲も作ったりしました。

そういう意味では、「作れたら作りたい曲だけど、作ってもDJで使わないような曲をたくさん作れるな」というのが逆のモチベーションとしてありました。クラブでかけづらい曲が多いのは、そういった挑戦ができたからですね。自分が普段使うようなクラブミュージックでもないし、かといってポップスに寄っているわけでもない。第三の選択肢を使えることを、今作を通して強みにしようと、アルバムを完成させる1年前くらいに決めました。それが今回の統一感につながっている気がします。

__今回のアルバムがリリースされる前にYouTubeにて、特典用音源のミックス配信をされていましたね。かなり細かいところを調整していて、tofubeatsさんらしい職人らしさを感じました。ミックスの手段に関しても、ここ数年間で変化した点はありますか。

ミックスのやり方はかなり変わりました。何が変わったかと聞かれると難しいですが……。音の配置に対するイメージが結構変わったというか。これまで自分が思っていたものとは違う形をイメージするようになりました。

__今回さまざまなアーティストをフィーチャリングしていますが、どういった意図でアーティストを選びましたか。

最初は一人で進めていましたが、途中から過去作の『lost decade』のような聴き味を目指すことにしました。あのアルバムは思い出づくりで制作したものだったので、その「やりたいことをやりたいようにやる」というのを今の時期にやったらどうなるのかと思ったんです。思い出作り性を大切にし、この人になら自分の言うことを任せたい、と思える人を選んでいると、自然と近しいメンバーになりました。

__なるほど。結構バラエティに富んだメンバーだと感じました。

いや、バラエティに富んでないですね(笑)。予想外の球を打ち返してくださっていても、この人の変化球なら受け取れるなっていう、どうなるのかある程度わかる、近しい人の範囲内で選びました。

__今回のメンバーは地方で活動されている方が多いですよね。日記でも、やっぱり関西出身の友人といるほうが落ち着くというお話もありました。

それもありますし、東京に出てきてから、人と交流する時間も取れないままコロナ禍に入ってしまったので、前から交流があった人たちが中心になっているのはあります。

__先ほど楽曲の幅が広がったと聞きましたが、その中でもかっちりとしたグリッド的なリズムにtofubeatsさんらしさを感じる時があります。リズムパターンに関して何か考えた点はありますか。

個人的に、打ち込み音楽の好きなところは、グリッドにはまっているところだったりするので、楽曲を作る際もはめがちではあるかもしれません。一方でNeibissとの楽曲「don’t like u」や、「Emotional Bias」のように、リズムをずらすぞ! と思った曲はとことんずらすみたいな。ピッタリかずらすか、どちらかといった感じです。ELECTRIBE(KORGが発売している、ステップシーケンサー付きサンプラー/シンセサイザー)のような機材から入っているから馴染みがあるのかもしれません。ハウスとかも好きなので、シンプルなものがループしているものを気持ち良いと感じることが多いです。

__「Mirai」のメッセージや、ラスト展開前のビートチェンジなど、その前までの意匠とはやや方向を変えているような印象があります。アルバムの最後に強いメッセージを入れた理由はありますか。

こういう時期だからこそ、ポジティブなアルバムに仕上げました。また、最後に良いメッセージがあれば、アルバムとしての完成度も上がると思いました(笑)。最後まで聴いてくれた方に解放感のある気持ちで終わってほしい、というのは最初から考えていたことです。

__日記の発端やアルバムの核となっているのが、コロナ禍で人に会えない状況が続いたり、難聴の治療で音楽に関われない時間が増えたりしたことだと書籍で述べられていました。音楽と向き合える時間が減ったことで、自分自身に変化は感じましたか。

難聴もそうですし、結婚もあって朝から晩まで音楽を作ることがなくなりました。それによって自分に対する期待がいい意味でなくなりました。夜まで頑張れば良い音楽ができるかもしれないといった期待がいい意味で無くなってきて。奥さんをほったらかしにして夜残業をしても、それを超える良い曲ができるかといったら、これまでの経験上そんなこともあまりないし、無理をしても作家としての寿命が縮まるだけだと思っています。最近1、2年で、曲ができないから夜中まで粘るということはしなくなりました。

__制作をしていない時間、例えば「夜中だけど今すごく音楽を作りたい」といった感覚はありませんでしたか。

ないですね。それは昔からあまり。基本的に天啓を与えられるようなことはないと思っているので。夜思いついても、次の朝に思い出せなかったら「そんなもんなんやな」と思います。言葉などはメモするけれど、メロディーを思いついた! ということは本当にないかもしれません。スタジオに入って、「やるぞ!」という時にしかやらないし、そのときに出てこなかったら極力忘れるようにしています。そのときだけ集中するというやり方でないと体がもたないというのが、耳が悪くなってから思ったことです。

__執筆した日記を、アルバムと関連付けて同時にリリースした理由は何でしょうか。また、書き続ける秘訣はありますか。

もう一種の病気のようなものですかね(笑)。僕のように10代のうちからパーソナリティを切り売りしてきた身としては、自分の記録を隠しておくメリットがないと思いました。人から「丸出し日記だ」と言われることもありますが、自分としてはこれまでもずっと自分を晒してきたつもりです。嘘をついていると思われないためにも、プライベートである日記と、仕事である音楽を完全に切り離さないようにしました。

「ここに記録が残っているのに、音楽を作ることを止めるわけにはいかない」という気持ちになりましたね。こうしたコロナや難聴というマイナスな環境でも、散歩をする自由はあること、そして意外にも自分にガッツがあることといったプラスな面を発見しました。

__書くことをやめたいと思ったことはなかったのでしょうか。

ありませんでした。むしろ、ライブなど、お客さんを前にして「絶対に音楽をやらなければならない」という環境や、お客さんからリアクションが返ってくることが無くなってしまったので、日記が積み重なっていくことが音楽をやる唯一のモチベーションになっていました。コロナ禍にわざわざライブを開催するほど、自分の音楽が他人にとって必要なものとは思えなかったので、自分が何のために音楽をやっているのか、何の意味があるのか模索する中で、自分が思ったことの記録が残っていることが、自分が前に進んでいる証明になるような気がしました。「ここに記録が残っているのに、音楽を作ることを止めるわけにはいかない」という気持ちになりましたね。こうしたコロナや難聴というマイナスな環境でも、散歩をする自由はあること、そして意外にも自分にガッツがあることといったプラスな面を発見しました。そうした気づきがあったからこそ、執筆も楽しみながら続けられました。

__こういった執筆活動については、今後も継続していきたいと考えていますか。

すべての環境が元に戻ったときなら「もう日記を書くのをやめよう」という気になることがあるかもしれませんが、今はここまで日記が続いていると「書き続けなきゃ」という気になって、すぐに文章にできるようにその日の出来事を箇条書きでまとめてあります。自分にしかわからないようなメモばかりですが(笑)。メモを文章にするまでに時間を空けすぎると、随筆のようになってしまうし、すぐに書くとリアルタイム性が強くて難しくなってしまうので、少しだけ時間を空けて、時差のある状態で書いています。なので最近1か月分くらいはまだメモ状態のままですね。本にするのか、ブログにするのかまだ悩んでいますが、また公開できるようにしたいと考えています。

__日記以外にも、小説を書くなど、ほかの創作活動に興味はありますか。

原稿を書く仕事は続けていますし、文章を書くのは苦ではないですが、小説などはあまり読まないので書かないと思います。ただ、文章は自分が仕事にしている音楽とは違って、あくまで「素人」として書き進めることができるので、気が楽で好きですね。特に日記は、自分の自由に書けますから。

(2022年6月7日、オンラインビデオ通話にて収録)

REFLECTION:
1. Mirror
2. PEAK TIME
3. Let Me Be
4. Emotional Bias
5. SMILE
6. dont like u feat. Neibiss
7. 恋とミサイル feat. UG Noodle
8. Afterimage
9. Solitaire
10. VIBRATION feat. Kotetsu Shoichiro
11. Not for you
12. CITY2CITY
13. SOMEBODY TORE MY P
14. Okay!
15. REFLECTION feat. 中村佳穂
16. Mirai

 

インタビュー・文:和田瑞生(UNCANNY)@Miiixn
編集:東海林修(UNCANNY)
編集アシスタント:村上千奈、相方郁香、佐藤凜花、中野寿里花(UNCANNY, 青山学院大学総合文化政策学部)