- ARTIST:
Doopiio
- TITLE:
- Syrup Gang
- RELEASE DATE:
- 2013/3/23
- LABEL:
- Day Tripper Records
- FIND IT AT:
- Amazon
- REVIEWSApril/10/2013
【Review】Doopiio | Syrup Gang
Jukeはそもそも、シカゴのダンスバトルシーンにおいて発展したジャンルだ。高速で複雑、且つシンプルなビートに合わせダンサーが自らの足の機敏さ、ダンスの華麗さをそろって競い続けるFootworkカルチャーは、近年に至るまで日本に知れ渡ることはほとんど無かった。筆者の知る限りでは、2008年、国内でJuke/Footwork/Ghetto Techを専門とした音楽レーベル<Booty Tune>を立ち上げ、EPをリリースしたDJ Fulltonoが日本では最も早くFootworkカルチャーを捉え、その特異に進化したサウンドを日本に持ち込んだ人間だと記憶している。
TR-808のキックがもたらす重低音、シカゴハウスからは突然変異と言っていいほどの進化を成し遂げたBPM160という高速なビートの魔力は、徐々にだが、確実に日本のDJやサウンドクリエイターに広まっていった。それでもしばらく下火に見えたJukeであったが、日本のネットレーベルを中心とするビートミュージックシーンの加速によって再発見される。クラブでないと感じることの出来ない程の極端な重低音、BPM160の高速ビートというJukeの要素はTrapやDubstepと共に解体され、日本において独自の進化を遂げ始めた。関西のエレクトロニック・ミュージックシーンの興隆に従い設立されたインディペンデント・レーベル<Day Tripper Records>からリリースされたdoopiio(ドーピオ)のファースト・アルバム『Syrup Gang』からは、そんな日本のビートミュージックシーンの進化が垣間見える。
doopiioは、大阪と京都それぞれに在住する2人が2011年に結成したユニットだ。彼らは音源制作やライブだけではなく、映像を含めたインタラクティブな作品を制作し、更にはインターネットと音楽を通じて新しい繋がりを求める人々の為のインターネットラジオ「Fokus」を立ち上げるなど、多彩な活動を行なっている。『Syrup Gang』は彼らのデビュー・アルバムであり、全9曲40分と、コンパクトながら飽きることのない絶妙な尺で構成されている。全体の洗練された雰囲気と優れた統一感等、このアルバムはリスナーがdoopiioの世界観を味わうにはとっておきの一枚であろう。
収録曲のうちの大半はJuke的な高速ビートで構成された楽曲だが、Jukeサウンドに元来存在していた泥臭いストリート感はほとんど感じられず、むしろ空間を支配しているのは不思議な浮遊感である。しかし、いわゆる打ち込みサウンドであるにも関わらず、爽快感のあるパッドの音や、メロディアスなシンセ、ピアノといった音が織り成す暖かみがそこには同時に存在している。この同時多発的なサウンドの存在こそがdoopiioの成せる技なのだ。
例えば、3曲目「Phara」、表題曲「Syrup Gang」、PVが制作された「Redlips」のような、細切れになった女性のボーカル・サンプリングにシンセとビートを絡ませるというこの手法、これ自体はアーティストを問わず多く使われているが、doopiioの構築する世界は、一つ一つの要素が互いに作用し、引き立てあっている自然的なものである。京都在住のアーティストMadeggがフィールド・レコーディングした音を再構築し、有機的な音をエレクトロニック・ミュージック的に支配することで世界観を構築しているのに対し、doopiioは規則的な打ち込み、機械的なサウンドからそのバランス感覚によって一つの世界観を生み出すことを達成している。
また、Dubstep的なハーフテンポのリズムを用いた「Summit House」、エピックなサウンド要素が幾多にも重なりあうダウンテンポナンバー「Diving Motion」「enOse」といった楽曲も、それ自身が楽曲として優れているだけではなく、アルバムの中でも、ただ一辺倒ではないdoopiioの世界観を表現するのに一役買っている。このように、doopiioの放ったデビュー・アルバムは、ただ単に楽曲集としてまとめられたCDではなく、一つの世界観をもった『Syrup Gang』というアルバムとして確固たる強度を持ち得ているのだ。
最後になるが、このアルバムがリリースされた<Day Tripper Records>にも触れておきたい。そもそも「ネットで活動するアーティストの音楽をフィジカルにリリースし、ネットユーザーと一般のリスナーの架け橋となるハイブリッドな活動を展開する」(公式HPより引用)ことをコンセプトとする<Day Tripper Records>は、doopiioの『Syrup Gang』までで全8枚のCD、5つのカセットテープ作品をリリースしており、リリースしたアーティストはSeiho、Madegg、And Vice Versaといった関西のアーティストは勿論のこと、東京で活動するKevin MitsunagaによるユニットLeggysaladや、突如シーンに現れ、<Day Tripper Records / INNIT>主宰の「Bring Your Music Next」コンテストで最優秀賞を獲得した福岡のビートメイカーQ/Ghostなど幅広い。
MP3媒体で配信され、iTunesに放り込まれ自由に構築されるデータとは違い、CDやカセットテープというインターネットからある意味隔離された媒体でのリリースは、資金面や仕上がりの質についての不安、そして一度リリースしたものを完全に修正することが出来ないという緊張感が発生する。それでもまだ物理的なリリースが有難がられるのは、私達にとってまだ完全なデータ管理が自然ではないからである。筆者の様な古い人間は、データ配信の便利さに納得し、充分浸りながらも、まだCDやアナログという媒体に憧れを抱いている。また、インターネットをインディーズ市場代わりに使用していたアーティストにとっても、物理的な媒体をリリースすることは一つの目標であろう。それにやはり、アーティストとしての実力が真に発揮されるのは、フィジカルな媒体というステージからではないだろうか。
CDは、全世界で、有名無名問わず様々な人間が「物理的に」リリースをしている、ネットとはまた違うステージである。そして、その土俵では、そのアーティストの真の実力が試される。<Day Tripper Records>がフィジカルな媒体に拘るのはただ単にコレクター的な発想ではなく、インターネット発のアーティストがどれだけ世に通用する実力を持っているかを試すためではないだろうか。そして、今回リリースされたdoopiioの『Syrup Gang』もまた、楽曲集として、そしてアルバムとして、物理的なステージでも十分に通用する、間違いない完成度を誇った作品である。
文:和田瑞生
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行なっている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。