EVENT REPORTSSeptember/22/2017

[Event Report]UNDERWAVE – “Lido”

 2017年8月21日、渋谷WOMBで「UNDERWAVE」のローンチパーティーが開催された。第1回目のヘッドライナーとして出演したのは、今年の「SONIC MANIA 2017」にも出演し、大きな話題を集めたLidoである。ノルウェー出身、プロデューサー/シンガーソングライターとして活動しているLidoは、2016年に初のフル・アルバム『Everything』をリリースしたばかりの新進気鋭のアーティストであるが、それは数々のリスナー、DJたちが待ち望んでいた待望のリリースでもあった。

 2013年頃から彼のSoundCloud等で公開されていたDisclosure「Latch」やS-Type「Billboard」のリミックスは、今までのダンスミュージック的な土台から飛躍した衝撃的な展開と、構成要素を極限まで減らした今までにない音像により、大きな反響を呼んだ。2014年に初めてリリースされたEP『I Love You』で、彼が音楽のこの先の世界を提示してくれるという思いは確信となった。そこには、メタ的に反復される主題や、特徴的なビートやユニゾンといったエッセンスを混ぜ込みながら、ダンスミュージックとポップソングを同時に解体し未来へ進めていくような推進力があった。

 今回の東京追加公演で彼を迎えたのは、Licaxxx、Carpainter、Kai Takahashi、NNULL、Chocoholicといった、日本で先鋭的な活動を続けるアーティスト/DJたちであり、Lidoと共演する国内アーティスト陣とのイベント的な化学反応も、今回の「UNDERWAVE」で注目されるポイントであった。CarpainterのDJ セットでは、グライムMCであるOnjuicyが客演参加し、二人がフィーチャーした新曲「PAM!!!」をライブで披露、yahyel/DATSのMONJOEとKAZUYA OIによる新ユニット、NNULLのライブセットでは、客演として参加したシンガーソングライターの向井太一が新曲を披露し、Chocoholicのライブセットでは、SIRUPが参加、両者が共同制作した新曲を初披露するなど、パーティーの熱量に呼応するかのようにフロアを盛り上げていった。そして平日18時からの開催にも関わらず、早い時間からフロアには多くの人が集まっていたことからも、このパーティーへの期待値の高さが窺えた。

 “I’m not DJ”という宣言から始まったLidoのアクトは、彼の今までのワークスやリミックスを、彼自身が演奏するキーボードとドラムの激情的なサウンドと、それぞれの楽曲に呼応するように作られたドラマティックな映像によって、総合的に追体験するようなスタイルで行われていった。ライブ序盤で演奏された、執拗なまでに緻密に解体/構築されたサウンドとカットアップ・ボイスによって次々と生み出されていくメロディ、そしてその中でタイトに鳴り続けるベースが絡み合うアルバム収録曲「Murder」では、さらにLidoにより生演奏されたフリーキーなドラムが重なり、原曲では分解されて提示されたサウンドが統一され一つの塊としてぶつかって来るような体験は、その日最もライブらしい衝撃を感じさせるものであった。

 「Dye」「Crazy」等のアルバム収録曲をはじめ、『I Love You』がリリースされる前に先行公開されていた「Money」といった楽曲が次々と披露されたが、どの楽曲にもライブ仕様の細かなアレンジが施されており、すべてがアルバムを聴いた時の衝撃を超えるものだった。楽曲が再構築されても力強く残り続けるのは“メロディ”であり、ポップソングメイカーとしても活躍する彼のオールマイティーな能力を再認識させられた。そして、重厚な楽曲「Falling Down」やスリリングな展開で畳み掛けていく「Citi Bike」といったハードな楽曲から、New Jack Swingのサウンドを完璧に再現した、突如として発表された新曲「Not Enough feat. THEY.」といったポップなサウンドを通過して、最後は壮大なエモーショナルを湛えた楽曲「Angel」でライブは締めくくられた。

 Lidoが見せた圧倒的なパフォーマンスは、予め用意された音源そのものだけではなく、Lido自身によるキーボードとドラム、ボーカルを行き来するフレキシブルな演奏、彼のチームによって組み上げられたシネマティックな映像、そして何より私たち観客のコミットによって完成させられるものだった。

 最後の楽曲「Angel」のイントロでLidoの背景に映った教会の巨大な鏡の風景は、未だに私の中で忘れられない体験として残り続けている。あの瞬間にWOMBは教会として組み上げ直され、私たちも、Lidoもその前に立ち尽くす存在でしかいられなかった。そんな、音楽とパフォーマンスが持つ神秘的で強大な能力について、改めて確認させられるのであった。

UNDERWAVEとは
UNDERWAVEは、海外のアンダーグラウンドの波を東京のクラブシーンにまで届けるべく立ち上がった新たなパーティー。都内で DJ /プロモーター/ライターなど幅広く活動するYonYonが主宰するブッキングエージェントBRIDGEが企画・制作を行う。詳細は、UNDERWAVEの公式ウェブサイトにて。

Photo by AI TERADA

Link: BRIDGE, UNDERWAVE Event Photos(Facebook)

文: 和田瑞生
1992年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部卒。UNCANNY編集部所属(非常勤)。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行なっている。SWITCH特別編集号『Maltine Book』(2015)共同編集、「ポコラヂ」PA/エンジニアリングなど。