- EVENT REPORTSFebruary/26/2013
【Live Report】 Hostess Club Weekender at Zepp DiverCity Tokyo –2月3日(日) Dirty Projectors / Best Coast / Ultraista / Ra Ra Riot / Villagers
2日間に渡ってZepp DiverCity Toktoで開催されたHostess Club Weekender、続いては2日目のライブレポートだ。この日はVillagersやBest Coastといった期待の新人たちに始まり、Dirty ProjectersやRa Ra Riotといった今の時代を担う中堅バンド、新人というには余りに経験豊富なメンバーによるUltraistaの初来日など、様々なトピックに惹きつけられるものがあった1日であった。1日券が完売した前日の公演と比べても、最終的にはほぼ満員となり、フロアの盛り上がりが常に途切れることはなかった。
最初の出演者はVillagers、アイルランド出身の5人組インディ・バンドだ。2010年にリリースしたデビュー・アルバム『Becoming a Jackal』が、UKインディ&アイルランド・チャートで1位を獲得したという彼らは、どうやら本国期待の新人バンドらしい。セールスのみならず、過去にはNeil YoungやWild Beastsのオープニングアクトを務め、去年はGrizzly Bearのツアーをサポートしたという実績からは、実力もお墨付きといったところか。今年1月にリリースしたばかりのセカンド・アルバム『{Awayland}』を携えての初来日公演だっただけに、実際にライブを観るまでは全てが未知数なバンドだった。
当日はデビュー・アルバムからの「Becoming a Jackal」でスタートし、朴訥としながらも艶のある声を持ったフロントマン、Conor O’Brienの声が会場に響き渡った。新作からの「Nothing Arrived」、「My Lighthouse」といった曲では美しいコーラスとハーモニーを聴かせ、前半では主にアコースティックな曲を中心に披露した。そして、アイリッシュ・フォークの影響などその出自を強く意識させた前半とは打って変わって、「The Waves」から始まった後半では、如実に彼らの多才ぶりが窺える演奏となった。特にFlying Lotusなどのダンス・ミュージック全般に対する深い理解、南米音楽からチルウェイブまで幅広い音楽的影響をギターロックに変換したような「The Waves」、「Earthly Pleasure」、「The Bell」といった新曲群は、Radiohead以降のインディ感を感じさせるものがあった。
彼らをあえて一言で表すとすれば、アイリッシュ・フォークを通過したRadioheadだろうか。それゆえか、総じて音楽的には、逆に優等生過ぎるきらいがあったことは否定できない。しかし、新人バンドによる1組目の演奏とは思えなかったほどの終始安定した演奏力、Conor自身の口から日本語を交えた冗談すら飛び出したその余裕たっぷりな態度は、このバンド、これから化ける可能性ありという印象をこちらに抱かせるには十分だった。
2組目のアクトはRa Ra Riotだ。彼らにとっては2011年以来の来日公演となった今回は、チェロ担当で結成初期からのメンバーだったAlexandra Lawnの脱退、サード・アルバム『Beta Love』のリリースという大きな出来事を経た上でのライブであった。新作『Beta Love』は、今までのチェンバー寄りの編成を主体としたインディ・ロック然としていた作風から一転、Hot Chipなどを彷彿とさせるようなシンセ・ポップに大きく舵を切り、ファンの間でも賛否両論ありそうな作品だった。そのような新作を携えての来日となっただけに、今回は彼らがどのような姿を見せ、フロアはそれにどんな反応を見せるかということが気になる点だった。
結果的にいうと、彼らはメンバーや作風の変化による衰えなど全く感じさせない、大きな転機を原動力にした力強い演奏を響かせていたと思う。Alexandraを抜いた4人のメンバーに、サポートのチェリストを加えた5人編成で、全体的には新旧織り交ぜつつ、起伏ある展開をみせた構成のセットリストだった。
1曲目は「Run My Mouth」に始まり、畳み掛けるように「Shadowcasting」とファースト、セカンド・アルバムからの曲を演奏し、フロアも瞬時に盛り上がった。その中で時折挟まれた「Binary Mind」や「Beta Love」といった新曲たちも違和感なく旧曲の間に溶け込み、フロアの反応も上々である。「Beta Love」では自然と手拍子が沸き起こり、会場が一体となる瞬間もあった。そして、その様子から見るに、新しい路線はファンに受け入れられていたようだった。個人的には唐突な変化に戸惑い、全体的な完成度には少し疑問を持った新作だったが、実際にライブで聴くと新曲も意外と聴けることに気づいたことが、自分にとっても新たな発見だった。音源では見えづらかったこのバンド最大の持ち味である、アンサンブルとダイナミズムが感じられたことが大きかったのかもしれない。彼らは道を見失ったわけではなかった。
そして、後半ではフロントマン、Wes Milesがしっとりとした歌唱を聴かせる「When I Dream」から一転、ダンサブルな「Dance With Me」に至る振り幅の広さなども見せつつ、新旧織り交ぜて会場のテンションをキープし、最後に演奏したのはやはりセカンド・アルバムからの「Boy」だった。ダイナミックなドラミングによる推進力を軸に、チェロとバイオリンによるアンサンブル、インディ・ロック然とした若さや青さを凝縮したようなボーカルは、まさに彼らの持ち味を凝縮したような代表曲だ。やはりフロアもこれを待ってましたとばかりに、大盛況の内に彼らの演奏は終了した。
彼らが世間に登場したのは2006年だった。そして、同じ時期にNYから現れたVampire Weekendらと共に、インディ・ロック界全体を牽引していた時代もあった。しかし、若さを全面的に謳歌するようなインディ・ロックが特権的な地位を占めていた時代は終わった。だが、彼らはそんな状況を受け止めたかのように、今また自分たちの新たな道に歩を進めた。そんなことを考えさせられるようなライブだった。
続いて登場したのはUltraista、Radioheadの「第6のメンバー」とも呼ばれる名プロデューサー、Nigel Godrichが率いる新しいプロジェクトだ。本来はNigelと、24歳の若き歌姫Laura Bettinsonに、ドラマーとしてマルチ・プレイヤーのJoey Waronkerの3名による演奏が予定されていたが、Joeyの子供が誕生したという嬉しいハプニングのために、残念ながら今回、彼は出演キャンセルという事態に。そして、NigelとLauraの2名による思わぬ形での初来日となった。
Nigel本人が現れ、「コンニチハ、トウキョウ」と挨拶すると、それだけで会場は大歓声に包まれた。そして、バックスクリーンにはPVを加工したと思しき映像が流れ、それと同時に「Bad Insect」から演奏はスタートした。Joeyの出演キャンセルという穴を埋めるために、今回、急遽組まれた臨時編成によるライブは、ボーカル担当のLauraの前にはシンセが置かれ、Nigelがシンセとラップトップによるバックトラックの操作を担当し、それに合わせてベースでリアルタイムにベースラインを付けていく、というものだった。実際の演奏はというと、時にStereolabのボーカル、Lætitia Sadierを彷彿とさせるような瞬間を見せながらも、LauraはNigelのトラックの上で、淡々と儚げなウィスパーボイスを響かせ続けていた。時には自身の声を加工してリアルタイムでループさせたり、控えめに踊ったりはするものの、PVなどでの妖艶な印象とは裏腹に、実に大人しい印象を抱いた。Nigel本人も最初の方こそ、Joeyが来られなかった事情を観客たちに説明し、そのことを詫びた場面はあったものの、その後は実に淡々と職人然とした態度で演奏を続けていた。
そして、今回は本人たちが完全に意図した形での演奏とはならなかったが、やはり音源での印象通り、UltraistaはNigel流のダブステップを意識したプロジェクトだと感じた。最近のThom Yorkeのダブステップへの傾倒ぶりと、Nigelも参加しているAtoms for Peaceの傾向を聴けば当然の流れだと言えるが、そのことは「Our Song」といった曲のリズムパターンに特に顕著に表れていた(異常に太い低音の出力という音楽的特徴を考えると、本流のダブステップよりもいささか小さいようには感じられたが)。さらに、女性ボーカルの起用も、女性アーティストたちの活躍が目覚ましい最近の潮流を意識してのことではなかっただろうか。しかし、本来の形でこのプロジェクトの真意を確かめられなかったことはやはり残念だった。さらに言うと、生ドラムによるグルーヴ感が足りないために、全体的なカラオケ感は否めない印象ではあった。しかし、映像と同期した演奏はなかなかに見栄えのいいものでもあったし、次回は3人による来日を期待したいところだ。
いよいよ佳境に入ってきたこの日、4組目に現れたのはBest Coastだった。LA出身のサーフ・ポップ・バンドで、デビュー・アルバム『Crazy for You』のリリース直後から各音楽系雑誌やメディアで高評価を集め、インディ・バンド界隈での折からの「ビーチ」や「サーフ」といったキーワードの台頭とも重なって、そうしたバンドの中では代表的なバンドとして、世界中から注目を集めたバンドだ。去年リリースしたセカンド・アルバム『The Only Place』の評価も上々であった。だがしかし、個人的な印象では、その分かりやすいメロディと、単純な曲調、かなりガーリーな歌詞という典型的なポップ・バンドとしての特徴を備えているにも関わらず、このバンドには何かそれ以上の裏のようなものを感じずにはいられなかった。正直言ってそれが何なのかという、ハッキリとした確証はずっと得られていなかった。しかし、例えばあのいかにもガーリーな見た目のボーカル、Bethany Cosentinoが過去、アンダーグラウンド系インディ・レーベル<Not Not Fun>の主催者LA Vampiresこと、Amanda Brownと共に、エクスペリメンタル・バンドPocahauntedのメンバーだったという経歴を知っても尚、彼らを単純なポップ・バンドのひとつとして片づけられるだろうか。全てはただの筆者の考え過ぎなのかもしれない。しかし、この目で確かめてみる意味はあると思っていた。
端的に言うと、やはり彼らは単なるポップ・バンドではなかった。この日現れたのは、BethanyとギタリストのBobb Brunoに、サポートメンバーのベーシストとドラマーを加えた4人で、挨拶も早々に「When The Sun Don’t Shine」から演奏はスタートした。そして、彼らの演奏はサーフ・ポップなどという言葉から想像するような、どこか爽やかなイメージをまとったものではなく、全編ディストーションに包まれたロウファイなポップ・パンクだった。確かに音源を聴いただけでも、靄に包まれたようなロウファイ色の強い音像を持ったバンドだとは思っていたが、実際に聴くと予想以上に当たりの強いディストーション・サウンドを核にしたバンドだった。まあ、それもGreen Dayのオープニングアクトを務める予定という事実を知れば納得できる面もあったが、リヴァーブに包まれ靄がかかったような輪郭からは、前述のエクスペリメンタル・バンドの残滓を感じずにはいられなかった。
しかし、それ以上にBethanyの纏っていた雰囲気には興味深いものがあった。紅一点のBethany以外は、全員屈強な男たちのメンバーに囲まれ、あまり口数も少なく、淡々と演奏をこなしていたせいかもしれないが、何故だが自分には屈強な猛者どもを束ねる女番長のように見えた瞬間すらあったのだ。Bobbの必要以上にオーバーで典型的なロック・ギタリスト然とした動きも、さらにその印象に拍車をかけていたのかもしれない。だが、その硬派な印象とは裏腹に、やはり彼女の声はインディ・バンド界隈の中でも新しい歌姫になり得る素質を十分持っていると感じさせるものがあった。力強さと女らしさを同時に兼ね備えた、少し特徴的なその歌声は、あの屈強な男たちのサポートの中でこそ輝くものがあるのかもしれないなどと、最後を飾った代表曲の「Boyfriend」を聴きながら、なんとなく考えたりしたのだった。
そして、最後を飾ったのはDirty Projectors。もはや説明不要かもしれないが、現在のインディ・バンドたちの中でも、最もその活動に注目が注がれているバンドだ。東京での演奏は去年、来日した際の渋谷O-EASTでの公演以来で、その時のチケットは完売、『Swing Lo Magellan』からの新曲を中心に圧倒的な演奏力を見せつけ、特別な一夜を演出したのだった。筆者もその場にいた訳だが、音源からだけでも読み取れる魔術的なあの演奏があまりにもそのままの姿で、目の前で繰り広げられたことに驚いたひとりだった。
この日の彼らは新旧織り交ぜながらも、4曲目で早くも『New Attitude(EP)』からのレア曲「Fucked for Life」が飛び出すなど、予測のつかないセットリストを展開した。そして、「Offspring Are Blank」、「Temecula Sunrise」などの、伸び縮みするグルーヴ感を巧みに操る驚異的な演奏力を楽しめる曲も、Bjorkとのコラボ・アルバム『Mount Wittenberg Orca』からの「Beautiful Mother」などの、人間離れしたコーラスワークを楽しむことが出来る曲も、とてつもなく高い精度でやってのけてしまうのがこのバンドである。この日もその実力は遺憾なく発揮された。特に「Beautiful Mother」でのAmber Coffmanを始めとした3人の女性陣による、機械的な上昇と下降を寸分の狂いもなく実現してしまうコーラスワークは、いつ聴いても鳥肌が立ってしまうパフォーマンスのひとつだ。
しかし、彼らの音楽は、ただその驚異的な演奏力に圧倒されるためだけに存在するのではないことが、この日はつくづく実感させられた演奏でもあった。彼らの音楽はあらゆる時代や文脈を飛び越えた世界中の音楽から構築された、一種のキメラのようなものである。大抵の曲は、実に複雑な楽曲構成、リズムライン、コーラスワークなどを備えている。しかし、得てしてそういう音楽が陥りがちな、音楽マニアのためだけの音楽に彼らは決して陥らなかった。それはこの日、新作からの「Just From Chevron」の演奏中に、メンバーが行う複数の拍子が重複する複雑な手拍子のパターンを、自然と模倣しようと動いたフロアの人々の反応や、彼らをこの日一番の熱狂ぶりで迎えた会場の空気などから一目瞭然の事実だった。そして、個人的には特にそのことが明白に感じられた瞬間が、ここ最近は滅多に演奏されない1曲である「Rise Above」の演奏中のことだった。彼らの曲の中では、主にボーカルのDavid Longstrethと女性陣による歌で構成された、人気はあるが比較的地味な曲である。しかし、だからこそハーモニーと歌の力のみへと意識を向けた卓越したアプローチに、会場中がただ固唾を飲んで聴き届けるしかない状況があの場にはあったと感じたのだ。そう、アンコールでも演奏された『Bitte Orca』からの代表曲「Stillness is the Move」の時から、彼らの意識はハーモニーと歌の力を最大限に引き出す志向へと、常に向けられ続けていた。そして、何よりもその意識がこの日の観客たちにも届いていたことは、演奏終了後も鳴り止まなかった盛大な拍手が一番物語っていたことだろう。
取材・文:宮下瑠
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。得意分野は、洋楽・邦楽問わずアンダーグラウンドから最新インディーズまで。青山学院大学総合文化政策学部在籍。
撮影: 古溪 一道
*次回の<Hostess Club Weekender>は、2013/6/8(土)&9(日)恵比寿ガーデンホールにて開催決定。詳細はこちら。
Artist: Various Artist(ヴァリアス・アーティスト)
Title: Hostess presents NO SHIT! 3(ホステス・プレゼンツ・ノー・シット!3)
Number: HSE-60142
Label: Hostess Entertainment
Price: ¥1,980
Relese date: 2013.2.13
※特殊ポスター・パレット・パッケージ仕様。スタッフによる各曲解説ライナー
ノーツ付。
More Info: www.hostess.co.jp/noshit
<DISC 1>
1. Animal Collective – Moonjock
2. alt-J – Breezeblocks
3. Gotye – Eyes Wide Open
4. Dirty Projectors – Just From Chevron
5. Alabama Shakes – I Found You
6. Howler – This One’s Different
7. Cloud Nothings – Stay Useless
8. Dinosaur Jr – Don’t Pretend You Didn’t Know
9. Bloc Party – V.A.L.I.S.
10. Hot Chip – Night & Day
11. Purity Ring – Belispeak
12. Grimes – Genesis
13. Melody’s Echo Chamber – Endless Shore
14. Sharon Van Etten – Leonard 15. Cat Power – Ruin
16. Bobby Womack – Dayglo Reflection (feat. Lana Del Rey)
17. Ultraísta – Smalltalk
18. The xx – Sunset
19. Spiritualized – So Long You Pretty Thing
<DISC 2>
1. FIDLAR – No Wave
2. San Cisco – Golden Revolver
3. People Get Ready – Windy Cindy
4. Theme Park – Jamaica
5. Biffy Clyro – Black Chandelier
6. Ra Ra Riot – Beta Love
7. The Child Of Lov – Heal
8. The Men – Half Angel Half Light
9. Buke And Gase – Hiccup
10. Villagers – The Waves
11. Unknown Mortal Orchestra – Swim and Sleep (Like A Shark)
12. Night Beds – Ramona
13. Indians – Magic Kids
14. Local Natives – Breakers
15. Atoms For Peace – Default
16. Toro Y Moi – So Many Details
17. Ducktails – The Flower Lane
■レーベル・プロフィール
ホステス・エンタテインメントは、日本市場での独自のアイデンティティ確立を目指す厳選された海外アーティストやレーベルの商品全般の国内マネージメント、プロモーション、営業、マーケティング・サービスを展開。アークティック・モンキーズ、アデル、ゴティエ、ベック、モグワイ、レディオへッド、アトムス・フォー・ピース、アニマル・コレクティヴ、ソニック・ユース、ヴァンパイア・ウィークエンドといったアーティスト作品を発売。
www.hostess.co.jp
www.hostess.co.jp/noshit