EVENT REPORTSDecember/14/2012

【Event Report】electraglide 2012 – 11月23日(金) at Makuhari Messe

 国内最大級のダンスミュージック・フェスティバル<electraglide 2012>が11月23日に幕張メッセで開催された。ダンスミュージック・シーンのオールスターともいえるアーティストたちが国内外から集結し、オールナイトでそれを楽しめるという何とも贅沢なイベントだ。前回の開催が4年前だったので、当時高校生だった自分は会場に行けず悔しい思いをしたが、初参加した今年の<electraglide 2012>は期待以上のものであった。幕張メッセではHall 9とHall 11という2つのステージがあったが、Hall 9を中心にレポートする (尚、今回残念ながらレポートできなかったHall 11も、Takagi Masakatsu、Nathan Fake、DJ Kentaro、Denki Groove、Four Tet、Orbital、Andrew Weatherallという最強のラインナップであった)。

 会場に向かいながら、個人的に「幕張メッセに行くのは小学生の頃に行った次世代ワールドホビーフェア以来だな」ということを考えながら、ワクワクしだす時にこみ上げてくる心地よい胸の苦しさに懐かしさを覚える。駅から徒歩5分で今回の会場である国際展示場9、10、11ホールに到着。到着したのは20時20分。オープンは21時なので、まだ50人程度の列しか出来ていなかった。しかし、数分で建物の入り口からはみ出るほどの列が出来る。並びながら会話する声のトーンや表情から、今日のエレグラへの期待度が伺える。

 21時の開場と同時にHall 11へ急ぐ。Kode9が始まる21時30分までにTakagi Masakatsuを一目見ておきたかったからだ。会場内にまだ人がほとんどいない中、私のイメージよりも感情的にピアノを鳴らすTakagi Masakatsuがいた。しばし聴き入り、『Air’s Note』 に収録されている「Crystallized」が演奏されたところで後ろ髪を引かれながら移動。途中風営法改正のために活動しているLet’s DANCEのブースへ行き、署名した。コミケ幕張メッセ追放事件みたいなことがエレグラに起きないよう願いたい。

 Hall 9に到着。Kode9開始の時間になってもまだ人は少ない。DJブースの前から半円状に観客の輪が広がっていく。水が流れる音にノイズがのる。5分ほどアンビエントが続き、Kode9が登場したところで会場全てが観客で埋まっていく。人数が増えるペースに合わせてプレイも盛り上がりを見せ始める。そして、底抜けに明るいUKファンキーがプレイされる。そこには『Black Sun』で提示した闇を孕んだ知的な歩みはない。最新のJukeサウンドやBPMの早いドラムンベースが続き、DJブースの目の前の客達はすでに踊り狂っている。それからもグライムやヒップホップ、ハウスが続き、極太なベース音が観衆を盛り上げていく。会場がレイブの様相を見せ始めた所で、Kode9が存分にその知性を発揮していることに気がつく。著書『Sonic Warfare』で、「音がいかに大衆をコントロールするか」という研究を発表している大学教授でもあるKode9は、周波数によって完全に会場を支配していた。楽曲中のフェーダー操作によるブレイク後、客側から歓声が起こるタイミングに合わせてまた曲を再開させた時、Kode9が仕掛けるその心地よさに驚く。こうなったら後はもう音に身を任せるだけである。最後に、後にステージに登場するTNGHTの「Higher Ground」をプレイ。存分にハイパーダブサウンドを堪能した所でKode9のステージは終了。1人1時間のステージは短いかとも思ったが、後にはまだ6組控えている。まだまだ先は長い。
 
 続いて登場したのはAmon Tobin。合計5トンとも7トンともいわれるセットを携えて繰り広げられる「Isam」と名付けられたステージに期待している人は非常に多かっただろう。今回のエレグラの目玉の一つとして、ライブと共に行われる最新鋭のVJが挙げられる。その中でもプロジェクションマッピングを用いたAmon Tobinのライブは最も注目度が高く、ライブ開始前から会場は人で溢れかえっていた。開始直前にカメラ撮影、特にフラッシュを焚くのは絶対に厳禁だとのアナウンスが入る。

 ドローン音とともに幕が開く。同時に25インチ×14インチ×8インチの立方体をいくつも組み上げた巨大セットが現れ、感嘆とともに大歓声が起こる。セットには二点透視図法で描かれた複雑に繋がる立体が映し出されており、威圧感さえ漂わせている。アルバム『ISAM』と同じように「Journeyman」から演奏がスタート。深海を思わせる映像が映し出され、キックのタイミングに合わせて海底の砂埃がキノコ状に舞い上がる。曲の展開が変わりだすと同時に大きな機械の内部パーツのようなものが一斉に動き出し、映像がストーリー性を帯びる。機械を動かし続けてはそれが光とともに爆発し、その残滓が集まりだしてはまた機械が活動を始める。透き通ったオレンジ、緑などで表現されている光は観客を現実から乖離させていく。ふと周りを見てみると、誰一人として踊ることなくステージの一点に視線を集中させている。撮影禁止といわれているのにも関わらず多くのiPhoneカメラがステージを狙っていた。開始から全く人間性を持たなかったキューブの中に突如Amon Tobinが現れる。「Goto 10」を生き生きとプレイしている姿は間違いなく人間なのだが、セット右中段のキューブに乗り込んだAmon TobinはCGの様にも見えた。基本的にアルバムを踏襲したプレイが続けられ、Amon Tobinが乗り込んだマザーシップが宇宙から原子まで観客を先導する。映像を逃すまいとすればするほど足は動かず踊れなくなっていたが、その音と映像は身体を通り越して神経に作用しており、皆がトリップしていた。過去と未来を何度も行き来させる様な体験が続く。色彩豊かだった映像が白と黒のシンプルなものに変わった所で演奏の盛り上がりがピークに達する。コズミックなブレイクビーツの下で重低音のシンセストリングスが響き渡り、映像がシンプルになったことも作用して会場が踊りだす。さあここからという時、おもむろにAmon Tobinがキューブをおり、会場に包拳礼してまわる。賞賛の声があちこちから上がり、アンコールに応えてAmon Tobinのステージは終った。聴覚と色覚を極限まで刺激されるという新しい体験において、それに慣れていないと脳が集中するために身体を停止させることがAmon Tobinのステージでよくわかった。

 続いてはDJ Krush。いわずと知れた日本を代表する世界的なDJであり、活動開始から20周年を超えるキャリアを持つアーティスト。会場内で待つ人達の期待度は高く、登場とともにDJ Krushがマイク無しで何か叫んだ瞬間、会場の盛り上がりは一気にピークに達する。真上から照らされる、ブルーライトのみの照明のシンプルさがかなり新鮮に映り、DJ Krushのオーラを更に増大させている。エネルギー全開でプレイが始まり、非常に硬質な極上のキックに支えられたアッパーなブロステップが響く。Kode9やAmon Tobinと比べて音量のレベルが圧倒的に大きい。アルバムで聴ける様な静けさと強さが同期した瞑想的なサウンドではなく、今回のプレイでは音が隙間なく埋め尽くされ、音像がまっすぐ高速に向かってくる楽曲が続く。Kode9の時と同様アルバムだけを聴いて判断していたが、そのイメージは脆く崩れ去る。高速のドラムンベースが続く。単調なビートをハイスキルなDJプレイでテクニカルに刻み、踏み込んだアクセルを戻すことなく更に踏み続けていく。サイケデリックにトリップする、というより高速ビートに目眩を起こしているという印象だった。スモーキーなヒップホップサウンドが聴けなかったのは残念だが、まるで闘牛士のように高速サウンドを操っていたDJ Krushのプレイに、会場から歓声があがる。終止盛り上がりのピークを保ち続けたまま、DJ Krushのステージは終了した。

 続いてはSquarepusherのステージ。高度に作り込まれた楽曲を数多くつくり出す<Warp>の主要人物の一人である。開催以前から話題になっていたLEDを駆使したステージングや、久しぶりにベースを持ってプレイするというアナウンスがあったためか会場の期待度はこれもまた非常に高い。登場と同時にDJブースの横にベースがあることを発見すると、会場から大歓声が上がる。歓声の中に親しみが多く込められていたように感じたのは、ステージでLED付きのヘッドセットをつけるようになってから、なんだか憎めないキャラクターという印象がついたからだろう。プレイされた楽曲は最新アルバム『Ufabulum』からがほとんどだった。完璧なタイム感のもと、複雑に組まれたビートとLEDパフォーマンスは相性がよくどこかコミカルで、「NO MORE 映画泥棒」というテロップとともに踊りだすあのカメラを連想した。ライブパフォーマンスではエンターテインメント要素としてコミカルさが加えられ、その精度が更に高められていることを確信する。「Energy Wizard」では完璧なタイム感によってビートが作られているが故に、ライブでスネアやキックのノートリピートが繰り返されるとリズムが魅力的に再構築される。「Unreal Square」の様なコミカルな曲も構成の複雑さが基礎となり多様な印象を見せ、その中で終止一貫して小さい手振りで客をあおる姿は徹底的なエンターテイナーであった。「Stadium Ice」はスーパーでかかっているフュージョン曲そっくりなメロディーにもかかわらず、一度として同じパターンがないのではというビートが聴衆の上を飛び回り軽快なポップソングと化す。終止コミカルなキャラクターでい続けたSquarepusherがベースを持ったとき、会場から絶叫が起こる。強烈に歪められたベースをインプロで鳴らしていたとき、マスクの下では一体どんな顔をしていたのだろう。計算されたコミカルさをマスクが演出していたのは明白だが、楽器をプレイする、という人間的なシーンにおいてはその表情の遮断がひどく怖かった。

 次はTNGHT。<Warp>の次代を担う逸材Hudson Mohawkeと、多様なジャンルを横断し、独特の感覚で調和させるLuniceが組んだ最もホットな二人組である。会場内に再び分度器状に人が集まりだす。アラビア音階のストリングスがなり始め、ライブがスタート。本日はじめての2DJは見物である。ヒップホップのトラックにTNGHT独特の「重くて軽い」ビートがのる。はじめ、LuniceがDJ、Hudson MohawkeがパッドやらFXやらを担当しているのだと思っていたが、急にLuniceがDJブースを飛び出しファンキーなステップを踏んで観客をあおり始めた。今回のエレグラの中で一番若いグループだからか、ノリが軽快でかなり楽しんでいるように見えた。観客も一気に上がっていく。以前フリーでリリースしたミックステープ『The Full Uncensored Mix』に収録されている曲も少しずつ挟みながら、メインストリームのヒップホップが続く。少し単調かな、と思っていた矢先に、Hudson Mohawkeの特有のボーカルチョップが響き、ふたりの味が顕在化し出す。ここからはTNGHTの持ち曲が数曲かけられ、Kode9もかけていた「Higher Ground」が、原曲よりわずかにBPMをあげてプレイされた。観客は真っ先に反応する。続いてWiz Khalifa「I Choose You」のイントロがLuniceによって何度もループされる。個人的に元ネタであるWillie Hutchが非常に好きということもあるが、TNGHTのハイライトは間違いなく「I Choose You」にHudson Mohawkeがドラムトラックをミックスした瞬間だったと思う。ほとんど電子音楽しか流れていなかったHall 9で久しぶりに往年のソウルサウンドが聴けたからだろうか、観客の反応もすこぶる良かった。

 続いてはFlying Lotus。いわずと知れたLAビートシーンの重要人物であり、レーベル、<Brainfeeder>の仕掛人でもある。今回前情報として、「レイヤー3」と名付けられたセットを用いてのステージだということが伝えられていた。Flying Lotusの前後に一枚ずつスクリーンを配置し、映像を流すという仕組みだ。会場は後方まで超満員。スクリーンに挟まれて登場したFlying Lotusは一曲のピアノ曲を流した。それは、11月21日に22歳の若さで亡くなったジャズピアニストAustin Peraltaの楽曲だった。Austin Peraltaは<Brainfeeder>からアルバムをリリースしている。手前側のスクリーンではピアノを弾く手の映像が、後ろのスクリーンには立ち上っていく煙が映されていた。来日公演のため、LAを離れざるを得なかったFlying Lotusが最大限の追悼の意を示したものであった。

 ここから一気にFlying Lotusのサウンドが展開される。特有の揺れを持つビートが会場を揺らしにかかり、スネアにかけられたリバーブがホールの隅へと向かっていき、キックは台形に広がっていく。地上に居ながらにして異次元宇宙に放り込まれたようなサウンドの中で、スクリーンに挟まれたFlying Lotusが上に伸び上がりながらリズムをとっている。PortisheadやBeastie Boysの曲もかけていたが、あまりにもFlying Lotusのサウンドで仕上げてくるので、観客はただただ迫り来る音像に身を任せるしかない。時々入るFXサウンドがリズムをかき回す。最新アルバムからは「Sultan’s Request」、「Putty Boy Strut」、「Until The Quiet Comes」などがかけられ、前作『Cosmogramma』からも「Computer Face // Pure Being」、「Zodiac Shit」、「Nose Art」といった曲がかかる。レイヤー3に映る映像は、ファニーなキャラクターやチャイニーズナイズドされたイラスト、ギャラクティカドーナツのような輪、蜂の巣のような籠など様々だったが、絶妙にFlying Lotus本人と絡みいい味を出している。「I have a dream」という言葉で始まるラップのサンプリングに続き、「Lotus has dream!」と叫び会場を煽る。Hudson Mohawkeの「Gluetooth」を逆再生した様な曲にFlying Lotusのリズムがのり、音像が今日一番のカオスに突入していく。「Computer Face // Pure Being」がかけられた際、映像では、捉えられた脳みそが枠の中で苦しそうにうごめいていた。まさに<Brainfeeder>の直接表現であるが、この映像の裏で動くFlying Lotusには一種の神懸かり的な雰囲気があった。かれこれ40分以上踊らせているビートにようやく観客も順応し始め、映像と音と観客がシンクロしはじめる。クライマックスに差し掛かりシンセサイズされた尺八、鼓笛のがなる中、締太鼓に似たスネアが響く。まさかこれは祭囃子か、と思っている内に、J Dillaの楽曲に続き「Corded」をミックスしたところで会場とのシンクロがピークに達する。最後はパーティーチューンをかけ会場に挨拶をして終了。まさにFlying Lotusの神髄を見せつけられた圧巻のステージであった。今回、Hall 9のベストアクトは間違いなくFlying Lotusであろう。

 最後のMark Pritchard B2B Tom Middletonが始まっていたが、体力が限界に近づいていたので休憩することに。5時にしてはじめて会場をゆっくり見て回る。十分休憩を取った所でHall 9へ戻る。このコンビは元々Global Communication名義で活動していたような気がするが、なんで変えたのだろう、と一瞬疑問に思ったが、中の雰囲気とサウンドを聴いてそんな疑問はどこかへ吹き飛ぶ。かなり少人数になっていたが、さすがに、ここまで残っている強者たちの体力と気概は見事なもので、まさにレイブ状態だった。イギリスの重鎮プロデューサーMark PritchardとTom Middletonはアンビエントの名作『76:14』を生み出したコンビだ。そんな彼らのBPMの早いドラムンベースが最後の最後まで容赦なくフロアに鳴り響き、今年の<electraglide 2012>は終了した。

取材・文: 森優也
1991年生まれ、埼玉県草加市出身。UNCANNY編集部員。POPGROUP所属のESMEを実兄にもつトラックメイカー見習い。

Photo: Tadamasa Iguchi


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