- INTERVIEWSDecember/22/2015
[Interview]HOLYCHILD – “The Shape Of Brat Pop To Come”
HOLYCHILDはLiz NisticoとLouie Dillerによって2011年に結成された男女デュオ。ジョージ・ワシントン大学在学中に出会い、音楽活動を開始。現在はLAに拠点を移している。USのレーベル〈Glassnote〉と契約し、2013年にシングル「Happy With Me」でデビュー。翌年、EP『Mindspeak』をリリースしている。Apple WatchのCMで「Running Behind」が起用され、今年6月には、同曲を収録したファーストアルバム『The Shape Of Brat Pop To Come』をリリースし、続く7月には、FUJI ROCK FESTIVAL ‘15への出演も果たしている。
そして今月、早くも再来日を果たし、代官山UNITで初の単独来日公演を行ったHOLYCHILD。公演を直前に控えていた彼らにインタビューを行った。
__今年7月のフジロック出演から、今回は初の単独来日公演ということですが、2度目の来日はいかがですか?
Liz:こうして日本に戻ってくることができてすごく光栄。今夜のライブもすごく楽しみにしているわ。
__自らの音楽ジャンルを”Brat Pop”と称していますが、Brat Popについて教えてください。
Louie:サーカスティック・ポップミュージック、皮肉のポップミュージックっていうのがBrat Popなんだ。名声とかお金とか、セレブだったり若さだったり、そういうのって世の中に溢れてる。それに対して、真のものを追求していくポップミュージックがBrat Popなんだ。
__そのBrat PopはHOLYCHILDのアルバムタイトルにもなっていますが、アルバムコンセプトについて教えていただけますか?
Liz:アルバムはBrat Popがテーマになっているの。世の中の真のものっていうのを追求しているアルバムよ。
__お二人はジョージ・ワシントン大学在学中に出会い音楽活動を開始されたそうですが、何を専攻されていましたか?
Louie:二人とも国際政治を専攻していたんだ。リズはモダンダンスとイタリア文学も同時に専攻していて、僕はジャズも専攻していたよ。
__大学で学んでいたことが現在の音楽活動にどのような影響を与えていますか?
Liz:そうね。批判的に物事を見ることができるようになったと思うわ。あと、いろいろなことを評価することもできるようになった。世界に対してもそうだし、自分たち自身のこともそうだし。2010年から2012年にかけてニューヨークでシュガーダディ(*1)についてリサーチしていたの。誰がその関係の中でパワーを持っていて、なぜその人がパワーを持っているのかとか、私はパワーに関してとても興味があるの。それがおもしろくてずっとリサーチをしていたわ。
__リズさんはダンサーでもあり、ルイスさんはキューバでドラミングを学んだそうですが、そのような経験が現在の活動にどのような影響を与えていますか?
Liz:自分の身体をよく知って、自分の身体の動きをよく把握しているっていうのが、自分にとってすごく心地が良いの。声は楽器のひとつだし、その声っていうのも自分の身体の一部。そういうのを全部使って表現しているっていうのが今夜観れると思うわ。
Louie:ポリリズムやアフロ・キューバン、アフロ・ブラジリアンに影響を受けてるんだけど、それが今やってるBrat Popのリズムに影響を与えている。さっき言ったBrat Popのコンセプトと同じで、HOLYCHILDの音楽は聴きやすい親しみやすいメロディーとか音楽で、音楽も普通のポップミュージックでありながら、でもそのリズムがポリリズムだったり、キューバで学んだ他のポップミュージックでは聴くことのできないリズムを使っているんだ。親しみやすいものの中にちょっと変わったものがあるっていうのがBrat Popに通じていると思っているよ。
__アルバムのアートワークや、ミュージックビデオにおいて、受け手側がメッセージを受け取りやすいような、わかりやすい表現をされている印象を受けます。表現をここまで具体的にしている理由は何かありますか?
Liz:具体性っていうものは大事にしているんだけど、何を見せるかっていうのは自分たちがコントロールできると思っているの。見せるディテールも自分たちが選ぶことができる。だから、全てを具体的にしようとしているんじゃなくて、自分たちの音楽にしてもミュージックビデオにしてもそうなんだけど、みんなが繋がりを持ちやすい、簡単にアクセスできるものでありながら、同時にエクスペリメンタルなものっていうのをつくろうとしている。だから、綺麗で見やすくてわかりやすくありながらも、何かちょっとこうしっくりこない、考えさせられたりとか気持ち悪かったりとか不快だったりっていうものが好きなの。例えばミュージックビデオでも、かわいくてカラフルなものがある中に、ちょっとアレ?って思わせるものがある。例えば年配の人たちがバナナを咥えている映像があったりとか。そういうのって心地良いものじゃないわよね。アルバムのカヴァーも、自分の身体にお金が乗っていたりとかポテトが乗っていたりとか、なんかちょっと違うっていう、そういうものをつくろうとしているの。
__「Money All Around」のミュージックビデオは特に具体的で、映像表現だけでなく注釈もついていますよね。
Liz:「Happy With Me」とか「Running Behind」のミュージックビデオで、クリアではあったと思うけど、ちょっとしたところや些細なところで、自分たちの伝えたかったことを全部伝えることができなかったと思っているの。だから「Money All Around」では、自分たちがどんな皮肉を言っているかっていうのをちゃんと全て伝えたかったから、文字も使ったのよ。
__出演する俳優に年配の人たちを使いたかったという注釈もありますが、この理由について教えていただけますか?
Liz:今世の中は若さっていうものに囚われすぎていると思う。日本でもきっとそうだと思うんだけど、若いことが美しいとされていたりだとか、ものすごくアンチエイジングにのめり込んだりとか、そういうのって良いことじゃないと思う。世の中のそういう考え方に自分自身すごくイライラさせられているから、ビデオではお年寄りの人とか年配の人を使って、その人たちがセクシャルなことをやっているっていうのを表現したかったの。年齢もそうだけど、美しいものとか食べ物とかお金とか名声について、さっき言ったようなアルバム全体の内容がそういうことについて表現しているわ。
__言語の異なる日本で、HOLYCHILDのメッセージはファンからどのように受け取られている印象を受けますか?
Liz:なぜか日本のファンは自分の国の人たちよりもはるかに理解してくれている気がするの。日本の人ってサーカスティックなのかしら? 私自身とてもサーカスティックな人間なんだけど、アルバムのジャケットもそうだし。でもアメリカの人ってその皮肉を理解してくれないの。日本のファンはそこをちゃんと理解してくれてる気がするわ。
__このようなアイロニカルな(皮肉っぽい)歌詞に対して、ポップというジャンルを選んだ理由について教えてください。
Louie:自分たちはポップミュージックのファンなんだ。ポップミュージックだとみんながアクセスしやすいし、みんなが繋がりやすいものとしてそれをフレームにしながら、人に対して何かを提示したり、自分たちも何かに挑戦したり、そういうことをしていきたいと思っているんだ。
Liz:メッセージっていうのはすごく大事だと思う。でも、やっぱりそれが伝わらないと意味がないから、みんなにメッセージが伝わるようになるためにはポップっていうみんなが親しみやすいフォームを使ってそれを表現して、伝えることができるんじゃないかと思っているの。
__では、社会に対するアイロニーを表現していく上で、今後どのようなアプローチをしていきたいですか?
Liz:アートの表現に限界はないと思っていて、自分にとってHOLYCHILDはただの音楽プロジェクトっていうよりもアート・プロジェクトだと思っているの。だから、ミュージックビデオもそうなんだけど、ショートフィルムとかそういうものもやっていきたい。実はすでに、「Happy With Me」「Every Time I Fall」「Pretend Believe」っていう3つは合わせるとひとつのショートフィルムのような作りになっていて、初めて自分でディレクションしたものなの。 何か違うものを作ったり違う方法で自分を表現することに今すごく自由を感じていて、だから今からとても楽しみよ。
__次回作のコンセプトはどのようなものになりそうですか?
Liz:まだ決まっていないわ。実は作品を書くために1月にメキシコに引っ越そうとしているの。来年の春に何曲か出せるといいなと思ってて、今いろいろ書いている途中なの。もちろんBrat Popっていう部分は変わらない。理由とかいろいろ考えずに、自分のパッションに任せて、常にパッションを持って生きていくって決めたから、これからどうなっていくのかすごく楽しみ。
Louie:今、下書きじゃないけどちょっとしたアイデアみたいなものはあって、それがどう作品として完成するかはまだわからないけど、今までのよりもいいアイデアが思いついているから、すごく楽しみだよ。
(*1)…シュガーダディとは、若い女性や男性に金銭的な援助を行う中高年の男性を指す。
取材協力:Hostess
インタビュー・文:小林香織
1994年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍。インディ、ポップ、アメリカのカルチャーなどを担当。
■リリース情報
Artist:HOLYCHILD(ホーリーチャイルド)
Title:The Shape Of Brat Pop To Come(ザ・シェイプ・オブ・ブラット・ポップ・トゥ・カム)
Release date:2015/6/17(水) (UK発売日:6/1)
Label:Glassnote / Hostess
Price:2,100円+税
※日本盤はダウンロードボーナストラック、歌詞対訳、ライナーノーツ付
1. Barbie Nation
2. Nasty Girls
3. Happy With Me
4. Tell Me How It Works
5. Running Behind
6. Money All Around
7. Monumental
8. Plastered Smile
9. Best Friends
10. Diamonds On The Rebound
11. Regret You