- EVENT REPORTSJuly/09/2014
【Event Report】Outlook Festival 2014 Japan Launch Party –– PARTY REPORT
2014年6月8日、新木場ageHaにて国内最大のベース・ミュージックの祭典「Outlook Festival 2014 Japan Launch Party(以下Outlook Festival 2014 Japan)」が開催された。クロアチアで開催されている大型フェスティバル「Outlook Festival」が原型であり、今回開催されたパーティはその日本版となる。Outlook Festival 2014 Japanには、海外からDub Phizix、Strategy、Dillinja、Author、P MoneyやRoyal-Tといったドラムンベースからグライムまで幅広い面子が招集され、日本からは、本場の「Outlook Festival」にも出演しているPART2STYLE Soundや、Goth-Trad、DJ KENTAROを始めとする国内で絶大な支持を誇るアーティスト/DJから、Habanero Posse、Broken Haze、LEF!!! CREW!!!といった国内ベース・ミュージックを語るには外せないユニット、Hyper Juice、TREKKIE TRAX等の若手最重要クルーなどまでが一堂に会する、まさに国内のベース・ミュージックシーン、更には全てのクラブミュージックシーンを代表するパーティとなった。さらに、全てのフロアにVOID Incubusを始めとするサウンドシステムを搭載、積み上げられた大量のスピーカーが、文字通り新木場を揺るがした一日となった。
さて、ベース・ミュージックという括りは、果たしてどこからどこまでを包括しているかと言えば、それには具体的な境界線は無いのだというのが僕の意見である。レゲエ、ダブ、ダブステップにUKガラージ、グライム、トラップ、トワーク、ニューオーリンズ・バウンス、そしてドラムンベースやジャングル、ジューク等、ジャンルで言えば多種多様この他ない様々なサウンドが混合し、Outlook Festival 2014 Japanという一日の祭典、そしてベース・ミュージックという一つの世界観を形成しているという考え方も出来る。少なくとも日本のシーンでは、いわゆるベース・ミュージックという存在は大きな意味を成しているし、クラブの巨大なサブウーファーや自宅のヘッドホンなどを経由して「低音」は増幅し続けている。
クラブシーンが「低音」に惹かれるその理由について具体的な断定は出来ないが、一つ言えるのは、Outlook Festival 2014 Japanのようなイベントで用意されるサブウーファーが発射する「低音」とは、従来の音楽の楽しさを更に飛び越えた驚きであり、僕たちはその「驚き」に突き動かされているのだ、ということ。音によって発生する空間が歪むほどの衝撃は、聞いたことがあるはずのサウンドにも更なる解釈を加え、小説を再読するかの如くの重厚さをぎらぎらと魅せつける。文章や映像を抜いたストーリーだけでは小説や映画の楽しさを表現出来ないように、常識の規格外にある低音の衝撃は、その現場に居合わせないことにはどうにも筆舌に尽くしがたい。
強大なサウンドシステムの前では、観客もプレイヤーもまとめてその衝撃を共有する他ない。オープン直後からTREKKIE TRAXやHyperJuice、Broken Haze等が出演したWaterエリアには、早い時間にも関わらず多くの人が集まった。ここにも勿論大量のスピーカーが積み上げられ、その低音の衝撃に思わず笑みをこぼす人、そのリズムに身を委ねる人、遠くからブースを見守っている人等、様々な観客がサウンドを満喫していた。
ARENAには、海外ツアーにも幾度と無く出演し、サウンドシステムの「鳴らし方」を熟知したGOTH-TRADのようなアーティストや、国内トップクラスのターンテーブリストDJ KENTARO、そして勿論海外からの大物ゲストであるAuthor、Dillinja、Dub Phizix & Strategy、Royal T & P Money達も登場。ARENAのファイナルを飾ったRoyal T & P Moneyらの時間に至っては、DJにリワインド(フロアを盛り上げた楽曲を巻き戻し、もう一度頭から再生する行為)を求める観客たちによってフロアが激しく熱狂した。
そして、Outlook Festival 2014 Japanで一際観衆の眼と耳を惹いたイベントが、ageHaのARENAで催されたサウンドクラッシュである。サウンドクラッシュとは、そもそもレゲエ文化において、サウンドシステムを所有するクルー同士がそのサウンドで競うバトルの事である。ただの無法な争いではなく細かいルールを規定されることも多いサウンドクラッシュでは、各クルーが相手を凌駕するサウンドをプレイしたり、ダブプレート(クラッシュ等に合わせて特別に制作されたレコード)を用意することで争われた。今回のOutlook Festival Japanには、2012年の同イベントでのサウンドクラッシュで優勝したHabanero Posse、そしてそれに挑戦するBooty TuneとLEF!!! CREW!!!の3組が舞台に立ち、火花を散らした。
今回のサウンドクラッシュはラウンド制となり、プレイの順番は抽選で決められた。1番手となったLEF!!! CREW!!!は、持ち前の力強いパフォーマンスと正確なDJプレイで、BPM160周辺のハイテンションなチューンを披露。Traxmanの「Blow Yo Shit (Lenkemz Remix)」がプレイされると、フロアの前方には歓声が響いた。続けてのBooty Tuneは、彼らのレーベルからリリースされた日本のJukeを中心とした、ハイクオリティなセット。GuchonやD.J.Kuroki Kouichi等がブースに上がり、思い思いのフットワークを披露。D.J.Fulltonoの正確なプレイとD.J.AprilのMCが重なり、観客も湧き上がった。最後手となった前回優勝者Habanero Posseは、前者2組とは対照的に、深く安定したダブステップやテクノからプレイをスタート。その深い低音はベース・ミュージックが好きで集まった人々の心を一瞬で掴んだ。
第2ラウンド以降は各チーム「ダブプレート」を使用したバトルへ移行。MCを招致したダブプレートや、ユニークな“disり”を取り入れたサウンド、様々な側面から彼らのバトルは激化し、最終的には、RHYMESTERを客演に招きダブプレートを制作したHabanero Posseが優勝した。
サウンドクラッシュ終了後にHabanero PosseのGunhead氏が喋った「日本でもこんなに楽しいことが出来るんだって事を見せてやれた」という言葉通り、Outlook Festival Japanで行われたサウンドクラッシュは、エンターテイメントとしても、そして純粋なサウンドの勝負としても非常にレベルの高いイベントであった。LEF!!! CREW!!!、Booty Tune、Habanero Posseそれぞれが個性、スタンス、サウンドの流儀をぶつけ合う本気の勝負、そして、それに応えるように熱狂するアリーナを埋め尽くす観客。その光景は、現在進行中の日本のクラブミュージックの歴史に刻まれるものとなるだろう。
Photos: Yukino Miyanishi & Naoki Seo
取材・文:和田瑞生
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行なっている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。