ARTIST:

The Horrors

TITLE:
Luminous
RELEASE DATE:
2014/4/30
LABEL:
Hostess / XL Recordings
FIND IT AT:
Amazon
REVIEWSMay/28/2014

【Review】The Horrors | Luminous

 The Horrors——デビュー当時メンバー5人全員がそのバンド名のとおりオールブラックのファッションに身を包み、BauhausやThe Cureといったゴシックロックの代表格よりも強烈なゴシックイメージで音楽界のみならずファッション界をも震撼させた。しかしながら、彼らはアルバムをリリースするごとに進化し、ある意味型にはまったゴシックバンドから逸脱した新しいスタイルを確立し続けている。

 2009年にリリースされたセカンドアルバム『Primary Colors』では英NME誌で1位を獲得し、続く『Sking』 は全英チャート5位を記録するなどUKインディロック界を牽引するバンドにまで成長している。通算4枚目となる今回のニューアルバム『Luminous』は共同プロデューサーにクレイグ・シルヴィーが加わり、イーストロンドンのスタジオにて15ヶ月の月日をかけて制作されたという。内容はアルバム名(Luminous=明るい、輝く、の意)の通りより明るくポジティブなイメージの仕上がりとなっている。The Horrorsにとって“明るさ”という大きな変革にもかかわらず、彼らの基礎とも言えるダークな世界観が失われたわけではない。それはまるで、アルバムのジャケットにもあるような、暗闇の中でもかすかな光を反射させる何か明るいものを発見したかのようだ。

 今回のアルバムは、普遍的な主題とも言える「時の経過」を感じさせるものである。例えば収録曲「So Now You Know」のミュージックビデオでの砂漠の荒廃しかけた街、若者が悩みながらも自由気ままに生きる姿はどこかノスタルジックでアドレッセンス性が盛り込まれている。また、「I See You」の中では “I can see your future in it” “Life is fragile”といったリリックが時の流れを感じさせ、「Falling Star」や「Sleepwalk」でのファリスの柔らかいバリトン・ヴォイス、「Mine and Yours」の流れるようなギターリフから不思議と時間を二重写しにしたような既視感を覚えてしまう。今作はファーストアルバムのシャウトやギターノイズからは全く想像できない程明るく、よりエレクトロニックでハウスやテクノの要素も盛り込まれている。The Horrorsの特徴はシンセとギターサウンドが一体となっていて、顕著な電子音やキックのリズムを加えずに抽象的に曲のイメージを体現されていることであり、この点に関しては前作『Skying』 をさらに洗練させたと言っていいだろう。また、今回のアルバムではファリスのヴォーカルに大きく軸が置かれ、ノイズが少ない分ソングライティングが強調されているのも特徴だ。

 ところで、198cmの長身に整った顔立ち、目にかかる前髪にどこかメランコリックな表情でひときわ目を引くヴォーカリスト、ファリス・バドワンだが、バンドのフロントマンとしてファッションやアートにおいても注目されている。彼はバンドの活動以前、名門ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズの学生としてイラストレーションを学び、自身の個展を開くなど、音楽のみならず芸術活動にも精力的に活動をしている。自身のアルバムジャケットはもちろんCharlatansやHatcham Socialのアートワークを手がけ、今でも私生活でスケッチを一日に何時間かするという。2010年ミラノでの個展『Drawing a Straight Number Nine』では描いた絵画100点以上が展示され、続いて『Creatures in Colour』が2012年9月にロンドンで開かれた。彼の細い線で綿密かつ繊細に描かれたモノクロームのイラストは、アメリカの絵本作家エドワード・ゴーリーのイラストを彷彿とさせる。クラシカルな名前とシニカルな作風からイギリス人と間違えられるエドワードだが、不条理で冷酷、シュールでダークな世界観はファリスの美的感覚と共通するものがあるのかもしれない。ファリスは自身の芸術活動について『Dazed』のインタビューで以下のように答えている。

“多くのインスピレーションは人を観察して、なぜその行動をしたのか解釈しようとするところからくる。人の行動は僕を魅了する何かがあるんだ。同じように、多くの人が興味を持って僕の個展に来てくれることに気付いたんだ。”

 彼の観察からくるインスピレーションは音楽、芸術すべての創作活動に刺激を与え、新しいアイデアを生み続ける原動力になっているようだ。そしてその着想がThe Horrorsでの楽曲制作、世界観を創り出す源泉となっているのだ。このように聴覚に響く音楽性、芸術性のみならずジャケットやミュージックビデオにおけるビジュアルアートも含めて今回のニューアルバム『Luminous』を捉えると、より味わい深く彼らの世界観に浸れるのではないだろうか。

文・佐藤里江
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。主にアート、映画分野を得意とする。青山学院大学総合文化政策学部在籍。