ARTIST:

N'gaho Ta'quia

TITLE:
In The Pocket
RELEASE DATE:
2014/5/21
LABEL:
disques corde
FIND IT AT:
Amazon
REVIEWSMay/22/2014

【Review】N'gaho Ta'quia | In The Pocket

 2009年の配信開始以来、1年あまりで世界に数万人規模のリスナーを獲得した「COSMOPOLYPHONIC RADIO」の運営、そして自身もプロデューサー/ビートメイカー/DJなど多岐に渡り活動し、現在ビートシーンにおいて最重要人物とも呼べるsauce81の新プロジェクト、N’gaho Ta’quia(ンガホ・タキーア)のデビューアルバム『In The Pocket』が満を持して〈disques corde〉よりリリースされた。 

 本作は、全体を通じて、ヒップホップのスタイルを軸に往年のジャズやファンクに現代のエレクトリックな装飾を施したような音楽が独特の雰囲気を創出しており、結果的に、N’gaho Ta’quia独自のビート・ミュージックとして昇華された作品に仕上がっている。アルバムは、スモーキーな音像を充満させた「In The Pocket(Intro)」から始まり、空間的なエフェクトが特徴的な「Same Treat」や「Shake It」、より土臭くかつサイケデリックなサウンドとファンクネスなベースラインが生み出すグルーヴが特徴的な「All Night In The Groove」、「They’re Gonna Funk Us Out」、そして、アルバム全体のテーマを示唆する呪術的且つ厳かな最終トラック「The Woozie Town」、「In The Pocket」で幕を閉じる。ざっと紹介しているが、全16曲のこの作品では完成された世界観が構築されており、その一曲一曲が役割を持つひとつのピースとして、それぞれの存在感を放っている。

 また、この“Woozie Town”とは仮面の男に支配される過去と未来が交錯する架空の街とのことである。TOKIO(青山宗央)によって描かれた、その街のためのサウンドトラックという本作のコンセプトを具現化したアルバムジャケットは、不気味な仮面を身につけた男を中心に、様々な表情、特に胸ポケットに照らされた恍惚とした表情の仮面が印象的で、アルバムを通して聴覚的だけでなく視覚的にも呪術的な雰囲気を感じ取ることができる。

 ところで、現代の人類学研究において、中央アジア諸地域やシベリアといったシャーマニズムが盛んであった世界では、長い歴史の中における弾圧や様々な宗教との交わりを経て、特にソ連崩壊後に起こった文化復興運動としてのシャーマニズムの表象により、シャーマニズムは個人的な精神の探求者にとってのものというよりも「文化を再興していくための指導原理」といった思想の変化が生まれてきているという。

 この現在のシャーマニズム思想は、N’gaho Ta’quiaの今作品とも共通するように思える。例えばそれは、アルバムジャケットの仮面にも表象されている。仮面を被った相手と対面した際、「こちら」から「あちら」を見ることはできないが、「あちら」からは「こちら」が見える。そこには見えるか見えないかという境界線ができ、それによって一方向であった視点に自分自身=「こちら」を強く捉え直す機会ができる。見えないことはもちろん不安であるが、そこから生まれる自分自身に対する視点の変化は同時に魅力でもあり、そういった変化を引き起こすものこそ私たちの情動に働きかけることができる。アルバムのコンセプトを具現化したアルバムジャケット、つまりこの「仮面」からは、そのような見えないことへの魅力を考えさせられる。そして、それは見えないものとの交流で、人々を不安がらせてきたと同時に魅了してきたシャーマニズムに通じるものがある、と感じるのである。

 これらは、あくまで筆者の主観的な見解ではあるが、そういった意味において、この『In The Pocket』からは、音楽だけでなくアートワークを含めた一つの作品として私たちに視点の変化をもたらそうというN’gaho Ta’quiaの試みが窺える。そして、その視点から本作と向き合った時、N’gaho Ta’quiaの考える架空の街、“Woozie Town”では今までとは異なる音楽文化の再興が図られているのではないだろうかと想像するのである。

文・渡邊竜成
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。青山学院大学総合文化政策学部在籍。2.5Dにインターンとして勤務、日々勉強中。