ARTIST:

Le1f

TITLE:
Hey
RELEASE DATE:
2014/3/11
LABEL:
Terrible/XL
FIND IT AT:
REVIEWSApril/08/2014

【Review】Le1f | Hey

 Pitchforkで言うところの「Queer Rap」(直訳すると「風変わりなラップ」)の代表的なアーティストといえば、真っ先に浮かぶのがLe1fの名前だ。Le1f a.k.a Khalif Dioufは、まるで神童のようなラッパー兼プロデューサーであり、これまで、SoundCloudや自身のサイトを中心に自らのミックステープをフリーダウンロードで提供してきたが、この3月にオフィシャル・リリースとなるEP『Hey』をドロップした。

 「ゲイ」、「黒人」、「ラッパー」という三つの要素を取り入れた音楽カルチャーは、いまや高度なアート作品としてニューヨークのアンダーグラウンド・ヒップホップ界を下支えしている。しかし、いまのインターネット社会の供給過多と高速消費の中でクィアラップは、そのキャッチーなイメージが故、アンダーグラウンド界隈の中でさえ、一過性のアートととらわれがちだ。

 そんな中、Le1fは満を持してEP『Hey』を発表した。本EPは、2012年に発表したミックステープ『Dark York』収録の代表曲「Wut」のリマスター版を含む5曲で編成されている。このEPは、どの曲もLe1fのカジュアルでひねりのあるフロウと彼の美的センスが感じられる。チルでシンセが効いている「Hey」、そしてキャッチーで軽快なスナップ音と、ノリやすいメジャー・ヒップホップライクな「Boom」もまた完璧な仕上がりだ。相変わらずリリックもユーモラスでセクシュアルかつ、LGBTマーチの先頭をきっていくような口調はまさに彼らしいスタイルだ。「Sup」は今までのLe1fの中でもダークで”ブラック”な印象を持たせるトラップ調のトラックだ。最後の「Buzz」はタイトル通り蜂の羽音のようなサウンドが使われておりLe1fのボーカルがバズにうまくのっかっている。今までのLe1fは求心力と興味に溢れた音楽性であったが、このEPで一度自らを総括した意味合いが強いという印象を受ける。彼がニューカマーなラッパーだという時代は終わり、プロとして仕事をするベテランの風格が出てきているようにも感じる。

 ゲイカルチャーがなくなることは決してないだろうが、音楽文化においてクィアラップが一過性のものとなるのかどうかは分からない。ただ、このEPを通して言えるのは、Le1fはその渦中に常にありながら、その断固としたスタイルを貫き通していることだ。そしてこのショートEPは、まさにこれまでのLe1fのうまみを凝縮した作品だと言えるだろう。

文・竹富理紗
2014年度青山学院大学音楽藝術研究部部長。幼少期をアメリカで過ごし、現在大学生活を送る傍ら、Lisandwich名義で、毎月第一火曜日、DJイベント「sheep」を主催するなど、DJ、オーガナイザーとしても活動中。