ARTIST:

Warpaint

TITLE:
Warpaint
RELEASE DATE:
2014/1/22
LABEL:
Rough Trade / Hostess
FIND IT AT:
Amazon
REVIEWSFebruary/05/2014

【Review】Warpaint | Warpaint

 私の理想の女性像。それは、ただ美しいだけではなく、賢くて、ミステリアス。多面性を持つが、そこには一本の強い芯が存在し、時には底知れない恐怖さえも感じさせてしまうような女性。Warpaintの新作『Warpaint』は、まさに私が理想とする女性像を凝縮したような1枚だった。

 Warpaintはエミリー・コカル、ジェニー・リー・リンドバーグ、テレサ・ウェイマン、ステラ・モーツガワによるLA発の4人組ガールズバンドである。そのキャリアはほぼ10年にわたり、ガールズバンドという言葉が持つ可愛らしいイメージとは相反する、実力派バンドである。サウンド面では、LA出身という響きがもたらす明るい陽光の指した音楽スタイルとは全く違い、むしろロンドンのどんよりとした霧のたちこめたような雰囲気を持っている。実際、彼女達はUKのレーベル〈ラフ・トレード〉からファースト・アルバム『The Fool』と本作をリリースし、プロデューサー陣もイギリス人で固めている。ただ、彼女達が当初注目を浴びたのは、彼女達を取り巻く人間関係である(ここらへんはLAっぽい)。エミリーは元レッド・ホット・チリペッパーズのメンバーであるジョン・フルシアンテの元カノであったり、テレサはジェイムス・ブレイクと付き合っていて、ジェニーは女優のシャニン・ソサモンの妹であり、現在は有名な映像監督クリス・カニンガムと付き合っている。彼女達がリリースした最初のEP『Exquisite Corpse』では、レッド・ホット・チリペッパーズのジョシュ・クリングホッファーがドラムを務めたというから驚きである。彼女達を一躍有名にしたファースト・アルバム『The Fool』が2010年にリリースされ、早4年。おそらく、紆余曲折してきた彼女達にとってこの4年間はあっという間であったに違いない。そんな彼女達が今回リリースしたセカンド・アルバムは自身のバンド名を冠した自信作。おそらく首を長くして待っていたファンにとっては、期待の1枚だろう。

 本作を一言で表現するならば、雰囲気系アルバムと呼びたい。彼女達を紹介するにあたって「実験的」や「アート」、「ドリーミー」などといった言葉をよく耳にするが、そうした彼女達が持つ空気感をそのままに表したアルバムが本作なのである。それぞれの楽曲が「実験的」に様々な趣向を取り入れ、彼女達の多面的な魅力を引き出しているが、それを1枚のアルバムにしたことにより彼女達が持つ一つの独特な世界観が完成されている。彼女達が持つ独特の空気感、世界観というのは、一種の宗教的要素を持ち合わせる。というのは、不透明なベールで包まれ、シルエットはつかめるものの、実体はつかめない。そのベールをはぎ取ろうとすることは禁忌で、誰にも到達することのできないような崇高な世界であり、畏敬の念を持たずにはいられないのである。この一種の異様な感覚に私たちを陥らせる要因は、作り込まれたメロディと重なり合う女性ヴォーカルのハーモニーの美しさが大きいだろう。

 本作では、ニュー・オーダーやシガー・ロスのプロデュースでも知られるフラッドがプロデューサーを、U2やレディオヘッドを手がけたことでも有名なナイジェル・ゴッドリッチがミキサーを務めている。そんなビッグネームで多忙なプロデューサー達とスケジュールを合わせる上で、彼女達はそれぞれの曲と向き合う時間を多く持てたという。特に、フラッドには「より突き詰める」ということを学び、深い部分まで掘り下げることが出来たという。その甲斐あってか、リヴァーヴやエコーが綿密に重ねられたサウンドとディレイをかなり効かせたヴォーカルが彼女達のミステリアスな魅力を最大限に引き出している。今回は、全体的にリリックに関して「愛」を題材にしているそうで、特に本作のリード・シングルである「Love Is To Die」では、「I’m not alive without you」と切なく歌い上げる至極のラブソングとなっている。彼女達のリリックは、シンプルでフレーズをリピートすることにより、ある一種のスペルとして私たちの胸に響き、心の中の深い部分をくすぐる。Warpaintのラブソングは、決して安直なものではない、もっと人間の精神の深層によどんでいる欲望を引きずりあげてきたのである。もし、この苦しげで気怠い歌声のみが特筆すべきものであれば、それは表面的ですぐに忘れてしまうものになってしまったかもしれない。しかし、リズムベースが力強く、この空気を揺らすことによって、Warpaintの音楽は中毒性を帯びるのである。「Hi」や「Feeling Alright」は、リズム隊の力強いパワーの培った楽曲であり、本作を語る上で無視することはできない。全体的に、前回と変わらずシューゲイザー要素が強いが、ダンス・ミュージック要素が十分に濃くなった。「Disco//Very」は、アルバムの中でも異質な存在であり、ブラック・カルチャーが取り込まれた楽曲で、新境地を開拓したように感じた。エレクトロニック、インダストリアル、ダブといった要素が加わっているが、彼女達の大切にしている「less is more(より少ないことは、より豊かなこと)」というスタイルのおかげで心地よい。

 本作『Warpaint』で彼女達は独自の世界観を確立した。それは、現代における愛の叙事詩であり、女性の精神世界と欲望を露にしてしまった問題作である。彼女達の掲げる信念は、共感するものではなく、あくまでも敬うべきものなのである。2010年代、彼女達の登場は人々に一種の恐ろしさを与えることになった。この美しいメロディ達は、世に潜む混沌とした闇に一筋のスポットライトを当ててしまった。私たちが普段、見えないフリをしている複雑で理屈のつかない出来事や感情を。

文:細田真菜葉 
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。青山学院大学総合文化政策学部在籍。主にファッションを得意分野とし、DJとしても活動中。