ARTIST:

Sky Ferreira

TITLE:
Night Time, My Time
RELEASE DATE:
2014/1/31
LABEL:
Capitol
FIND IT AT:
Amazon
REVIEWSFebruary/04/2014

【Review】Sky Ferreira | Night Time, My Time

 無造作なプラチナブロンドヘアーに真っ赤なリップ。ドキッとしてしまうほど不思議な魔力が秘められている虚ろな目。シンガーソングライター、モデル、女優と、Sky Ferreiraは2010年代最大のポップアイコンになると言わしめるのに十分なセンスとスキルを持ち合わせている。Forever21やベネトン、メゾンキツネのイメージモデルとしても起用され、ファッション界で人気を獲得していった彼女はリアルライフでもスキャンダラスな話題が絶えず、常に注目の的となって各メディアでフィーチャーされてきた。
 
 デビューから4年の歳月が経ち21歳を迎えてようやくデビュー・アルバム『Night Time, My Time』がリリースされ、彼女や彼女のファンは安堵の溜息を洩らしただろう。というのも、17歳でシンガーとしてデビューしてから今回のアルバムリリースまでの道のりは決して穏やかなものではなかったからだ。14歳の時自身で作詞作曲をした音源をMyspaceに発表していたのがMadonnaやBritney Spearsを手がけたスウェーデンのプロデューサーBloodshy&Avantの目に留まり、2009年に〈Parlophone Capitol〉と契約を結び17歳のときその名も「17」でデビューを果たした。しかし、自分が信じて作り上げた楽曲をリリースしたいと願っていた彼女に対しSky Ferreiraを商業的に売り出そうとするレコード会社は4年間でレコーディングした400曲の内殆どを世に出すことはなかった。それでも2011年にファーストEP『As If!』、その翌年にEP『Ghost』を発表し、同作収録でシングルカットされた「Everything Is Embarrassing」は音楽メディアから高い評価を受け、アーティストとしての可能性を証明してみせた。そんな今回のデビュー・アルバム『Night Time, My Time』は、4年間自分を貫き通した末勝ち取った、魂の込められた作品なのである。

 満を持してリリースされた『Night Time, My Time』は流れのあるアルバムというよりむしろシングルカットされた楽曲で構成されたコンピレーションアルバムに近いかもしれない。Sky Ferreiraのフィルターを通し再解釈された80年代のバブリーでダンサブルなサウンドから90年代のエッジの効いたグランジテイストの楽曲など、彼女が愛し影響を受けた音楽的要素が随所に散りばめられているのだ。プロデューサーにHaimやVampire Weekendを手がけたAriel RechtshaidとCharli XCXなどを手がけたJustin Raisenを迎えたことによって80~90年代のポップな音楽とニューウェーヴシンセ要素が見事に相まって、彼女だけのニューサウンドとして輝きを放つ。「Boys」でアルバムは始まり、リバーヴの効いたポップな歌声はSky Ferreiraの中の少女の部分をちらつかせる。アルバムの4曲目に流れる「Nobody Asked Me(If I Was Okay)」では、少女から一人の女性へと成長する過渡期の不安や憤りといった感情を疾走感溢れるアップチューンなサウンドにのせて歌いあげている。中盤に差し掛かり、リードシングルである「You’re Not The One」のエッジが効いたギターチューンとキャッチーなサビは「Everything Is Embarrassing」のシンセポップとは一味違う、80年代の要素が色濃く反映されている。アルバムを締めくくるタイトルソング「Night Time, My Time」はそれまでの曲調とは打って変わって、怪しげなスローテンポが誘惑するような艶のある歌声を際立たせ、女性の生々しさを醸し出す。
 
 全体的にポップに仕上がっているのだが、このアルバムには長年の苦悩と憤り、不安や自己非難というテーマが基盤にあり、そこには普段スポットライトの当たらない彼女の心の影が映しだされている。「I Blame Myself」では彼女を取り巻く噂や名声、めまぐるしく華やかな世界に取り残された彼女のストレートな感情が挑発的に綴られている。全ての楽曲は彼女が手がけ、『エンター・ザ・ヴォイド』や『アレックス』などの監督として知られるギャスパー・ノエが手がけたカヴァーアートは普段の彼女の脆弱でセンシティブな部分を可視化させ、このアルバムに新たな解釈を与える。
 
 次世代のポップアイコンとして登場したSky Ferreiraは、90年代のガールパワームーヴメントの精神を彷彿とさせ、その洗練されたセンスで自分の信念を貫き通し、現代の女性の道しるべとしてこれからも注目されるべき唯一無二の存在となったことは疑いがない事実である。

文:阿部容子
UNCANNY編集部員。青山学院大学総合文化政策学部在籍の大学2年生。