ARTIST:

Björk

TITLE:
Utopia
RELEASE DATE:
2017.11.24
LABEL:
One Little Indian Records / Hostess
FIND IT AT:
Amazon, Apple Music, Spotify
REVIEWSJanuary/18/2018

[Review]Björk | Utopia

 ユートピア。それは、どこにもない場所。人間が希求する、どこにもない場所。ないものに恋い焦がれ、そのような浮遊感の中、既存の定義や細分化した解釈を組み合わせて、人は世界を創り上げて行く。ユートピアに向かって。

 「it’s here.」。Björkは、タイトルトラック「Utopia」の中でそう歌っている。これまで、ファッションなど、音楽以外の領域でも先進的なアプローチをしてきたBjörkが発表したアルバム『Utopia』は、これまでと同様に未来を見据えながらも、現在地に重きを置くべく過去との相対化を図るような試みが行われている作品だ。

 前作『Vulnicura』とは対照的に、 ガーディアンのインタビューにてBjörkは今作を“optimistic”であると述べている。前回の制作がMatthew Barneyとの破局に重なったことを受け、ライブに訪れた観客の多くが共感を訴え、涙を流したという。そのように、多くの悲しみが会場に生まれてしまったという事実に、彼女とその共同制作者であるArcaは、罪悪感を感じたと当時を振り返った。その後、自身の作品がもたらした影響を受け、それにコントラストをつけるように制作されたのが今作である。しかし、楽曲にはハープやフルート、鳥の鳴き声が響き渡たり、ナチュラルで透き通った空気を感じさせるような一方で、単純に前作と対照的な作品にするためだけに構成されたものではないということを感じさせる要素は所々に埋め込まれている。それでも彼女はそれを抑圧し無視することはせず、払拭しようのない苦しみと共に確実に残るトラウマを認知する。

 今回、Björk自身がインタビューで述べているように、『Utopia』は前作『Vulnicura』と対照的な位置付けの上に成り立っている作品である。これが意識的に行われている一方で、通常、人は過去(彼女が言う“トラウマ”)を目に見えない領域で比較対照に置いている。そして、無意識のままそれらに拘束され、既存の定義や細分化した解釈のなかで、“ユートピア”を追い求める。ないものを希求する。想像に至らない何かを果てしなく求める。「It’s here.」。そう歌う彼女は、進化ではなく、柔軟に未来永劫に変化を続けていく。今作では、悲しみから相対化を図ることによって少しのシニカルさを混在させ、そこから生まれたポジティブなエネルギーを持って表現している。そう示すアルバムが、本作『Utopia』なのではないだろうか。

文・池田礼
1996年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍。電子音楽を中心に幅広い領域で音楽を楽しむ。