INTERVIEWSJuly/14/2017

[Interview]Laurel Halo – “Dust”

 Laurel Haloが2年ぶりとなる最新アルバム『Dust』をリリースした。ブルックリン出身の彼女は、現在はその拠点をドイツに移し、音楽プロデューサーとしての活動領域をさらに広げている。そこでは、コンテクストを重んじつつも、常に先進的なことに取り組む彼女のアグレシッブな志向が現れており、前回までの作品と比較しても、今作でもまたそれがより顕著に現れている。
 
 今作の制作にあたり彼女は、Julia HolterやEli Keszlernをはじめ多くの多彩なエクスペリメンタル・シーンのアーティストたちをゲストに迎えている。彼女は、初期制作をEMPAC(Experimental Media and Performing Arts Center)で行った後、まさに実験的とも言える彼らとのセッションを重ねていき、その完成までにおよそ2年を費やしている。そうして完成された楽曲たちは、それぞれが個性的な歪み、ノイズ、ポップさを兼ね揃え、その解釈が容易ではない複雑さや魅力を備えたものに仕上がっている。以下は、その本作『Dust』の制作背景を中心としたインタビューへの彼女からの回答となっている。

__「Still Be There」より、今年1月に「As You Wish」と「Until I Make U Smile」のMVが公開されました。このプロジェクトは初音ミクにインスパイアされたものということですが、その制作背景を教えてください。

この初音ミクプロジェクトは、松任谷万璃とのコラボレーションに際して開始したもの。彼女は声の可能性を引き出すという試みを行っていて、一人カラオケについての研究もしている。彼女の叔母は歌手、叔父は音楽プロデューサーらしいんだけど、そんな環境で育った彼女は、私に興味を持ってくれたみたい。そんな彼女から一緒に曲作りをしたいという誘いを受けた。

私自身は数年前に、まわりの人たちと同じように、ネットで初音ミクの存在を知った。今、日本では彼女の人気は落ち着いてるみたいだけど、海外では未だに絶大な人気を得ていて、この2つの事実はとても興味深いと感じている。2月に東京で、初音ミクのグッズをお土産として買おうした時には、数が少なくてなかなか見つけることができなかったくらい。

私たちはもともと通常の初音ミクのコンサートよりも、もっとコンセプチュアルなことをしようと計画していて。それで、彼女が何者なのかということを明らかにし、そして真偽を問うその仮面を剥がすために、初音ミクのオリジナル曲と、それについての解説を音楽ドキュメンタリーのような作品に収めることにした(初音ミクのコアなファンは気に入らないようだけど……)。

__また過去にも、アルバム『Quarantine』において会田誠の「切腹女子高生」をアートワークに起用していますが、日本のビジュアルアートのどのような点に関心があるのでしょうか。

そのふたつのプロジェクトに繋がりがあるわけじゃないから、具体的に何のテーマに興味を見出しているとは言えない。だけど、私は小さい頃からアニメが好きで、『新世紀エヴァンゲリオン』や『攻殻機動隊』、スタジオジブリ作品、『インターステラ5555』などにハマっていて、最近では『パーフェクト・ブルー』がお気に入り。でも、だからってわざわざ自分の仕事にアニメの要素を取り入れようとは思っていなかった。

会田誠の猟奇的でカラフルな作品は、『Quarantine』の音へのアンチテーゼのように思えて、自分の作品のジャケットにぴったりだと自然に感じたという方が正しいと思う。初音ミクに関しては、彼女の見た目よりはその声と彼女の過去作品、そして2次元のアーティストとして彼女の存在が表現していることに興味を持った。強いて言うなら、“アニメ”という点ではなく、日本の芸術に興味があるということになると思う。

__『Quarantine』のリリース後、現在はベルリンを拠点に活動されています。今作『Dust』でもドイツ語によるタイトルの曲が多数見受けられますが、ベルリンに移住するということはご自身にどのような変化をもたらしましたか。

アメリカから出て、より広い視野を得るということは私にとってとても良い経験になっていると思う。世界の政治的な問題や性差別、文化の違いについてだけじゃなくて、音楽の歴史や成り立ちを学ぶ機会にもなっているから。

__『Dust』というシンプルなタイトルは、何を象徴したものなのでしょうか。

“Mono no aware” :)(もののあはれ)。私にとってそれは、無常感や大地との関わり、そして新しい発見や浄化を意味する言葉。これは、個々人の中で、これらのレイヤーが持つ本来の意味と、それらのレイヤー自体を受け入れるということであって、”Dust”には特定の場所や起源はない。そして同時に、「人に遅れをとる」ということ、そして「過去の何か」であるというコンセプトも持っている。

乾燥した車内と、素早い速度で埃を巻き上げる車。そして巻き上げられた埃が落ち着くとき。”Dust”には多くの意味が含まれている。変化のプロセスや、生成のプロセス、そして分解のプロセスというように。

__2013年のアルバム『Chance of Rain』、2015年のEP『In Situ』がテクノよりの音作りであったのに対して、今作『Dust』ではよりエクスペリメンタルで様々な要素が入った音作りとなっているように感じます。また、それらの前作では一切のボーカルが排除されているのに対し、今作では、KleinやLafawndah、Michael Saluなど多くのゲストが参加し歌声を披露しています。それらの作品の変化に関する意図を教えてください。

私はより良いものを作るために、常に違う手法をとりたいと思っている。普段聴く音楽にしても、自分が好きで作る音楽にしても、広く興味を持っていて、おそらく今後はもっとクラブミュージックよりの楽曲を作っていくと思う。

__アルバムごとに大胆に曲の雰囲気が変わりますが、それらは、例えば、制作時期によるあなたの制作環境やスタイル、心境など、どのようなことに起因しているのでしょうか。

人間として、プロデューサーとして、そして作曲家としての成長。あとは、環境の変化や余裕とか。

__また、そのようなあなたの柔軟な音楽スタイルを形成する核となるインスピレーションの源は何ですか。

私は昔から予測不可能で曖昧な音楽を作るのが好きだったということはあると思う。

__作曲活動をEMPAC(Experimental Media and Performing Arts Center)で行うことで様々な機材を用いることが可能になったと聞きしました。また、今作『Dust』の制作の初期段階は一人で行ったそうですが、ゲストを迎えるに至るまで、今作の制作にはどのくらいの研究期間を要したのでしょうか。具体的な制作プロセスを教えてください。

2015年はじめにEMPACでアルバム制作を始めて、そこでは2週間過ごした。Eli KeszlerとLafawndahも何日間かレコーディングのために来てくれたし、Disklavier(ピアノ)やビブラフォン、ドラムキット、数種類のパーカッション(ウィンドベルや自動車の部品など)を制作で使うこともできた。

そこでの作業の後は、アルバム発売前に公開したプロジェクト(〈Honest Jon’s Records〉の『In Situ』と初音ミク作品)が2つ重なっていたこともあって、楽曲がまとまるまでに長い時間がかかってしまった。

参加してもらったアーティストには、作品をよりよくするためにその都度協力してもらって、それが実際に新鮮なインスピレーションとなることもたくさんあった。以前から知っていた何人かのアーティストにはボーカルとして参加してもらいたいと思っていたから、曲作りの時にはさらに入念に取り組む必要があった。良いアルバムを作るために多くの時間を要したけど、急がずに時間をかけたこの作品にはとても満足している。

__〈PAN〉などから作品をリリースしているEli Keszlerが全編に渡りパーカッションで参加しているとのことですが、アルバムにどのような影響を与えていますか。

前回までのアルバムと比べて、今回の作品にはよりアコースティックな音を入れたいと考えていた。Eli Keszlerが作り出す彼ならではの音はとてもユニークで特別だけど、さらに、このアルバムを完成させるためにも良い仕事をしてくれた。

彼は作品のテクスチャーや雰囲気、リズムの中における自身の役割を把握してくれていたから、私がすでに作っていた楽曲ともいいバランスを取ってくれて。私たちは音楽の好みも似ていたから、私が求めている音作りをお互いに共有することも難しくはなかった。

__多様な参加アーティストたちとの曲作りの中で最も印象的だったエピソードを教えてください。

印象的でなかったアーティストはいない。すべてのアーティストの仕事が強く印象に残った。

__今作のリリースにあたり、4年ぶりにUKのレーベル〈Hyperdub〉に復帰していますが、その理由を教えてください。

〈Hyperdub〉と一緒に仕事をすることが好きだし、彼らが音楽レーベルとして行っている取り組みも尊敬しているから。

__最後に、あなたのステージネームであるLaurel Haloという名前の由来を教えてください。

適当に選んだ名前で、それ以降、変えられなくなっちゃっただけ。

Dust:
01. Sun to Solar
02. Jelly
03. Koinos
04. Arschkriecher
05. Moontalk
06. Nicht Ohne Risiko
07. Who Won?
08. Like an L
09. Syzygy
10. Do U Ever Happen
11. Buh-bye
+Bonus Track/s for Japan

Photo by Phillip Aumann

インタビュー・文・翻訳:池田礼
1996年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍。電子音楽を中心に幅広い領域で音楽を楽しむ。