ARTIST:

Gallant

TITLE:
Ology
RELEASE DATE:
2016/04/06
LABEL:
Mind of a Genius
FIND IT AT:
REVIEWSMay/10/2016

[Review]Gallant | Ology

 私たちは一人だ。それでいいと思う。それにもかかわらず、私たちは自分以外の存在を強く望んでいる。誰もがスマートフォンを所持し、”常につながること”が当たり前になった今、その傾向はより強くなった。そう感じるのは私の思い込みではないだろう。

 ロンドン/LAのインディ・レーベル〈Mind of a Genius〉と契約し、LAを拠点に活動するR&Bシンガー、Gallant。彼は、2014年にファーストEP『Zebra』をセルフリリース後、シングル「Weight In Gold」のブレイクを経て、期待と注目を一身に集める中、デビューアルバムとなる『Ology』をリリースした。

 「First」からはじまり「Last」で終わる本作で、彼は自傷的な自己のストーリーを曝け出している。例えば、”I’ve been talking to myself(僕はずっと自分に話しかけていた)”と繰り返される「Talking To Myself」、そして「Shotgun」、「Bourbon」など混乱が滲み出るようなタイトルの楽曲に続き、「Miyazaki」では”suicide(自殺)”と歌うように、全編にわたり自身が抱える孤独や世界から自己への逃避が綴られている。また、アルバムのアートワークには彼自身の写真が使用されているが、それには両目と口を塗りつぶすように、口元を歪めたスマイリーフェイスが殴り描きされている。

 彼は元々10代の頃に抱えていた、自身の不安や苦悩を沈静させるために楽曲を作り始めたという。本作は、よりそのような自身の核心に近づきをみせた楽曲で構成されているが、Gallantの楽曲に他者や世界を攻撃するような荒々しさや激しさはない。あくまで静かに流れるように、クラシックに裏声で歌うような音が彼のスタイルだ。“直接的でない”といったスタイル。それは歌詞にも表れている。現に、楽曲から彼が人生で経てきた経験を感じようとすると、うまくすくい取ることができず、そこには謎めいた印象だけが残る。曖昧に濁したような抽象的な表現法が用いられている。

 本作は、自己に問いを投げかけ、その自己と向き合うことで成立している。「ひとりでもいい」と思う反面で、「誰かとつながっていたい」という矛盾。それに応えるかのように、現代のテクノロジーは他者との接触を容易にする。孤独を望んでいるのか、それとも誰かを求めているのか。最終曲「Last」の最後、静寂の中にスマートフォンのバイブレーションのような音が響いた時、ドキッとさせられたのは、私だけではないのではないだろうか。

文: 池田礼
1996年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍。電子音楽を中心に幅広い領域で音楽を楽しむ。