INTERVIEWSDecember/26/2016
[Interview]FaltyDL – “Heaven is for Quitters”
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 〈Planet Mu〉から〈Ninja Tune〉を経て、FaltyDLが、自身の新レーベル〈Blueberry Records〉より、およそ2年ぶりとなる最新アルバム『Heaven is for Quitters』をリリースした。アルバムのリリースに合わせて、FaltyDLは今月、東京、大阪にてジャパン・ツアーを敢行。同公演では、〈Blueberry Records〉からEPをリリースした日本人アーティストAmetsubや、以前からミュージックビデオの制作を通じて交流があるというRhizomatiks Research所属のメディア・アーティスト真鍋大度らとの共演も実現している。

 自身のレーベルからリリースとなった今回のアルバム制作はどのように進み、また、彼を取り巻く環境はどのように変化したのか。そして、日本人として聞かずにはいられない、アルバムのアートワークの端に並ぶ文字の意味から露わになる彼の人生観とはどのようなものなのか。それらを確かめるべく、東京公演直前、FaltyDLことDrew Lustmanにインタビューを行った。

__今回の来日公演にも出演するAmetsubさんのEP(『Sky Droppin’ EP』)をご自身のレーベルである〈Blueberry Records〉からリリースしていますが、どのような経緯でリリースに至ったのでしょうか?

僕のMVを手がけたことのある真鍋大度が制作している映像を見たとき、その音楽を彼(Ametsub)が担当していて、SoundCloudか何かで直接「〈Blueberry Records〉からリリースしてみない?」とメッセージを送ったんだ。そしたら彼も乗り気になってくれて。いままでCDのみのリリースだったから、ヴァイナルでリリースできることが決まって彼は喜んでいたよ。リリースまで時間はかかってしまったけど、時間をかけて作るのものは良いものになるよね。結果的にこれまで僕のレーベルから出したものでお気に入りの一つとなったよ。実は今夜の公演で彼に会うのが初めてなんだ! とても楽しみだよ。

__同じく、今回の来日公演に出演する真鍋大度さんは、前作収録の「Straight and Arrow」(2013)のMVを監督しており、今回も彼のチームであるRhizomatiks Researchが、引き続き新たなMVを制作中とのことですが、その映像にはどのようなテーマを据えているのでしょうか? お話できる範囲で聞かせてください。

実はちょうど今日そのビデオを見たばかりなんだ。90%位はもう完成していて、今は最終調整の段階にある。正直彼は天才だと思ったよ。とても素晴らしい出来だった。アルバムを作るときはいつも彼にメールでMVをつくってもらえないか聞いて、彼もいいよって言ってくれるんだけど、もう今は彼に仕事を頼むと高くつくようになってしまったね。

何か面白いことをできないかと考えていたところ、廃れた訳ではないけど、もうそんなに使われていない日本国内の小さい飛行場を見つけて、彼らが資金を募って飛行場のために映像を作らないかと提案してくれたんだ。もちろんそれに僕の曲を使用してね。面白いプロジェクトだと思ったよ。いつかその飛行場に行ってみたいと思っているし、とても美しい映像になっているよ。ドローンを使っていて、滑走路を行ったり来たりしている。彼の得意なレーザーや光を使ってアブストラクトでナラティブな映像ができたよ。インスト曲のMVを作るのは難しい部分があると思うんだけど、彼は今回もやってくれたよ。曲から物語を抽出して作ってくれたね。

__今回のMVの制作にあたって、真鍋さんには何かご自身の要望やテーマを伝えたのでしょうか?

正直、完成した作品は何個かのプランの中のプランCだったんだよ。プランA は確か森が舞台で、プランBはよく覚えていないんだけど……。でも、僕が誰かにMVの制作を依頼するときは、いつも彼らの好きなようにやって欲しいと思っているんだ。作品に参加して欲しいと思っているからね。僕が面倒臭がっているだけかもしれないんだけど、それと同時に彼らを信用しているということでもあるんだよ。あと、大度はサイエンティフィックであるけれど、同時に優れた音楽の才能の持ち主でもあるから、彼は技術的な面でも音楽的な面でも、多様な視点から理解してくれていると思っている。

__続いて、最新作である『Heaven is for Quitters』についてお聞かせください。制作に前作から2年の期間を要していますが、アルバムの制作はいつごろから意識して始めたのでしょうか? 

僕はいつでも音楽を作っているんだけど、新しい曲を作るときは、曲のタイプをそれぞれ考慮して作るようにしている。アルバムなのか、EPなのか、とかね。作ろうと思えばアルバムを1週間で完成させることさえできるんだ。だけどなぜそうしないかというと、自分で進めるだけでなく、聴いてくれる人たちが吸収して消化してもらう期間を設けて、彼らとのタイミングも考慮しないといけないと思っているからなんだ。

前回リリースしたレーベルの〈Ninja Tune〉は、アルバムの発売を2017年とか18年とかで考えていたみたいなんだけど、僕がさすがにそんなには待てないと主張して。ちょうど〈Blueberry Records〉のプロジェクトも進めていたから、自分のアルバムを自分のレーベルから出すことでレーベルがもっと成長できると思ったんだ。だから僕にとって今回のセルフリリースは挑戦ではあったかな。プレス以外の全ての仕事を僕一人でこなしたし、リスキーで高くつく挑戦であったとは思うけど、〈Blueberry Records〉は僕自身の作品であり、レーベル自体がFaltyDLとのイコールの関係であると思っている。

__アルバム用の特設サイトでは性行為を取り扱ったインタラクティヴなエフェクトがモチーフとなっていますが、これはどのようなテーマがあるのでしょうか?

あのサイトを作ってくれたのはMargo Bowmanという人なんだけど、以前〈Ninja Tune〉に勤めていたHannaという友達が彼を僕に紹介してくれたんだ。最初、Margoはアルバムの中の1曲でMVを作りたいと思っていたみたいなんだけど、僕にはウェブサイトを作るっていうアイデアがあって。ほら、例えば1996年からずっと変わらずインターネット上に只々あり続ける、みたいなシンプルなウェブサイトがたまにあるでしょ? 僕はそういうのが好きなんだ。だから彼に、「一緒に変わったウェブサイトを作らないか? 特になんでもなく、そこにあり続けるような、変なやつをさ」と持ちかけたんだ。

それで彼とアルバムのことについて話していたんだけど、その中で二人に共通認識として出てきた考えがあって、それは、僕たちは携帯電話やTwitter、Instagramなどで繋がっているように見えるけど本当はとても孤独で、本当に繋がっているわけではない、ということだったんだ。だからウェブサイトには多種多様の繋がり方をコンビネーションとして表現して、サイト専用にユニークなサウンドトラックも作った。だけど実はウェブサイト公開の前夜に、サイトの公開に賛成してくれる人と反対する人は半々だったんだ。「直接描写が過ぎる」とか、「変だ」とか、そういう反応があった。でも人々のそういった反応をみて、逆に僕は「こうでなくちゃ!」と更に乗り気になったよ(笑)。これまでに何人くらいあのウェブページを閲覧したかはわからないけど……。

__私は実際に閲覧したんですけど、そのウェブサイトを開いたのがたまたま学校にいる時で。後ろにたくさんの学生がいて、音はかろうじて流れなかったのですが、非常に焦りました(笑)。

最高!! それはこれまでに聞いた中で一番のエピソードだよ(笑)。

__アルバムジャケットに今回アルバムタイトルの直訳とされる日本語の「天は腑抜けのためにある」が掲載されていますが、見る人によっては皮肉とも受け取ることができます。しかし、あなたは『self titled』での掲載記事において、「このアルバムは希望を届けるために制作に至った」と述べています。このタイトルの真意を教えてください。

アルバムのジャケットには花がうなだれているように描かれているんだけど、アルバムを逆さにすると上を向いているように見えるんだ。人間はとても複雑な生き物だと僕は思っていて、例えば、1つの物を欲していてもその相反するものも実は欲していたり、とか。

僕のこれまでの作品を聴いてもらうとわかると思うんだけど、すべて全く異なる音になっているように、実際に自分自身も複雑で、常に混乱している。だから、直接的な表現もしたかったんだけど、同時に面白おかしくてシニカルでもあって欲しいと思ったんだ。そこで、数年前に僕の通訳をしてくれた日本人の友達にFacebookでメッセージを送って、翻訳してもらった。でもその時に日本にこれと似たような題名の映画があるということを知ったから、それとかぶらないようにと気をつけて訳してもらうことにした。

今回のアルバムタイトルもそうだけど、アルバムのなかの1曲に「Osaka Phantom」っていう曲があって。こんな風に、僕は日本語のタイトルをつけるってことをよくやるんだ。これは、日本人のリスナーと繋がることができるんじゃないかという感覚をもたらしてくれるからかもしれない。ただ、僕が日本に来るのが好きっていうだけかもしれないんだけど、なんだか日本にくるチャンスが増えるような気がするんだ。だから、そういう期待も込めている。

__「Drugs」のMVでは、人々の夜の都市生活が描かれていて、また、「Whisper Diving」のMVでは、荒廃した人間の居住空間などが出てきます。それぞれどのような意図があるのでしょうか?

「Drugs」のMVを作ってくれたLisbonという会社のディレクターと、去年、寿司をテーマにしたショートフィルムを作ったんだけど、その時はニューヨーク中の寿司屋に行ったり、朝5時に魚市場に行ったりしたんだ。ロンドン在住の彼とはとても仲良くなって交流が続いていたから、仕事で僕がロンドンに行った時に「Drugs」のMVも作ってもらえないかと頼んで、今回の制作が決まったよ。

「Drugs」はRosie Loweとのコラボ曲だから、もしできたら彼女も出演させて欲しいと頼んで、実現させることができたんだ。彼女が赤い窓の側に立っているシーンがあって、それと映像ではロンドンの暗くて粗々しい感じとか、集合住宅の風景を表現したくて、だから撮影は街中で行った。あと、今回はデジタルではなくフィルムで撮影したから、フィルム特有の粗さとかもテクスチャーとして出ていて、とても美しい映像になっていると思う。

__「Whisper Diving」についてはいかがでしょうか。

これを作ってくれたのはオーストラリア出身でベルリン在住のMichael Tanという人なんだけど、実は最初は違う人に作ってもらっていたんだ。だけど予算が足りなくなってしまって、彼がMichael Tanを紹介してくれた。

「Whisper Diving」は常に前に進み続けていて、急に変調したりする曲だから、その動きを表現したいと思って、2人で話してそうすることになった。Michaelはドローンを使うのが好きで、あとは3Dのスコープをかけながら棒を使って絵を書いていくとその3Dの彫刻ができるというプログラムがあるんだけど、映像に出てくる変わったオブジェは、彼がそのような技法を用いて作ったものなんだ。実は「Whisper Diving」がこれまでで一番のお気に入りだよ。

__「Drugs」で共演しているRosie Loweとはどのような経緯でコラボレーションが決まったのでしょうか?

以前、Delsというラッパーの曲をリミックスしたことがあったんだけど、その曲でRosie Loweがフィーチャリングされていて。実際そのトラックで彼女は少ししか歌っていないんだけど、僕は彼女の声が気に入ったっていうのもあって、ほとんど彼女のヴォーカルだけの7分間のトラックにしたんだ。自分でもとても気に入ったし、良い反響をもらうことができたよ。その後、彼女の方から、アルバムの1曲でリミックスを作って欲しいと持ちかけてきてくれて、そんな風に交流は続いていた。

だから今回僕がアルバムを制作することになって、彼女とコラボしたいと思ったから、何曲か候補の曲を送ったんだけど、最初はあまりうまくいかなくて。でも「Drugs」が出来た時は非常にうまくいくような気がして、メールタイトルに、”This is the one!”といれて彼女にメールを送ったら、やっぱり自然とうまくいって、満足いくものが出来上がったんだ。

今後は今回みたいに、メールタイトルに説得力のある言葉を入れて送ることにしようかなとさえ思ったよ(笑)。あと、彼女はとてもプロ意識が高くて、曲を送るとすぐに仕上げたものを送り返してくれるんだ。だから、「Drugs」ができてから完成まで非常にスムーズに進んだよ。彼女はロンドン在住で僕がそっちに行った時だけでなく彼女がニューヨークに来た時には会うことも多いから、これからも仕事ができれば良いと思っている。

__「Drugs」はアルバムからのファースト・シングルとしてリリースされていますが、アルバムの中心的な曲と捉えて良いのでしょうか?

アルバムを聴いた関係者とか友達の中で「Drugs」の反響がとても良くて、その中の何人かが「これはまさに1曲目にするべき曲なんじゃない?」と言ってくれた人もいたくらいなんだけど、それよりはアルバムのバランスというか、構成を大事にしいという考えが僕にあったからそうはしなかった。

自分自身普段ヴォーカルの入った曲をあまり作ることはしないから、今回この曲を作ることは自分にとっては挑戦でもあり課題でもあった。あと、ラジオでかかった時に良く聴こえるようにプロダクションをしたかったから、ちゃんとしたプロのスタジオでベースやキック、ドラムの音をクリアに調整して、こだわりながら、完成させた。だから、これは特別な曲と言えるね。今何人かに「Drugs」のリミックスを頼んでいるから、今後も楽しみにしていてほしいな。

__今回のアルバムを制作するにあたって、これまでの自身の人生における体験や思想、また生き方に基づいたようなエピソードがありましたら教えてください。

僕は作品に対して言及する際に、あまり直接的に表現することはしないんだけど、あえて言うとすれば、 僕の制作のモチベーションは競争(Competition)と野心(Ambition)なんだ。この2つの要素は僕のキャリアを作り上げてきた大切な物でもあると同時に、どこか自分が嫌っている要素でもある。さっき言ったように、人間にはそういう風に相反する面があって、この場合は、嫌いではあるけれど自分のキャリアには必要不可欠であるという風に相反する感情が共存しているんだ。

〈Ninja Tune〉のことになるんだけど、アルバムリリースの話になった時に、人の話を聞くべきなのか、それとも自分のやりたいようにやるべきなのかという点について悩んだことがあって。結果的に今回は彼らのアドバイスに従うのではなく自分自身で、完璧で自立したアルバムを作ろうという考えに至ったんだ。なにが完璧かっていうのは自分でもわからないけれど。

今回のトラック構成に関して言えば、多くの人はハッピーエンディングを好むと思うんだけど、僕自身ハッピーな方からクレイジーな方に進む流れの方が好きだから、そのような流れになっているよ。あなたがさっき言ってくれたように、もし自分の作品から「人生を感じる」と言ってもらえると、自分自身良い仕事をしたなと実感することができるから、とても嬉しいし、自分の作品について誰かがコメントしてくれるという行為自体、その人の経験や人生などのフィルターを通した上でのコメントであるから、とても興味深いよ。

人がその作品を取り入れて、自分の物にして、自分の人生のサントラにしていく、みたいなそういう過程や人間の物の捉え方に興味を持っていて、もし音楽をやっていなかったら自分は心理学の道に進んでいたかもしれない。

__最後の質問になりますが、アーティスト名の由来を教えてください。

“Falty”は”fault”という「不良品」というか「壊れている」というようなネガティブな意味合いを持つ単語からきているんだけど、僕が12歳くらいの頃、アメリカン・オンラインっていうインターネットコミュニティがあって。そのログインネームを作るときにふと思いついたのが”Falty”だったんだ。本当は”Falty”の”a”と”l”の間に”u”が必要なんだけど、僕はもともとスペリングが大の苦手だったから、わざともじったとかではなくて、ナチュラルに間違えた結果なんだ。だからそれ以来、多分もう20年くらい僕のあだ名はFaltyで、DLは僕の名前のイニシャルからきているんだよ。

(2016.12.18、東京・渋谷にて)

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Heaven is for Quitters:
01. Tasha
02. Infinite Sustain (feat. Hannah Cohen)
03. Frigid Air (feat. μ-Ziq)
04. River Phoenix
05. Bridge Spot
06. Drugs (feat. Rosie Lowe)
07. Shock Therapy
08. Fleshy Compromise
09. Neeloon (First Kiss)
10. Whisper Diving
11. Beasts Of Heaven
12. Osaka Phantom
13. D & C
14. Stolen Kicks *Bonus Track for Japan
15. New Dreams *Bonus Track for Japan

インタビュー・文:池田礼
1996年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍。電子音楽を中心に幅広い領域で音楽を楽しむ。

Photo by Jayne Lies