INTERVIEWSMay/17/2016

[Interview]Gold Panda – “Good Luck And Do Your Best”

goldpanda

Gold Pandaの最新アルバム『Good Luck And Do Your Best』が発表された。ロンドン大学の東洋アフリカ研究学院(the School of Oriental and African Studies)で学んだ彼は、日本に滞在していた時期があり、日本語が堪能であることでもよく知られている。

本作は、〈Ghostly International〉よりリリースされた『Lucky Shiner』(2010)、『Half of Where You Live』(2013)に続く、3作目のスタジオアルバムとなる。表題にもなった「Good Luck And Do Your Best」は、Gold Pandaが広島で乗車したタクシーで、降りる際に運転手から掛けられた言葉だという。

そして、本作からは、現在3つのミュージックビデオが公開されており、それらは、Gold Panda自身のルーツとも言える西欧と東洋が融合されたような無国籍(或いは、多国籍)のイメージを観る者に想起させる。対象への別の視点や、切り取られた日常や時間、そういったような言葉が浮かぶ、不思議な魅力を持つ本作について話を聞いてみた。

__リードトラックにもなっている「Time Eater」の MVはどこで撮影されたものですか。

僕自身と、監督にとって思い出のある場所を選んだんだよ。MVの監督をしてくれたのはイスラエル出身のロニー・シェンダー(Ronni Shendar)という人で、今はパートナーとベルリンに住んでいるんだ。彼女はNY、ベルリン、ケルン、香港と、世界中を旅していて、いつもかっこいいMVを作るんだよ。

__いくつかの国のロケーションが一つのMVの中に入っているのですね。

そうなんだ。いつもツアーばかりでずっと空港にいるから家を離れていることが多いからね。さっき言った国は僕にとってもつながりがあって、僕の父が軍人として香港に行ってたり、僕自身ベルリンに住んでいたこともあるし、ロニーの家族はNYに住んでいるんだけど、僕自身もNYに行くことが多い。ケルンに関しては彼女が住んでいただけで、僕はあんまり関係ないんだけどね(笑)。そこではいろんな人を観察しながら過ごしていたよ。

__MVと曲との関連性はどのようなものですか。

それぞれの街というよりは、街に住んでいる人に関連しているんだ。その人たちの中にはもしかしたら、自分がやりたくない仕事のために時間を費やしている人もいるかもしれない。彼らも本当は自分の趣味とか他にやりたいことがあると思うんだけど、それができないでいる。僕は音楽を作るっていう自分のしたいことができているから、僕は本当に恵まれていると思うよ。

__曲(「Time Eater」)自体のコンセプトはどのようなものですか。

自分の趣味に費やせる時間を無駄にするのではなくて、その時間をいかに楽しむかが大切だと思っている。だから自分自身への時間の使い方やバランスがこの曲のテーマなんだ。例えば、音楽を作りたいのに買い物をしたりツアーで移動したりする時間が自分の曲作りの時間を食べてしまっているということ。誰かや何かに自分の時間を奪われた感覚を表現しようとしたんだ。

__ありがとうございます。今回のアルバムでは3つのMVがあったので、他のMVについても伺っていきたいと思います。「In My Car」のMVはどういうテーマで撮影されましたか。

ヒップホップのような曲を作りたくて、MVもクールな感じにしたかったんだけど、なかなか上手くいかなくて結局僕らしいヒップホップになっちゃったね(笑)。僕は車の中でCDをかけて色んな音楽を聴くのが好きで最近中古のジャガーを買ったんだけど、その車はコピーしたCDは再生できなくて、車の中でこの曲を聴くには本当のCDとしてリリースするしかなかったんだ。だから「In My Car」というタイトルにしたんだよ。

__MVの中に出ているのはご家族の方ですか。

そう、僕のおばあちゃんだよ。一緒に住んでいたんだ。

__監督(Rob Brandon)がお二人を一緒に撮影した意図はどのようなものだったと思いますか。

一般の人の生活を捉えたかったんじゃないかな。朝起きてご飯を食べて出かけて、そして家に帰って音楽を作るっていう普通の生活。だから僕が想像していたよりも違う意味でクールなものになったと思うよ。ただ生活を送っているだけだとつまんないなと思うことも、MVを通してみると自分の人生って美しいなって感じるところがあると思うんだ。

__今回のアルバム全体にもそういう意図を感じます。監督とは、MVの内容について事前に相談されたのですか。

日本の映画からもインスピレーションを受けたものを作りたくて、それについては監督と話し合ったよ。北野武監督の『あの夏、一番静かな海。』という映画で、耳の聞こえないサーファーが出てくる静かな映画なんだけど、主人公がただカメラを見て立っているシーンがあるんだ。そこから影響を受けている部分もあって、つまらないものや退屈なものを捉えたかったんだけど、結果的には面白くなっちゃったね(笑)。

__確かにあの映画も静かで普通の生活を捉えていますね。しかし客観的に見ると、そこに何か価値があると感じるものもあると思います。今回のアルバムでもそれと似たものを感じます。

耳が聞こえないということ以外に関しては本当に普通の映画だよね、主人公が貧しいわけでも世界が滅びるわけでもない。でもその普通の中に、生きているだけでは気付かない美しさが隠れていると思う。そういうものは他の人が撮ったり作ったりしたものを通して感じられるものなんじゃないかな。

__次に「Pink & Green」(監督:Laura Lewis)についてお伺いします。 2014年に日本で撮影されたそうですが、日本人とは視点が違うように思います。どのようなことをコンセプトにして作られたのでしょうか。

やっぱり観光客として見た日本が大きいね。でもイギリスで撮影したらこういう作品はできなかったと思うよ。「In My Car」では普段の生活を映しているけど、これはそれとは全然違ったものを映しているんだ。日本人からしたらつまらないと思うかもしれないけど、カラオケや居酒屋、ゲームセンターとかを巡って、友人と楽しい週末を過ごすことを捉えたものになっているんだ。

__映画の『Lost In Translation』を想起させます。

僕はただMVを観て楽しんでもらいたいんだ。映像技術を駆使して観る人を驚かすんじゃなくて、Gold Pandaの音楽がそのまま表現されたMVを作りたいと思っている。音楽を聴いて、「わぁ、これすごい!」って感覚じゃなくて、ただ音楽が楽しいということを自分の音楽から感じてほしいんだ。今回は特にそういうことを自分の音楽で表現したかったんだよ。

__例えば、日本のどういうところが興味深いですか。

日本は何回も訪れているから、自分の音楽にも日本のマニフェストさが影響を与えているんだ。自分一人で来た最初の国でもあって、その時は本当に自由だったし、好きなように動けたんだ。でも未だになんでこんなに日本が好きなのかわからないよ。たまに嫌いな時もあるし。

__どんな時に嫌いになるのですか。

何かを嫌いになっている時って、自分がそれに対して問題を抱えている時だと思うんだ。僕の欠点はズレているものを直してきちっとしたくなるところなんだけど。だから居酒屋の山家が好きなんだ。あそこは滅茶苦茶だからね(笑)。すでに壊れているし、汚いから申し訳ないと思わなくていいし、何も気にしなくていい。高いレストランとかは気を遣ってリラックスできないからあんまり好きじゃないんだ。山家の人も僕が入ってきても全然気にしないし、そういうところも好きなんだよね、また行きたいと思うよ。

__では次に今回のアルバムのジャケットについてお話を聞かせてください。これはどのようなシーンを写したものなのでしょうか。

写真家でこのジャケットを撮ってくれたローラ(Laura Lewis)と日本に来た時、日本人は一人ひとりが与えられた仕事をきちんとこなしているという印象を受けたんだ。途中で、このジャケットに写っている警備の仕事をしている人が、ゴミを拾っているのを見かけたんだ。ゴミを拾うのは警備の仕事じゃないから、この人は自分の仕事以外のことをやっているわけだよね。イギリスではあり得ない光景だったよ。あとはこのフレームも好きなんだ。彼が下にくると手に取った時に指で隠れちゃうから、わざと余白を下にして彼の写真を上に持ってきたんだ。タイトルとも合っていてとても気に入っているよ。今は彼女と本も作っているんだ。

__最後になりますが、アルバム全体のコンセプトについて改めて教えてください。

自分にとってのポップアルバムになったと思うんだけど、それがコンセプトっていうわけじゃないんだ。アルバムを作るまでには次のポイントが必要なんだけど、前はハッピーな音楽を作るということには恥じらいがあったんだ。でも今ではそういう気持ちを持つこともないし、仕上がりにも満足できているよ。

__またお話を伺うと、映像、ジャケット、音楽とすべて繋がっていますね

そうだね。それはラッキーで繋がっているんだと思うよ、“Good Luck”っていう言葉があるようにね(笑)。

(2016年4月28日、原宿にて)

Photo by Laura Lewis

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■リリース情報
Artist: Gold Panda
Title: Good Luck And Do Your Best
Label: Tugboat Records
Release date: 2016.5.18
Price: ¥2,200 +tax

1. Metal Bird
2. In My Car
3. Chiba Nights
4. Pink And Green
5. Song For A Dead Friend
6. I Am Real Punk
7. Autumn Fall
8. Halyards
9. Time Eater
10. Unthank
11. Your Good Times Are Just Beginning

■公演情報
Tugboat Records presents Gold Panda Live in JAPAN 2016
2016/10/15(土) CIRCUS OSAKA
OPEN 19:00 / START 19:30
前売り価格: ¥4,000(ドリンク代別)
レーベル割価格: ¥3,500(ドリンク代別)*限定50枚
http://goo.gl/forms/LojOn58BUp
前売り: Pコード:294-444/Lコード:55101/e+
peatix http://peatix.com/event/156835

2016/10/16(日) 京都METRO
OPEN 19:00 / START 19:30
前売り価格: ¥4,000 (ドリンク代別)
レーベル割価格: ¥3,500(ドリンク代別)*限定50枚
http://goo.gl/forms/LojOn58BUp
前売り: Pコード:294-836/Lコード:55977/e+

2016/10/18(火) 渋谷WWW
OPEN 19:00 / START 19:30
前売り価格: ¥4,500 (ドリンク代別)
レーベル割価格: ¥4,000(ドリンク代別)*限定100枚
http://goo.gl/forms/LojOn58BUp
前売り: Pコード:294-783/Lコード:72961/e+

主催・企画制作: Tugboat Records Inc.

インタビュー・文:T_L

アシスタント:矢口夏帆
1995年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍。主に海外の幅広いジャンルの映画と音楽を楽しむ。