INTERVIEWSDecember/06/2020

[Interview]Emily A. Sprague - “Hill, Flower, Fog”

今年11月、ニューヨーク出身の音楽家、Emily A. Spragueの最新アルバム『Hill, Flower, Fog』がリリースされた。本作は彼女が3月にBandcampのみで発表していた同名のアルバムだったが、新たなトラックとアートワークを加えて、ニューヨークのレーベル〈RVNG Intl.〉 と日本のレーベル〈PLANCHA〉から改めてリリースされた作品だ。

現在はロサンゼルスを拠点に、自身が中心となるバンド、Floristと並行してアンビエント作品をリリースしているEmily A. Sprague。今回のインタビューで彼女は、ロックダウン中の生活やアルバムのテーマを中心に語ってくれた。

__本作は今年3月初めに録音されたとInstagram上に投稿されています。新型コロナウイルスの感染が世界中に拡がる直前ともいえる時期ですが、本作を制作したきっかけは何でしたか。

ロックダウンが発表され、新型コロナウイルスの実情が明らかになってきたころ、私は家でじっとしながら、これまで感じたこともないような非現実的な空気感の中にいました。まるでSFみたいな、恐ろしく、感情を揺さぶられる、とても不可解な感じでした。そしてこの新しい世界のサウンドトラックになるような音楽を作りたいと思ったのです。まったく別の惑星、あるいは映画のようなものをイメージしていました。

それは外の世界が静かに動きを止めていて、私たちが知っているような生活が果てしなく変化している間に、私たちの内なる“繭”でプレイするための、心を落ち着かせるような音楽です。私たちがずっと家にいなければならないときにも、ポジティブな音楽が絶えず届けられるよう、この作品は環境音楽のようにシンプルなものにしようとしました。

__本作のタイトル『Hill, Flower, Fog』は、あなたが見た風景についてのメモ書きのようです。それを視覚的に表現したジャケットも印象的でした。アルバムのタイトルが意味することについて教えてください。

(本作のタイトルである)“Hill, Flower, Fog”は、実際に私が描いた絵のタイトルに由来しています。そのときには、すでにこのアルバムのレコーディングは行われていました。この名前を思い付いたのは、あるシンプルな風景を描いていたときです。音楽を作っていると、すぐにそれがアルバムにもぴったりだと気づきました。

新しいカバー写真も、アルバムの制作に取り組んでいる間に私が撮ったものです。住んでいるロサンゼルスの近くにハイキングに行ったときに撮影しました。この写真を撮ったときは、このアルバムやアルバムのタイトルのことは考えもしていません。そのあとアルバムのイメージを選ぼうと写真を調べていたら、まさにこれだと思ったんです。

このタイトルは、旅、美しさ、不確かさの循環のメタファーであって、この期間に私が体験してきた感覚を完璧に集約してくれています。それは、雲行きが怪しくなることを理解し、美しく素晴らしいものがやってくることを信じ、そしてその霧がいつもまた戻ってくる、というサイクルです。こうしたサイクルの中にいれば、穏やかな気持ちでいられるのです。

__プレスリリースには、「本作は6つのスペクトルで知覚と感覚についての瞑想を推し進めている」とあります。アルバムのテーマについて詳しく教えてください。

このアルバムは、私たち自身の世界や精神、環境で、流れ動き続けることをテーマにしています。それがどこであるとしても、です。そこに広がる複雑性とそこで見出だされる平穏について表現しています。

また今回の〈RVNG〉のリイシューに伴って、アルバムの曲順が変わっています。モジュラー構造のように、曲順が変わったとしてもこの作品は同じ物語を伝えることができると感じたからです。少し異なるものには、感じるかもしれませんね。

__あなたが中心となっているバンド、Floristと自身の名前での作品について「それぞれがそれぞれの存在のために、互いを必要としていて、それぞれの音楽を活かすためにも、両方が持っている相違が重要なのです」と、前回のインタビューで語っています。例えば、Floristの『Emily Alone』と本作の間には、どのような関係性がありますか。

その関係性はいまだに大きな謎のままです。いつも理解しようとはしているのですが……。ただ伝えられる限りで言えば、一つのプロジェクトの最中にいるとき、私はもう一つのものに取り組むためのエネルギーが充足されるような感覚になることがあるんです。私は変化を愛し、私自身が持つすべての両面性をとても尊重しています。それは崇高な何かのようなものです。

原因はともかく、双方の音楽活動は互いに強くその影響を受けています。大まかに言えば、私の作るすべての作品はあるべくしてそこにあり、二つの活動は互いのために種を蒔いていると、私は信じています。

__収録曲「Star Gazing」のミュージックビデオは、映像作家のV Haddadと共同で制作されています。川の流れや風に靡く森林の映像で構成されており、それらはあなたの故郷であるキャッツキル山脈を想起させました。楽曲と映像作品のそれぞれのテーマについて教えてください。

この曲が私たち自身や私たちの内的空間への瞑想であるように、このミュージックビデオは、私たちの外的世界への瞑想です。Vと私は、この自然界が依然として、その流れと青々とした力を保ちながら美しく、自然界そのものが自らを整えていることを示したかったのです。

悩んだりもがいたりするとき、私は木々や自然界にインスピレーションを求めます。なぜならあの世界(それは私たちの世界でもあるのですが)には、地球上に存在する目的があるからです。彼らは共生しているのです。そして私も何ら変わらないのだと、自分自身に言い聞かせるようにしています。地球の愛と私自身の人間らしさを感じられたとき、その日はもう十分良いものだと思うのです。

__本作では前作『Water Memory/Mount Vision』から、さらにあなたのイメージが広がりをもって、普遍的な世界観が構築されているように感じます。息を切らして丘を登る、花を花瓶に差す、霧に触れるなどの日常的な自然との触れ合いは、あなたの音楽活動にどのような影響を与えていますか。

この世界の中で生きていること、私のインスピレーションや影響はすべてそこから得ています。自然界や私たち自身、そして私たちの内的世界の美しさ、日々の瞬間、目の前にあるそうした中には魔法が存在しているんです。それはまるで終わりのない冒険のようなものです。私は音楽でそれを実践し続けることに、生きる実感を感じるのです。

__公式ウェブサイトには、“but I’m asking you / be oceans / the gentle folding light claims us all day long(海になりなさい/幾重にもなった光がそう言い続ける)”と綴られています。ウェブサイト上にあるこの詩や写真は、本作とどのような関係がありますか。

そう、あの写真も詩もこのアルバムには欠かせないものなんです。内的/外的世界というテーマをさらに発展させたものです。すべての芸術や表現は、日常生活の一部として、私にとってとても大切なものです。作品の全体像をまとめたり、そこからより多彩な詩を生み出したりするために、音楽だけでなく、より多くの表現方法を用いるよう心がけています。

__本作の売り上げの一部は「Lion’s Tooth Project」への寄付に充てられます。LGBTQ+や黒人、移民などを支援するこの団体に寄付をしようと決めた経緯を教えてください。

Lion’s Toothを選んだのは、写真を使ったコミュニティ・プロジェクトについて調べている際に、彼らのことを知ったからです。このコミュニティは、植物療法と写真を使った、自己探究と人格形成に力を入れています。この2つの方法は『Hill, Flower, Fog』と密接に結び合っていて、私自身が信頼し、生活の中で取り入れている習慣でもあります。

それと私はニューヨーカーで、Lion’s ToothもNYCのコミュニティのプロジェクトです。私は今、一人のアメリカ人として、この国の有色人種、移民、LGBTQ+の人たちが彼ら自身のために運営する、草の根的な組織を支援することが、最も重要なことだとも信じています。そしてこれこそが、正義に向かって前進するための方法であり、政府によって制度的に抑圧されてきた人々に向けて、アメリカに必要な変化をもたらすものだと信じています。

__最後になりますが、今後、ソロ名義、またはFloristとしての活動で予定していることがあれば教えてください。

近いうちに、何かお知らせできると思います。^_^

Hill, Flower, Fog:
01. Moon View
02. Horizon
03. Mirror
04. Woven
05. Rain
06. Star Gazing

Emily A. Sprague, photo by V Haddad

インタビュー・文・翻訳:杉田流司, 濱田稜平, 廣井優仁(UNCANNY, 青山学院大学総合文化政策学部)
編集:東海林修(UNCANNY)