INTERVIEWSJuly/17/2020

[Interview]Kllo - “Maybe We Could”

 メルボルンを拠点に活動する、Chloe KaulとSimon Lamの従兄弟によるデュオ、Kllo(クロー)。彼らは、2017年にファーストアルバム『Backwater』をリリースしたのち、2度のワールドツアーを敢行し、2018年の秋には初来日公演も行うなど、極めて多忙なスケジュールをこなしてきたという。そうした過度な活動はいつのまにか彼らを追いつめ、バンドは一時分裂に近い状態にまで陥り、2018年末にはついにレコーディングを中断──。それぞれがソロ活動を行うなど距離を取り、再び互いの信頼を確信しながらも、不安を抱えながらスタートし完成させたのが、今作『Maybe We Could』だったという。

 ChloeとSimonの二人が、まさに自分たちの居場所を再確認し、不確実な未来に対する希望と自信を描いたとも言える本作。困難な状況を乗り越え、自らの成長を示した、その制作の舞台裏について、詳しく話を聞いてみた。

__前作のアルバム『Backwater』のリリース以降、初来日公演を含むワールドツアーを行っていますね。それぞれがソロ作品の制作にも取り組んだとのことですが、それらの活動は、今作『Maybe We Could』の制作にどのような影響を与えたと考えていますか。

ツアーを行ったりデビューアルバムを書いたりと、あまりにもたくさんの時間を二人で一緒に過ごしたこともあって、何らかのインスピレーションを得るためにもお互いから離れる必要があった。その間、ほかの人たちと一緒に仕事をすることで、二人で一緒に作る音楽がどんなに特別なものなのか、そして、それはほかの誰とも作ることはできないものだと改めて気づくことができたんた。こうして再び二人に戻ったことで、今までよりも少しだけ確信を持って『Maybe We Could』を書くことができたと思う。

__「Still Here」は、『Maybe We Could』からのファーストシングルですが、ピアノのバラードとして制作が始まったそうですね。最後の形になるまで、制作はどのように進みましたか。

このアルバムはほとんどがダウンテンポだから、もっとエネルギッシュな瞬間が必要だと感じていた。それに、自分たちの音楽に正直でありたいと思っていたし、過去の作品に深く刻み込まれているガラージュの要素を改めて表現したかったということもあって、それを別の方法で提示してみようと思ったんだ。

__「Still Here」では、“I’m not going anywhere(私はどこにも行かない)”と繰り返される歌詞が印象的です。この曲の歌詞は具体的な経験に基づくものでしょうか。また、そのテーマについて詳しく教えてください。

この曲に込められた意味は、“いざというときに寄り添う”ということ。それはとても正直な気持ちでもある。それともちろん、すべての曲は私たちそれぞれのさまざまな経験にどこかでつながっている。

__「Insomnia」(日本語で、“不眠症”という意味)について、プレスリリースでは、“The moment of the night where you can’t switch off and differentiate your truth from your imagination(夜に訪れる、スイッチを切ることができずに、想像と真実が区別できない瞬間)”と説明されていますが、詳しく教えてください。

睡眠不足になると、想像と真実が一体化するように感じることがある。こうした状態になると、何かについて本当の気持ちを知ることが難しくなってしまう。想像が実際に起こっていることの邪魔をしてしまうんだ。

__「Somehow」は、制作の過程で何度もやり直しが加えられたそうですね。どのような点が難しかったのでしょうか。また、曲のコンセプトについて聞かせてください。

試行錯誤を重ねるなかで、まずとにかく曲を完成させることが一番難しかった。私たちは、ダウンテンポの曲はいつも自然に書けるんだけど、アップビートな要素を入れたいときには、いつもと違う領域に飛び込まないといけない。それとこの曲は、少し嫌な方向に向かっているときは、人はすべてに対して疑問を持ちやすいということを歌っている。

__「Somehow」のミュージックビデオはモスクワで撮影された映像が使用されているということですが、ホームビデオで撮影されたような映像や少し古い街並みなど、このような90年代や2000年代前半を想起させる、レトロな質感の魅力についてどのように考えていますか。

私たちはよくビデオクリップにローファイな映像を使うけど、それを好んで使うのは、私たちの音楽のなかにあるビンテージなトーンをより引き立たせてくれるから。そうしたビジュアルは、私たちの曲をより深く理解してもらうのにとてもよい方法だとも思う。

__新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、世界各国でロックダウンが行われる中、4月に「Still Here」のオンラインセッションを公開しましたが、この配信のきっかけや経緯について教えてください。

いろんな要素を削ぎ落とした別のバージョンの「Still Here」をファンのみんなに見せることで、歌詞や核心になるメロディーに、真に触れてもらう機会をつくりたかった。ときに、曲の中に多くの要素があると、その背後に込めた意味から遠ざかってしまうことがあるから。自分たちの曲の、より本質的なバージョンを見せられることは、自分たちにとってとても大切なことだと考えている。

__今作が『Maybe We Could』と名付けられた背景、また、Klloの楽曲や活動に共通する普遍的なテーマについて聞かせてください。

私たちは、このアルバムを作れるのかどうか、正直分からなかった。ほとんど可能性でしかなかったんだ。改めてアルバムの制作に再び取り掛かったとき、そもそもなぜ自分たちがバンドを始めたのかを思い出すことができた。私たちの普遍的なテーマは、愛と喪失。それが、私たちの音楽すべてに共通している。

__このパンデミック以降を見通した音楽業界についての見解、また、アルバムリリース以降のKlloとしての活動について教えてください。

未来のことは誰にもわからない。メルボルンはちょうどロックダウンに戻ったところで、また先行きが見えなくなってしまった。今はただ成り行きに任せるしかないね。

Maybe We Could:
01. Cursed
02. Still Here
03. Insomnia
04. My Gemini
05. Somehow
06. Maybe We Could
07. Ironhand
08. 1 Up
09. A Mirror
10. Just Checking In

Format: CD / Digital ※CDリリースは日本のみ
解説: 野田努 (ele-king)
歌詞・対訳付き

インタビュー・翻訳:海老秀比古, 濱田稜平, 渡邊杏奈, 高島多希, 戸田絵理香(UNCANNY, 青山学院大学総合文化政策学部)
文:海老秀比古(UNCANNY, 青山学院大学総合文化政策学部)
英訳監修:杉田流司(UNCANNY, 青山学院大学総合文化政策学部)
編集:東海林修(UNCANNY)