INTERVIEWSOctober/19/2019

[Interview]Teams + Noah + Repeat Pattern - “KWAIDAN”

USのプロデューサーTeamsと日本在住の写真家/ビートメイカーRepeat Pattern、北海道出身のアーティストNoahのコラボレーションによるコンセプト・アルバム『KWAIDAN』。昨年8月にリリースされた本作は、1965年に公開された日本の映画『怪談』からインスピレーションを受けて制作されたものだという。今月最新アルバム『Thirty』をリリースしたNoahが、また違う魅力を見せるこの作品では、3人のアーティストによる共同制作だからこそ生み出された、美しくも、まさに霊異な世界観が表現されている。

__はじめに、Noahさんが音楽制作を始めたきっかけについて教えてください。

Noah: 気づいたらやっていた、という感じです。家にピアノがあって、姉が習っていたこともあり、自分も自然にピアノに触れ始めました。短大を卒業したあとに、DTMのソフトに触れることがあって、今までピアノを一人で弾いていただけだったのが、いろんな楽器を同時に鳴らせて、一人でオーケストラができることに興味を持ちました。そこから今に至ります。

__〈FLAU〉からリリースするようになった経緯は?

Noah:〈FLAU〉が主催したリミックス・コンテストがあって、それに応募しました。

__何年のことですか?

Noah: 2011年くらいです。あっという間ですね。

__では、Repeat Patternさんにも同じように質問させてください。写真家としての活動もあると思うのですが、音楽活動のきっかけや創作活動のテーマなどについて教えてください。

Repeat Pattern: 本格的な活動は写真が先になります。音楽は子どものころ、ピアノとギターを6歳から。そのあと、学生のときはパンク系のバンドをしていました。それで、いつも写真を撮ったり、大学ではジャズバンドもやっていました。そんな感じで、いろんな興味があって。ちょっと暗い、ちょっと汚い感じの写真と音楽の方が興味があります。あまりきれいな音やきれいな写真は好きではありません。そういう完璧過ぎる感じはあまり。なんかボロボロな感じの方が面白い。そっちの方が、リアルで本物のように思うんです。人生はきれいなものじゃないから。

__今は山奥の方に住んでいるとのことですね。

Repeat Pattern: はい、ほとんど山の頂上に近い所に住んでいます。

__住んでいる場所と創作には何か意味やつながりはありますか?

Repeat Pattern: 日本の田舎は今どこに行ってもちょっと死んでるような感じがします。でもそれが興味深いんです。いや、“死んでる”は違いますね。例えば都会だと、渋谷駅の近辺とかすべてがとにかく新しいものばかり。でも田舎には、新しいものが何もなくて全部が20年前、30年前のもののように感じます。田舎にいるのは、年寄りの人たちばかり。でも、そこが面白いところだと思います。都会ももちろん大好きだけど、何かまるで夢のような感じがします。事実ではない、フィクションのような。田舎は、それとはちょっと違って見えます。

__東京は現実ではない?

Repeat Pattern: これはどう捉えていいかは難しいと思います。もちろん東京が存在しているのは間違いないですから。ただ新しいものは、短い間にすぐ汚れて、壊れてしまいます。そこが都会の面白いところでもあるのですが。田舎にいるおじいちゃんやおばあちゃんは、そんな新しいものを追うこともなく、自分を持って生きている。そこが魅力的だと思います。

__このプロジェクトには、今この場にはいませんが、もう一人、Teamsさんが参加していますね。

Noah: 実はTeamsのことはよく知らないんです。まず顔がわかりません(笑)。

__では、3人で作ろうと思ったきっかけはどのようなところからだったのでしょうか?

Noah: TeamsがRepeat Patternへデモを10曲ほど渡して、それを聴いて良いと思ったところから始まっています。ただ、完成には至っていなかったから、私に何かできそうだったらやってみてと、Repeat Patternからざっくりと話があって。そこから90%ほど曲を完成まで持っていって、そのあとにヴォーカルを入れて完成させました。それが積み重なって今回のアルバムになっています。

__そうした制作のプロセスの中で、大変だったことはありますか?

Repeat Pattern: Teamsは、とにかくリリースしたい、ということで、僕にデモを送ってきていて。3人でやると、みんながアイデアを持っていて、それぞれが自分のアイデアがベストだと思っているので、そこの調整が大変でした。最初はもっと早くできると思っていたんですけど、連絡手段がメールだから、それもあったと思います。

Noah: これがいいって私が言うと、やっぱりこっちがいいってRepeat Patternが言って、二人とも譲らなかったところもありましたね。Teamsは自分がやるべきことはすぐ完成させるから、彼にとっては待つことが仕事だったようにも思います(笑)。

Repeat Pattern: 最初の頃はいい感じで進んだんですけど、一番最後でぶつかってしまって。

Noah: もちろん、TermsもRepeat Patternも、誰かとやるという大変さは、あらかじめわかっていたし、自分の中でも70パーセントくらいOKだったら良しと考えていたんですけど、それでもどうしても譲れないところがあったりして、それぞれで納得させるのは大変でしたね。

__今回の「KWAIDAN」は、すなわち「怪談」を意味していることと思います。プレスリリースには、「古代から伝わる怪談を幽霊の物語としてではなく、サウンドトラックを持った普遍の物語/神話として捉え、身体のない人間と精神の対話をロマンチックに描く」とありました。このことについて、詳しく聞かせてください。

Noah: 『Sivutie』を出す時にカメラマンを担当したのがRepeat Patternだったのですが、写真を撮ったときに、すごく楽しくて、ウマが合ったんです。彼の音楽も面白くて、すごくかっこよくて写真含めて説得力があったんですね。

それから、どういう考えで創作をやっているのか興味があったので、根掘り葉掘りコンタクトを取ったんです。「映画は何を観るの?」って聞いたら『怪談』という古い映画の話になったのですが、日本の映画なんですけど全然知らなかったんです。観てみると、すべてが彼のセンスのルーツのような、腑に落ちたんですね。これが好きだから、これに共鳴するアート、みたいな。映画を観てしっくりきたんです。それから、この『怪談』の世界観を自分の作品でもやってみたいなと考えました。彼のアートの秘密を知りたかったので、なんとなくRepeat Patternのフィルターを通して映画を観て、それで自分もその映画にどっぷりハマってしまいました。

__なるほど。

Noah: Teamsから曲をもらった時に、英語で歌を送ったんですけど、日本語でも歌詞を作って欲しいと言われました。最初は外国人の視点で、和っぽい感じの歌詞にした方が刺さるだろうな、と思ってやってみたんですけど、お互いバックグラウンドが違うから100パーセント理解することはできないし、違うから面白いというのもあるから、そういうの気にしないで自分の感性でやってみて、と言われたんです。それから、また視点を変えて作品を作っていきました。

彼(Repeat Pattern)の言葉でびっくりしたのが、写真でも音楽でも彼が作るものはかっこいいから、「かっこいい」を追求しているのかと思ったのですが、あれは「面白い」を追求していたというのがわかったんです。自分にとってはそれが収穫でしたね。

Repeat Pattern: この映画のストーリーは確かに怖いものではあるんですけど、このアルバムの曲はもっとオペラのような美しいものになっています。彼女(Noah)が書いたリリックは、主人公の幽霊に対する解釈でもあるんですが、なぜこの映画が美しいと感じるのか、その部分がどのように物語に関係しているのか、なぜそれが怖くないのか、そういったものが表現されているんです。それは、映画の幽霊と日本の文化を理解することだとも言えます。

映画は幽霊の話だけではなくて、愛の物語でもあるんです。おそらく僕が彼女だったらもっと怖いもののように表現したと思います。でも、Noahは繊細で静かで柔らかいので、そうした彼女が共有したい映画の見方や、彼女の目から見た映画の美しさが存在していて。それは、頭で理解しているんじゃなくて、全身で理解しているものだから、それを説明するのは難しいのかもしれないんですけど、ここで書いてある歌詞は、そうしたNoahの感情を正直に綴ったものなんです。

Noah: 怪談は60年代の映画で、今は何でもCGでやるけど全部アナログで表現していて、わざとらしい背景の絵とかもあるんです。でも職人の人たちの魂がこもっているというか、それが逆にリアルに感じるんですね。あまりホラーは見ないんですけど、CGが溢れている現代の映画とは全然違った魅力があります。

映画の製作チームが解体になってしまうくらいの、赤字になっても構わないような、その作品を作るのに全身全霊をかけてやったというのが伝わってくる。あまりキャッチーさやみんなが好きそうなシーンがないんです。世間の評価を気にせずに、自分たちの信じるものを作った作り手の人たちの信念のようなものを感じて、そこにもすごく感銘を受けました。そうやってこだわり抜いて作った映画だと感じたので、自分も愛情を持ってこのアルバムを作らないといけない、と思っていろいろ勉強もしました。まず描写がすごくきれいなんです。Repeat Patternの写真を切り抜いたような感じの、きれいな幻想的な。

『怪談』は、映画を見て人を驚かすためのホラー映画ではなくて、もっと人間がどういう生き物なのか知るような、考えさせてくれるような映画です。幽霊と人間との違いは、身体があるかないかというだけの違いなんですけど、生きている人間というのは、身体があるが故にいろいろと複雑なことを考えてしまいます。でも幽霊は、自分がこうしたい、とか、これをわかってほしいとか、考えがシンプルだけど、それに関してはものすごく極端というところがあって。幽霊と接する人間の様子から、普段はいろんなもので隠してる人間の本当の顔みたいなものを感じました。たまに垣間見る人の気持ちとか本性とか、その描写がまた神秘的で。そういうところを感じ取りながら歌詞を書いていきました。

Repeat Pattern: 群馬にきて何日くらいで作ったっけ? 6日間くらい?

Noah: 本当?

Repeat Pattern: よく覚えていないけど(笑)。3回くらい来てくれたよね。群馬で仕上げたんですけど、空気が全然違うので。山で遊んだりとか。

Noah: 彼のスタジオに行って泊まり込んで、何日かアレンジの調整が必要だったのでいろいろ考えながら一緒にやりました。すぐ裏に山や川がある場所だったので、疲れると連れて行ってもらいました。よく散歩して息抜きやドライブをしたんですけど、その自然の中で、都市とは違うエネルギーを感じながら作れた、という環境も作品に反映されていると思います。

__「Miminashi」のMVも公開されましたね。これは「耳なし芳一」のことですか?

Noah: はい。映像は、『怪談』からのインスピレーションだったんですけど、映画の中で最初に源平の戦いがあった壇ノ浦の様子が出てきて、平家の生き残った人たちも、殺されるくらいだったら、って自分で海に身を投げちゃうんですよね。海に綺麗な着物が落ちていくシーンがあるんです。それがすごく印象的だったので、ディレクターと相談して海のカットは絶対に入れようという話になりました。あとからインクや墨の映像も取り入れてくれて、海に落ちていく描写だったり、無念さや悲しみがどろどろと渦巻くような心情を連想させるので、とても気に入っています。

それから何百年後かはわからないけれど、その平家の亡霊が琵琶の達者な芳一の噂を聞きつけて、交流がはじまり、いろいろあって芳一は耳を失うんですが、それでも世の中で未練を抱える霊を慰めるために、生涯琵琶を弾き続けるんですよね。その芳一の凛とした生き方が美しいと感じました。この曲は、主に芳一が霊たちに向けて「私は命のかぎり歌いますよ」ということと、霊たちの立場から「もっとお前の琵琶を聞かせておくれ」という掛け合いの歌なんです。

__撮影はどこで行ったのでしょうか?

Noah: 群馬と、愛知県の篠島という小さい船に乗っていく離れの島です。カメラマンが篠島に行ったことがあって、ここがいいかもしれない、と。

__ジャケットも印象的ですが、これはRepeat Patternさんの製作ですか?

Repeat Pattern: 写真だけです。雪女のイメージで。雪女の曲も入っているので。

__今後また、3人のコラボレーションの予定はありますか?

Noah: 今のところ予定はないです。でも実は別のプロジェクトがあって、『KWAIDAN』を作っている制作過程でまた違うものを作り始めて。それはRepeat Patternと2人でやっているんですけど、今80%くらいでまだ作っている途中です。群馬の山からインスピレーションを受けている作品なんですけど。Teamsとも、何かしら今後もやっていくと思います。

(2018.8.23、青山にて)

KWAIDAN:
01. kure
02. miminashi
03. yukionna
04. koi no yume
05. kaya
06. ugetsu
07. yotsuyu
08. sasoware
09. omoide
10. chawan no naka
11. ake

インタビュー・文:東海林修(UNCANNY)
編集アシスタント:加来愛美, 佐藤純(UNCANNY, 青山学院大学総合文化政策学部)