INTERVIEWSJanuary/23/2019

[Interview]Little Simz - “GREY Area”

 「ほかの人が私に期待する自分になろうというよりは、自分のための自分でいたいと思う」──ロンドン出身のアーティスト、Little Simz(リトル・シムズ)はそう語る。ラッパーとして、ソングライターとして、また女優としても活動する彼女は、自身のレーベル〈Age 101 Music〉から、EPやミックステープのリリースを重ね、今年3月に、3作目のスタジオ・アルバムとなる『GREY Area』をリリースする。

 Little Simzは、2017年の「TAICOCLUB’17」に続き、昨年11月に東京で開催された「BACARDÍ “Over The Border” 2018」ではヘッドライナーとして出演。その前日、自身のルーツやスタイル、そしてアルバム『GREY Area』について彼女に話を聞いた。

__ご両親がナイジェリア出身とのことですが、イギリスで移民の子どもであることが何か不利益につながることはありましたか。

両親はナイジェリア出身だから私はイギリスでは移民2世ということになる。ナイジェリアの文化を吸収できたのは母を通じてで、家では母がナイジェリアの言葉を話していたからある程度は理解できるし、ナイジェリアの食べ物や文化は母が注入してくれたもの。私の国籍はイギリスにあるけど、いまルーツを意識できているのは母の育て方のおかげだと思う。移民2世であることは、ポジティブなものばかり。
  
ただ、私自身レイシズム的な経験をしたことがあるし、黒人の女性がロンドンで育っていく中では通常あり得ること。そのようなことはあるけれど、それをどうかわしていくかを教えてくれたのは母だったと思う。そんなことがあったからといって、そこで立ち止まってしまうとか夢を諦めるといった結果になってはいけないことは母から教わった。
 
__この質問をしたのは、あなたの曲に強いメッセージ性を感じたからです。
 
ありがとう!(日本語で)
 
__映画『ブラックパンサー』を2度観に行ったそうですね。この作品のどのようなところに共感したのでしょうか。あなた自身の創作活動と共通する点があったのでしょうか。
 
2回観たのは、実を言うと私もあの映画のオーディションを受けていたから。でも落ちてしまった。私の友人がその役を獲得したという流れがあったから、プレミアに呼ばれて、それで最初の1回を観た。そのときはプレミアで特定の人しか観ていないので、久しぶりに会う友達と一緒にみんなで行こうって言って、友達と観たのが2回目。黒人の女性として、あんなにたくさんの美しい女性たちがスクリーンに出てくること自体が素晴らしかったし、そこに未来を感じるような映画だった。

__未来とは?

明るい未来が見えた気がした。映画自体も、みんな次はどうなるのかなって思ったし、それに伴って自分たちの未来も次へ進むのかなと思った。

__現在、USシーンでも注目を集め、高く評価されていますが、UKとの違いはどのように感じますか。

もちろんアメリカにおいて、ブリティッシュのアーティストであるという珍しさも一つの理由として喜ばれているのかもしれないけれど、私の実感としては地元のアーティストの一人のように受け入れられているんじゃないかなと思う。私のキャリアもまだ始まったばかりだけれど、だからこそアメリカというのを意識して努力して、できるだけ長くいられるようにマーケットに存在感を出すというのを意識したこともあって話題にもなったし、たくさんの露出があったというのも今の結果に繋がったと思う。

__今のスタイルの原型となるような、影響を受けているアーティストは誰ですか。

Lauryn Hill、初期のMissy Elliott、Biggie Smalls(The Notorious B.I.G.)、Jay Zかな。

__例えば、Lauryn Hillのどのようなところに共感しましたか。

誠実さが伝わってくるところがすごく好きだった。もちろん歌声の響きも好きなんだけど、生々しさがあって、ああいうトーンって教わって出せるものじゃなくて、あれが天賦の才なんだなって思う。あとは情熱をもってやっていることがわかる。あらゆることに対してオープンで、誠実に取り組んでいる感じ。それも超がつくレベルで。それが好きだった。

__いつ頃の作品を聴いたのでしょうか。

The Fugeesや『The Miseducation』の頃のLauryn Hillが一番好き。

__では、The Notorious B.I.G.はどのようなところでしょうか。

やっぱり彼のフロウが大好きだし、それとストーリーを伝える力がすごいと思う。しかもそれがとても複雑なことを言っていても知的に伝える能力を持っていて、その言葉で絵を描き出す能力がある人。だからあのフロウを聴いていると私たちの中で明瞭に、その場にいるかのような想像力で絵が描き出されていって共感できる。それは本物のスキルだと思う。できる人は多くないし、できたとしてもあそこまで旨味を取り込ませられる人はそんなにいないんじゃないかな。彼がものすごく苦労してきたことや、辛さとかをオープンに人に伝えて、そこに嘘がないから、まったく何もない無一文からあそこまでリッチになったって全然ありじゃないって思う。

__彼の作品で好きな曲は何ですか。

Warning」か「Suicidal Thoughts」かな。

__あなたの作品からも90年代の作品からの影響を感じます。特に影響を受けたプロデューサーはいますか。

Swizz Beatz、Kanye Westもプロデューサーとしての才能はあると思うし、DJ Premierとか、 Inflow、Rick Rubinとか……。

__Gang StarrのGuruの『Jazzmatazz』というプロジェクトがあるのですが、もし彼が生きていたらあなたが参加していそうだとも思いました。

それ知ってる。ワオ。さっき言わなかったけど、彼(Guru)もそう(笑)。

__楽曲制作するときのプロセスはどのように行っていますか。例えば、リリックを先になどありますか。

曲によって全然違う。アートだから決まった形で生まれることはないかな。絵だってそうでしょう。同じように毎回描き始める人もあまりいないと思う。本当のアーティストっていうのは、自分の気持ちとか感情に素直に作っていくものだと思うから、私の場合も一晩にしてできてしまうときもあれば、全然出来上がらなくて苦労するときもある。本当にそのときの気分次第。だけど書こうと思えばギターで書くときもあるし、ドラムのループで書くときもあるし、いろいろある。

__〈Age 101 Music〉はあなた個人のレーベルですが、これまで自主リリースをしてきた理由を教えてください。

自分でコントロールしたいからっていうのが一番にある。あらゆるものに反逆してとかそういう意味じゃなくて、自分自身に強烈なビジョンがある。だから、私がこういうものを作りたいっていうのを、ほかの人の援助を受けて変わっていくよりは、自分で全部追求していこうって思った。ほかの人が私に期待する自分になろうというよりは、自分のための自分でいたいと思う。とにかく良いものをもっとたくさん作って、自分の出したいかたちでリリースする。それが可能なのが私には一番いいと思った。要は自分のボスでいたいってこと。

__その〈Age 101 Music〉は、どのような意味なのでしょうか。『Age 101』という作品のシリーズもリリースしていますね。

本当を言うと自分でもわからない。最初は名前の響きがクールだなと思ってその名前にした。一応曲があって、レーベルを始めようと思いつつもしっくりくる名前がなかなか決まらなかったときに、ふとあの曲のタイトルがあったと思って、「Age101」という名前をレーベルにつけた。この名前で作品を出したり、ツアーをしたり活動をしているうちに、ある意味自分の生き方に名前がくっついてきたかなと思うのが今の段階。今、この名前が意味するものは何ですかと聞かれれば、それは一つの独立性であり、仕事の仲間を含めたファミリーであり、この本当の自分のアートに対しても正直で誠実である人という意味でもあり、この姿勢を101歳まで続けていきたいという意志の表れでもある。

__新作について聞かせてください。「Offence」は、どのようなイシュー、テーマについての曲なのでしょうか。例えば「I said it with my chest and I don’t care who I offend (私が誰を怒らせようとも気にしない)」といったリリックにはどのような背景がありますか。

具体的に何か問題があったというわけではないのだけれど、あそこで表明しているのは、私のこの、女性でもあり、自分の今の立場で、遠慮なく言いたいことは本気で言わせてもらうっていうこと。それで、私に対してムカついたとしても、 それはあなたの問題であって、私の問題ではない。私はただ勇気を持って、遠慮せずに、ダイレクトに、ストレートに言いたいことを伝えているだけだから、それをあなたが気に入るかどうかなんてそっちの問題ということを書いている。

__同じく「Boss」について教えてください。

「遠慮のない自分」という自己表明ということで、ストレートにものを言う私に対して、何を言っても無駄ということ。リリックの面でもそうだけど、音の面でもオールドスクールでクラシックなヒップホップのレコードのような感じがほしくて、ドラムもそうだけれど、歪んだディストーションがかかったベースの音もそうだし、自分の声をも歪ませている。むかしのヒップホップが持っていた「どうだ!」っていうような感じを出したかった曲。そういう気持ちを私は普段から素直に思っていて、やっぱり自分に自信があるし、それに対して人からどうこう言われようと、もう今となっては聞く耳を持たないって、そういう意思表明の曲。

__それほどいろいろと周囲から何か言われたのでしょうか?

以前はよく言われていた。「これをやったら?」「あれをやったら?」って言われていたけど、いつも「ノー」って言ってた。「私がこれがやりたい」って正直に言っていた。むかしからはっきり言う方だったから。

__最新アルバム『GREY Area』のテーマについて教えてください。

前作『Stillness in Wonderland』みたいにはっきりとしたテーマはない。でも、20代半ばの自分がこんなに大変だなんて誰も教えてくれなかったっていうくらい結構混乱したり、ときには自信を失くしたりっていう状況にある中で、人間としての自分が今置かれている場所が白黒はっきりしないグレーな場所だっていうところからこのタイトルになっている。100%黒でも、100%白でもないはっきりしない状況に置かれている自分が表れているアルバムになった。

__女優としても活動していますが、今後も含めて、自分のパフォーマンスで一番伝えたいと思っていることは何でしょうか。

伝えたいのは自分で自分に限界を設けないこと。こう言われたからって制約を設けないこと。決して器用貧乏のようなものになってほしくはないけれども、人間の能力って少なくともいろんなことをやってみることは可能だし、自分自身っていうものを幅広く探求することはできると思っている。私の場合は、クリエイティブな考え方を持っているから、創造っていうところに行くわけだけども、どんどん自分の限界に挑んでいきたい。例えば曲をもっと書いてみようとか、実はここ2年くらいすごい写真にハマってるんだけど、写真をやってみるとか、楽器をどんどん覚えるとかやっていくタイプの人間だから。アーティストとしても、そして人間としても限界に挑んでいく。やっぱり一度きりの人生だから、やってみたって悪くないじゃない? だから、そういう生き方をみんなにも推奨したいなって思う。要するに、最低限のところで納得しなくて、あるいは、みんながこう言うからこんなもんだろうってそこで終わらないように、自分で自分に限界を設けちゃダメっていうことを私は伝えたいんだと思う。

GREY Area:
01. オフェンス
02. ボス
03. セルフィッシュ(feat. クレオ・ソル)
04. ウーンズ(feat. クロニクス)
05. ヴェノム
06. ワン・オー・ワン・エフエム
07. プレッシャー (feat. リトル・ドラゴン)
08. セラピー
09. シャーベット・サンセット
10. フラワーズ(feat. マイケル・キワヌーカ)
11. シー (Bonus Track for Japan)

*公開時に、一部表記に誤りがありました。訂正してお詫び申し上げます。

Link: Beatink

インタビュー・文: 東海林 修(UNCANNY)

アシスタント: 加来愛美、伊藤礼香、金子百葉、佐藤純、杉田聖司、杉田流司(青山学院大学総合文化政策学部, UNCANNY)